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Ⅱ.セカンド・コンタクト

16.お疲れ様。

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俺が夕食を食べ終えて暇だな~と寛いでいると、タイミングよくドアがコンコンと小気味よくノックされた。
控えめノックならメイドさんとかかなと思ったかもしれないけど、その『開けて』って感じのノックですぐに誰が来たのかわかってしまう。

「ユウジ。俺」
「どうぞ」

案の定来たのはラフィだったのですぐさま部屋へと招き入れた。
第一王子のところに行ってきたからか服装は王子仕様に変わっているし、なんだかやけに疲れ切っているのが気懸りだった。
もしかして第一王子から仕事を押し付けられたのだろうか?

「もう嫌だ~…」

多分その通りだったのだろう。
ぐたっとソファで以前と同じように沈み込むラフィに俺は苦笑しながらお茶を淹れる。
そしてそれと共にドア付近で直立不動で立っているエレンドスへと目を向けた。
そこに立たれていると物凄くどうしていいかわからなくなるのだけど……。

「えっと…一緒にどう…かな?」

一応気遣ってみたんだが、それに対してラフィは気にするなと言い切った。

「ユウジ、気にしなくても大丈夫だ。もう下がらせるから」
「え?そう?」

まあそうしてくれる方が有難い。

「大体ここまでついてくる方が悪い」

どうやらラフィは一人でここに来たかった様子。
そこにエレンドスが勝手にくっついてきてしまったようだ。

「そんな?!これでも一応心配してるんですよ?!」
「そうかそうか。そんなに心配してくれるなら俺の部屋から今日ユウジが買ってくれたスカーフを持ってきてくれ。そうしてくれた方がずっと嬉しい」

エレンドスなりにラフィを心配してのことだったみたいだけど、なんだろう…かえって一緒に居たら疲れそうな相手であるのもわかってしまうだけに、俺からはなんともフォローのしようがなかった。
うん。ごめん。
だからぐったりしながら正直にそんなことを口にするラフィの気持ちもわかるんだ。
そんな空気を察したのか、エレンドスは「すぐに行ってきます!」と言って飛んでいった。
多分少しでも役に立つところを見せたかったんだと思う。
逆を言うと、どうやらそれほど機嫌取りをしないといけないほどの何かがあったようだ。
第一王子恐るべし。

「ラフィ。お疲れ」

そっとカップを差し出すとラフィはそれを受け取って大きく息を吐いた。

「はぁ~……。もう全部投げ捨てて旅に出たい」

やけに実感の籠ったセリフに俺は何も声を掛けてやれない。
一体この一、二時間の間に何があったんだろうか。

「仕事、大変なのか?」
「あ~…そうだな。うん。押し付けてこられるのがすっごく嫌」
「そっか……」

自分の仕事じゃないのが押し付けられる理不尽に押し潰されそうって感じ?
これまで考えたこともなかったけど、王子って結構大変なんだな。
物語の王子とは全然違って、好き放題できるわけじゃないんだ……。
しみじみそんなことを考えながら、せめてエレンドスが帰ってくるまでと思いながらラフィの肩を揉んでやることにした。
最初は遠慮してたみたいだけど、やる気満々の俺を見てラフィは困った顔をしながらも了承してくれる。

「うっ…ユウジ、上手いな」
「まあ、母さんの肩とかしょっちゅう揉んでるしな」

こんなものお茶の子さいさいだ。

「これくらいしかできないけど、言ってくれたらいつでも肩揉んでやるし」
「……助かる」

そうこうしているうちにエレンドスが戻ってきてスカーフをラフィへと差し出した。

「王子、どうぞ!」

途端に賑やかになる室内────。
少しだけラフィが不満げな顔をしたのが目に入ったが、それを頼んだのはラフィなので特に文句は言わなかった。
そしてそれを受け取りそっと首に巻いたラフィは、すぐに穏やかな表情へと変わる。

「あ~…やっぱ癒される~……」

うん。あの羽が生えたような癒しパワーは本気で気持ちいいよな。
そのしみじみした言葉はなんだかお風呂に浸かった時の言葉と似たような響きがあった。

「そんなに喜んでもらえたら贈った甲斐があるよ」

俺としてもこうして活用してもらえるのはとっても嬉しい。

「もうずっとこうしてユウジの部屋で仕事しないでゴロゴロしてたい」

ええっ?!
それって炬燵に入った日本人的発言だぞ?!
……どんだけ疲れてたんだろう?
肩揉みなんて焼け石に水だったかな?

