【完結】予想外の異世界で俺は第二の人生を生きることになった

オレンジペコ

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41.眩しい美形を直視できない

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ジフリートから頼まれて食事を提供するようになってから早くもひと月が経った。
正直こんなにずっと提供することになるとは思っていなかったのだが、ジフリートは淡々と夕餉を運んでいく日々だ。
最初はリゾットやコトコト煮込んだビーフシチューなど歯が弱っていても食べやすい食事にしていたのだが、どれくらい食べられるのかわからない相手なので少しずつ歯ごたえのあるものも加えてみたところ、意外にもなんでも食べられることが判明し、今では宰相達が食べているものと同じものを提供するようになっていた。
やはり回復魔法を食事に付与したのもよかったのかもしれない。
病気などにも効くように時には薬草を使ったスープも作ったし、健康に気を配った野菜も使っている。
これで元気にならなかったらよっぽどだろう。
今のところジフリートからも管理人達の体調が悪い等は言われていないので恐らく元気なのだと思う。
けれどそれだけだ。
二人が元気な顔を見せてくれることはないしお礼の手紙が来るということもないので、専ら様子はジフリートから報告されるのを鵜呑みにするほかなかった。

「さすが賢者様。今のところお二方からは体調が悪くなったなど何も文句などは出ておりませんし、これからもお願いしますね。ヴェルガー様も貴方の料理を大層お褒めくださっているようですし、いっそ料理人にでも転職されてはいかがです?厨房の方には話を通しておきますよ?」

こんな嫌味を言われることは日常茶飯事だ。
まあ料理自体は好きだから別に料理人でも構わないのだが、それだと宰相の仕事を手伝えなくなるのがネックだった。
わざわざジフリートの言葉に乗って喜ばせてやる気もない。
ジフリートの狙いは自分を宰相からできるだけ引き離すことなのだから。

(まあ、そうは言っても今なら俺がいなくても大丈夫そうではあるんだけどな…)

そんな思いに思わず溜息が零れ落ちる。
と言うのもここ最近は各領からの助っ人が集まった関係で随分仕事がスムーズに進むようになっていて、宰相も残業をしなくても済むようになっていたからだ。
その甲斐もあって近頃は宰相の顔色も良く、幾分健康的になってきた気がする。
それは非常に良いことなのだが、一つだけ困ったことがあった。
それは────宰相の笑顔が眩しすぎることだ。
純粋にこちらに向けられる笑顔が以前にも増して眩しくて、直視するとなんとなく気恥ずかしくなってしまう。
だからここ最近はあまり目を合わせないようさり気なく視線をそらし、どちらかというと一緒の食事時でもヒロやハイジの方を向くようにしていた。
そんな俺をヒロやハイジはどこかニヤニヤとした顔で見てくるが、絶対に何かまた誤解しているような気がする。
誰だって美形に満面の笑みを向けられたら気恥ずかしい気持ちになると思うのだが、違うのだろうか?
はっきり言うと、日本では宰相並みの美形に会ったことはなかったし、テレビに出るような芸能人にだって見惚れたことなど一度もなかった。
宰相にだって初めて会った時から綺麗な顔立ちの人だなとは思っていたがそれだけだ。
それなのに何故かここ最近宰相の顔を見るだけでなんとなく眩しくて仕方がなくなってしまう。
正直自分の目がおかしくなったのかと疑ってしまうほどだ。
なのでできれば仕事に打ち込んでこのもやもやした気持ちを振り切りたいし、食事時はヒロ達と話すことで視線をそらしたい。
それなのに仕事はどんどん余裕ができるので自分にできることは減っていく。
仕方なくヒロと一緒に魔法の練習や基礎鍛錬の時間に参加してはみているものの、これが逃げでしかないというのもわかっている。
これなら確かに料理人とはいかないまでも別な仕事を探してみるのも手なのかもしれない。
いっそのこと行方不明者の捜索に加えてもらって暫くここから離れた方がいいのだろうか?
こんな状態で宰相の傍に居ても全く役に立てるような気がしない。

「はぁ…」

そんな憂鬱な気持ちで溜息を吐きながら今日は気分転換に久方ぶりの図書室へとやってきた。
こういう時こそ娯楽本でも手に取ってみようかと思ってのことだ。
「えっと……どれにしようかな」
相変わらず楽しそうなタイトルが見受けられる本棚を見ながら興味が惹かれる本を探していく。
「『魔獣に襲われてもこれなら安心!魔石で身を守る野営テク』?魔石か。なんか面白そうだな」
こういう異世界ならではのアイテムとかはなんだか楽しそうだ。
それにこれなら捜索で外に出た時少しは役に立つこともあるかもしれない。
「お、これも楽しそう。『宰相観察日記~真面目なあの人の裏側に迫る!』ははっ!いつの宰相だろう?見てみようかな」
一体誰が観察してこれを書いたのかは知らないが、こんな場所に堂々と置かれていることにびっくりしてしまう。
本当におおらかな国だなぁとなんだか肩の力が抜けて段々楽しくなってきてしまった。
それからいくつかの楽しそうな本を手に取り、図書室の片隅でその本を読み始める。
どれもこれもなかなか面白い内容で、読み物としては実に興味深かった。
たまにはこんな時間を持つのもいいものだと、読み終わってから満足げに伸びをして笑みを浮かべたほどだ。
そして十分気分転換になったなと思いながら本を手に立ち上がり、元の棚へと戻しに行く。
そうして全てを元の場所に戻したところで、徐にその声は掛けられた。

「マナ?」

そこに立っていたのは宰相で、何故かどこか不安げなその様子に首を傾げると共に何故かジワリと安堵の想いが込み上げて、ここ暫くなかったような優しい声が口を突いて出た。
「宰相。どうかしましたか?」
そんな俺に宰相の目が一瞬大きく見開かれて、気づけば腕を引かれ抱き込まれている自分がいた────。

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