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33.父様がやってきた。
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ルシアンと親密な関係になって幸せいっぱいな気持ちになっていた矢先、突然別荘に父がやってきた。
何やら慌てた様子だと出迎えた家令から連絡が来て、部屋でイチャイチャしていた俺達は急いで着替えて応接間へと向かうことに。
「父様がここまで来るなんて…。もしかして母様に何かあったのかも」
不安からついそんなことを口に出してしまったら、ルシアンがそっと寄り添って『大丈夫だ』と言ってくれる。
「もしそうだったとしても俺が一緒に付き添うから、なんでも頼ってほしい」
「ルシィ…」
その優しさにジンッと胸が震えた。
やっぱりルシアンは頼りになる。
そして応接間へと入ると、確かにそこには珍しく焦った様子の父の姿があった。
その姿を目の当たりにして不安が募り、挨拶もそこそこに尋ねてしまう。
「父様?家で何かあったのですか?」
けれど安堵の息と共にこぼれ落ちたのは意外な言葉だった。
「カイ。無事でよかった」
(俺?)
聞き間違いだろうか?
そう思って父を見るが、どうやら本当に俺を心配して来てくれたようだ。
「え?」
「別に家で何かがあったわけではない。ただ嫌な予感がしたからお前に何かあったんじゃないかと心配になってな。何も変わったことはなかったか?」
愛されてるな…と思う。
でも意外なことにそこにある愛情はルシアンのそれとは大きく違うんだとはっきりと肌で感じてしまった。
父からの愛は家族愛で、ルシアンの愛は熱を伴うもの────。
(うわっ……)
それを知って、よりリアルにルシアンから愛されている実感が湧いた。
(恥ずかしい…!)
でも嬉しい。
そんな気持ちでいっぱいになるけど、折角心配して来てくれた父にちゃんと答えないといけない。
「変わったこと…。えっと、特にはありません」
「本当に?」
「……その、ルシィと仲良くなったくらいですよ?」
旅行前は嫌がっていた姿ばかり見せていたから、今は仲良くなったと伝えて安心させたくて、俺は素直にそう言った。
なのに俄には信じられなかったのか、父は窺うようにルシアンを見た。
だからルシアンはわざわざわかりやすいように直接的に言ったんだと思う。
「はい。この旅行中にカイザーリードと相思相愛になり、先日無事に結ばれることができました」
その姿は実に満足げだ。
俺も幸せいっぱいな姿を父に見せることができてこれ以上なく幸せだった。
それなのに、父は衝撃を受けたように固まってしまった。
どうしたんだろう?
俺が急に親離れしてしまったようで衝撃を受けたんだろうか?
「カ、カイ?お前はまだ子供だろう?」
案の定そう言われたけど、俺はもう15だし、親離れしてもおかしくはない年齢だ。
母からも常々『婚約者もできたことだし、これからは父様よりも婚約者を大事にして優先しなさい』と言われてる。
前は反発心しかなかったけど、今なら母の言った言葉がわかるし、これからはそうしていこうと思ってる。
それは別におかしなことではないはずだ。
「何かおかしかったですか?」
だからそう口にしたのに、返ってきた言葉は全く思ったものとは違っていた。
「おかしいに決まっているだろう?!お前にはまだ早すぎる!」
そんな風に怒鳴られて、俺は混乱した。
婚約者と愛し合うのに早いとか遅いとかあるんだろうか?
愛し愛され幸せになるなら別にいいんじゃないだろうか?
でも大好きな父がそう言うからにはダメなのかもしれない。
でも前は仲良くしろって言ってたはずなのに…。
わからない。わからない。わからない。
そうして混乱する俺に追い討ちをかけるように父が言い放つ。
「この婚約は一旦白紙に戻す!いいな?!」
その言葉の衝撃と言ったらなかった。
以前は婚約解消を認めてくれなかったのに、どうしてと更に混乱が増した。
それでもわかることはある。
婚約が白紙になればルシアンとずっと一緒にはいられなくなってしまう。
それだけはどうしても嫌だった。
「嫌です!父様!ルシアンは優しいし、これからもずっと一緒に居たいんですっ!」
頼むから考え直してほしい。
そう思って涙ながらに必死に訴えると、困ったような顔をしつつも何とか聞き入れてもらえる。
「カイ。わかったから泣くな。婚約はそのままでもいい。だから父さんとこのまま帰ろう?」
「え?」
でもその言い方だと、俺はルシアンと祭りに行けなくなってしまうんじゃないだろうか?
