王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第一章 俺がディオを堕とすまで

13.託した決断

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ミラルカ皇国でレオナルド皇王自らの采配で婚活パーティーが開催された。
近隣の年の近しい王侯貴族が呼ばれた夜会はとても賑やかで、気後れしてしまいそうになる。

ミラルカ皇国のブラン皇子、ローズマリー皇女。
ミラルカの隣国、レトロン国からシリウス王子。
アンシャンテ国からシャロン王子とジャスティン王子、ヴィオレッタ王女。
ロロイア国からルイージ王子。
フォルティエンヌ国からカミーユ王子とジーナ王女。
ガヴァム王国からディオとディア王女。
後はブルーグレイ国からルカ。
そしてゴッドハルト国から俺とセレナ。

主だった王族はこれくらいで、後は我こそはと言う厳選された各国の高位貴族が混じっている感じだ。
だからそこに以前会ったディオの花嫁候補の一人であるシェリル嬢がいても何らおかしくはない。

できればずっとディオの横でガードしておきたい。
誰も近寄らせないようにして、何だったら問答無用でゴッドハルトへ攫って行ってしまいたかった。
でもそれがダメな事だと言うことくらいはちゃんとわかっているから、今日はディオとちゃんと話して、勝負に出ようと思う。

いつものように振られる可能性は高い。
それでもこのまま何もしないで終わりたくはなかったし、ディア王女の提案は最終手段にしたかった。

あのガヴァムへ俺が行った日から後もディオとはツンナガールで毎晩話していたけど、ディオの態度は何も変わらなかった。
きっとそれだけディオの気持ちは固まっているんだろう。

その気持ちを変えさせるためにも、まずは俺の気持ちがちゃんと伝わるように言葉を尽くそうと思う。
ディオの心をそれで揺さぶれたら、万が一にでもこの手を取ってもらえるかもしれない。
今の俺にはもうそれに賭けるしかなかった。

「ディオ」

ディオから社交をして来いとか言い出されてもちゃんともう終わったと言えるよう、先に一通りの社交をこなしてから声を掛ける。

「疲れたから一休みしに行こうと思うんだ。一緒に行かないか?」
「いいよ。俺も疲れてきたところだから」

あっさり付き合ってくれるディオ。
そうして二人で落ち着いて話せる休憩室へと移動することに。

「はぁ…流石に疲れたな」

ディオがタイを緩めてしどけなくソファーへと身を預ける。
慣れ親しんだ俺と二人きりだからこそこんな姿も見せてくれる。
それがわかるから嬉しくて、でも現状俺を選んでもらえていないのが辛かった。

「ルーセウス。心惹かれる令嬢はいた?」

心惹かれる相手はお前だけ。
でもここでそれを言っても応えてはくれないんだろう?

「心惹かれる相手なら…いたよ」

仕方なくそう口にする。
なのにそう口にした途端、ディオは一瞬苦しそうな表情になった。

「そう…か。いたんだ。良かった」

言葉では良かったと言うくせに、そんなに傷ついた表情をするなんて、俺が好きだと言っているのも同然だろう?
どうしてこれで自分の気持ちに気付かないんだ?
無自覚にも程がある。

ディオに気持ちを自覚させたい。
その一心でディオの前へと膝をつき、そっとその手を取って真っ直ぐに目を合わせた。

「ディオ=ハイルング=ヴァドラシア。俺が剣と心を捧げたいと思うのは、過去にも未来にもただ一人、お前だけだ。嘘偽りのない俺の真剣な愛を、どうか受け取ってはもらえないか?」

軽い気持ちで言ってるんじゃない。
本気なのだと伝わるように言ったつもりだ。

そんな俺の言葉は確かにディオの胸に響いたようで、ポタリとその綺麗なヘーゼルの瞳から、熱い雫が滑り落ちた。

「ルーセウスは馬鹿だ」
「ディオが手に入れられるならいくらでもバカになる」
「俺だと子供を産んでやれない」
「別に構わない」
「ガヴァムを放って置けないから、一緒に住むことさえできない」
「それでもディオの心が手に入るなら嬉しい」
「…俺はルーセウスのことは好きだけど、それは恋心じゃないんだ。だから応えてあげられない」

もしかしたらと希望を抱いた。
なのに最後の一言でそんな希望も潰えてしまう。

「ルーセウス。ゴメン。俺なんか忘れて、幸せになってほしい」

聞きたくない。
そんな言葉は聞きたくないんだ。

「半年後、俺は誰かと結婚して王位を継ぐ。だから…俺への想いは全部捨てて、ルーセウスに相応しい相手と結婚してほしい」

泣くくらい気持ちは俺にあるくせに、あっさり手放そうとするディオを前に色んな感情が入り乱れて仕方がなかった。
ここまできっぱり言われたら、もうどうしようもない。
本当は嫌だったけど、もう…いい。
ディア王女の提案を受け入れよう。