「ま、まあまあ。そんなこと言わず、俺も五日間は手伝えるしさ。めげずに一緒に頑張ろう?」
「…………」

そう言いながら慌てて俺も向かい側に座り直す。
なんとなくこのままじゃダメなような気がしたからだ。
王子の仕事はよくわからないけど、やっぱり立場的にやらなきゃいけない仕事って沢山あるんだなって以前も垣間見たし、それを放棄して一時的に楽ができたとしても、後でそれがドカンと自分に返ってくるのは間違いないだろう。
ほら、あれだ!
食器洗いみたいなもんだ。
ちょっとだけ溜まってる時にササッと終わらせておいたら楽だけど、沢山ため込んだらうんざりするほど片づけが大変になる…的な?
やっぱり何事も少ない手間で気持ちにゆとりを持って片付けるのが一番だと思う。

「ため込まずに手分けしてちょっとずつ片付けた方が結果的に楽だって。大体ラフィが全部抱えることはないんじゃないか?ほら、色んな人に協力してもらってさ、ちょっとずつ仕事の改善をしていったらどうかな?俺じゃああんまり役に立たないと思うし、何もわかってないから頓珍漢なことを言ってるかもしれないけど、ラフィが頑張りすぎて疲れてるのだけはわかるから、出来そうなことはなんでも手伝いたい」

一人で抱え込まずにみんなで頑張ろうと精一杯のエールを送ってみたけどどうだろうか?
俺、こういう励ますのってすっごく下手なんだよな…。上手く言えない自分が悲しい。
そんな俺の言葉にラフィが苦しげな声を上げた。

「うぅ~…ヤバい……。もう俺、限界……」
「え?」

ラフィがソファに突っ伏してそんなことを言い出したからやっぱりダメだったかとガックリしてしまう。

(もっと上手くラフィの気持ちを浮上させられる言葉が言えたらいいのに……)

そんな風に俺が落ち込んでいると、暫くしてソファに座り直したラフィにちょいちょいと手招きされて、横に座るように促された。

「ユウジ。悪いけどちょっと肩貸して」

そう言って素直に隣に座った俺の肩にそのままコテッと頭を預けてくる。
相変わらずなんともフレンドリーな王子様だ。
多分無力感に打ちひしがれている俺を気遣ってくれたんだろう。
一生懸命俺の言った言葉を噛み砕こうとしてくれてるのか、鉄の意志が大事だとか呟いていた。
そんなラフィに何もしてやれない自分がなんとももどかしい。

「ラフィ。何も気の利いたこと言ってやれなくてゴメンな?」
「…………いや。もう十分励ましてもらったからいい」
「そうか?」
「ああ」

疲れているのにフォローの言葉まで言ってくれるラフィは本当に優しい。
やっぱり明日からの四日はラフィのお手伝いに徹しようかな。
この間みたいな感じなら手伝えなくはないし。
折角またこの世界に来たんだから、今回はお疲れなラフィの役に立ってから帰ろう。
街歩きは今日一日十分堪能させてもらったことだし、それも悪くはないように思えた。

そんな俺達にエレンドスが物凄く声を掛け辛そうに口を開く。

「僕がいる前でイチャイチャしないでいただけません?」
「……?」

一体どこら辺がイチャイチャしてると言うんだろう?
単なる友人同士のやり取りしかしてないのに、ちょっと色眼鏡で見過ぎじゃないか?
これにはラフィもちょっぴりお怒りだ。

「見たくないならさっさと出てけ!俺の癒しを奪う気か?」

うんうん。リラックスタイムは邪魔されたくないよな。
そうしてエレンドスを追い出した後、ラフィが気分転換とばかりに話を振ってきた。

「ユウジ…。そう言えば、ユウジの理想の相手ってどんなの?」
「え?」
「ほら、俺の理想は言っただろう?」
「ああ…そう言えば……」

確か癒し系で一途な家庭的なタイプがいいって言って召喚してもらったんだっけ?
それから連想されるタイプは、いかにも癒し系という感じのふわふわ綿菓子のような、笑顔が似合う優しい雰囲気を持った可愛らしい女の子。
そんな相手を求めるなんて本当に疲れてたんだな~……てしみじみ思う。
本当に、間違って俺なんかが召喚されてゴメンって感じ。

それは兎も角、俺の理想か……。
う~ん…そう言えば考えたことがなかったな。
どんな相手がいいだろう?
そう思った時にふと、ラフィの顔が頭に浮かんだ。
そしてそんな自分に思わず笑ってしまう。

「そうだな…俺も似たようなものかも。一緒に居て疲れない相手がいいな」

どうせならラフィのような変に気を遣わない相手がいい。
一緒に居て自然に笑顔になれる相手。
うん。そういうのが理想かな。

だから正直につらつらとそんな話をした。
そしたらラフィの声はどこか弾んで、そうかって言って嬉しそうに笑ってた。
同じような相手が理想って言うのが共感されたのかもしれない。
やっぱり好みが似てる友達っていいよな。

こうして、ラフィに早く良い相手が見つかるといいななんて思いながら、俺はひと時の楽しい時間を過ごした。





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