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「さっきから黙って聞いていれば! 私たちのことをよくもゴミだの小汚いだのと! 差別! 差別よ! ジェンダー学専攻の私たちを不当に貶める差別マン! 許せないわ! このレイシスト!」
人種を理由に屁泥ゼミ生を批判などしていないのに、思いついた言葉を口にする石墨。
幸か不幸か、石墨は日本人を騙る外国人でも二重国籍者でもない。
これには凌空だけでなく、マックスまで首を捻る始末だった。
強いて言うなら、セクシストとかルッキストとかそのへんなのかもしれない。
しかし、凌空がそれを親切にも教授して差し上げた場合、返ってくる答えは容易に想像できる。
『よくも女性様に恥をかかせたな! 男さんはいつもそう! フェミニズムについても男さんの方が詳しいと鼻にかけ、すぐにマンスプレイニングをして女性様を貶める! こんなの差別だわ! 女性様に口ごたえする者、逆らう者は全員差別主義者よ! んぎゃおおおおおおん!!』
といった調子であろう。
そんなのは健全な頭脳を持つ者なら、一瞬で理解できる。
馬鹿に付ける薬はない。
言外に言うように、凌空は深い溜め息をつくにとどめた。
「それに汐里はまったく悪くないわ! 悪いのは、汐里を殴ったそこの差別主義者だけよ!」
居直る、という言葉の用例として辞書に載せたいほどのドヤ顔をしたのは、石墨である。
怒りを通り越して呆れる、とはこのことか。
理解の埒外の反応に、凌空は頭が真っ白になって反応できなかった。
その隙を突いて、石墨が暴論を展開する。
「第一に、男さんの稼いできた金は女性様のものでもあるわ! 男さんがあくせく労働できたのは、女性様である汐里のサポートがあったからこそ。男さんは一人でがんばったかのように印象操作をしてきたけども、全然違う。徹頭徹尾、間違っている。すべては汐里が彼女として男さんを支えて来たからこそ。汐里がいなければ、そこの男さんは一日だってバイトに耐えられずにクビ。一円だって稼げない、赤ちゃん同然なのよ!」
「は?」
「ヘイ、リク。彼女は一体、何を言ってる? 何と戦ってるんだ?」
卑劣な罠で悪党の用心棒に貶められていたマックスは、一転して蚊帳の外。
他者の理解を置き去りにした論理を展開され、「日本のスラングか有名なコピペかな?」と思ったマックスは、凌空に助けを求めたのだった。
「えぇ? いや、専業主婦の権利や苦労を主張する文脈だけど」
「主婦? シオリは君と結婚してるのか?」
「いや、してない。あいつの生活費はあいつの親の仕送りから出てる」
「じゃあ、イシズミの話は通らないじゃないか」
「そうだが?」
「そんなことないわ!」
汐里に話を振ることもなく、大声を上げるのは石墨。
ちょうど、次の講義が始まるチャイムが鳴ったので、それに負けじと声を張ったのだ。
良識が残っている学生は次の講義に向かい、そうでない者だけが屁泥ゼミ生とこの場に残った。
所詮は偏差値が地を這うバカ大学。
講義を持つ教授は動物園のサルを見る感覚で傍らを通り過ぎ、警備員はコーヒーと茶菓子を用意して集まり、観戦を始める始末。
「汐里は、私たちジェンダー学専攻の学生で一番の美貌を持っているの。それを彼女にする、いいえ、トロフィーワイフとして誇示してそこの男さんはさぞ鼻が高かったはずよ!」
掃き溜めに鶴の鶴と付き合っていたんだから金を払って当然、とでも言いたげな石墨。
デバ大のジェンダー学専攻の学生が掃き溜めであることは、事実として受け入れているようだ。
転科してきた人間を一番だと誇って、プライドが傷つかないのが凌空には不思議だった。
そもそもルッキズムに肯定的なのか、否定的なのか。
一貫しない姿勢に、凌空は頭を抱える。
「家に帰れば美人の汐里がいる。そう考えて心を保っていたんだから、稼いだ金は全額を汐里に貢ぐのが筋ってもんでしょ」
「そんなわけあるか!」
厚顔無恥にも間違いをいけしゃあしゃあと抜かす石墨に、凌空は待ったをかけた。
「俺は車の購入資金が貯まっていくこと、それを教えてくれる通帳を見るのが楽しみだったと言っただろ! 会話する気もないのにいちゃもんだけつけるなら、帰れよ」
「嘘だ! バイトのストレスから雑に汐里をレイプしたくせに!」
「ふざけるな! 俺がそんなことするわけないだろ! そいつの男性蔑視トークのせいでやる気が失せて、俺はそいつと一度だってセックスをしたことはない!」
