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27.平和な帰路と不穏な寒気
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※前半主人公視点、後半宰相視点です。
ガラガラと馬車を走らせ王宮へと向かう。
調査は無事に終わり、後は無事に帰るだけ。
行きの馬車とは違い帰りの馬車の中にはハイジがいる。
元々ハイジが乗ってきていた馬車は中身と共にカテオロスの兵が先に領地まで届けてくれることになったのでこうなったのだが、ハイジは兎に角文句が多かった。
クッションがないから尻が痛いだの、身内でもない男性と肩を寄せ合って座るなんて無理だのと言われ最初は辟易してしまった。
けれど、魔道士二人が気を利かせて馬で行こうかと口にしたところでやっぱり大丈夫だと慌てて言い出した。
どうやら俺と二人きりの馬車は怖くて嫌だったらしい。
「…ハイジはそんなに俺が怖いのか?」
「怖いに決まってますわ!」
「でも、ハイジの方が強いのにおかしくないか?」
自分は攻撃魔法なんて一つも使えないし、素手で戦っても彼女には勝てる気がしない。
それなのにどうして過剰に怖がられるのだろうか?
「そんなもの、非常識の前では無意味ですわ!」
「非常識って…」
ツンとそっぽを向くハイジにはもう何を言っても無駄のようだ。
とは言えやっと王宮に帰れるのでホッとしたのは確かだ。
その途中、また魔物に三度ほど遭遇したがこちらの戦力は行きよりも更に上がっているので全く危なげなく先に進むことができた。
そんな理由もあり元々の宿泊予定だった村を通り過ぎ、その先の小さな町まで向かいそこで宿をとることになった。
これなら予定よりも早く王宮に着くことも可能だろう。
宰相が普通に仕事をしている時間に帰れるなら帰ったその足で挨拶に行くのも別におかしなことではないだろうと思われた。
この一週間無理をしていないか確認したかったし、ハイジのことも話さなければいけない。
まずは何から話そうかと思いながら、くるくる変わる宰相の表情を想像しながら俺は笑顔で馬車に揺られた。
***
どうもここ最近神経が過敏になっている気がする。
優秀な人材が集まってジフリートがその才を遺憾なく発揮し始めたのか仕事が以前よりもスムーズに運ぶようになった。
相変わらず仕事は多いが、以前ほど追い詰められた感じはしない。
とは言え自分の処理能力に対してもっと素早さを求められているのか、周囲の者達がどこかもの言いたげにしているのが気にはなっていた。
けれどジフリートは『ヴェルガー様はよくやってくれていますよ』と笑顔で言ってくれるし、気にし過ぎといえば気にし過ぎなのかもしれない。
そして相変わらずの残業をしている自分の傍らには、ジフリートが一人残って手伝ってくれている。
『賢者様がいなくても私がいつでも助けますので、どうか使ってください』と笑顔で申し出てくれたのだが、皆が帰っているのになんだか申し訳なくて、お前も帰っていいぞと一応言ってはみた。
けれどなんだかんだと押し切られ、親切にもこうして残ってくれているという次第だ。
それなのに────何故か先程から寒気が止まらない。
風邪でも引いたのだろうか?
ここはさっさと片付けて帰るべきだろうといつも以上に仕事に力が入る。
そうして暫く書類を片付けていく音が部屋に響いていたのだが、集中が切れたタイミングを見計らったかのようにそっと横から茶器を差し出された。
「ヴェルガー様。あまり根を詰めすぎずそろそろ一息入れてください。今日は甘い菓子を用意してみましたので」
見ると小皿に二枚のクッキーが乗せられている。
「甘いものは疲れている時に最適だと聞きます。最近お疲れのようなのでご用意させていただきました」
にこやかにそう告げてくるジフリートに礼を言ってそっとそれを口に運びサクッとかじると、ほろりと口の中でほどけて程よい甘みが口の中へと広がっていく。
「美味いな」
やはり部下として自分の一番近くにいるためわかるのだろうか?
やることが多すぎて疲れが溜まっているのは確かだったので素直に有難いと思った。
「はい。今城下で人気の菓子店のものなんです。是非ヴェルガー様にも食べていただきたくて、取り寄せてみました」
「そうか」
これなら今度マナが帰ってきた時にいつも助けてもらっている礼として渡してもいいかもしれないと思い、思わず笑顔になった。
そんな自分をジフリートが嬉しそうに見つめてくる。
「お気に召したようで良かったです」
そんな感じで落ち着かないながらも日々が過ぎ、やっと勇者一行が帰ってくるという日になった。
(予定では今夜…だったな)
報告は明日の朝になるだろうか?
いつものように残業をすればもしかしたらマナは顔を出しに来るかもしれない。
また無理をしてと呆れたように叱ってくるだろうか?
けれど叱られたとしても顔が見られるといいなと思い、フッと微笑を浮かべてしまう。
ここ暫く気を張り詰めていたような気がするし相変わらず時折寒気にも襲われるので、マナの顔を見て少し癒されたいなと思った。
この調査で何か有意義な情報は得ることができただろうか?
マナのことだ。きっとあれこれと真新しい発言をしてこちらを驚かせてくれるのだろうなと思うと、早く帰ってこないかとそわそわしてしまう。
そんな中、昼食後用を足したところでふらりと眩暈がする気がして思わず壁へと手をついた。
(なんだ…?)
