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―第七十六話― ドラゴン退治

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 巨躯。
 そう表現するしかないような立ち姿。
 全身は真っ黒な鱗で覆われており、とてつもない威圧感を放っていた。

 ……これが、ドラゴンか。
 噂程度でしか聞いたことはなかったが、やばいな。
 魔力の塊が動いてるとしか思えないような感じなんだけど。
 これ、俺らでも倒せるかわからんぞ。

「リアトリスは、なるべくジャスミンを守れ。俺には守る系の技がないからな」
「了解」
「リア、ライトニングの準備はしといたほうが良い?」
「いや、今はまだいい。ただ、俺が指示したときには、遠慮なくぶっ放せ!」
「オッケー」

 とりあえず、俺らは遠距離からの攻撃をベースに、だな。

「『守護』」

 能力を使い、サントリナと俺らに薄い結界を張る。
 これなら、ある程度無茶しても大丈夫なはずだ。

「ジャスミンと戦った時から、俺も少し修行し直したからな。現役時代の八割は出せるはずだ」

 腰に差した大きめの剣を抜き、ドラゴンに向かって構える。

「さて、このレベルと戦うのは何年ぶりだったかな……」
「気を抜くなよ!!」
「バーカ、誰に言ってんだ」

 最初に仕掛けてきたのは、ドラゴンだった。

 周囲の空気が渦巻き、草木が騒めく。
 それと同時に魔力も一気に濃くなり始めた。
 これは、まさか……。

「サントリナ!!」
「…………」

 ドラゴンの口が開き、真っ白な光線が放たれた。
 魔力を孕んだ光線。
 まともに喰らえば、生物を骨も残さずに焼き尽くすような代物。
 だが、今回ばかりは相手が悪かった。

「『消えろ』」

 光線は、サントリナに到達するよりも先に、俺の能力に打ち消された。

「ナイスだ、リアトリス」
「このくらいは朝飯前だ」

 とはいえ、流石はドラゴンの攻撃。
 今のだけでも、かなりの魔力を取られた。

「リア、まだいいの!?」
「……一応、詠唱だけは済ませとけ」

 今の感じでわかったが、これはサントリナでもまずいかもしれない。
 現役ならいざ知らず、ブランクのある状態のサントリナだと、負ける可能性も高い。

 その瞬間、背筋にぞわっとする感覚が広がった。
 大量の魔力が動いている感覚。
 ……まじか。

「おい、爬虫類。せいぜい、いい実験台になってくれよ?」

 剣を正面に構え、小さな詠唱を始めた。

「『アイス・テンタクル』」

 剣を覆うように、サントリナの腕から無数の触手が伸び始める。

「あばよ」

 その言葉と同時に、サントリナは真上へ飛びあがた。
 そして、触手付きの剣でドラゴンの首を切りつけ……。

「「あ」」

 ……切りつけようとしたところを、ドラゴンに丸呑みにされた。

「だから油断するなって言っただろうがあああああああ!!」

 ってか、まずい!
 ライトニングを使うと、サントリナまで感電する可能性あるじゃん!!
 えっ、待って、どうするの!?

「ちょ、ジャスミン、とりあえずサントリナ助けるぞ!」
「どうやって!?」
「えーっと、あの、えー……」
「あの、切断ってやつは!?」
「それだ! 『切断』!!」



「ごめんな、二人とも……」

 あの後、能力で何とかドラゴンの首を切り落とし、サントリナを救出することに成功した。
 まったく、これで伝説の魔剣士なんて呼ばれてるんだから、笑いが出てくる。

「とりあえず、助かってよかったよ。次からは気をつけろよ」
「はい。申し訳ございませんでした」
「……この様だと、どっちが師匠でどっちが弟子かわからないわね……」

 まったくもってその通りだ。

「じゃ、そろそろ馬車に戻るか。さっさとサンビルに戻って、宴会でもしようぜ」
「いいわね! サントリナさんも一緒に飲みましょう!!」
「あー、いや、遠慮しとく。……ちょっとやらなきゃいけないことがあるからな」
「えー、残念だな……」
「また今度お願いな!」
「もちろんです!」

 …………。
 腐ってもギルドマスターってことか。

「じゃ、俺らは楽しく飲んでるから、お前はお仕事がんばれよ!」
「おま、煽るんじゃねえええええ!!」
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