凌空と汐里が同棲を始めたのは、一年の春休み。
それをきっかけに、凌空が汐里に性行為を打診しようとしていた矢先。
突然、二年からグロ文のジェンダー学専攻に転科するなどと言いだし、汐里は変わってしまった。
一緒に観ていた映画やアニメの些細なシーンを取り上げて「今の、完全に女性蔑視だよね」「うわ、男尊女卑! サイテー」「こんな遅れた作品見せないで」だのと、鑑賞の途中にもかかわらずクドクドと面倒なことを言うようになった。
ちょっと協同生活をする上でのことを頼めば「女性はあなたのお母さんじゃないのよ」などと主語を女性にして、一事が万事大騒ぎ。醤油差しすら取ってくれなかった。
かと思えば、凌空が洗濯すれば「汚された! 返してよ、私の純潔!」などと喚き散らす有り様。
凌空と汐里の衣類を分けて洗濯しなかったのが、そして凌空が汐里の下着を干したのが気に入らなかったらしい。
反抗期の娘が父親に言うようなことを言われ、凌空は大きく傷ついた。
しかも、洗濯に関して余計な生活費が発生した。
そう、洗濯機があるのに汐里はコインランドリーに行き、料金を凌空にせびったのである。
汚物扱いを契機として別れを切り出せば「現実の女の子は、アニメの女の子とは違うの! あんな非現実的に馬鹿でかい胸と私の身体を比べていつも蔑んでいたんだ。最低!」と暴れ、「絶対に別れない。合鍵も絶対に返さない。私の純潔を汚した(服を一緒に洗濯したこと)責任、取ってよ!」と恥じらいもなく論点をすり替えた上、涙目で睨んで来た。
勇気を出して凌空が「俺とセックスしたくないから、そういう思想になったの?」と尋ねれば、汐里から人間の思いつく悪意とは到底思えない罵詈雑言が飛んで来た。
この有り様に、ついに凌空は汐里を性のパートナーとは見ることができなくなった。
家に住み着いた妖怪。
いつからか、凌空の中で汐里は〝そういうモノ〟に成り果てた。
しかし、凌空はまだ若い。
自らの猛るリビドーを無視し続けることは、できなかった。
ゆえに。
大学の特に人気のない講義棟のトイレにて一人で性処理を繰り返しては、自己嫌悪をするというサイクルに陥っていた。
よって凌空は、レイプ魔とついでのように罵られたのは、絶対に許せなかった。
だが相手は、悪辣を極めた屁泥ゼミ生だ。
潔白を主張するとともに、同時に青春を無為に浪費させられた凌空の嘆き。
その叫びすらも、悪意的に解釈するのだった。
人種を理由に屁泥ゼミ生を批判などしていないのに、思いついた言葉を口にする石墨。
幸か不幸か、石墨は日本人を騙る外国人でも二重国籍者でもない。
これには凌空だけでなく、マックスまで首を捻る始末だった。
強いて言うなら、セクシストとかルッキストとかそのへんなのかもしれない。
しかし、凌空がそれを親切にも教授して差し上げた場合、返ってくる答えは容易に想像できる。
『よくも女性様に恥をかかせたな! 男さんはいつもそう! フェミニズムについても男さんの方が詳しいと鼻にかけ、すぐにマンスプレイニングをして女性様を貶める! こんなの差別だわ! 女性様に口ごたえする者、逆らう者は全員差別主義者よ! んぎゃおおおおおおん!!』
といった調子であろう。
そんなのは健全な頭脳を持つ者なら、一瞬で理解できる。
馬鹿に付ける薬はない。
言外に言うように、凌空は深い溜め息をつくにとどめた。
「それに汐里はまったく悪くないわ! 悪いのは、汐里を殴ったそこの差別主義者だけよ!」
居直る、という言葉の用例として辞書に載せたいほどのドヤ顔をしたのは、石墨である。
怒りを通り越して呆れる、とはこのことか。
理解の埒外の反応に、凌空は頭が真っ白になって反応できなかった。
その隙を突いて、石墨が暴論を展開する。
「第一に、男さんの稼いできた金は女性様のものでもあるわ! 男さんがあくせく労働できたのは、女性様である汐里のサポートがあったからこそ。男さんは一人でがんばったかのように印象操作をしてきたけども、全然違う。徹頭徹尾、間違っている。すべては汐里が彼女として男さんを支えて来たからこそ。汐里がいなければ、そこの男さんは一日だってバイトに耐えられずにクビ。一円だって稼げない、赤ちゃん同然なのよ!」
「は?」
「ヘイ、リク。彼女は一体、何を言ってる? 何と戦ってるんだ?」
卑劣な罠で悪党の用心棒に貶められていたマックスは、一転して蚊帳の外。
他者の理解を置き去りにした論理を展開され、「日本のスラングか有名なコピペかな?」と思ったマックスは、凌空に助けを求めたのだった。
