上 下
65 / 206

―第六十五話― 一回戦(前編)

しおりを挟む
「ちわーっす、サントリナでーす。トーナメント票ができたので、貼りに来ましたよっと」

 弁当も食べ終わり、各々が好きなように時間を過ごしていた時、サントリナさんが入ってきた。
 ……トーナメント制なのか。
 私の相手は……。

 ブルガレさんか。
 ってか、一戦目から私じゃん!
 ブルガレさん、強い相手と戦いたいって言ってたから、かなりの力に自信があるのだろう。
 ……なら、私も出力全開で最初から戦わないといけないかもしれないわね。



「さて、今回の大会最初の試合なわけだが二人とも、準備はいいかい?」

 ちょっと待って、観客多すぎない!?
 千人近くいると思うんですけど!?

「会場も大盛り上がりですので、相手を殺さない程度の派手なショーをよろしくお願いします」
「盛り上がりすぎだろ! なんでこんなに客がいるんだよ!?」
「そりゃあ、この国の軍隊から希望者、一般人の方々にもたくさん来ていただいておりますから。それに、観客が多い方が気分も上がってくでしょ?」

 いや、緊張しますが。

「てなわけで、審判はわたくし、サントリナが務めさせていただきまーす。武器も魔法も基本何でもあり。危険すぎる行為には、俺からの制止が入りますので、お気をつけて。では、さっそく始めていきましょうか。お互い武器を構えて」

 緊張がほぐれてないけど、しょうがない。
 剣を抜き、攻撃の構えをとる。
 先手必勝!

 ……と、ブルガレさんは考えているんだろうな。
 ブルガレさんの格好から察するに、拳闘士なのだろう。
 ならば……。

「それでは、俺の合図で試合を開始してください」

 深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。
 意識を腕に傾け、始めの一手に向かう準備を整える。

「それでは、よーい……スタート!!」

 初めに動いたのは、ブルガレだった。
 凄まじい速度で距離を詰め、そのまま蹴りを入れてきた。
 しかし……。

「ブルガレさん、ごめんなさい」

 流すように剣を動かし、蹴りの威力を発散させる。

 一撃で私を沈めようとしたみたいですけど、そうはいかないわよ……!

 このくらいなら、気絶で済む……はず。

 そう考えながら、剣を振り上げ、ブルガレさんに軽く触れさせる。
 それと同時に、腕から魔力を放出させた。

「『ストライク・ライト』!!」

 小さな炸裂音が鳴る。
 その瞬間、ブルガレさんの体が後方へ大きく弾き飛ばされた。
 勢いそのまま、大きな音を響かせ、ブルガレさんは壁に激突した。
 ……ヤバい、少し出力ミスっちゃったかも。
 あとで謝っとこう。

「あー、ありゃあ気絶してるな。てなわけで、少し早いですが、勝者はジャスミンでーす!!」

 観客席から飛び交う声援を背に、私は足早に闘技場を出た。



「お疲れ、ジャスミン。凄かったね、あの技!!」
「ちょ、ちょっとやり過ぎたかもだけど……」
「だいじょぶだいじょぶ。あの人、体強そうだったし、回復魔法で一瞬で直るわよ。骨折くらい、冒険者なら日常茶飯事じゃない」
「うん、でも……」
「あの人は、強い相手と戦いたいって言ってたし、本望でしょ」

 ならいいのだが……。

「あ、次の試合、あのむかつくおっさんの試合じゃない」

 むかつくおっさん……グロリオサさんの事だろうか。

「対戦相手は……ガーデニアちゃんね」

 何だろう、グロリオサさんから、凄いかませ犬のにおいがする。

「ガーデニアちゃーん! そんな奴はさっさと叩き潰しちゃいなさーい!!」
「ちょ、さすがにそんなストレートな応援はだめでしょ!!」

「それじゃ、お互いに構えをとって」

「よろしくお願いするよ、仮面のお嬢さん」
「…………」

「アッハッハ、無視されてやんの!」

 こら、アマリリス!

「それじゃ、よーい……スタート!!」

 サントリナさんの掛け声で、二人が同時に飛び出した。
 あれだけの言葉を口にするだけあり、グロリオサさんの動きはすさまじかった。
 一歩目が地面につくかつかないかの瞬間に剣を抜き、目にもとまらぬ早業で横薙ぎに振るった。
 しかし、ガーデニアさんもすごかった。
 グロリオサさんが剣を抜くのとほぼ同時に抜き、一瞬で刃を受けた。
 その瞬間、とてつもない金属音が闘技場に響き渡る。
 あれほど華奢な体のどこからあんなに力が出るのだろうか。

「ガーデニア―! さっさと試合終わらせちゃいなさい!!」
「アマリリス、もうちょっと自重して」

 そんな会話をする間にも、試合は動き続けている。
 グロリオサさんが素早い突きを連続で繰り出し、それをガーデニアさんが避け続ける。

 ……って、え?
 ガーデニアさんから、攻撃する気配が全く感じられない。
 なんというか、面白半分で避けてるだけみたいな……。

 一瞬、グロリオサさんの攻撃の手が緩んだ。
 その瞬間、ガーデニアさんが身を屈め、拳が──

「はい、そこまで!!」

 サントリナさんが、急に二人の間に割って入ってきた。

「…………」
「この勝負、ガーデニアの勝利!!」
「……今回は相手が悪すぎた」

 特に異議を唱えるでもなく、グロリオサさんは剣を収め、闘技場を後にした。

「「やっば」」

 二人同時に声が漏れた。

「ガーデニアちゃんの攻撃、ヤバすぎるでしょ。あれ、当たりどころが悪かったら死ぬじゃん」
「骨砕けるって、あれ」

 ここからでもわかるほどの異常な速度、威力。
 ……私、あんなのと戦いたくないんだけど。

「あ、次私だ! ごめん、ジャスミン。ちょっと行ってくる!」
「うん、気を付けて」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

隻腕令嬢の初恋

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,924pt お気に入り:101

悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,563pt お気に入り:466

あなたの愛なんて信じない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:118,876pt お気に入り:4,070

処理中です...