こくら物語 (物語シリーズ③ )

✿モンテ✣クリスト✿

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第3章 こくら物語 Ⅲ 標準語

第26話(3) 鈴木滉一画伯

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 売買契約書を見ると・・・「200,000円也」とある。驚いた。

「あのぉ、画伯、ゼロが少ないと思うんですけど・・・」
「せっかちだったり、もっと払うと言ったり、木村さんは面白いね。いいんだよ。欲をかいてはいかんのだ」
「わかりました。しばらくこの作品は手元におきますが、売買の際は、その差額を勘案して、またお支払いをいたします」と私は契約書に差額支払いの件と書き足した。

 画伯に銀行口座番号を聞いた。タブで私の都市銀行口座から画伯の口座に送金した。画伯が珍しそうに見ている。いつも現金取引なんだろうか?これは仙人にも確定申告とか教えないといけないかもしれない。

「画伯、送金が終わりました。ただ、現金ではないので、些少ながらこれは今日お時間をお取らせしたお礼としまして」と私は財布から150,000万円を抜き出し、封筒に入れて画伯に渡した。「この売買契約書はコピーを速達で小倉に戻り次第送付いたします。それで、専属契約の件は契約書を検討いただき・・・」と言いかけた。

 画伯が「これか?」と、鈴木滉一作品のエージェンシー、プロモーションの契約書を手に取った。5ページの書類をパラパラめくって、最後のページの署名欄にサインして、拇印を押してしまった。え?

「これでいいんだろう?木村さん?」キョトンと見ている私に画伯が言った。「まあ、面倒くさいからな。何か描きあげたら木村さんに連絡すればいいんだろう?会計とか税務もやってくれるんだろう?」とニヤッと笑った。なんだ、ちゃんと契約書読んでいるじゃないの!

 ミキちゃんの絵は、アクリルペイントで、油絵の具ほどの乾燥時間はいらない。速筆で描きあげた薄塗りなので、30分経ってもう乾いている。キャンバスサイズがF12号(606✕500)で、持参したホルベインのアウトバックに収まった。

「さて、次作は何を描こう?・・・そうだ、今日の岡野さんのイメージで未亡人の吉沢さんと対になる作品がいいな。善の業と悪の業の対比なんか面白そうだ。そうだ、イメージを思い描くのに吉沢さんが必要だ。呼ぼう」とスマホを取り出して、吉沢さんを呼びつけている。

 画伯がコーヒーを淹れてくれた。豆から挽いたモカ。コーヒーを頂いていると、玄関のチャイムが鳴った。噂の吉沢さんが来たのだ。本当に近所なのだ。急いで着たのか、息が上がっている。

 吉沢さんは私よりも数歳年上だろう。30歳後半?ビジネススーツを着た女性が二人いるのに驚いている。

「吉沢さん、こちらが木村直美さんと岡野美雪さん。これから私の作品のプロモーションをしてくれる会社の経営者とアシスタントだ」あら?画伯、ちゃんと名前も覚えている。「吉沢さん・・・洋子、キミの絵も扱ってもらうから。モデル代も払えるようになる」
「先生、モデル代なんてご不要になさって下さい」
「そうはいかん。野菜も貰っている」体も、じゃないんですか?と思った。「そこでだ、次作ではこの美雪くんと対になる洋子を描きたいと思って、そのイメージを作るのに洋子を呼んだんだ。木村さん、今の絵、洋子にも見せてやってくれ」

 私はアートバックからミキちゃんの絵を取り出して吉沢さんに渡した。

「まあ!キレイに描いて貰ったわねえ。屈託のないキレイな絵。先生、私のとはずいぶん違いますこと」と画伯を睨む。
「洋子の業は深いからな。それで岡野さんとちょっとポーズをつけてくれんか」

「脱ぐんですか?」とワンピースの背中のジッパーを外そうとする。ミキちゃんといい、吉沢さんといい、さっさと脱ぐ。私にはできない。
「脱がなくてよろしい。立ったままでかまわん。岡野さんと抱き合って絡んでくれ」今日会ったばかりでこれかよ!でも、ミキちゃんも全然躊躇しない。立ち上がって吉沢さんに抱きついた。

 ルノアールのモデルのような豊満な吉沢さんと華奢なミキちゃんが抱き合っている。小そうて、可愛いわあ、虐めとうなるわ、と吉沢さん。ミキちゃんの背中に手を回して、背骨沿いに右手を走らせる。左手でミキちゃんのお尻をまさぐった。さすが画伯のモデルだけあって、エロティックにポーズを決める。

