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余談編
頑張れ葵ちゃん2
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『皇の従者様』
私はいつもの様に先輩方にこき使われ、ふらふらになりながら最後の仕事、書簡を書簡庫へと運んでいた。
日も落ち、灯篭の灯りが廊下を照らす。盆の上に積み上げられた書簡は地味に重く、目線まであるため前が見辛かった。
「やっと、これで終わる…」
角を曲がり、書簡庫に続く廊下へと出た時だった。足下の何かに躓いて、前のめりに倒れそうになる。
「ふえっ!?」
咄嗟に身構えるが、痛みはやってこない。代わりに顔に何かが掛かり、そして誰かに抱き抱えられたらしい。
「大丈夫か?」
「えっ…あ、はい…」
私はどうやら、廊下に座っていた人の足に躓いてしまったらしい。今の私は、その人にうつ伏せで受け止められている、という中々見ない光景になっていた。
倒れた瞬間は気づかなかったが、私が倒れた所為なのか、羽織りに酒が溢れていた。
"やっちまった!!"
「あ、あわわ、そ、その、ごめんなさいっ!」
「いや、俺の方こそ、君の仕事の邪魔をしてしまい申し訳ない。まさか、こちらに寄ってくるとは思わなかったんだ」
「あ、あなたは!?」
そこでようやく、私は自分を抱きかかえていた人物の顔を認識し、誰なのか気がついた。
皇様の従者様である、御剣様だった。
「み、み、御剣様っ!?」
「俺のことを知っている子がいるなんてな。驚いた」
「も、申し訳ありません。ぶ、無礼をお許しください。今、お召し物をお拭きしますので…」
私は身体を起こし、御剣様の羽織りに掛かったお酒を拭こうと、手拭いを取り出す。
すると御剣様は、その手拭いを私の手から取ると、自分の羽織りではなくお酒の掛かった私の顔を拭ってくれた。
「…へっ?」
「こんな時間までお勤めご苦労。この後に湯浴みをするとは思うが、それまで辛抱してくれまいか?」
可笑しい、何故かお酒を飲んでいないのに顔が熱くなった。
「と、言う話が昨日ありまして…」
カチャ…。
その瞬間、夕餉を食べていた女中たちの手が一斉に止まり、全員の視線が私に集まる。
特に、結由先輩の目が。
「葵…」
「な、何でしょうか結由先輩…」
笑っていなかった。
「後で私の部屋に来なさい。その時の話、お酒でも飲みながらゆっくり聞かせてもらうわ」
「………」
「返事は?」
「はいでございます」
このあと先輩に一晩中お酒を飲まされ、見事に潰された。
『女中のお仕事』
女中の仕事は、大きく分けて二つ。
・皇宮における清掃や官吏の手伝いといった雑務
・侍女として特定の人物の元に就き、身の回りの世話をする
特に、女中は後者の侍女になるため、絶え間ない努力を続ける。何故なら、侍女になると言うことは、即ち女中の中での地位を獲得、いわば昇進すると言うことだからだ。
「ほら、葵ちゃん、元気出して…」
「オサケコワイ、オサケコワイ…」
"何があったの葵ちゃん!?"
