【完結】予想外の異世界で俺は第二の人生を生きることになった

オレンジペコ

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25.新たな視点は誰にとっても大事なこと

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「もう…逃げませんわ」 

そんな言葉を口にしたハイジはその言葉通りもう逃げようとはしなかった。
着替えにかこつけてまた隙を見て逃げだすかと思ったが、そんな心配もなくあっさりと観念する。
「アーデルハイト様、カテオロスから持ち出した金品はご返却いただけますね?」
「……ええ」
「一緒にいたリヒテンはどうされました?」
「あの男は盗賊に襲われた時にさっさと逃げていきましたわ」
「盗賊?」
その言葉を聞いて俺は一応補足する。
「朝方こっちの勇者と一緒にジョギングをしてたら倒れた盗賊達が一緒にいたので、嘘ではないです」
その言葉にヒロも軽く頷き肯定したので、ウィンベルも納得がいったようだ。
「ではアーデルハイト様にはこのままカテオロスまでご同行願って、婚約破棄手続等を行っていただきたく思います」
どうやらハイジと宰相は今回の事で正式に婚約破棄となることが決定しているらしい。
けれどその後の措置は不明とのことだった。
「……その後は?」
「その後は一先ずカテオロスの牢にでも入って頂き、ヴェルガー様からのご命令待ちという形になると思います」
懲罰を与えるのかそれとも実家へと送り返すのか、ヴェルガーの心持一つだとウィンベルは口にする。
それはまあ確かにそうだろうが、仕方がないとはいえ何となく女性を長く牢に入れるのも可哀想だなと思った。
「それならこのままハイジは俺達が預かりましょうか?調査が終われば王宮に戻りますから直接彼女の口から宰相に謝罪させることだってできますし、その後の処遇もその場で伺えますし一石二鳥だと思うんですが」
けれどそれに対してウィンベルは渋い顔をした。
「いえ。調査中に逃げないとも限りませんし、勇者様方の迷惑になりますのでここは我々が預かります」
「そう…ですか」
言いたいことは良くわかる。
けれど何となくハイジの言い分も気になって、少しだけ水を向けてみることにした。

「ちなみにハイジはどうしてこんなことを?」
情状酌量の余地があればこちらに同行できるかもしれないけどと話を振ると、彼女は渋々というようにこれまでのことを素直に話してくれる。
猫をかぶってでも良いところに嫁ぎ、幸せになりたかったこと。
けれどそれは思った以上にストレスがたまったこと。
本当は可愛いドレスだって着たかったし鍛錬だって毎日やりたかったことなど、彼女らしいと言えば彼女らしい理由が次々とその小さな口から紡がれていく。

「贅沢な暮らしには憧れたけれど、私は私らしく生きるのが一番幸せなのかもしれないと…物凄く実感してしまったのですわ」

だからカテオロスを飛び出して国境に向かった時点で、冒険者になるのもいいかもしれないと真っ先に思いついたのだという。
それに対して何も嫌な思いは抱かなかったし、寧ろ戦い自体楽しそうだとも思ったのだという。
「誰かを蹴り飛ばす時の爽快感も剣を交える高揚感も、私は何よりも大好きなのだと…そう思いました」
なるほどなるほど。
それならやはり早めに宰相に彼女の処遇を決めてもらって、彼女には適した仕事にでもついてもらった方がいいのではないかと思った。
彼女の強さはヒロも自分もよくわかっているし、このまま腐らせるのももったいないと思ってしまう。

「それならやっぱり一緒に王宮まで行ってほしいな。そうだ!試しに王宮まで俺の護衛でもしてみないか?ヒ、勇者が手を出せない事態に陥った時ハイジが俺を守ってくれるなら心強いし」
俺は剣も攻撃魔法も使えないからどうだろうと提案してみると、ハイジは呆れたようにこちらを見てきた。
「女性に守ってもらおうなんて情けない男ですわね」
「ああ。でも悪くはない提案だろう?」