「おお、悪の業が善の業を深みに落とそうとしているのがわかるぞ。シンクロニシティを感じる」と画伯。一日に何度シンクロニシティを感じるんだろう?「おお、いい、いいぞ。イメージが湧いてきた!よし!描ける!」と画伯が叫ぶ。これって、最後は二人とも脱いじゃって、ミキちゃんお得意のあれが始まっちゃうのかしら?帰りのバスの最終は何時なんだろう?小倉まで歩いて帰りたくない、と思った。

「よし、わかった!木村さん、岡野さん、今日は帰ってくれ!あとは、ぼくと洋子で仕上げる!」と画伯が言う。画伯の股間を見てしまった。勃ってるのがわかった。え~、つまり、ミキちゃんと抱き合った吉沢さんを見て欲情したから、お前らは帰れ!ということなんですね?画伯、そうですね?

 私とミキちゃんは、絵をバックにしまって、書類をかき集めて、帰り準備をそそくさとした。

 画伯のシンクロニシティを深く感じた吉沢さんは、もうワンピースを脱ぎ捨てていて、ブラとショーツだけの姿になって画伯に抱きついている。ズボンの上から股間をすりあげている。

「し、失礼しました。また、連絡の上お伺いいたします」と私は挨拶をして、画伯と悪の業が絡み合うのを呆然と見ているミキちゃんの手を引っ張って、玄関を出た。うわぁ~!

 バスの時刻表はスマホのカメラで撮ってある。今16:30。次のバスは・・・16:40?後十分!私はミキちゃんの手を引っ張って、田んぼの畦道を駆け出した。

 バス停についた。バスはのんびりと二車線の道路をこっちに向かってきた。間に合った!ドアが開く。ガラガラだった。というか、乗客は私とミキちゃんだけだった。一番うしろに二人ともゼエゼエ言いながら座った。

「あ~、直美姐さん、私はビックリしましたよ!」
「私も同じく」
「吉沢さん、私のお尻を左手で割って、肛門からあそこまでなで上げたんだよ!初めて会った女性にだよ!肛門がキュッと締まっちゃったよ。姐さん、ゲージュツ家とモデルさんってみんなああいう人なの?」
「いろいろいるのよ。美大の生徒とか教師でも、まともな人は6~7割はいるわ」
「たった6~7割?まともじゃないのが3~4割?」

「私は創作するゲージュツ家とは違う美術鑑定の芸術学科だったから、まともな部類に入るけど、絵画科・彫刻科・工芸科はぶっ飛んでいる人も多かったわ。さらに凄いのが音楽学部。作曲科・声楽科・器楽科・指揮科はケダモノ率が高い。ピアノ科なんてケダモノ率は非常に高い。ゲージュツ度が高まると、シンクロニシティを感じ合っちゃうんでしょうね。似たようなのが体育大学。これは肉弾あいうつ状態。卓球とかフィギュアスケートとか、ほぼ全員が兄弟姉妹の関係なんだって」

「いやぁ、そういう世界の人たちとこれから商売するんだね。私、画伯に犯されるかと思ったよ」
「ミキちゃん相手じゃあ、シンクロニシティが不足なんでしょうね。ラッキーよね」
「姐さんなんか、画伯、全然興味を抱いてもらえなかったね?」
「・・・なんか悔しい!」
「24歳とかの高校の美術教師の上野先生ってどういう人なんだろう?吉沢さんがあれだから、上野先生だと・・・」
「上野先生に会ってみたいとか言わないでね!」
「さすがに私も遠慮します」

 ミキちゃんが膝の上に抱えたアートバックをポンポン叩く。「なんとなくこの絵を好きになりそうだよ」
「画伯はああいう人だけど、腕は凄いね。ミキちゃんに最初の方の描いたものを見せたかった」
「最初の方の描いたものって?」
「具象画の展覧会で賞を取れそうなぐらい凄いの。写実的で、ミキちゃんが生き生きしている絵なのよ。それを一時間くらいで描きあげて、終わったかな?と思ったら、その上から今の絵を塗り重ねていったの。だからその絵の下地には、今見ているミキちゃんの姿が描かれている。その上にミキちゃんの内面を描き足していってできた絵なのよ」
「ふ~ん、手間がかかっている絵なんだね」

 夢魔の巣食う画伯のアトリエから逃れて、田んぼに囲まれた田舎道をのんびり走るバスに乗っていると、ああ、現実世界に帰ってきたんだな、としみじみ思った。

 福智町からバスで平成筑豊鉄道伊田線の金田駅まで行った。田川伊田駅で降りて、日田彦山線に乗り換えて小倉駅まで。1時間35分かかる。東京首都圏じゃないんだ。画伯の福智町と小倉なんて、首都圏なら1時間圏だろうが、九州は違う。京浜急行線の快速特急なんてものはないのだ。
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