ひとひらの雪片をともに融かして

清杉悠樹

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13 お願いって何ですか?

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 すっぴんが可愛いなんて言われたことに紬は戸惑う。もちろん好意を抱き始めている相手からの誉め言葉は嬉しい。ただ素直に受け止めていいのか恋愛遍歴が乏しすぎて判断が付けられない。
 すっぴんを見てしまったお詫びを兼ねた社交辞令なのか、それとも本音で言ってくれたものなのか。悩む。でも、なんとなく本音ではないかと思える。たった一日しか知らない間柄とはいうものの、そう感じている。
 だからと言って、お礼を言い、それじゃあと開き直って顔をさらけ出すのも恥ずかしくて、紬はもじもじつつフードを目深に俯いた顔を上げることが出来ないまま伊倉さんの黒い長靴のつまさきを見続けた。
 そんな様子を見て、伊倉が心の中で可愛いなぁと思っているなんて思いもつかない紬だった。

 顔も見せずに失礼な態度を取っている紬に怒ることもなく、耳に聞こえる伊倉さんの声に特に変化は無く、変わらず心地よく響いた。
「大野さんが素顔を見られたくないとおっしゃるなら、そのままでいいので聞いてもらえますか?実は、お願いしたいのは、昨日連れて行ってもらったショッピングセンターへもう一度連れて行ってもらいたいのです。勿論大野さんの都合が良ければですが」
 シッピングセンターに?買い忘れかな?
 きっと一晩経ってから必要なものを思い出したのだろう。紬も何度か覚えがある。
 以前、買い物が終わり店を出て車に戻ってから一番買いたいと思っていたものを思い出すのだ。
 あれって凄いショックだよねぇ・・・。
 何しに買い物に来たんだと自分に向って馬鹿だと呟きながら、空しい気持ちを抱えてもう一度店内に向った記憶がある・・・。

 伊倉さんは車を所持していないから歩いていくには大変な距離だと思うし、車を出すことが勿論嫌だなんて思わない。それどころかもう一度一緒にお出かけ出来ることが嬉しい。―――ある意味、ご褒美だと思う。頑張って朝から雪かきをしたからかもしれない。

「いいですよ。丁度私も欲しいものありましたし」
 なーんて言って、本当は特に欲しいものもなくて、出かける予定もなかったけれど。内緒。ちょっぴり声が弾んでしまったのはご愛敬というこで。
 顔を上げていなくて正解だったかもしれない。きっと今見られると頬が赤くなっていることが一目で分かったはず。

「有難うございます。助かります」
 ほっとしたような伊倉さんの声が聞こえた。
 良かった。舞い上がっていることはバレていないみたいだ。
「いいえ。でも少し待っててもらえますか?直ぐ準備してきますから。寒いですから玄関の中に入って待ってて下さい」
 多少待たせることになってしまうけれど、流石にすっぴんで出かけるのは遠慮したい。がっつりは無理だけど、普段仕事へ出かけるときのレベルぐらいには整えたい。靴は変えるけれど、服装はこのままでも大丈夫だから、10分もあれば間に合うはず。
 伊倉さんの返事を待たずに紬は玄関へと歩き出し扉を開けた。ぞんざいにならない程度に長靴を脱ぐと、振り向かずに言った。
「直ぐに用意しますから、待っててくださいね」
 そんなに慌てなくても待ってますから、と少し慌てたような伊倉さんの声を背中に聞きながら紬は玄関からまっすぐ伸びた廊下を奥まで早歩きで進み、二階にある自分の部屋へ向かうために階段を登った。

***

「お待たせしましたっ」
 可能な限り手早く身なりを整えて玄関に戻ってきた紬は、待っている伊倉さんにお詫びの声をかけたが、何故かいない。
「えぇ!?」
 まさか待たせすぎちゃって帰っちゃった!?
 自分ではさほど待たせたつもりはなかったが、知らないうちに随分時間が経っていたのかもしれない。
 さあっと青ざめた紬は取り合えず外に出て確認してみようとしてして、普段履いているミドル丈の黒のブーツを手に取ったところで、後ろからお母さんに声を掛けられた。
「紬ー。伊倉さんなら居間にいるわよー」
「えっ、居間?」
 後ろを振り返った紬に、廊下にドアからひょっこりと顔だけを出したお母さんが見えた。その場所は大野家の居間だ。そこそこ古い一軒家だが、何度かリフォームをしてあるから外観から想像するより、内装は案外新しい。部屋数も割とあり、使っていない部屋もあったりする。お母さんが顔を出したのは、右手側、玄関から数えて二つ目の部屋である居間からだ。
 もしかして、紬が二階にいる間にお母さんが玄関にいる伊倉さんに気付いて中へ通してくれたのだろうか。
「そうよ。今ちょっと横になっててもらってるからねー」
「―――はい?横?」
 横になっているとは、どういう意味?
 文字通り横になっているって事?
 えっ?なんで?

 紬の頭の中は疑問符でいっぱいになった。
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