(楽しみにしてたのに…)
できれば帰りたくない。
何とか考え直してほしい。
そう思うのに、父はどこまでも頑なだった。
「ルシアン。この件はきっちりとジェレアクト卿に報告させてもらう。いいな?」
「はい。ご気分を害してしまい申し訳ありませんでした」
謝るルシアンを目の敵のように睨みつけ、俺の腕を取って無理矢理馬へと乗せようとしてくる。
「父様!待って、待ってください!ルシアンと約束したんです!まだ帰りたくありません!」
「カイ。いいから乗るんだ」
「父様!」
「舌を噛むから口は閉じていなさい」
「……っ!ルシアン!」
ダメ元でルシアンへと目をやると、声には出さずにルシアンの口が動いた。
────『迎えに行く』
それを見て申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちが入り交じりながら、俺は同じように『待ってる』と口を動かした。
何やら慌てた様子だと出迎えた家令から連絡が来て、部屋でイチャイチャしていた俺達は急いで着替えて応接間へと向かうことに。
「父様がここまで来るなんて…。もしかして母様に何かあったのかも」
不安からついそんなことを口に出してしまったら、ルシアンがそっと寄り添って『大丈夫だ』と言ってくれる。
「もしそうだったとしても俺が一緒に付き添うから、なんでも頼ってほしい」
「ルシィ…」
その優しさにジンッと胸が震えた。
やっぱりルシアンは頼りになる。
そして応接間へと入ると、確かにそこには珍しく焦った様子の父の姿があった。
その姿を目の当たりにして不安が募り、挨拶もそこそこに尋ねてしまう。
「父様?家で何かあったのですか?」
けれど安堵の息と共にこぼれ落ちたのは意外な言葉だった。
「カイ。無事でよかった」
(俺?)
聞き間違いだろうか?
そう思って父を見るが、どうやら本当に俺を心配して来てくれたようだ。
「え?」
「別に家で何かがあったわけではない。ただ嫌な予感がしたからお前に何かあったんじゃないかと心配になってな。何も変わったことはなかったか?」
愛されてるな…と思う。
でも意外なことにそこにある愛情はルシアンのそれとは大きく違うんだとはっきりと肌で感じてしまった。
父からの愛は家族愛で、ルシアンの愛は熱を伴うもの────。
(うわっ……)
それを知って、よりリアルにルシアンから愛されている実感が湧いた。
(恥ずかしい…!)
でも嬉しい。
そんな気持ちでいっぱいになるけど、折角心配して来てくれた父にちゃんと答えないといけない。
「変わったこと…。えっと、特にはありません」
「本当に?」
「……その、ルシィと仲良くなったくらいですよ?」
旅行前は嫌がっていた姿ばかり見せていたから、今は仲良くなったと伝えて安心させたくて、俺は素直にそう言った。
なのに俄には信じられなかったのか、父は窺うようにルシアンを見た。
だからルシアンはわざわざわかりやすいように直接的に言ったんだと思う。
「はい。この旅行中にカイザーリードと相思相愛になり、先日無事に結ばれることができました」
その姿は実に満足げだ。
俺も幸せいっぱいな姿を父に見せることができてこれ以上なく幸せだった。
それなのに、父は衝撃を受けたように固まってしまった。
どうしたんだろう?
俺が急に親離れしてしまったようで衝撃を受けたんだろうか?
「カ、カイ?お前はまだ子供だろう?」
案の定そう言われたけど、俺はもう15だし、親離れしてもおかしくはない年齢だ。
母からも常々『婚約者もできたことだし、これからは父様よりも婚約者を大事にして優先しなさい』と言われてる。
前は反発心しかなかったけど、今なら母の言った言葉がわかるし、これからはそうしていこうと思ってる。
それは別におかしなことではないはずだ。
「何かおかしかったですか?」
だからそう口にしたのに、返ってきた言葉は全く思ったものとは違っていた。
「おかしいに決まっているだろう?!お前にはまだ早すぎる!」
そんな風に怒鳴られて、俺は混乱した。
婚約者と愛し合うのに早いとか遅いとかあるんだろうか?
愛し愛され幸せになるなら別にいいんじゃないだろうか?
でも大好きな父がそう言うからにはダメなのかもしれない。
でも前は仲良くしろって言ってたはずなのに…。
わからない。わからない。わからない。
そうして混乱する俺に追い討ちをかけるように父が言い放つ。
「この婚約は一旦白紙に戻す!いいな?!」
その言葉の衝撃と言ったらなかった。
以前は婚約解消を認めてくれなかったのに、どうしてと更に混乱が増した。
それでもわかることはある。
婚約が白紙になればルシアンとずっと一緒にはいられなくなってしまう。
それだけはどうしても嫌だった。
「嫌です!父様!ルシアンは優しいし、これからもずっと一緒に居たいんですっ!」
頼むから考え直してほしい。
そう思って涙ながらに必死に訴えると、困ったような顔をしつつも何とか聞き入れてもらえる。
「カイ。わかったから泣くな。婚約はそのままでもいい。だから父さんとこのまま帰ろう?」
「え?」
でもその言い方だと、俺はルシアンと祭りに行けなくなってしまうんじゃないだろうか?
(楽しみにしてたのに…)
できれば帰りたくない。
何とか考え直してほしい。
そう思うのに、父はどこまでも頑なだった。
「ルシアン。この件はきっちりとジェレアクト卿に報告させてもらう。いいな?」
「はい。ご気分を害してしまい申し訳ありませんでした」
謝るルシアンを目の敵のように睨みつけ、俺の腕を取って無理矢理馬へと乗せようとしてくる。
「父様!待って、待ってください!ルシアンと約束したんです!まだ帰りたくありません!」
「カイ。いいから乗るんだ」
「父様!」
「舌を噛むから口は閉じていなさい」
「……っ!ルシアン!」
ダメ元でルシアンへと目をやると、声には出さずにルシアンの口が動いた。
────『迎えに行く』
それを見て申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちが入り交じりながら、俺は同じように『待ってる』と口を動かした。
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