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第一章 俺がディオを堕とすまで

12.充実した日々からの…

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ディオの心が俺に向き、ほぼ毎日ツンナガールでの通話も続けられ、二、三日に一回は通話越しに自慰をし合い、月に二、三回は予定を合わせて会える日々。

先日は念願の手合わせもできた。
暗器の方が得意と言っていたけど、筋はよく剣の腕はかなり卓越していて驚いたくらいだ。
しかも愚直に剣技一本という感じではなく、油断すると蹴りが飛んでくるし、場合によっては剣を捨てて体術に切り替えるとも言っていたからやっぱりちょっと暗部寄り。
それ故に実戦では相当強いんだろうなと肌で感じた。
意外な一面に惚れ直したと言っていいだろう。




「はぁ…幸せ過ぎて困る」

ディオとの日々が幸せ過ぎる。
有体に言えば頬は緩みっぱなし。
でもだからと言って他が疎かになるかというと、そういうわけでもない。
やる気満々で剣の鍛錬にも身が入り、腕も上がって絶好調だ。

「ルーセウス。なんだか絶好調だな。まさか連続で負けるとは思わなかった」

ルカが悔しそうに言ってきた。

「それはもう心身共に今は人生で一番充実してるからな」

ディオのお陰で国政の勉強も捗っているし、様々な問題対策の切っ掛けに気づけたり、手が回っていない国の事業へのアドバイスももらえるし、良いことずくめな事ばかり。

最近こっそり自分の中で『俺の嫁最高!』とか呟いてしまっているくらいだ。
父以外俺達の仲は知らないから誰にも惚気られないけど、本当にディオが嫁に来てくれたら良いのにと思えて仕方がなかった。

「あー…ロキ陛下、90歳くらいまでずっとガヴァムを統治してくれないかな…」
「ブホッ…!」

(そうしたらディオをこっちに呼び寄せて嫁にできるかも…)なんて願望からつい呟いてしまったのだけど、隣で水を飲みながら聞いていたルカが思い切り吹き出して咳き込み始めた。

「ゲホッ!ゴホッ!」
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃない!お前がいきなり変なことを言い出すからだろ?!」

そんなにおかしかっただろうか?
ロキ陛下は今40才前後とまだまだ若かったはず。
後50年くらい頑張ってくれそうじゃないか?

素で首を傾げたら、思い切りツッコまれる。

「あの人がそんなに長く王位に居座るわけないだろ?やめたい、やめていいですよね、もう嫌です、が口癖の人だぞ?」
「よく知ってるな」
「うちの父と親しいから、何度か会ってるんだよ」
「なるほど」

でもそうか。
ダメか。
俺達の仲を応援してくれていそうだったし、二人でお願いしたら案外いけるかもと思ったんだけどな?

その場合、ゴッドハルトはセレナの子供に継いでもらったらいいしと思ったんだけど…。

「大体どうしてそんな話が飛び出したんだ?」

訝しげに聞かれるけど、ディオを手に入れるまで軽々しく二人の仲を触れ回ることもできない。
ここは誤魔化そう。

「最近ガヴァムでロキ陛下に初めて会って、良い人だなって思ったから、もう少し親しくなって今後の統治の参考にしていけたらなとふと思って」
「…あそこは参考にするのはやめろ。お前とタイプが違い過ぎる。参考にするだけムダだ」

きっぱり言い切られた。

「ロキ陛下は一見無害に見えるし愛妻家だけど、あっちこっちで人を誑かして篭絡してるのは有名な話だ。目が合うだけでドMに堕とされる奴もいるとかいないとか、裏社会を牛耳ってて、お願い一つで国が窮地に立たされるとか怖い噂もいっぱいある」
「へぇ…」
「そのくせ政治には殆ど興味がない。民からの圧倒的人気は高いが、実質国を動かしているのはカリン陛下や大臣達だ」

なるほど。
だからディオはこの間のパーティーで大臣達と引き合わせてくれたのか。
あれはすごく勉強になったし、非常に有意義な時間だった。

ディオの心遣いが素直に嬉しい。

「だから、参考にするならカリン陛下の方だけど、下手に近づくとロキ陛下を敵に回しかねないから、迂闊に接触しない方がいいのは確かだ。俺が知ってる某国の使者は、次に会った時には心がポッキリ折られて別人になってた。どうしても話してみたいならロキ陛下に紹介してもらいつつ、上手く三人で話すとかしないと難しいぞ?そこまでしても得られるものがあるかどうか…。近づかないのが一番だ。と言うより、それならうちの方が参考になるんじゃないか?」

何故ガヴァムなんだと首を傾げられる。

「ブルーグレイは大国過ぎて恐れ多いし、セドリック王子は親切に教えてくれるタイプじゃないじゃないか」

どう考えても無理だ。

「それを言ったらロキ陛下も無理だろ」
「フレンドリーだったからいけると思ったんだけどな…」
「お前…豪胆だな」

ルカはそう言って頬をヒクつかせるけど、素直にそう思ったんだし、別に構わないだろう?

