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第3章 こくら物語 Ⅲ 標準語
第26話(2) 鈴木滉一画伯
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「キミ、キミの名前は?」とミキちゃんに尋ねた。
「私は岡田美雪と申します。木村のアシスタントをしております」
「ふむぅ、私はキミにシンクロニシティを少し感じたんだ」
おいおい、画伯。ミキちゃんにシンクロニシティを感じるなよ。私じゃないのね?ミキちゃんに?でも、画伯のシンクロニシティを浴びてもキョトンとしているミキちゃん。
「私に共時性を感じられたんですか?」
「キミは感じないのかね?」
「ええ、どうだろう?画伯のお人柄には興味はありますけど・・・」とかわしているのか、なんだかわからない受け答えじゃないの?ミキちゃん?
「どうだね?今、ぼくの絵のモデルになるのは?」
「え?上野さんや吉沢さんみたいな?脱ぐんですか?」
「脱ぐとか脱がないとかは、キミに任せよう」
「え~、どうしようかしら?でも、有名な画伯のモデルになるのなら、やっぱり脱いだほうがいいんでしょうね。わかりました。上野さんと同じポーズになります。やります!」
お~い、懊悩とか煩悩とか感じられないよ。逃げ出した元カレのDV被害のトラウマをミキちゃんは持っているだろうけど、上野さんと同じにはならないと思うけどなあ。
ミキちゃんはズルズルと上野さんが使った椅子を窓のそばに引きずっていった。パッパと服を脱いでしまう。おいおい。画伯は上野さんに語りかけたように「岡野さん、自分に起こったいろいろなことを最初から今まですべてを思い出してご覧」と粘着した声音でミキちゃんに言った。
ミキちゃんは自分の家庭のこと、姉ばかりがチヤホヤされて自分が見捨てられたこと、元カレのDVのことなどを思い出しているのだろう。表情が歪むのがわかる。姿勢が緩む。ところが、徐々に満ち足りた表情になってきて、緩んだ姿勢が元の弥勒菩薩の半跏思惟の姿勢に戻ってしまう。ああ、明彦と私との最近のことを思い出したんだ、と私にはよくわかった。
他人の不幸せを糧に生きているような画伯は、ミキちゃんの満ち足りた姿を気にはしなかった。
アクリルペイントで、ものすごい速さで、背景を寒色に、ミキちゃんを暖色に描いていく。あら?画伯の作品のタッチと違う。これではミキちゃんの表情をよく捉えた写実画じゃない、と思った。一時間ぐらいで完成した。それで終わりと私は思った。
ところが、画伯はそこから、ミキちゃんをデフォルメしていき、罪悪感を持たない悪戯好きで小悪魔な彼女の内面をわかったかのように写実画の上からアクリルを塗り重ねていった。
徐々に可愛らしく清楚な表情だった顔が、次は何を仕掛けようかな?という狡猾なものに変わっていく。耳がエルフのように横に伸びて生えだしていく。陰部が静止しているのにも関わらず蠢いているかのように見える。淫乱な彼女の性格を現している。凄い。
凄い。これだわ。私が欲しいものはこれだ。絶対に画伯と契約しなくては。この描写力、人間の内面をえぐり出す洞察力が私は欲しい。
二時間。終わった。凄い!彼はタダのスケベなおっさんじゃない!画伯だ!