「そ、そういえば葵ちゃん。葵ちゃんは侍女になるなら誰が良いの?わ、私は仁様かな…ははは」
朱音の問いに、葵は俯いて答える。
「…さま」
「えっ?」
「わ、私、御剣様の侍女になる」
「み、御剣様って皇様の従者様のこと?」
「うん。だって…その…私…」
顔を赤く染め、指先をもじもじさせる葵を見た朱音は確信する。
惚れとるなこいつ、と。
「で、でも。従者様って確か女中で言う侍女と同じ立ち位置だから、従者様に侍女は付けられないって誰かが…」
その言葉を聞いた瞬間、葵の顔が露骨に落ち込む。
「ま、まぁ、あくまでも誰かが言ってたことだし、本当は侍女になれるかも…」
「ほ、本当?」
「た、多分…」
「本当に本当に本当?」
「た、確か、侍女関係については凛様に聞けば…あ、あれっ」
しかし、そこにはすでに葵の姿はなかった。
「行動力の高さは尊敬できるけどねぇ…」
御剣の侍女になるため、凛に直談判した葵。凛曰く、従者に侍女をつけられないという決まりは無いとの事であったが、侍女にはまだなれないと言われてしまう。
理由が、雇用期間の不足であった。ついでに凛から『人の話はちゃんと覚えておきなさい』とお灸を据えられた。(侍女になれるのは2年目からと採用時に説明されていた)
『斎ノ巫女様』
後宮には私たち女中の他にも、国中の神社から巫女や宮司が修行や奉公のために働きに来ている。
その巫女の中でも特に高位にあられるのが、斎ノ巫女と呼ばれる白雪千代様である。
「では、こちらは神居古潭との今後の人事交流計画の起案書になります。日程表と共に皇様に決裁をいただいてください。ふたりは明日から明風神社へ、あなたは午後から行われる祈祷に参加してください」
巫女さんたちも皇宮にいるため、たまにこういう場面を目にする。こうして仕事をそつなくこなす斎ノ巫女様は、最初は金色の髪をしていて変わった人だなという印象だった。
でも、こうして何度か見ているうちに、お淑やかで気品があり、何よりも。
「こんにちは葵様」
「こ、こんにちは白雪様!」
とても良い人だ。
廊下ですれ違えば、必ず名前を呼んで挨拶してもらえる。私よりも背が小さいけど、こう見えて巫女さんの誰よりも位が高く、おいそれと話ができる様な人じゃない。
そんな立場の人であっても、誰に対しても平等に接してくれる。巫女さんの友達に話を聞けば、今では巫女さん達の憧れの的らしい。
「あっ、御剣様!」
「千代、珠那さんから甘味を貰ったんだ。一緒に食べるか?」
「もちろんでございます!」
そんな斎ノ巫女様も、御剣様の前では普通の女の子だった。
私はいつもの様に先輩方にこき使われ、ふらふらになりながら最後の仕事、書簡を書簡庫へと運んでいた。
日も落ち、灯篭の灯りが廊下を照らす。盆の上に積み上げられた書簡は地味に重く、目線まであるため前が見辛かった。
「やっと、これで終わる…」
角を曲がり、書簡庫に続く廊下へと出た時だった。足下の何かに躓いて、前のめりに倒れそうになる。
「ふえっ!?」
咄嗟に身構えるが、痛みはやってこない。代わりに顔に何かが掛かり、そして誰かに抱き抱えられたらしい。
「大丈夫か?」
「えっ…あ、はい…」
私はどうやら、廊下に座っていた人の足に躓いてしまったらしい。今の私は、その人にうつ伏せで受け止められている、という中々見ない光景になっていた。
倒れた瞬間は気づかなかったが、私が倒れた所為なのか、羽織りに酒が溢れていた。
"やっちまった!!"
