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余談編
頑張れ葵ちゃん1
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お父様、お母様、いかがお過ごしですか。私は後宮と呼ばれる場所で働くことになりました。
後宮とは、皇である瑞穂之命様の住む仁寿殿などの十七の主要な宮殿のうち、仁寿殿の後方に位置する七殿と五舎の事を言う。
大陸の宋帝国では、皇帝の妃や女官、皇宮で働く女性が住まう場所でもあり、皇国においてもその影響を受け、皇宮で働く女性が住まう場所となっている。
◇
『新入りによくある話』
「葵、こっちの荷物もお願い」
「はい!」
「葵、洗濯物を干してきて」
「はっ、はい!」
「葵、お茶が足りなくなったわ」
「た、ただいま!」
「葵、お召し物を」
「葵、壁の修繕を」
「ちょっと葵、厠が詰まったんだけど」
「葵」
「もぉ!少しは私以外に頼めないの!?」
後宮の一画、堀の近くの石段に座っていた葵は、隣に座る友人の朱音に対して愚痴を放っていた。
「まぁまぁ、それって葵ちゃんが頼りにされているってことじゃないの?」
「そりゃ、頼られるのは嬉しいけど、厠の掃除から壁の修繕まで全部私に頼むって、人遣いが荒いわ!」
「か、壁の修繕までやってるの??」
朱音はさらりと素人ではできない事をやってのける友人に、驚いてしまう。
二人は同じ時期に同じ村から皇都へとやってきた。そして、同じくちょうど募集していた女中になった、いわば同期である。
「あぁ、絶対お金貯まったらいい男の人見つけて悠々自適に暮らしてやる!」
「あはは、葵ちゃんらしいね」
衣食住が保障されている女中になったからには、貧乏な実家に仕送りしつつ、貯蓄に励むのが葵たちの目的であった。
ついでに、高官や名のある武人の妻となり、何不自由ない生活を送るというのも、目的であった。
「はぁあ、いつになったら運命の人が現れるのやら」
「葵ちゃんは、どんな人がいいの?私は、仁様みたいな人が良いなぁ」
朱音は両手を握り、目を輝かせている。
「仁様って、あの侍大将の?ちょっと朱音、それ本気で言ってる?」
「一度だけ、間近で見たことあるの。甲冑姿の仁様、すごく素敵だったなぁ…」
「侍大将との恋なんて、夢のまた夢じゃんか」
「叶わぬ恋でも、想うは勝手よ。じゃあ、葵ちゃんはどんな人がいいの?」
「わ、私??」
葵はまさか自分がそんな事を聞かれるとは思っていなかったのか、あたふたとする。何せ、葵はこれまで男性経験は皆無で、恋をする以前に喋ったことすら数えるくらいであった。
「うーん、まだ分からない」
「なぁんだ、てっきりもう誰かに唾をつけていると思ってたけど」
「ちょ、嫌な言い方しないでよ」
「ごめんごめん」
ふたりがそんな話をしていると、仁寿殿の方から誰かが歩いてくるのが見える。
歩いてくるのは3人、桃色の着物に桃髪の女性、巫女服の金髪の女性、そしてそのふたりの後ろを歩く袴姿の男性だった。
「初めて見るけど、誰だろうあの人たち」
「さぁ、誰だろうね」
すると、先頭を歩いていた女性がふたりに気づき、葵たちの元へと歩み寄ってきた。
「こんにちは、可愛らしい女中さんね」
「あ、どうも」
「こ、こんにちは」
突然声を掛けられ、ふたりはおどおどしながら挨拶を返す。
「いつからここに?」
「え、えっと10日前からです」
「そう、じゃあまだまだ分からない事だらけね。お仕事が大変だけど、ふたりとも頑張ってね」
女性はそう言うと、辺りを見渡す。
「この辺り、他と比べて綺麗に掃除されているわ。ここはふたりの担当区域?」
「一応、そうなっています」
「そうなのね。じゃあ、ふたりの頑張りはちゃんと凛に報告しておくわ。それと、あなた」
「わ、私ですか?」
「よく色んな仕事をしているのを見かけるけど、名前が分からなかったわ。私は瑞穂、お名前は?」
「葵と言います。こちらは友人の朱音です」
葵は友人の名前を出すのを忘れなかった。
「葵に朱音ね、ちゃんと覚えておくわ。じゃあふたりとも、お仕事頑張ってね」
「あ、ありがとうございます」
女性はそう言って、その場を立ち去った。女性たちの姿が見えなくなると、残ったふたりは互いに目を見合わせる。
「今の人、瑞穂って言ってたよね」
「うん、言ってた」
「瑞穂って名前どこかで聞いた事なかった?」
「「はっ!」」
その時ふたりは、気づいてしまった。
「どどど、どうしよう!!どうしよう葵ちゃん!」
「あわわわぁ、あ、あ、あ、あぁあ!」
自らが喋っていた相手が、この国の皇であったことに。本来であれば、首を垂れ、跪かなければならない相手に。
