ANGRAECUM-Genuine

清杉悠樹

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小話 バディア(32の後)

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 バディアがホノカ様の専属侍女となりほぼ二か月。辺境シシリアームにあるシルヴィオ家のカントリー・ハウスから王都のタウンハウスに勤めようになってからも同じ時間が過ぎたということ。
 今ではすっかりタウンハウスにも慣れ、ホノカ様にいかに気持ちよく一日一日を過ごせるようサポート出来るか。バディアにもようやくその流れと、読みが掴めてきたところだ。

 そんな折、ホノカ様夫婦は揃って城で開催される新年祝賀行事に参加されるという。
 アンナ様主導の元、気合を入れたドレスに、髪型、装飾品で主人を着飾り、やり切った感満載でホノカ様夫婦を見送ったのは数時間前の事。
 予定より随分と早い帰宅に体調を悪くなさったのだろうかと心配したのだが、シルヴィオ家当主から直前になって教えられたのは、レナート様の花嫁となられる方を伴い、早めに帰宅してきたのこと。

 お名前は、エマ・マクレーン様だと教えて頂いた。

 レナート様の奥様となられる予定の方は、随分と若く白いドレスを着ていたことからも予想できたが、成人したばかりなのだろう。背はホノカ様と同じくらいで小柄な方だった。銀髪に緑の瞳が何とも可愛らしい女性だった。が、こめかみと、腕に残る傷跡にバディアは目を見張った。
 いつ怪我をされたのだろうか、こんなに若くて綺麗なお顔に傷跡が残ってしまったなんて、どれだけ辛いことだろう。
 その場にいたシルヴィオ家の使用人全員が心の中で呟いたが、誰もが決して顔には出さなかった。

 レナート様に奥方様を迎えることを長年の悲願とされてきたのは、シルヴィオ家のボードワン様始め、アンナ様、ご兄弟の方々も勿論だが、バディアの主人ホノカ様もだ。
 ホノカ様が殊の外嬉しそうにエマ様と寄り添っているのを見て、バディアも知らぬうちに顔を綻ばせていた。

***

 コンコン。
 かなり控えめにドアをノックをしてから、バディアは鍵穴に鍵を差し込んだ。

 多分まだ寝て居られるはず。
 昨夜は初めての公式行事の参加されたホノカ様は相当疲れているはず。それでも今日はエマ様のご実家に行かれる予定とお聞きしているから、そろそろ起きていただかなくてはならない。食事や身だしなみには時間がかかるからだ。

 それでも少しでも長く寝かせてあげたいからと、バディアは先に声をかけることは控え、音をなるべく立てないようにしながら窓へと近寄るとゆっくりとカーテンを引き、朝の光を中へと呼び込んだ。季節は冬となった今、光の色は薄くて熱はあまり感じられない。それでも今季はまだ雪が降っていないから日の光は有難い。

 今日から新しい年が始まった。バディアは窓から見上げていた空から主達が寝ているだろう寝台へと視線を移動させた。すると――。

 ホノカ様、エマ様が同じ寝台で寝ており、二人の間に挟まれ何故か大きなウサギの聖獣までもが寝ていた。

(きゃーっっっっっ!白猫のホノカ様とピンクのウサギエマ様っ、なんて可愛らしいんでしょうっ、まるで天使っ!)
 バディアは両手を胸の前で組み、興奮し、すやすやと眠っている主達の姿を見て悶えた。余りの可愛さに倒れるかと思った。

 無防備に寝ている幼く見える二人が、揃いのパジャマと呼ばれる夜着を着て眠る様は、何とも言えない保護欲を掻き立てられる程愛おしく見えた。

 起こさなくてはならないことも忘れ、一頻り凝視し満足するまで堪能した後ようやく我に返ったバディアは、しゃきんと背を伸ばし、足音を立てることなく素早く部屋を後にした。
(これは是非お見せしなければっ!)
 走ることは禁止されているので、ぎりぎり歩きと認められるだろう速さと、意気込みに鼻息を荒くさせながら向かった先は、アンナ様がいる部屋だ。

 私一人だけが堪能するなんて勿体ないっ。アンナ様にも早くお知らせしなければっ!

 ホノカ様を愛でる会、発起人の元へと急ぐバディアだった。
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