「兎に角、王太子のディオ王子ももう成人したし、多分今度ミラルカで開かれる婚活パーティーが終われば、結婚して即代替わりだろう」
「え……?」
「ロキ陛下はさっさと退位したがってるって言っただろう?代替わりは目前だ」

その言葉に衝撃を受けた。
確かにディオは何度も『無理だ』『付き合えない』と言っていたし、何だったらディオの花嫁候補達にも引き会わされた。
でも俺の中ではディオの結婚や王になるなんて話は、もっと後数年先の話として捉えていたんだ。
それなのに────。

「うちもお祖父様が亡くなれば俺が継ぐ予定だから、他人事じゃないんだよな。本当にうちの父親は仕事はできるくせに自分勝手なんだから…!アルフレッドもあんな奴のどこがいいのかさっぱりわからない」

ルカが何か言ってるけど、俺の頭に全然入ってこなかった。

(そんな…ディオが結婚して王になったら、もうこんな幸せな毎日が送れなくなる)

どうしよう?どうしたらいいんだ?!

他の誰でもなく、ディオを俺だけのものにしたかった。
そう思ったらワイバーンに飛び乗って、ガヴァムに向かっていた。
なりふり構ってなんていられない。
無我夢中だった。

なのにやっとの思いで辿り着いたガヴァムにディオはいなくて、出迎えてくれたのはディオの双子の妹だと言う王女だった。

「ルーセウス王子。初めまして。ディオの妹、ディア=リーベ=ヴァドラシアですわ。どうぞ宜しく」

双子だけど顔はあまりディオに似ていない。
雰囲気も、ディオはぱっと見は癒し系且つストイックな印象だけど、ディア王女はベッドの中のディオに似ていて、色香が滲みつつ策略家っぽい印象…だろうか?
親しみやすさはあまりない。
何だったら『つまらない事を口にしたら踏むわよ?』と言うセリフが似合いそうだ。
偏見が酷い?
でも直感でそう思ったんだから許してほしいと思う。

「今日はディオがいなくて申し訳ありません。ちょっと新人研修に付き合ってフォルティエンヌの方まで行ってしまっていて…」

それは残念。
フォルティエンヌは遠いし、きっとすぐには帰ってこられないだろう。
ワイバーンを夢中で飛ばしてきたから昨夜は話せなかったし、後悔しきりだ。

「ディオとの関係はロキお父様から伺っていますわ」

そう言って応接間へと通して茶を振る舞ってくれるディア王女。

「ディオは私と違ってちょっと柔軟さが足りなくて…。サクッとルーセウス王子の胸に飛び込めば話は早いのに、国のためにと考え過ぎて身動きが取れなくなっているんです。本当に変なところで生真面目で、そういう融通がきかないところはカリンお父様そっくり」

溜め息混じりにディア王女は言ってくる。

「あの分だときっとルーセウス王子が結婚して子供でも作らない限り、恋人になってくれと何度言っても頷かないんじゃないでしょうか?」

確かにそれは無きにしも非ずな気がする。

「ルーセウス王子も今度ミラルカで周辺各国の年の近い王族を集めたパーティーが開かれるのをご存知ですわよね?」

それはルカが言っていたパーティーだろう。
まだ目を通していなかったが、招待状が来ていたのは知っている。

「恐らくそれが終われば、ディオは適当に選んだ相手と結婚すると思いますわ」

サクッと紡がれたルカの話を裏付けるような言葉に俺は身を震わせた。

「それは…もう確定事項、なのか?」
「ええ。そうですわ」

急激に現実感に襲われる。

「もっと…ディオが好きになった相手と結婚できるよう、時期を引き伸ばしたりは…」
「無理ですわ」

けんもほろろに言い切られて取り付く島もない。

「元々在位10周年の際にロキお父様は退位する予定だったんです。アンヌお母様を中継ぎの王に据えて、ディオが成人したら正式に王となる。それがロキお父様の望みでした。それを皆で阻止し、ロキお父様を引き留めて無理矢理王の座に据え続けてしまったので、ロキお父様はさっさと退位したがっているのですわ。そして今度こそそれは揺るがず実行されるでしょう。これ以上はもう引き伸ばせません」

極当たり前のように淡々と述べられるガヴァムの事情。

「まあそう言う事ですので、ディオとは一度きちんと今後について話すべきだとお伝えしておきますわ」

話を聞き頭を抱えて項垂れてしまう。
突きつけられた現実が受け入れ難くて、泣いてしまいそうだ。
胸を掻きむしりたくなる。
そんな俺にディア王女が尋ねてくる。

「ルーセウス王子。ディオを愛していらっしゃる?」
「聞かれるまでもない。誰よりも愛してる」
「では、幸せを願って手放せます?」
「無理だ。絶対にできそうにない」
「その心に嘘偽りはございませんか?」
「ああ。勿論」
「それなら────」

そうしてディア王女は一つの提案を俺にしてきた。
それは俄かには受け入れ難い話だったが、彼女は軽く笑いながら『多分私の提案を受けざるを得ない状況になるはずですわ。だって相手はあのディオですもの』なんて言ってきた。

「ではルーセウス王子。お気持ちが固まりましたらご一報を」

ここまできたらきっとなるようにしかならない。

俺は客室で一泊させてもらい、翌日、笑顔で見送るディア王女に挨拶をしてガヴァムを後にしたのだった。


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