ふたりは頭を抱える。
「あぁぁぁぁあーー!」
「いやぁぁぁあーー!」
そして、絶叫した。
◇
『女中頭』
女中頭である凛様に、昨日のことを話したところ、心配ないと言われた。
「大丈夫、大丈夫。みっちゃん…じゃないや、瑞穂之命様ならそんな事で怒る人じゃないから」
「みっちゃん…」
さりげなく、みっちゃん呼ばわりしていたのをあえて突っ込まず、ともかく私と朱音は難を逃れたわけである。
「そういえば、凛様。皇様の両脇にいた金髪の巫女の方と、武人の方というのは…」
「巫女服を着られていたのは、斎ノ巫女である白雪千代様。それと、その武人は多分御剣くんかな…って、あれ、どうしたのふたりとも?」
「いえ、その…」
「無知って怖いなと…」
「そういえば、なぜ凛様は御三方のことをよく知っておられるのですか?」
朱音の質問に、凛様は笑顔で答えてくれた。
「知ってるも何も、私たちこの国が緋ノ国って呼ばれてた時代、一緒に戦って国を打ち倒した仲だから」
「「無知って怖い!!」」
その後、女中全員が普段からふわふわしていた凛様への接し方が丁寧になったのは、当の本人には秘密である。
◇
『新入り歓迎会』
後宮には、新入りの女中が来ると、半月以内に必ず歓迎会を開くという決まりがあった。
誰が決めたのかは知らないが、そういうことになっているらしい。
「新入りぃ、こっち来いやぁ!」
「あ、あの、お酒はあまり…」
「あぁ?私の酒が飲めねぇってかぁ!?」
なぜか、後宮の人間は総じて酒癖が悪い。すでに、私たちと同じ日に女中になった同期たちが、飢えた狼の餌食になっていた。
「葵ぃ、朱音ぇ、飲んでっかぁ、ヒック!」
「せ、先輩ぃ!」
徳利片手にふらふらと私たちの元にやってきたのは、女中の先輩にあたる結由先輩だった。
女中の新入りは、必ず二人に一人、指導役となる先輩につくことになる。結由先輩は私と朱音の先輩であった。
「今日はぁ、あんたらぁの、かんげぇ、っぷ、オェェー」
「ちょ、ここで吐かないでくださいぃ!」
「く、くさぁ!」
「もう、結由ったら、せっかくの祝酒を戻してどうするの。ほら、ちゃんと飲み直ししなさい」
そう言って、凛様が両腕に潰れた女中を抱きながら結由先輩を捕まえた。
「凛様ぁ、も、もう堪忍してくだぁ…っぷ」
床に盛大に撒き散らした結由先輩の口に、凛様が徳利の口を直接ねじ込む。
"あんたの所為かぁ!"
笑いながら真顔で酒を飲ます凛様に、恐怖した歓迎会であった。翌朝、末席の私たちが涙を流しながら先輩方の吐き物を片付けたのは、言うまでもない。
後宮とは、皇である瑞穂之命様の住む仁寿殿などの十七の主要な宮殿のうち、仁寿殿の後方に位置する七殿と五舎の事を言う。
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「はい!」
「葵、洗濯物を干してきて」
「はっ、はい!」
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「た、ただいま!」
「葵、お召し物を」
「葵、壁の修繕を」
「ちょっと葵、厠が詰まったんだけど」
「葵」
「もぉ!少しは私以外に頼めないの!?」
後宮の一画、堀の近くの石段に座っていた葵は、隣に座る友人の朱音に対して愚痴を放っていた。
「まぁまぁ、それって葵ちゃんが頼りにされているってことじゃないの?」
「そりゃ、頼られるのは嬉しいけど、厠の掃除から壁の修繕まで全部私に頼むって、人遣いが荒いわ!」
「か、壁の修繕までやってるの??」
朱音はさらりと素人ではできない事をやってのける友人に、驚いてしまう。
二人は同じ時期に同じ村から皇都へとやってきた。そして、同じくちょうど募集していた女中になった、いわば同期である。
「あぁ、絶対お金貯まったらいい男の人見つけて悠々自適に暮らしてやる!」
「あはは、葵ちゃんらしいね」
衣食住が保障されている女中になったからには、貧乏な実家に仕送りしつつ、貯蓄に励むのが葵たちの目的であった。
ついでに、高官や名のある武人の妻となり、何不自由ない生活を送るというのも、目的であった。
「はぁあ、いつになったら運命の人が現れるのやら」
「葵ちゃんは、どんな人がいいの?私は、仁様みたいな人が良いなぁ」
朱音は両手を握り、目を輝かせている。
「仁様って、あの侍大将の?ちょっと朱音、それ本気で言ってる?」
「一度だけ、間近で見たことあるの。甲冑姿の仁様、すごく素敵だったなぁ…」
「侍大将との恋なんて、夢のまた夢じゃんか」
「叶わぬ恋でも、想うは勝手よ。じゃあ、葵ちゃんはどんな人がいいの?」
「わ、私??」
