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―第七十七話― 読書

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 サンビルに帰り着いてから数日後、俺はサントリナの家を訪れていた。
 いや、正確には、サントリナの家の図書室だ。

「うん、やっぱりここは落ち着くな」

 サントリナの地獄のような修行から逃れるため、よくここを利用していた。
 蔵書数が多いだけに、一度本気で隠れてしまえば、なかなか見つからないのだ。
 ……今思えば、あれが俺の能力の成長を助けていたのかもしれない。
 言葉を使うという能力の性質上、ある程度の知識がなければいけない。
 そして、俺の知識の大半は、さぼっている間に読んだ本からなのだ。
 つまり、俺のさぼりは正当なさぼりだったというわけだ。
 ……そういう事にしておこう。

 って、物思いにふけるためにこんな場所まで来たんじゃなかった。

「えーっと、これとこれと、あとはこれか……」

 目当ての本を探し出し、素早く手に取る。
 ……十五冊か。
 よし、二時間以内に読破してやる!



 ――ふぅ。
 二時間と十五分か……。
 やっぱり、読まないと速度が落ちてしまうな。
 だが、これで俺の疑問も解消された。

 俺が読んでいたのは、ドラゴンの生態についての本だ。

 この間ドラゴンに襲われた時から、ずっと気になっていた。
 ドラゴンというのは、本来は群れで行動し、洞窟の奥底や山奥にこもっている。
 だというのに、この間のドラゴンは、単体で行動していたうえに、近くに山や洞窟もないような平原にいたのだ。
 魔力量から考察するに、狩りに出ていたわけでもないだろう。
 そして、ドラゴンについて調べたことで、俺の考えは確信に変わった。

 あのドラゴンは、何者かに追われていた。

 一瞬、魔王軍の紋章の件も考えたが、能力で探しても見つからなかった。

 しっかしまあ、ドラゴンを追うなんていうもの好きもいるんだな。
 さっきも言ったが、ドラゴンは群れで行動する生物だ。
 その群れの一頭にでも手を出してしまえば、十数頭のドラゴンから一斉攻撃を喰らってしまうというのに。

 ……その点だけが、どうしても引っかかってしまうんだよな。
 やはり、ただのもの好きがやった行動とは思えない。
 ……これは俺の直観だが、この件には魔王軍が関わっていそうな気がする。

 とはいえ、俺はこれ以上この件に首を突っ込むつもりはさらさらない。
 そんな見るからに面倒くさそうなこと、誰が関わるか。
 それに、この件の調査については、サンビルについてすぐにサントリナが手配している。
 あいつが宴会に出ずに仕事をしたということは、サントリナも俺と同じ疑問を抱いていたはずだ。
 なら、あとはサントリナに任せておけば、俺がわざわざ動く必要もなくなる。

 てなわけで……。

「次はこれをいくか」

 俺は元々、図鑑を読んだりするのが大嫌いなタイプの人間なのだ。
 それを二時間以上も読んでいたんだから、少し休憩をしなくてはだ。

 用意したのは、三十冊程度の小説たち。
 今度は、これを三時間以内に読んでみせる!

「『回復』、『身体能力上昇』」

 これで、目の疲れも治ったし、読む速度も強化できた。
 あー、やっぱり、能力の無駄遣いって最高だな!!

 さて、今日はどれから読もうかな――
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