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第7章:海の向こうのジパング

第88話:天子の血族

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ジパング皇国、建国500年頃。
2人の皇子が皇位継承権を巡って争ったと伝えられている。
兄の名は海斗カイト、長身で美しい容貌の青年、知性やカリスマ性を備えていた。
弟の名は空也クウヤ、小柄で色白、女と見まごうような美貌、剣術と戦術に優れていた。

当時は戦乱の世であり、例え血縁であったとしても敵対する事は珍しくなかった時代。
兄弟の父である天子が世継ぎを定める前に急逝した事が、対立の発端となる。

政治に向く才を持つ兄を推す者、戦乱の世を切り抜ける才を持つ弟を推す者。
対立は当人同士ではなく仕える者たちによるところが大きかった。
しかし、天子が受け継ぐとされる宝剣が空也を選んだ事から、海斗との確執が生まれたという。
兄弟の権力争いは激化し、兄が弟を討ち取った事で終焉を迎えたと伝えられていた。

その戦乱の中で宝剣は失われ、現在の天子は宝剣を持っていない。
星琉が依頼されてドロップした六花魔石は、新たな宝剣の作成に使われる。



セキの里近くの山・山頂の湖付近。
星琉は土魔法でシェルターを作った。
六花を狩る際に宗月を入らせたものより本格的な造りで、暖炉も設置している。
蘇生して間もない空也を抱えて中に入り、火魔法で暖炉に火を入れた。
薪は白夜とその子供が拾ってきてくれた。
身を寄せ合い暖炉の火を眺める少年たちを、白夜がそのフサフサした毛並みで包んで温める。
白夜の子供(名前はまだ無い)は星琉に懐き、膝に乗ろうとしたかと思えば腕の中に納まった。

「私は皇位を継ぐつもりなど全く無かったのです」
空也が言う。
暖炉の火を見つめるその表情は暗い。
「私は兄上に宝剣を差し上げるつもりで会いに行ったのです」
言うと、空也は俯いてしまう。

せっかく会いに行ったのに兄は暗殺しに来たと誤解し、護衛を呼んで空也を捕縛した。
空也の支持者たちに見つかる前に殺そうと考えた海斗は、宝剣を弟殺しの道具として使用する。
兄が手にした宝剣で胸を貫かれた空也は意識を失い、山へ運ばれて湖に沈められた。
空也の身体は凍り付き、仮死状態になって500年が過ぎた。
そして今日、白夜が湖底から空也の身体を引き上げ、星琉が最上級回復魔法エクストラヒールで治療、空也は息を吹き返して現在に至る。

「酷いな…兄弟なのに何でそんな事するんだろう」
家族愛の強い環境で育った星琉には信じられないような出来事だ。
「海斗様は本来は慈悲深い性格の方でした。おそらくは支持者たちの影響を受けて変わってしまわれたのでしょう」
慰めるように白夜が言う。
「そういえば、この国では命が危険と言ってたけど、500年経った今も何かあるのか?」
星琉は白夜の言葉を思い出し、聞いてみた。
「形無き敵と、形ある敵がいます」
白夜は語る。
蘇生前の空也を操っていた黒い靄のようなもの。
それは500年前に空也が倒した敵兵の怨霊との事だった。
「空也様は【氷壁の戦い】で敵国の兵10万余に対し、1万の兵で勝利された方です。敗戦国の怨霊は今も無念と恨みを持ってこの国を漂っています」
「怨霊なら浄化出来ると思うよ。…って、もしかして凄い人?!」
過去を聞き、思わず空也を振り返ってまじまじと見てしまう星琉。

隣に座っている少年は星琉よりもずっと小柄で少女のような顔立ち、とてもそんな英雄には見えない。
年齢を聞いたら湖に落とされた時点で31歳だというが、見た目はジパング年齢の16~7歳だ。
500年経ってるから531歳という驚愕の高齢者になってしまっている。
年上なら星琉は敬語を使うところだが、見た目が同い年くらいなので違和感がある。
結局、本人が敬語は不要と言うのでタメ口だ。
一方で空也はタメ口というものを知らないそうで敬語が標準語(?)だ。

「問題は形ある敵でしょうね。500年前に海斗様が空也様を殺そうとした裏に潜む者たちの子孫が、今も隠蔽を計ろうとする筈です」
白夜は空也の身を案じて、星琉に保護を求める。
「プルミエかトワで良ければ保護出来ると思うよ」
星琉はここまで関わったなら放置は出来ないと思い、今後について考え始めている。
一方で空也は生きる事に消極的になっていた。
「…兄上がもう生きておられないのなら、私は死んでも構いません」
「駄目だよ」
星琉が間髪入れずに言う。
「せっかく蘇生したのに、すぐ死んじゃったら悲しいじゃないか」
「………悲しんでくれるのですか?」
空也が意外そうな顔をした。
「当たり前だろ」
星琉は即答する。
「死んだら悲しいから、生きてほしいから、傷を癒やしたり保護したりしてるんだよ」
その腕の中では、白い仔犬が安心したようにスヤスヤ眠っていた。

「支持してくれた人たちが死に絶えて、もう私が生きる事を望む人はいないと思っていました」
軽く溜息をついて空也は言う。
「でも、あなたが望んでくれるのなら、生きてみようと思います」
そして微笑む。
500年前の英雄は、現代の勇者にその運命を委ねる事にした。
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