画伯が筆を置いた。満足そうだ。二時間、同じ姿勢だったミキちゃんが、ヨイショ、イテテと言いながら立ち上がった。全裸のままイーゼルをグルっと回って画伯の後ろに立って完成した自分の像を見た。目を見開いている。
「これ・・・これが私・・・ですか?」
「ああ、ぼくから見えたキミはこの姿だ」
「画伯、狡猾そうで悪戯そうじゃないですか?」
「キミは自分が狡猾で悪戯好きじゃないと思っているのかね?」
「ハイ!確かに!」
「じゃあ、これがキミの姿なんだよ」
「もっと、綺麗に描いてほしかったな・・・」とミキちゃんは画伯の機嫌が悪くなるようなことを言う。
「ミキちゃん!何を言うの!こんな素晴らしい作品!お礼を言いなさい!」
「木村さん、かまわんよ。確かに女の子は自分の似姿を見たいんであって、内面を見せられるのはイヤなんだろう」
「画伯、契約前ですが、この作品を買い取らせて下さい!」
「なんだね、急に。雑に描いただけだよ、こんなもの。ぼくの岡田さんへのシンクロニシティは浅かったんだ。この子はキレイ過ぎる。無邪気さが多すぎる。そういう意味では木村さんも同じだ。もっとね、ドロドロした懊悩が欲しいんだ」
「画伯、私じゃ女の深みが足りないってことですか?」とミキちゃんが不服そうに言う。こらぁ!
「岡田さん、キミのカルマが良すぎたんだよ」
「カルマ?」
「仏教用語の『業』のことだ。因果応報と言うだろう?善や悪の『業』が前世に作られ、それが今生に受け継がれていくんだ。キミの前世は善を積みすぎて良すぎたのかもしらん。今生は悪戯が過ぎて来世はどうなるか、わからんがね」
「???」
「ミキちゃん!後で説明してあげるから!それよりも売買契約書を持ってきたでしょ?それをちょうだい!社判と朱肉も!」
私は急いで定型の売買契約書に鈴木滉一の名前などを書き入れた。署名をして社判を押した。金額欄は空欄にした。
「画伯!この作品の売買契約書です。お望みの金額をお書き入れ下さい。署名と拇印で結構ですので、それをお願いいたします」と契約書と印肉を画伯に差し出した。
「せっかちだね、木村さんは。え~、金額?いくらなんだろう?」と言う。明彦から貰った1千万円は節子に5百万円を渡すので残りも5百万円。私の貯金が2百万円。いくら提示されるのか、不安になる。
「今月の電気ガス水道代がたりんなあ。それと生活費が少々・・・」と画伯は金額欄に書き込んだ。目をつぶってしまった。
「私は岡田美雪と申します。木村のアシスタントをしております」
「ふむぅ、私はキミにシンクロニシティを少し感じたんだ」
おいおい、画伯。ミキちゃんにシンクロニシティを感じるなよ。私じゃないのね?ミキちゃんに?でも、画伯のシンクロニシティを浴びてもキョトンとしているミキちゃん。
「私に共時性を感じられたんですか?」
「キミは感じないのかね?」
「ええ、どうだろう?画伯のお人柄には興味はありますけど・・・」とかわしているのか、なんだかわからない受け答えじゃないの?ミキちゃん?
「どうだね?今、ぼくの絵のモデルになるのは?」
「え?上野さんや吉沢さんみたいな?脱ぐんですか?」
「脱ぐとか脱がないとかは、キミに任せよう」
「え~、どうしようかしら?でも、有名な画伯のモデルになるのなら、やっぱり脱いだほうがいいんでしょうね。わかりました。上野さんと同じポーズになります。やります!」
お~い、懊悩とか煩悩とか感じられないよ。逃げ出した元カレのDV被害のトラウマをミキちゃんは持っているだろうけど、上野さんと同じにはならないと思うけどなあ。
ミキちゃんはズルズルと上野さんが使った椅子を窓のそばに引きずっていった。パッパと服を脱いでしまう。おいおい。画伯は上野さんに語りかけたように「岡野さん、自分に起こったいろいろなことを最初から今まですべてを思い出してご覧」と粘着した声音でミキちゃんに言った。
