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20.国際会議⑤

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ピュン、パシッ。ピュン、パシッ。
腕を振るう度に鞭が小気味よく鳴る。

「ああっ!ロキ様!どうしてです?!」

そんな悲しそうな声を上げるのは補佐官のミュゼだ。
でも別に俺はミュゼを鞭打ちしているわけではない。
どちらかというと犬と化したミュゼが打たれようと俺が動かす鞭の方に来るので、それを避けて床に置いた印に鞭を打ち込んでいるのだ。
正直最近は昼間にまで犬化してくるので面倒臭いことこの上ない。
もっと補佐官らしくしっかり仕事をして欲しいものだ。
いや。仕事がないから逆にこうなるのか?
国を離れるのも考えものだな。
置いて来ればよかった。

でもミュゼのお陰でだいぶこの鞭の扱いにも慣れたから一概に文句も言えないのが辛いところ。
リヒターから剣より得意そうですねと言われ、確かにそうだなと思わないでもない。
上手に使えるようになったら変態が寄ってこれなくなりますよと言うから凄く練習したし、その成果はきちんと出ている。
今では狙い通りの場所を打つことができるようになったし、縛り上げるのもお手の物だ。

「もう我慢できません!ロキ様!どうかお仕置きしてください!」

そう言いながら焦れに焦れたミュゼがこちらに走り込んできたので鞭の動きを変えてそのまま縛り上げてやった。
なんか恍惚とした声を上げていたけど知ったことではない。
こうされたいから飛び込んできたのだろう。多分。

「この変態が…。何時だと思っている?呼んでもいないのに俺に近づくな」
「ああ…何と冷たい声と眼差しなんでしょう?ミュゼに最高のご褒美をありがとうございます!」

そう言いながらギンギンにおっ勃てているので、物凄く不快気にしながらリヒターの方を見遣る。

「リヒター。お前の友人は昔からこうなのか?」
「いいえ。もっと普通でしたが?」
「そうか。俺も少し前まではそう思っていたんだが…どうやら朝からさかる病気になってしまったらしいな。悪いが正気に戻るよう向こうで遊んできてやってくれないか?玩具は好きに使っていい」
「……わかりました。その代わりロキ王子は午後からの資料に目を通しておいてください。わからないところはカリン王子に聞いて頂ければいいので」
「わかった。すまないな」
「いえ。ほらミュゼ。ロキ王子のご命令だ。あちらに行くぞ」
「なっ?!リヒター!お前じゃない!私はロキ様がいいんだ!」
「はいはい。邪魔をして首にされたくなければおとなしく来るんだ」
「でもっ…!」
「後で視姦してもらえばいいだろう?見てもらえればいいな?ほら、行くぞ」

そんな感じで回収していってくれたのでやっと一息ついてリヒターに言われた通り勉強へと移る。

「兄上。この資料のここなんですが…」
「どれだ?ああこれは…」

丁寧に俺に教えてくれる兄に胸が高まる。
夜は可愛いのに補佐官の兄は頼りになってカッコいいからそのギャップがまたいいなとつい頬を緩ませてしまった。

「兄上…」
「どうした?」
「いえ。午後の会議にはあの王子も来るでしょうが、大丈夫ですか?別室で宰相達と意見交換会に出席しててもらってもいいんですよ?」
「う……」

流石に悩んでいるらしく、兄は言葉を濁す。
それだけあの王子が怖いのだろうから仕方がない。

「今日は外務大臣に付き添ってもらうので大丈夫ですよ?」

無理はしないでほしいと言ったらそれならせめてリヒターを連れて行くよう言われてしまった。
確かにリヒターならフォロー役には適役だろう。
外務大臣だけだとフォローしきれない部分も活躍してくれそうではある。

「ありがとうございます。ではミュゼの方は兄上にお任せしますね」
「任せておけ。あの変態は俺が躾けておいてやる」

そう言って請け負ってくれたので、俺は安心して午後からの会議へと臨んだのだった。


***


「リヒター、すまないな」
「いえ。ご立派でしたよ」

流石に付け焼き刃では全部の話題にはついて行けなくて、ほぼ外務大臣任せとなってしまったし、所々リヒターにフォローしてもらったので少々申し訳なかった。
兄は外交も立派にこなしていたのに、やっぱり自分はダメだなと溜息が出る。
それでもリヒターは絶対に俺を責めたりはしない。
次に繋げるために必要なことは…と前向きな意見をくれるし、良かったところと悪かったところも教えてくれるのでありがたかった。
近衛なのにミュゼよりもずっと補佐官っぽい。

「ロキ王子はまだ20才。これからいくらでも成長できますから、焦らず行きましょう」

しかもそんな風に俺が密かにダメだと思っていたことにまで気づいてくれるところは凄いなと感心してしまう。
いっそ役立たずのミュゼはクビにしてリヒターを補佐官にしたいくらいだ。
でもそれを言うと、それだと近衛騎士として俺と兄を守れなくなるからダメだと言われた。
なかなか難しい。

「リヒター。この国際会議が終わったら礼がしたいんだが…何か欲しいものはないか?」
「欲しいものですか?」
「ああ」
「ロキ王子が幸せならそれでいいですよ」

リヒターはどこまでも無欲にそんなことを口にして笑うから、あの変態達とは大違いだなと苦笑がこぼれてしまう。

「ちゃんと言わないとミュゼにリボンを結んでプレゼントするぞ?」
「ハハッ!勘弁してくださいよ!それ、絶対におかしなリボンのかけ方しますよね?送られてきた時点で俺まで変態になったって言われてしまいますよ!」

凄く楽しげに大笑いし始めたリヒターに思わずこちらも笑みを向けてしまう。
こうして笑い合える関係も悪くはない。
けれどそこをタイミング悪く兄に目撃されてしまい、思いがけず焼きもちをやかれてしまった。

「ロキッ!」
「兄上」

ギッとリヒターを睨む兄にリヒターはいつものように何もないですよと口にするが、今日はそれで引いてはくれず、俺を抱き寄せながら冷たい声で牽制し始めてしまう。

「リヒター。ロキと仲良くするのはいいが近衛としての職分を超えてくるな」
「申し訳ございません」

けれど流石にこれは止めた方が良いだろう。
リヒターは何も悪くないのだから。

「兄上?可愛い焼きもちですね。でも今はミュゼの話をしていたんですよ?」
「ミュゼの?」
「ええ。リヒターが褒美に何が欲しいか言ってこないので、ミュゼにリボンでもつけて送ろうかと言ったら大うけされただけです」
「……そうか。それならいい」

どうやら納得してくれたようだ。

「兄上…。兄上もリボンで飾り付けてあげましょうか?きっと素敵ですよ?」
「…………やめておく」
「そうですか?ちょっと変わった飾り付けにして、身動きできない状態で虐めてあげたらきっと悦んでもらえると思うんですけど…」

どうですか?と囁いてあげたらどんなものを想像したのか、凄く真っ赤になってしまった。

「ロキ王子。そうやってカリン王子を揶揄って楽しむのもいいですが、この後は夕食会です。ほどほどになさってくださいね?」
「わかっている。リヒターは本当に真面目だな」

そして可愛い兄の腰を抱いて宰相達とも合流し、一度部屋に戻って夕食会用の服装へと着替えたのだった。

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