【完結】予想外の異世界で俺は第二の人生を生きることになった

オレンジペコ

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40.賢者の夕餉―マリウス視点―

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長らく更新できず申し訳ありませんでしたorz
のんびり更新させて頂ければ幸いです。

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コツコツと足音を立てながら今日も食事が運ばれてくる。
そして目の前に立った男が笑いながらいつもとは趣の違う食事を差し出してきた。

「どうぞお喜びを。今日から有難いことに【賢者】様が貴方方の夕餉を用意してくださることになりました」

そんな言葉に思わず首を傾げてしまう。
賢者とは一体誰のことを言っているのだろうか?
そうして訝しげな顔で食事を受け取る自分にジフリートは嘲るような顔で口を開いた。
「貴方方はご存じない人物ですよ。賢者様はヴェルガー様が今一番目を掛けている方です。その彼に貴方方の話をしましたらわざわざ一流の料理人の手を煩わすものではないと叱られましてね。粗末な料理で十分だとこれからはこちらの食事をお持ちすることになったのですよ。私としては一応仮にも王侯貴族の方にこんな食事を出すのはと抗議はしたんですが…お力になれず申し訳ありません」
そうしてちっとも申し訳ないと思っていないような顔でクスリと笑い、どこか楽し気に背を向ける。
「毒を盛られないよう私の方でも注意しておきますので、その点だけはご安心を」
そしてハハハハと楽しげに笑いながら去っていってしまった。
後には一風変わった料理が乗せられたトレーがあるばかり。
嘲られ馬鹿にされて悔しい気持ちが込み上げてくるが、たとえ粗末であろうともジフリートが持ってくる食事だけが自分達の命を繋いでいるという事実だけは覆しようがない。
怒りにブルブルと震える自分の腕をそっとノーラが宥めるようにさすってくれたのだけが救いだった。
「マリウス様。どのような食べ物でもあるだけましと割り切って一先ずお食事を致しましょう?」
そんな声に励まされ気持ちを切り替えそっと二人でその食事をテーブルへと運びスプーンを握る。
目の前にあるのはシチューよりもねっとりとしたものの中に何故か米が混ざっているようなよくわからないものだ。
犬の餌と言われても信じてしまいそうな見た目に益々惨めな気持ちが込み上げてくる。
けれどそんな自分を励ますようにノーラが困ったように微笑み、お毒見致しますねと最初の一口をそっと口に運んだ。
「ノーラ!待っ…!」
慌てて止めようとしたが無情にもスプーンはその可憐な小さな口へと吸いこまれるように入ってしまい、それを味わった途端ノーラの目が大きく見開かれた。
(毒か?!)
賢者と言う者がどういった者なのかは知らないが、やはり我々を害そうとする者だったのかもしれないとすぐさま吐き出すようにノーラへと警告する。
「ノーラ!すぐに吐き出せ!」
けれどノーラは何故かそのままゆっくりと咀嚼し、ほぅっと息を吐き出した。
「ノ、ノーラ?」
そんなノーラの姿に固まっていると、ノーラは何故かキラキラとした目でこちらを見つめ、次いでその料理を絶賛し始めた。
「マリウス様!この料理はとても美味しいですわ!濃厚なチーズがこのふっくらとした米に絡んで、細かく刻まれた野菜や鶏肉と共に素晴らしい一体感を生み出しておりますの!」
これならいくらでも食べられそうだと言いながらノーラは至福の表情で二口三口と手を動かし食べ始めてしまった。
そんな姿に驚愕を覚えてしまうが、ノーラが『残したら自分が食べる』とまで言い出したので渋々一口食べてみることにする。
それでも初めて口にするものだ。
警戒心は怠らない。
極々少量を掬ってそっと味わってみる。
途端口に広がる濃厚なコクのあるチーズの風味。
確かにこれは犬の餌などとは言えないほどきちんとした食べ物だった。
毒が入っていないかも確認する意味で舌に残る苦みや痺れなどがないかも確認するがそういったものも大丈夫そうだ。
それにホッと安堵しゆっくりと残りも食べ進めていき、気づけば二人揃って完食していたのだが、ここで驚くべきことに気がついた。

「体が…軽い?」

魔法を封じられていいる関係からか、それとも体を動かせていないためなのか、ここに来てからずっと重たく感じていた身体が何故か以前のように軽くなり、心なしか頭もスッキリと冴え渡っているような気がする。
「これは一体…」
自分達に何が起こったのかと二人で顔を見合わせてしまうほどの劇的な変化。
これはどう考えても先程の食事が原因としか考えられない。
けれど俄かには信じられなかった。
何故ならこれを持ってきたのはあのジフリートで、これを作ったのはヴェルガーの信厚い【賢者】という者だと聞いていたからだ。
これは偶々なのか、それとも自分達を懐柔しようと企む賢者の罠なのか……。
本当のところは何一つわかりはしない。
けれどこれは自分達にとっては悪いことではない。
これだけ体調が良いのであれば、チャンスさえあればいつでも全力で逃げ出すことが可能になるだろう。
「ノーラ…状況は分からないが、これはジフリートにはバレない方がいいだろうな」
その言葉にノーラもまた暫し考え頷きを返す。
「そうですね。賢者と呼ばれる人物の思惑はわかりませんが、彼らが一枚岩でない可能性があるのであればここは黙っている方が得策かと」
その答えを受けて二人でそっと頷き合う。
ただでさえ会ったことのない得体のしれない人物だ。警戒するに越したことはない。
期待はしすぎず気を抜かぬように暫く様子を見ようと話し合い、けれどどこか軽くなった心でそっと微笑み合ったのだった。
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