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―第九十五話― チャンス

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 短剣があった方が、斬撃系の能力は飛ばしやすいだよなあ。
 ただ、他の能力を使う分にはほとんど支障をきたさない。

「『爆発』」

 ツツジの真後ろで小さめの爆発を起こす。
 ……ダメージなしか。
 うーん、ツツジ相手なら、もう少し手荒な方法じゃないと生け捕りは難しいか。

「『爆』、『爆』、『爆』、『爆』」

 ツツジを囲うようにして、再び爆発を起こす。
 ……少しワンパターかもしれないが、これでいい。

「『火柱』」

 指を鳴らすと同時に、先程の爆発点から巨大な火柱を立たせる。

「今降伏するんなら、追い討ちは掛けないぞ」
「どうぞ、やれるものなら」

 …………。

「『斬撃』」

 手刀を振り、魔力を飛ばす。
 ……さすがに威力は弱めたが、気絶くらいはさせられるはずだ。

「……最後の最後で、やっぱりお兄ちゃんは甘かったね」

 その瞬間、火柱と斬撃が同時に消えた。

「……えっ!?」

 何が起こったんだ!?

「本気で能力使ってたら仕留められたかもしれないのに……。そんな甘い攻撃じゃ、私に止められるに決まってるじゃん」

 ……威力を落としたとはいえ、そう簡単に止められるようにしたつもりはないぞ。
 ……なにをしやがったんだ?

「ほら、追撃はしてこないの?」

 そう言いながら、ツツジは火球を放ってきた。
 …………。
 『移動』という言葉が出かかった瞬間、俺は気付いた。

「……『防げ』!!」

 ……ぐうっ!!
 手のひらが火傷しそうだ……!

「逃げなくてよかったの?」
「……狙ってやっただろうが……!」
「何のことかなあ?」

 あのまま逃げてたら、後ろにいるジャスミンたちに直撃してた。
 ……くそっ、どうにかしてツツジをこの場から連れてくか……?


◆◆◆


 目が覚めると、目の前でリアとツツジの戦いが始まっていた。
 腕を縛られ、隣には同じように縛られた王子が気絶している。
 突然のこと過ぎていまいち状況が把握できてないが……。

 ……いや、少し思い出した。
 リアの化けたツツジに刺されて、それで……。
 ……そのままここまで連れてこられたのだろう。
 また、リアに迷惑かけちゃったのだろうか。

 周りにいる魔物は八体……か。
 ……少し時間があれば倒せるわね。
 ……早くリアの方に行かないと。
 力になれるかはわからないが、今のままここに留まっていては、かえって戦闘の邪魔になってしまう。
 ……きっと、ツツジはそれを分かって戦っているのだろう。

 指の間で小さめの電撃魔法を発動させ、縄をいつでも切れるような状態にしておく。
 ……あとは、周りの魔物を一瞬で倒せるような算段をつけなくては。

 ――ディザスター。

 もう、それ以外の策が思い浮かばない。
 私を中心に使えば、ギリギリ王子に影響を及ぼさずに魔物を倒せるはずだ。
 ……だが、ルビーさんに使わないようにと釘を刺されている。
 ……いや、背に腹は代えられない。

 ばれないように、少しずつ魔力を練りだす。
 魔物たちも、リアの戦いに注意が向いている。
 ……チャンスは一瞬。
 魔力を完全に練れた状態で、すぐに詠唱を完成させなくては。
 ……ルビーさん、ごめんなさい。

 そっと縄を外し、魔法の準備を完成させる。
 あとは、魔方陣の展開だけ。
 手のひらに魔力を集中させながら、魔方陣の準備も同時に整える。
 範囲は、私と王子を覆う程度。
 集中力を必要とする作業だが……。
 ……よし、準備は整った。

 ……あとは撃つのみ……!!
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