「あ、あわわ、そ、その、ごめんなさいっ!」
「いや、俺の方こそ、君の仕事の邪魔をしてしまい申し訳ない。まさか、こちらに寄ってくるとは思わなかったんだ」
「あ、あなたは!?」
そこでようやく、私は自分を抱きかかえていた人物の顔を認識し、誰なのか気がついた。
皇様の従者様である、御剣様だった。
「み、み、御剣様っ!?」
「俺のことを知っている子がいるなんてな。驚いた」
「も、申し訳ありません。ぶ、無礼をお許しください。今、お召し物をお拭きしますので…」
私は身体を起こし、御剣様の羽織りに掛かったお酒を拭こうと、手拭いを取り出す。
すると御剣様は、その手拭いを私の手から取ると、自分の羽織りではなくお酒の掛かった私の顔を拭ってくれた。
「…へっ?」
「こんな時間までお勤めご苦労。この後に湯浴みをするとは思うが、それまで辛抱してくれまいか?」
可笑しい、何故かお酒を飲んでいないのに顔が熱くなった。
「と、言う話が昨日ありまして…」
カチャ…。
その瞬間、夕餉を食べていた女中たちの手が一斉に止まり、全員の視線が私に集まる。
特に、結由先輩の目が。
「葵…」
「な、何でしょうか結由先輩…」
笑っていなかった。
「後で私の部屋に来なさい。その時の話、お酒でも飲みながらゆっくり聞かせてもらうわ」
「………」
「返事は?」
「はいでございます」
このあと先輩に一晩中お酒を飲まされ、見事に潰された。
『女中のお仕事』
女中の仕事は、大きく分けて二つ。
・皇宮における清掃や官吏の手伝いといった雑務
・侍女として特定の人物の元に就き、身の回りの世話をする
特に、女中は後者の侍女になるため、絶え間ない努力を続ける。何故なら、侍女になると言うことは、即ち女中の中での地位を獲得、いわば昇進すると言うことだからだ。
「ほら、葵ちゃん、元気出して…」
「オサケコワイ、オサケコワイ…」
"何があったの葵ちゃん!?"
「そ、そういえば葵ちゃん。葵ちゃんは侍女になるなら誰が良いの?わ、私は仁様かな…ははは」
朱音の問いに、葵は俯いて答える。
「…さま」
「えっ?」
「わ、私、御剣様の侍女になる」
「み、御剣様って皇様の従者様のこと?」
「うん。だって…その…私…」
顔を赤く染め、指先をもじもじさせる葵を見た朱音は確信する。
惚れとるなこいつ、と。
「で、でも。従者様って確か女中で言う侍女と同じ立ち位置だから、従者様に侍女は付けられないって誰かが…」
その言葉を聞いた瞬間、葵の顔が露骨に落ち込む。
「ま、まぁ、あくまでも誰かが言ってたことだし、本当は侍女になれるかも…」
「ほ、本当?」
「た、多分…」
「本当に本当に本当?」
「た、確か、侍女関係については凛様に聞けば…あ、あれっ」
しかし、そこにはすでに葵の姿はなかった。
「行動力の高さは尊敬できるけどねぇ…」
御剣の侍女になるため、凛に直談判した葵。凛曰く、従者に侍女をつけられないという決まりは無いとの事であったが、侍女にはまだなれないと言われてしまう。
理由が、雇用期間の不足であった。ついでに凛から『人の話はちゃんと覚えておきなさい』とお灸を据えられた。(侍女になれるのは2年目からと採用時に説明されていた)
『斎ノ巫女様』
後宮には私たち女中の他にも、国中の神社から巫女や宮司が修行や奉公のために働きに来ている。
その巫女の中でも特に高位にあられるのが、斎ノ巫女と呼ばれる白雪千代様である。
「では、こちらは神居古潭との今後の人事交流計画の起案書になります。日程表と共に皇様に決裁をいただいてください。ふたりは明日から明風神社へ、あなたは午後から行われる祈祷に参加してください」
巫女さんたちも皇宮にいるため、たまにこういう場面を目にする。こうして仕事をそつなくこなす斎ノ巫女様は、最初は金色の髪をしていて変わった人だなという印象だった。
でも、こうして何度か見ているうちに、お淑やかで気品があり、何よりも。
「こんにちは葵様」
「こ、こんにちは白雪様!」
とても良い人だ。
廊下ですれ違えば、必ず名前を呼んで挨拶してもらえる。私よりも背が小さいけど、こう見えて巫女さんの誰よりも位が高く、おいそれと話ができる様な人じゃない。
そんな立場の人であっても、誰に対しても平等に接してくれる。巫女さんの友達に話を聞けば、今では巫女さん達の憧れの的らしい。
「あっ、御剣様!」
「千代、珠那さんから甘味を貰ったんだ。一緒に食べるか?」
「もちろんでございます!」
そんな斎ノ巫女様も、御剣様の前では普通の女の子だった。
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