葵はまさか自分がそんな事を聞かれるとは思っていなかったのか、あたふたとする。何せ、葵はこれまで男性経験は皆無で、恋をする以前に喋ったことすら数えるくらいであった。
「うーん、まだ分からない」
「なぁんだ、てっきりもう誰かに唾をつけていると思ってたけど」
「ちょ、嫌な言い方しないでよ」
「ごめんごめん」
ふたりがそんな話をしていると、仁寿殿の方から誰かが歩いてくるのが見える。
歩いてくるのは3人、桃色の着物に桃髪の女性、巫女服の金髪の女性、そしてそのふたりの後ろを歩く袴姿の男性だった。
「初めて見るけど、誰だろうあの人たち」
「さぁ、誰だろうね」
すると、先頭を歩いていた女性がふたりに気づき、葵たちの元へと歩み寄ってきた。
「こんにちは、可愛らしい女中さんね」
「あ、どうも」
「こ、こんにちは」
突然声を掛けられ、ふたりはおどおどしながら挨拶を返す。
「いつからここに?」
「え、えっと10日前からです」
「そう、じゃあまだまだ分からない事だらけね。お仕事が大変だけど、ふたりとも頑張ってね」
女性はそう言うと、辺りを見渡す。
「この辺り、他と比べて綺麗に掃除されているわ。ここはふたりの担当区域?」
「一応、そうなっています」
「そうなのね。じゃあ、ふたりの頑張りはちゃんと凛に報告しておくわ。それと、あなた」
「わ、私ですか?」
「よく色んな仕事をしているのを見かけるけど、名前が分からなかったわ。私は瑞穂、お名前は?」
「葵と言います。こちらは友人の朱音です」
葵は友人の名前を出すのを忘れなかった。
「葵に朱音ね、ちゃんと覚えておくわ。じゃあふたりとも、お仕事頑張ってね」
「あ、ありがとうございます」
女性はそう言って、その場を立ち去った。女性たちの姿が見えなくなると、残ったふたりは互いに目を見合わせる。
「今の人、瑞穂って言ってたよね」
「うん、言ってた」
「瑞穂って名前どこかで聞いた事なかった?」
「「はっ!」」
その時ふたりは、気づいてしまった。
「どどど、どうしよう!!どうしよう葵ちゃん!」
「あわわわぁ、あ、あ、あ、あぁあ!」
自らが喋っていた相手が、この国の皇であったことに。本来であれば、首を垂れ、跪かなければならない相手に。
ふたりは頭を抱える。
「あぁぁぁぁあーー!」
「いやぁぁぁあーー!」
そして、絶叫した。
◇
『女中頭』
女中頭である凛様に、昨日のことを話したところ、心配ないと言われた。
「大丈夫、大丈夫。みっちゃん…じゃないや、瑞穂之命様ならそんな事で怒る人じゃないから」
「みっちゃん…」
さりげなく、みっちゃん呼ばわりしていたのをあえて突っ込まず、ともかく私と朱音は難を逃れたわけである。
「そういえば、凛様。皇様の両脇にいた金髪の巫女の方と、武人の方というのは…」
「巫女服を着られていたのは、斎ノ巫女である白雪千代様。それと、その武人は多分御剣くんかな…って、あれ、どうしたのふたりとも?」
「いえ、その…」
「無知って怖いなと…」
「そういえば、なぜ凛様は御三方のことをよく知っておられるのですか?」
朱音の質問に、凛様は笑顔で答えてくれた。
「知ってるも何も、私たちこの国が緋ノ国って呼ばれてた時代、一緒に戦って国を打ち倒した仲だから」
「「無知って怖い!!」」
その後、女中全員が普段からふわふわしていた凛様への接し方が丁寧になったのは、当の本人には秘密である。
◇
『新入り歓迎会』
後宮には、新入りの女中が来ると、半月以内に必ず歓迎会を開くという決まりがあった。
誰が決めたのかは知らないが、そういうことになっているらしい。
「新入りぃ、こっち来いやぁ!」
「あ、あの、お酒はあまり…」
「あぁ?私の酒が飲めねぇってかぁ!?」
なぜか、後宮の人間は総じて酒癖が悪い。すでに、私たちと同じ日に女中になった同期たちが、飢えた狼の餌食になっていた。
「葵ぃ、朱音ぇ、飲んでっかぁ、ヒック!」
「せ、先輩ぃ!」
徳利片手にふらふらと私たちの元にやってきたのは、女中の先輩にあたる結由先輩だった。
女中の新入りは、必ず二人に一人、指導役となる先輩につくことになる。結由先輩は私と朱音の先輩であった。
「今日はぁ、あんたらぁの、かんげぇ、っぷ、オェェー」
「ちょ、ここで吐かないでくださいぃ!」
「く、くさぁ!」
「もう、結由ったら、せっかくの祝酒を戻してどうするの。ほら、ちゃんと飲み直ししなさい」
そう言って、凛様が両腕に潰れた女中を抱きながら結由先輩を捕まえた。
「凛様ぁ、も、もう堪忍してくだぁ…っぷ」
床に盛大に撒き散らした結由先輩の口に、凛様が徳利の口を直接ねじ込む。
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