比較的安全な旅とは言え、今日のヒロ達の姿を見て思ったのだ。
実は対人戦では役立たずになるのではないかと。
その点、ハイジはそのあたりは容赦がない。

「魔物達は勇者たち、盗賊なんかの対人戦はハイジとか…そうやって分担してみたらいいと思わないか?」
そうやってニコリと笑うと、ハイジは少し考えた末にウィンベルの方を見遣って言った。
「監視として貴方方も同行してくださいません?私はこの仕事を受けてみたいと思います」
ただの令嬢として一緒に同行するというのならウィンベルも良しとはしなかっただろう。
けれどあくまでも護衛という形で王宮まで同行し、結果的に宰相に直接謝らせることができるのならありかもしれないと思わせることができればこの提案は受け入れられる可能性が高いと思った。
「宰相もハイジに直接言いたいこともあるかもしれません。忙しい中手紙のやり取りをして無為に心を痛めさせても仕方がないでしょう?この方が早いし、効率的です」
そしてもう一押しとばかりにそう補足を入れると、納得はいかなさそうだったがウィンベルも一応折れてくれた。
「…………きちんとヴェルガー様に謝罪させていただけますか?」
「もちろんです。そこは俺が責任もって宰相のところへ連れていきますので」
その言葉にウィンベルはコクリと頷き『では許可いたします』と言って部下へその旨を皆に伝えるようにと指示を出した。
「あ、そうだ」
そしてこれで決まったなと扉や窓の結界を解除しようとしたところで、とある魔法をハイジへと掛けた。
「俺とハイジの間にだけ伸びる結界張っておいたから」
「え?」
「これで半径50m以上は離れられないから、逃げようとしても無駄だよ?」
そしてニッコリ笑ってやると、蒼白になりながら『やっぱり怖いですわ』とブツブツ言われてしまった。
────何故だ。


***


その頃王宮には各地から人が集まってきていた。
とは言え到着したのはまだ比較的近い領地からの者達ばかりだ。
これから徐々に増えていくことだろう。

「よく来てくれた」

そうして諸手を上げて歓迎すると、皆揃って頭を下げてくれる。
「宰相閣下に於かれましては突然の厄災にもかかわらず対処に当たっていただき、一同心より感謝申し上げます」
代表者がそう感謝の言葉を口にするが、ヴェルガーは挨拶よりも仕事を優先させてほしいと口にした。
「私と周辺の者でなんとか仕事を回してはいるが、やはり人手不足でな。優秀と評されるお前達の手を是非とも貸してもらいたい」
「私どもでお役に立てるかはわかりませんが誠心誠意努力させていただく所存です」
そして顔を上げると皆すぐさま執務へと取り掛かってくれる。

「移動で疲れているだろうし、今日は現状把握に徹してくれて構わない。皆無理のないよう従事してくれ」
「お気遣いありがとうございます。ではまずは……」

そうしてきびきびと動き始めた者達が次々と書類を手に取り現状把握のために質問をしていく。
パラパラと素早く捲られ次々と目を通されていく進捗計画書や陳情書。
それらを横目に自分の仕事である予算書を手元のそろばんでパチパチと計算していく。
マナに教えて貰ったそろばんの扱いも随分手慣れたものだ。
今では計算をするのに手放せない必須アイテムと化していた。
そしてそれを使って素早く計算をしていく自分に、その者達が興味を示す。
「宰相。失礼ですがそれは?」
「ああ。これはそろばんと言って、こうして素早く計算するのに使う便利な道具だ」
「なんと…便利そうですね。けれどその他には置いていなさそうですが…」
「ああ。実はこれを計算に使うようになったのはつい最近でな。昔の勇者の遺物らしく、ずっとここにマッサージ器として置かれていたものなのだ。今回異世界から呼んだ賢者が本来の使い方を教えてくれてな、こうして計算するのが随分楽になった」
その言葉と共にマナの姿を思い出し柔らかく笑う自分に、彼らはなるほどと深く頷きを落として『ではそれをもっと作らせましょう』と口にした。
「木材が豊富なのはエリバン公爵領ですが、それよりも王都に近い領というとサイギス伯爵領でしょうか」
「加工においてはトレッド子爵領が適しているかと」
「サイギスもトレッドも昨年の不作で収益が下がっておりましたし、これを上手く普及させることで新たな収入源へと繋げていけるやもしれません」
そうやって口々に彼らは有用な意見を出してくれる。
「…なるほど」
これまで自領であるカテオロスの事しか考えていなかったが、ここは王宮だ。
言われてみれば国全体として如何に効率よく収益を上げていくのかが肝心だと思い至った。
これまでのように目の前の王宮仕事にばかり捉われず、各領地の現状に適した新しい収益事業も考えていくべきなのかもしれない。
「ではそのあたりについて計画書をすぐに作成してくれ。早急に手を出して問題のないことであればすぐに動いてくれても構わない」
「承知いたしました」

そこまで話したところでどこかへと姿を消していたジフリートが執務室へと戻ってくる。
「ああ、ジフリート。ちょうどよかった。今新しい事業について話をしていて…」
けれどそこまで話したところで目の前にドサッと書類の山が築かれる。
「ヴェルガー様。新規事業も大切ですが、やっていただかないと困るお仕事は山積みです。こちらを先に片付けて頂けないでしょうか?新事業については私の方で話を聞かせていただきますので」
「…そうか。いつもすまないな。ではイシュカ、その件に関してはジフリートと相談の上良いようにやってほしい」
「は。かしこまりました」
「よろしくお願いしますね?」
ニッコリと微笑んだジフリートに後を任せ、うんざりした気持ちで目の前の書類の山へと向き直る。
そして今日もまたこの書類地獄が始まるのかと大きく息を吐き、自分も視察と称してマナのように外に飛び出せたらいいのにと密かに思ったのだった。




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