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―第九十六話― 逆転の兆し

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 息を整え、魔力操作に集中する。
 手のひらに少しずつ、少しずつ魔力を集め……。


◆◆◆


 ……さて、まじでどう動こうか。
 下手に動いてしまってジャスミンたちにとばっちりが行くのだけは避けたい。

「『移動』」

 もう、相手の後ろを取って攻撃しかないだろ。
 ……でもどうせ。

「読んでるよなあ……」

 身を捻って、寸前のところで火炎球を避ける。

「ほら、そんな遠いところにいないで、こっちにまで来たらどうだ?」
「お兄ちゃんの方から来たらいいじゃない」

 ……よし、この手で行くか。

「じゃ、遠慮なく。『移動』」
「……!?」

 本当に近づいてくるとは思わなかっただろ?
 ツツジの魔法抵抗力を考えると、能力で無理やり遠くに連れて行くというのは難しいだろう。
 ……ならば。

「『移動』、『衝撃』!!」

 もう一度能力を使ってジャスミンの背後に回り、打撃と同時に発動した能力で後方へ思い切り飛ばした。
 この程度距離が離れれば、十分だろう。

「『移動』!!」

 ツツジに再度接近し、追い討ちを掛けに行く。
 全力で腹を殴れば、流石に気絶してくれるだろう。
 魔力を込め、能力を込め、拳を振るう。

「威力上……昇……!?」

 は!?
 能力が出ない……!?

「『サプライズ・アタック』!!」

 一瞬の隙を突かれ、首筋に強い衝撃が与えられた。
 ……やばい、意識が朦朧と……。

「やっぱり、お兄ちゃん忘れてたでしょ?」
「な、何を……?」
「前に戦った時も、お兄ちゃんの能力を無効化してたじゃない! 昔のこと過ぎて忘れちゃってたんでしょう?」

 そういえば、そんなことがあった気も……。
 ……くそっ、完全にミスった……!

「まあ、私の能力はそれだけじゃないんだけどね……。もう、お兄ちゃんには関係ないかもだけど」

 ……まずい、もうツツジが何を言ってるかすら聞こえない。
 くそっ……!


◆◆◆


 リアとツツジが遠くに行ったのにつられ、周りの魔物たちの注意が完全にそっちに行った。
 ……今だ!!

 私と王子を囲うように、魔方陣を張る。
 今更魔物たちも気付いたようだが、もう遅い。
 そして、腕に溜めた魔力を球形に形成し、上へ投げ上げ……!

「『ディザスター』!!」

 魔力を孕んだ風が魔方陣の周りを吹き荒れ、魔物の体を引き裂いていった。
 ……よし、あとはここから離れれば……。


◆◆◆


「「!?」」

 全身の毛が逆立つような感覚に襲われる。
 ……この感覚は、前にも味わったことがある。

 …………やっぱりか!!
 ジャスミンたちのいた方向で、強大な魔力が渦巻いているのが確認できる。
 ……ディザスターか。
 よし、今の内に……!

「『回復』……!! ……ふう、部下を助けに行かなくていいのか、ツツジ?」
「……するつもりもないし、させるつもりもないでしょう?」
「まあな」

 ……ナイスだ、ジャスミン!!
 このままジャスミンも戦いに加わってくれれば、一気に形勢が逆転する!

「どうせ、ジャスミンちゃんと一緒に戦えば……、とか思ってるんじゃない?」
「……だったらどうした?」
「私さ、ジャスミンちゃんを攫うときにある魔法・・・・を使ったんだ」

 ……魔法?

「ほら、お兄ちゃんも喰らったことがあるでしょ? 能力を強制的に暴走させる奴なんだけど」
「……は?」
「まあ、攫った時には魔力を一時的に増やして気絶させただけなんだけど、それでもまだジャスミンちゃんの体は不安定な状態のはずだよ? そんな状態で、あんな魔法を使ったら……どうなると思う?」
「……まさか……!?」

 ドクン、と心臓が一跳ねする。
 大量の魔力があたりに漂い始めた。
 ……これは……やばいよな……。

 声にならない叫びがあたりに響く。
 ……暴走が始まったのか……。

「いど……」
「だから、能力なんて使わせるわけないじゃん」
「…………」

 くそが。
 ……てか、あそこって王子も一緒にいるじゃん!
 ……早くどうにかしないとだ。
 ジャスミンを人殺しになんてさせたくはない。
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