【完結】予想外の異世界で俺は第二の人生を生きることになった

オレンジペコ

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47.これ以上宰相を追い込んだら可哀想だろう?

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宰相に口づけられて最初は滅茶苦茶驚いたものの、どこまでも優しくこちらを気遣うような口づけは凄く気持ちがよくて、気づけば酩酊するように受け入れている自分がいた。

けれどそんな時間はそう長くは続くはずもなく、コンコンと扉をノックする音でハッと我に返った。
そこに立っていたのはどこか怒ったような顔をするヒロだった。
そりゃそうだよな。
様子がおかしい宰相を運んでくれた上に心配して俺をここに残してくれて、急いで食事を終わらせて俺達の食事を持ってきたらうっとりしながら二人でキスしてました~ってそりゃあ怒るだろう。
いや、本当にすまない。
でもヒロのお陰で冷静になれたことだし、宰相に何があったのかも察することが出来た気がする。
ジフリートはきっと宰相にいきなりキスをしたのだろう。
安全な相手だと思っていたところでいきなりそんなことをされたものだから、宰相としては内心パニック状態に陥ってしまったに違いない。
もしかしたらそんなことをされたせいでジフリートが突然得体のしれない男に見えてしまった可能性だってある。
恐らく先程はパニック状態で頭が回らなくて、それをどう伝えればいいのかわからず行動で示してくれたのだろう。
もしくはやはり言葉通りの消毒か…。
まあ俺は聖属性魔法が使えるし、そういった意味でパニック状態のまま宰相は俺に縋りたくなったのかもしれない。
(消毒系の魔法って何かあったっけ?)
今度ちゃんと調べておこうと思いながら、今回の件はある意味役得だったかもと思った。
スキンシップは割とこれまでの人生でする機会が多かったのだが、キスは祖父母が飼ってた猫のほっぺにチュッとするくらいしかしたことがなかったからだ。
恋愛なんてする余裕のない人生だったし、こんな風にキスが気持ちのいいものだなんて正直全くと言っていいほど知らなかった。
(宰相は俺より年上だし、きっと経験も豊富なんだろうな……)
ハイジとの婚約期間中は兎も角として、もしかしたらそれ以前は相当浮名を流していたのかもしれない。
こんなに美形なのだからきっと周囲も放っておかなかったことだろう。
男相手にでも躊躇わずキスできるところを鑑みるに、男女問わずモテただろうことが窺える。
性格的に勝手に奥手なのだろうと思っていたが、恋愛的な面では意外と積極的なところもあるんだと新たな一面の発見に目から鱗だ。
(まあそれでも自分からキスするのと、思ってもみない相手からキスされるんじゃあ気持ち的にも全然違ったんだろうな)
そのあたりは本当に同情する。
だからそんな宰相をあまり虐めて欲しくなくて、怒れるヒロを落ち着かせるべく間に入ることにした。
少し俺が考えこんでいる間に宰相が悪者になっているようだし、これは流石にあんまりだろうと思ったのだ。

「ヒロ!勘違いするな!今のは消毒だぞ?ね、宰相?」

フォローは大事とばかりにとりあえず宰相に確認を取る。

「なんかジフリートが宰相が口にできないようなことをしたらしくてな?それで、口に出せずに行動で示しただけだと思うんだ。だから、悪いのはジフリートであって宰相じゃないんだ」

予想ではあるが、きっと状況的にも大きくは外していないはずだ。
けれどこれはもしかしたらヒロには知られたくなかったことだったのかもしれない。
言葉を重ねれば重ねるほど宰相の顔色が悪くなってしまい、迂闊だったかもと焦ってしまった。
きっと宰相としてはジフリートとのキスは口にしたくないほどショックだったはずだ。
それを思い切りバラすようなことを言ってしまったのだから配慮が足りなかったかもしれない。
ここはなんとかフォローを入れないとと懸命に言葉を探していたところで、ヒロが満面の笑みを浮かべながら宰相を更に追い込むのを見て思わず自分の目を疑ってしまった。

「宰相?後でちょ~っと顔貸してくれますよね?」
「え?」
「サトルを抜きにして、二人で大事な『お話』があるんですけど…?」

しかも俺抜きでってどういうことだ?
ショックを受けてこんなに顔色の悪い宰相に対してあまりにも酷くないだろうか?
それなのに宰相はどこか諦めたかのように小さく息を吐いて、こちらを気遣うようにヒロの提案を受け入れた。

「マナ。今日は勇者トモと少し話したいことが出来た。飲むのはまた今度にしよう。先程は突然驚かせて悪かった。その詫びもまた改めてさせてもらいたい」

パニック状態でやってしまったことまでちゃんと謝ってくれる宰相…本当にいい人だ。
個人的には美形とのキスは役得以外の何物でもなかったし、別に嫌ではなかったから謝ってもらう必要はこれっぽっちもないのに…。
やっぱりこんな宰相をこのままヒロに引き渡すのは可哀想だという気持ちが勝ってしまう。

「ヒロ、宰相との話は明日でもいいんだろう?俺達はまだ夕餉を食べてないし、元々二人で飲む予定だったからつまみも用意してたんだぞ?今日は引いてくれ」

さっきの今で更に追い詰めるなんてやめて欲しい。
せめて今日くらいはゆっくり穏やかな時間を過ごしてほしい。
ヒロだってそれくらいの優しさはあるはずだろうと訴えるように強めに主張してみると、何故か明後日の方向に心配されてしまった。

「それは確かにそうかもしれないけど……この後二人きりになって貞操を狙われても知らないぞ?」

これだから十代は!
すぐにそっち方向に話を持っていくのは若い証拠だが、宰相に対してあまりに失礼だろう?

「そんなことあるわけないだろう?だって宰相だぞ?そんな色眼鏡で見たら失礼だ」

ここは俺の方が年上なんだし、ビシッと叱っておかないとな。
大体宰相はノーマルなのに、何を心配することがあるんだろう?
俺の方から襲い掛からない限りそういう関係にはならないんじゃないだろうか?
ほら見ろ、宰相だってヒロの言葉でショックを受けてべっこべこに凹んでるじゃないか。
それなのにヒロは全く反省してないようで、何故か軽快に笑い飛ばしてきた。

「ハハッ!本当にサトルって鈍いな。宰相?精々酒に呑まれないよう気を付けてくださいね?」

俺のどこがどう鈍いのかさっぱりわからないが、とりあえず怒っていたのは治まったようだし、ここは引いてくれるようだというのも今の言葉で察せられた。
だからまあいいかと思いながらそのままヒロを見送って、未だ凹んでいる様子の宰相を励ますべく食事の支度にとりかかる。

「宰相、元気出してくださいね?ヒロの言った言葉なんて気にしなくても大丈夫ですから」

そうして安心させるようににっこりと柔らかく微笑んだ。

「……マナ」

力なくこちらを見遣る宰相は本当に庇護欲を擽られる。
やはりヒロに引き渡さず引き留めてよかった。

「さ、もう何も心配せずに取り敢えず食べましょう?」

時間を置いてしまったが今日はキッシュだったから別に問題はないだろう。
後はスープとサラダとちょっとしたパスタを使った一品。
今日も口に合うといいな…。


──────────────────


明日は勇者視点でミルフィスさんの動きに迫ります。
お付き合いしてくださる方はまたよろしくお願いしますm(_ _)m

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