ひとひらの雪片をともに融かして

清杉悠樹

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 まっさかねー。違うよねー。

 恐らくお母さんの言い間違いか、自分の聞き間違いだろうと思いながら紬は居間の戸をなるべく音を立てないように静かに横へ滑らした。
 ほんの10cm程に開けた隙間からソファに居るだろうと予想したのに、誰の姿も見えなかった。
 ―――あれ?
 紬はぱちぱちと瞼を瞬かせる。
 どこにいるんだろうと視線をあちこち動かすと、中央にでんと置かれている長方形のこたつの奥に人影があり、頭髪の一部だけが見えた。髪の質感から伊倉さんで間違いないと思えた。

 ・・・え、嘘。本当《マジ》で横になってる?

 お母さんは正しい事実を教えてくれていたことに紬は驚いた。
 動揺が収まらないままもう少しだけ隙間を広げた。顔だけを前進させると横になっているはやはり伊倉さんだと確信がもてた。
 長身な伊倉さんはこたつに収まりきっていない。はみ出している上半身には紬のブランケットが掛けられている。それはこたつに入りながら肩に掛けて使用することが多い紬のお気に入りのもの。
 電気店を利用した時に貰ったゆるキャラがプリントされたふわふわのブランケット。ゆるキャラももともと好みだったのと、白とピンクが主に使われていて、柔らかい肌触りが好きでよく使っているものだ。
 でも伊倉さんにゆるキャラって。違和感がありすぎる。いや、でも案外可愛いかも?―――はっ。そんなことより。他に考えなくちゃならないことがあるでしょーっ。
 伊倉さんは紬がドアから覗き込んでいることに気が付いていないのか身動きがない。それにしても化粧をいていた10分程の間に、一体何があったのか。

 一番に浮かんだのは具合が悪いから。次に浮かんだのは、案内された場所にこたつがあったからちょっと横になってみた。他には、実は酔っ払っていた、とか。
 ・・・ないな。二番三番はないな。うん、ないない。
 初めてお邪魔したお宅の居間にいきなりこたつで横になるなんて、よっぽどの理由がない限り非常事態だと紬は思った。ならば考えられる残った可能性の具合が悪いからというのが、一番可能性として高いのではないだろうか。
 外で会話していた時には全然気づかなかったけれど、結構具合が悪かったのかな?もしかして連れて行って欲しいって言ったのは薬を買いに行くため?
 そう考えていると、後ろから声がかかった。

「紬、こんなところで何してるの?」
「わっ」
 紬はびくぅと肩を縮こまらせた。後ろから突然くぐもったお母さんに声を掛けられた。足音に全然気が付かなかった。いつもなら廊下の歩く音は聞こえるのに。
「び、吃驚したぁ」
「中に入ったら?ああでも、入る前にこれ付けてからの方がいいかも」
 そう言って手渡されたのはマスク。えっ?と顔を上げれると、お母さんは既に装着済みだった。と、言うことは。
 やっぱり伊倉さんは体調が悪かったんだ・・・。風邪でも引いていることに気づいたお母さんがきっと横になっているよう言ったのだろう。

「玄関に佇んでた伊倉さんの顔がなんだか赤いなぁって思ったのよ。で、ちょっと手でおでこ触らせてもらったらかなり熱くて。なんでも昨日から少し寒気がしてたらしいわよ?伊倉さんは薬局に行って薬買ってこようと思っていたらしいけど、もしかしたら風邪じゃなくてインフルの可能性が高いんじゃないかなと、お母さんとしては思うわけ。ということで。今から体温計で一度熱を測ってからになるけれど、連れて行くのは薬局から救急病院へと変更ね」
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