「…………わかった」

その言葉をディオが辛そうに受け止める。
でもきっと俺がその言葉を言えばもっと傷つくはずだ。
それをわかっていて敢えて俺はそれを口にする。

「ディア王女が俺と結婚したいそうだ。ディオが頷いてくれなかったから、俺はディア王女と結婚しようと思う。それでもいいか?」

ディオの表情が、一気に凍りつく。
次いでその表情に浮かんだのは驚愕と混乱。

「え……?ディア?ど…して?」
「ディア王女は数々の縁談話にうんざりしていたらしい。だからそう言うのとは無縁な俺と穏やかに結婚したいと言っていた」

本当はちょっと違う。
数々の縁談話にうんざりしていたのは本当。
そのせいで本気の恋すらできなかったと言っていた。
だから俺と結婚することで一旦そういうのを全部終わらせて、改めて恋の相手探しをしたいそうだ。
ここまではまだいい。
ただ、大満足の初夜だけは確約してくれと言われた。

『初めての相手はテクニシャンにすべきだってアンヌお母様が昔から何度も私に言い聞かせてきたから、そこは決めていたんです。下手くそしか知らずに一生を終えたら最悪よって煩いほど聞かされたらそう思ってしまうのも無理はありませんわ。ディオを満足させられているならルーセウス王子はお上手でしょう?これほど確実な相手もいませんもの。是非ご検討いただきたいですわ。勿論必要に応じてその際に子供も作ってくださって構いませんわよ?その場合は暫く妃として留まっても別に構いません。産んで子育てがひと段落してからその後どうするかを話し合うのもアリだと思います』

ディオ以外を妃に迎えるなんて嫌だった。
でも続く言葉に心が揺れた。

『他の女性を妃に迎えたらきっとディオとの関係は完全に終わってしまいますわ。私なら二人の仲を応援してあげられますし、何なら…ディオの結婚相手もそれとなく誘導できますわよ?』

ディア王女曰く、ディオの花嫁候補は聞いていた通り三人。
そのうちのシェリル嬢とミラルカのローズマリー皇女の場合、俺との仲は完全に破綻してしまうだろうと言われた。

『ローズマリー皇女はディオを慕っていますから、結婚後は思い思われ生きていきたいと願うでしょうし、シェリル嬢は嫉妬深いから浮気なんて絶対に阻止しにくるはずです。今でさえ国内の令嬢を全て牽制しているくらいですもの。簡単に読めますわ。どちらに転んでも関係を続けるのは困難でしょうね』

シェリル嬢はディオも嫌っているからないとして…。
思い思われ────誰が?ディオが?
ローズマリー皇女と寄り添いあって幸せに?

ディオの幸せを望むならそれが一番いいのだろうが、想像するだけで嫉妬で頭がおかしくなりそうだった。

『その点アンシャンテのヴィオレッタ王女はお勧めですわ。彼女はディオをそういう目では見ていませんもの。お互い大変ねという感じですから、完全なる政略結婚が成り立ちます。大らかな方ですし、私の口添えがあればルーセウス王子とディオの関係だってきっと目を瞑ってくれると思いますわ』

ヴィオレッタ王女は確かにそんな感じの王女ではあった。
彼女ならきっと結婚後も友人のようにディオと接するだろう。

『それにガヴァムの法も改正されて、他国から王族を迎え入れる場合は婚儀もガヴァム式じゃなくてもいいことになっています。多分ディオにとってもその方が気が楽なんじゃないかしら』

それは…確かにありがたい。
自分が経験したからこそわかる。
他の女をディオが神の前で抱くなんて、とても耐えられそうになかった。
それが回避できるなら…そんな自分勝手な思考に満たされる。

「ディア王女は俺がディオを想っていても構わないと言ってくれた。大満足の閨さえ与えてくれるなら喜んで嫁ぐと」
「ね…や…」
「そうだ」
「でもそれだとルーセウスもディアも幸せになれないじゃないかっ」

絶望的な表情で必死にそう言ってくるディオ。
ディオにとっては俺も妹もどっちも大切で、幸せになってもらいたい二人なんだろう。
だからこそこんな話は嫌がるとわかっていた。
でも────。

「ディア王女は納得しているし、俺はディオを諦めたくない。他ならぬディオがディオ以外の相手と結婚しろと言うなら、僅かでも望みが叶うであろう相手を俺が選ぶのは当然じゃないか?」
「ルーセウス…!」

酷いことを言っている自覚はある。
まだここで俺に縋りついてきて『やめてくれ』と言ってくれるなら撤回は可能だ。
それくらいディオだってわかっているはず。

「一週間待つ。その間連絡は取らない。ディオが判断してディア王女に伝えてくれ」

俺はそこまで言い切るとディオに背を向け部屋を出た。



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