「えぇ? いや、専業主婦の権利や苦労を主張する文脈だけど」
「主婦? シオリは君と結婚してるのか?」
「いや、してない。あいつの生活費はあいつの親の仕送りから出てる」
「じゃあ、イシズミの話は通らないじゃないか」
「そうだが?」
「そんなことないわ!」
汐里に話を振ることもなく、大声を上げるのは石墨。
ちょうど、次の講義が始まるチャイムが鳴ったので、それに負けじと声を張ったのだ。
良識が残っている学生は次の講義に向かい、そうでない者だけが屁泥ゼミ生とこの場に残った。
所詮は偏差値が地を這うバカ大学。
講義を持つ教授は動物園のサルを見る感覚で傍らを通り過ぎ、警備員はコーヒーと茶菓子を用意して集まり、観戦を始める始末。
「汐里は、私たちジェンダー学専攻の学生で一番の美貌を持っているの。それを彼女にする、いいえ、トロフィーワイフとして誇示してそこの男さんはさぞ鼻が高かったはずよ!」
掃き溜めに鶴の鶴と付き合っていたんだから金を払って当然、とでも言いたげな石墨。
デバ大のジェンダー学専攻の学生が掃き溜めであることは、事実として受け入れているようだ。
転科してきた人間を一番だと誇って、プライドが傷つかないのが凌空には不思議だった。
そもそもルッキズムに肯定的なのか、否定的なのか。
一貫しない姿勢に、凌空は頭を抱える。
「家に帰れば美人の汐里がいる。そう考えて心を保っていたんだから、稼いだ金は全額を汐里に貢ぐのが筋ってもんでしょ」
「そんなわけあるか!」
厚顔無恥にも間違いをいけしゃあしゃあと抜かす石墨に、凌空は待ったをかけた。
「俺は車の購入資金が貯まっていくこと、それを教えてくれる通帳を見るのが楽しみだったと言っただろ! 会話する気もないのにいちゃもんだけつけるなら、帰れよ」
「嘘だ! バイトのストレスから雑に汐里をレイプしたくせに!」
「ふざけるな! 俺がそんなことするわけないだろ! そいつの男性蔑視トークのせいでやる気が失せて、俺はそいつと一度だってセックスをしたことはない!」
凌空と汐里が同棲を始めたのは、一年の春休み。
それをきっかけに、凌空が汐里に性行為を打診しようとしていた矢先。
突然、二年からグロ文のジェンダー学専攻に転科するなどと言いだし、汐里は変わってしまった。
一緒に観ていた映画やアニメの些細なシーンを取り上げて「今の、完全に女性蔑視だよね」「うわ、男尊女卑! サイテー」「こんな遅れた作品見せないで」だのと、鑑賞の途中にもかかわらずクドクドと面倒なことを言うようになった。
ちょっと協同生活をする上でのことを頼めば「女性はあなたのお母さんじゃないのよ」などと主語を女性にして、一事が万事大騒ぎ。醤油差しすら取ってくれなかった。
かと思えば、凌空が洗濯すれば「汚された! 返してよ、私の純潔!」などと喚き散らす有り様。
凌空と汐里の衣類を分けて洗濯しなかったのが、そして凌空が汐里の下着を干したのが気に入らなかったらしい。
反抗期の娘が父親に言うようなことを言われ、凌空は大きく傷ついた。
しかも、洗濯に関して余計な生活費が発生した。
そう、洗濯機があるのに汐里はコインランドリーに行き、料金を凌空にせびったのである。
汚物扱いを契機として別れを切り出せば「現実の女の子は、アニメの女の子とは違うの! あんな非現実的に馬鹿でかい胸と私の身体を比べていつも蔑んでいたんだ。最低!」と暴れ、「絶対に別れない。合鍵も絶対に返さない。私の純潔を汚した(服を一緒に洗濯したこと)責任、取ってよ!」と恥じらいもなく論点をすり替えた上、涙目で睨んで来た。
勇気を出して凌空が「俺とセックスしたくないから、そういう思想になったの?」と尋ねれば、汐里から人間の思いつく悪意とは到底思えない罵詈雑言が飛んで来た。
この有り様に、ついに凌空は汐里を性のパートナーとは見ることができなくなった。
家に住み着いた妖怪。
いつからか、凌空の中で汐里は〝そういうモノ〟に成り果てた。
しかし、凌空はまだ若い。
自らの猛るリビドーを無視し続けることは、できなかった。
ゆえに。
大学の特に人気のない講義棟のトイレにて一人で性処理を繰り返しては、自己嫌悪をするというサイクルに陥っていた。
よって凌空は、レイプ魔とついでのように罵られたのは、絶対に許せなかった。
だが相手は、悪辣を極めた屁泥ゼミ生だ。
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