ミキちゃんは自分の家庭のこと、姉ばかりがチヤホヤされて自分が見捨てられたこと、元カレのDVのことなどを思い出しているのだろう。表情が歪むのがわかる。姿勢が緩む。ところが、徐々に満ち足りた表情になってきて、緩んだ姿勢が元の弥勒菩薩の半跏思惟の姿勢に戻ってしまう。ああ、明彦と私との最近のことを思い出したんだ、と私にはよくわかった。
他人の不幸せを糧に生きているような画伯は、ミキちゃんの満ち足りた姿を気にはしなかった。
アクリルペイントで、ものすごい速さで、背景を寒色に、ミキちゃんを暖色に描いていく。あら?画伯の作品のタッチと違う。これではミキちゃんの表情をよく捉えた写実画じゃない、と思った。一時間ぐらいで完成した。それで終わりと私は思った。
ところが、画伯はそこから、ミキちゃんをデフォルメしていき、罪悪感を持たない悪戯好きで小悪魔な彼女の内面をわかったかのように写実画の上からアクリルを塗り重ねていった。
徐々に可愛らしく清楚な表情だった顔が、次は何を仕掛けようかな?という狡猾なものに変わっていく。耳がエルフのように横に伸びて生えだしていく。陰部が静止しているのにも関わらず蠢いているかのように見える。淫乱な彼女の性格を現している。凄い。
凄い。これだわ。私が欲しいものはこれだ。絶対に画伯と契約しなくては。この描写力、人間の内面をえぐり出す洞察力が私は欲しい。
二時間。終わった。凄い!彼はタダのスケベなおっさんじゃない!画伯だ!
画伯が筆を置いた。満足そうだ。二時間、同じ姿勢だったミキちゃんが、ヨイショ、イテテと言いながら立ち上がった。全裸のままイーゼルをグルっと回って画伯の後ろに立って完成した自分の像を見た。目を見開いている。
「これ・・・これが私・・・ですか?」
「ああ、ぼくから見えたキミはこの姿だ」
「画伯、狡猾そうで悪戯そうじゃないですか?」
「キミは自分が狡猾で悪戯好きじゃないと思っているのかね?」
「ハイ!確かに!」
「じゃあ、これがキミの姿なんだよ」
「もっと、綺麗に描いてほしかったな・・・」とミキちゃんは画伯の機嫌が悪くなるようなことを言う。
「ミキちゃん!何を言うの!こんな素晴らしい作品!お礼を言いなさい!」
「木村さん、かまわんよ。確かに女の子は自分の似姿を見たいんであって、内面を見せられるのはイヤなんだろう」
「画伯、契約前ですが、この作品を買い取らせて下さい!」
「なんだね、急に。雑に描いただけだよ、こんなもの。ぼくの岡田さんへのシンクロニシティは浅かったんだ。この子はキレイ過ぎる。無邪気さが多すぎる。そういう意味では木村さんも同じだ。もっとね、ドロドロした懊悩が欲しいんだ」
「画伯、私じゃ女の深みが足りないってことですか?」とミキちゃんが不服そうに言う。こらぁ!
「岡田さん、キミのカルマが良すぎたんだよ」
「カルマ?」
「仏教用語の『業』のことだ。因果応報と言うだろう?善や悪の『業』が前世に作られ、それが今生に受け継がれていくんだ。キミの前世は善を積みすぎて良すぎたのかもしらん。今生は悪戯が過ぎて来世はどうなるか、わからんがね」
「???」
「ミキちゃん!後で説明してあげるから!それよりも売買契約書を持ってきたでしょ?それをちょうだい!社判と朱肉も!」
私は急いで定型の売買契約書に鈴木滉一の名前などを書き入れた。署名をして社判を押した。金額欄は空欄にした。
「画伯!この作品の売買契約書です。お望みの金額をお書き入れ下さい。署名と拇印で結構ですので、それをお願いいたします」と契約書と印肉を画伯に差し出した。
「せっかちだね、木村さんは。え~、金額?いくらなんだろう?」と言う。明彦から貰った1千万円は節子に5百万円を渡すので残りも5百万円。私の貯金が2百万円。いくら提示されるのか、不安になる。
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