頭がグラグラして意識が保てなくなっていく。
そしてあっという間に意識が暗転して、最後に感じたのは床に倒れ込む衝撃だった────。
ガラガラと馬車を走らせ王宮へと向かう。
調査は無事に終わり、後は無事に帰るだけ。
行きの馬車とは違い帰りの馬車の中にはハイジがいる。
元々ハイジが乗ってきていた馬車は中身と共にカテオロスの兵が先に領地まで届けてくれることになったのでこうなったのだが、ハイジは兎に角文句が多かった。
クッションがないから尻が痛いだの、身内でもない男性と肩を寄せ合って座るなんて無理だのと言われ最初は辟易してしまった。
けれど、魔道士二人が気を利かせて馬で行こうかと口にしたところでやっぱり大丈夫だと慌てて言い出した。
どうやら俺と二人きりの馬車は怖くて嫌だったらしい。
「…ハイジはそんなに俺が怖いのか?」
「怖いに決まってますわ!」
「でも、ハイジの方が強いのにおかしくないか?」
自分は攻撃魔法なんて一つも使えないし、素手で戦っても彼女には勝てる気がしない。
それなのにどうして過剰に怖がられるのだろうか?
「そんなもの、非常識の前では無意味ですわ!」
「非常識って…」
ツンとそっぽを向くハイジにはもう何を言っても無駄のようだ。
とは言えやっと王宮に帰れるのでホッとしたのは確かだ。
その途中、また魔物に三度ほど遭遇したがこちらの戦力は行きよりも更に上がっているので全く危なげなく先に進むことができた。
そんな理由もあり元々の宿泊予定だった村を通り過ぎ、その先の小さな町まで向かいそこで宿をとることになった。
これなら予定よりも早く王宮に着くことも可能だろう。
宰相が普通に仕事をしている時間に帰れるなら帰ったその足で挨拶に行くのも別におかしなことではないだろうと思われた。
この一週間無理をしていないか確認したかったし、ハイジのことも話さなければいけない。
まずは何から話そうかと思いながら、くるくる変わる宰相の表情を想像しながら俺は笑顔で馬車に揺られた。
***
どうもここ最近神経が過敏になっている気がする。
優秀な人材が集まってジフリートがその才を遺憾なく発揮し始めたのか仕事が以前よりもスムーズに運ぶようになった。
相変わらず仕事は多いが、以前ほど追い詰められた感じはしない。
とは言え自分の処理能力に対してもっと素早さを求められているのか、周囲の者達がどこかもの言いたげにしているのが気にはなっていた。
けれどジフリートは『ヴェルガー様はよくやってくれていますよ』と笑顔で言ってくれるし、気にし過ぎといえば気にし過ぎなのかもしれない。
そして相変わらずの残業をしている自分の傍らには、ジフリートが一人残って手伝ってくれている。
『賢者様がいなくても私がいつでも助けますので、どうか使ってください』と笑顔で申し出てくれたのだが、皆が帰っているのになんだか申し訳なくて、お前も帰っていいぞと一応言ってはみた。
けれどなんだかんだと押し切られ、親切にもこうして残ってくれているという次第だ。
それなのに────何故か先程から寒気が止まらない。
風邪でも引いたのだろうか?
ここはさっさと片付けて帰るべきだろうといつも以上に仕事に力が入る。
そうして暫く書類を片付けていく音が部屋に響いていたのだが、集中が切れたタイミングを見計らったかのようにそっと横から茶器を差し出された。
「ヴェルガー様。あまり根を詰めすぎずそろそろ一息入れてください。今日は甘い菓子を用意してみましたので」
見ると小皿に二枚のクッキーが乗せられている。
「甘いものは疲れている時に最適だと聞きます。最近お疲れのようなのでご用意させていただきました」
にこやかにそう告げてくるジフリートに礼を言ってそっとそれを口に運びサクッとかじると、ほろりと口の中でほどけて程よい甘みが口の中へと広がっていく。
「美味いな」
やはり部下として自分の一番近くにいるためわかるのだろうか?
やることが多すぎて疲れが溜まっているのは確かだったので素直に有難いと思った。
「はい。今城下で人気の菓子店のものなんです。是非ヴェルガー様にも食べていただきたくて、取り寄せてみました」
「そうか」
これなら今度マナが帰ってきた時にいつも助けてもらっている礼として渡してもいいかもしれないと思い、思わず笑顔になった。
そんな自分をジフリートが嬉しそうに見つめてくる。
「お気に召したようで良かったです」
そんな感じで落ち着かないながらも日々が過ぎ、やっと勇者一行が帰ってくるという日になった。
(予定では今夜…だったな)
報告は明日の朝になるだろうか?
いつものように残業をすればもしかしたらマナは顔を出しに来るかもしれない。
また無理をしてと呆れたように叱ってくるだろうか?
けれど叱られたとしても顔が見られるといいなと思い、フッと微笑を浮かべてしまう。
ここ暫く気を張り詰めていたような気がするし相変わらず時折寒気にも襲われるので、マナの顔を見て少し癒されたいなと思った。
この調査で何か有意義な情報は得ることができただろうか?
マナのことだ。きっとあれこれと真新しい発言をしてこちらを驚かせてくれるのだろうなと思うと、早く帰ってこないかとそわそわしてしまう。
そんな中、昼食後用を足したところでふらりと眩暈がする気がして思わず壁へと手をついた。
(なんだ…?)
頭がグラグラして意識が保てなくなっていく。
そしてあっという間に意識が暗転して、最後に感じたのは床に倒れ込む衝撃だった────。
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