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―第九十八話― 切断

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 ジャスミンの魔力もないし、もう能力は使えないだろう。
 まあ、短剣もあるし、少しは抵抗できるか。
 ……それを防ぐためにあいつはわざわざ短剣を狙ったのか。

「……能力も使えない状態で、お兄ちゃんが私に勝てるわけないでしょう?」
「さあな」

 サントリナに昔教えてもらったし、短剣の使い方くらいは分かってる。
 能力なしでも、そこそこの実力はあると信じたい。
 ツツジもナイフを使ってるし、間合いにはそこまで変わりはない。

「『サプライズ・アタック』」
「それしか技がねえのか、お前は!」

 なんとか受けきったが、重いな……。

「能力が使えなくても、ある程度基礎はあるんだよ、ばーか!」

 子供みたいな煽りだが、少しでもツツジの注意力を削がないと、本気で来られたら俺が困る。

「ほら、さっさと来いよ」
「そう? じゃ、遠慮なく」

 あっぶねっ!!
 鼻先をナイフが掠めた。
 少し切れたんじゃないか?

「『フレイム・ボール』!!」

 だから危ねえっての!!
 身をよじり、火球をなんとか避ける。

 ……あ。

 変な態勢で避けたせいで、バランスを崩してしまった。

「ほら、もう終わり」

 ……まずい。
 まじもんのピンチじゃん。
 やっべえ、どうしよう……。
 こっから逆転する方法なんて、思いつかねえよ!
 ……いや、確かこの短剣って……!

「おらあああああ!!」

 短剣に魔力を流し込み、横薙ぎに大きく振るう。

 ……良かった、思い出せて。
 この短剣って、魔力を流し込むだけで魔法剣と同じ効果をするんだった。
 それならと思って魔力を流してみると、やはり、短剣が勢いよく燃え出した。
 ツツジはなんとか避けられたっぽいが、牽制くらいにはなっただろう。

「……まだ隠し玉があったなんて……!」
「俺自身も忘れてたけどな」

 というか、まだ隠し玉があったわ、そういえば。

「『コメット』!!」

 俺も一応魔法使えたわ。
 ただ、ここまで能力とかを使いまくってきてるせいで魔力がきついな……。

「びっくりしたけど、やっぱり能力を使えないお兄ちゃんじゃ、私を殺すなんてできないわよ」

 …………。
 ま、そりゃそうだろうな。
 元々殺す気なんてないが、それでも今の感じでツツジ相手に戦うなんてのは無理だ。

 ……どうするか。
 能力でジャスミンと逃げる……なんてのはツツジが許してくれないだろう。
 こうなったら、魔力が尽きるまでとことん抵抗して……。
 いや、現実的じゃないし、俺がさらに不利になるだけだ。

 ……しょうがない。

「……ツツジ、今から降伏するから、お前も、お前の部下もジャスミンたちには手を出さないでくれ」
「……え?」
「こっちに近づいて来てる奴らだよ」
「……なんだ、気付いてたんだ」
「当り前だ」
「……そっか」
「で、どうなんだ?」
「……うーん……。……お兄ちゃんの言うことはなるべく聞きたいけど……」
「……そうか」

 ……無理なのか。

 下顎に指を置き、魔力を練る。
 その瞬間、俺の意識がいつもの白い部屋に移った。



 目の前には、ルビーではなく、なぜかリリーはいた。
 ……いや、今からやることを考えれば、当然か……?

「……ルビーじゃねえのか」
「……リアトリスさん、本当にいいんですか?」

 俺の質問を無視して、リリーは俺に質問を返してきた。

「……ああ」
「……能力が使えなくなってもですか?」
「…………ああ」
「……後処理、私がしないとなんですけど」
「それに関してはごめんな。万が一死んだときにでも、俺が手伝うよ」
「……当分は死にそうもないですけどね」
「そりゃあ、よかった」

 …………。

「じゃ、行ってきます」
「……神の祝福のあらんことを」

 女神さまにそう言ってもらえるんだったら、本当に死ぬことはなさそうだな。
 まあ、女神は女神でも呪いの女神らしいけど。



「……なにするつもり!?」
「俺からお前らへのプレゼントするだけだ」

 息を大きく吸い、覚悟を決める。
 ……これでツツジが言うことを聞いてくれればいいんだが。
 まあ、防御策は既に練ってるから、その時はその時だ。

「『切断』」
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