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32.切れた絆 Side.ユージィン
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婚約を申し入れてきたのはジェレアクト侯爵家の第二子、ルシアン=ジェレアクトだ。
彼は神童と称えられるほどその才を幼い頃から発揮していて、実際会ってみてもとても利発そうな子だった。
これは期待できるかもしれない。
けれど下手に妥協して後で問題が出てきたら困る。
そう思い、厳しい目で見定めることに。
時には無理難題を突き付けどう対処してくるかも見極めたが、その全てに完璧な対処をしてきたから只者ではないと感じさせられた。
(これなら…任せるに値するかもしれないな)
そう思えども、できればギリギリまでカイザーリードを渡したくはなかった。
「婚約者ができたことだけ伝えて、結婚直前まで会わせなくても構わないよな?」
「何を仰ってるんです?!寝言は寝てから言ってください!これで学園に入ってからお相手に浮気されて捨てられたらどうするおつもりですか?!そこから新たに婚約者を探すなんて不可能ですわ!カイザーリードを一生一人寂しく過ごさせたくないのなら、二人の仲を深めるべくさっさと顔合わせの場を設けてくださいませ!」
妻から手酷く叱られて、渋々ではあったが一理あると考え顔合わせの席を設けた。
少々ハプニングはあったもののどうやらカイザーリードの中での位置づけは婚約者よりも俺の方が上のようだし、ちょっと唇が当たっただけで大騒ぎしていたことから見てもまだまだ子供だとわかって安心したからこのまま温かく見守ろうと思う。
カイザーリードが怒りながら『婚約破棄したい』と言いに来たこともあったけど、大丈夫。
ルシアンは見る限りカイザーリードに相当惚れ込んでいるし、浮気の心配はないだろう。
カイザーリードの前でだけ素の姿を見せるらしいが、きっとカイと親しくなりたいが故のことだろうし別におかしなことではない。
それにルシアンは現時点で稼ぎもしっかりしてるから将来的にも安心だ。
愛されて結婚するなら確実に幸せになれるはず。
父様の方が好き?当然だろう?
俺達の絆は永遠だ。
結婚してもそれは変わらないから安心してほしい。
そんな感じで一緒に旅行という話を聞いた時も然程心配はしていなかった。
だってカイザーリードはまだまだ子供だと誰よりもわかっていたから。
ルシアンだって可愛らしい感じだから似たり寄ったりだろう。
言ってみれば友人のように仲を深めるための親善旅行。
そう思っていたのに────。
プツン…………。
旅行に行って数日後、俺とカイザーリードを繋いでいた確かな絆が切れるのを感じて思わず叫んでしまった。
「カイ?!」
その感覚がまるで魔剣が叩き折られた時に感じた喪失感と同じだったから、カイザーリードに何かあったのではないかと焦燥感に襲われて居ても立ってもいられなくなる。
俺はすぐさま身支度と旅支度を整えると馬に跨り大急ぎで屋敷を飛び出した。
(カイ!無事でいてくれ…っ)
そうして馬を駆けさせ、カイザーリードが世話になっているはずのジェレアクト侯爵家の別荘へと辿り着いたのだが────。
「父様?家で何かあったのですか?」
そこにいるのは確かにずっと可愛がってきた息子なのに、どうしてもう俺のカイザーリードでなくなっているんだろう?
それを肌で感じて泣きたくなった。
とは言え元気そうではあるし、一先ず無事な姿に安堵の息を吐く。
「カイ。無事でよかった」
「え?」
「別に家で何かがあったわけではない。ただ嫌な予感がしたからお前に何かあったんじゃないかと心配になってな。何も変わったことはなかったか?」
「変わったこと…。えっと、特にはありません」
「本当に?」
「……その、ルシィと仲良くなったくらいですよ?」
婚約者を見つめながらどこか照れ臭そうにそう告げるカイザーリード。
その空気はどこか甘くて、二人の間に濃密な時間があった事を匂わせる。
(まさか……。いや、あり得ない)
そう思いながらルシアンの方を見遣ると、一瞬満足そうにニヤリと口の端を上げ、次いでいつもの柔和な笑みで口を開いた。
「はい。この旅行中にカイザーリードと相思相愛になり、先日無事に結ばれることができました」
そう言われた時の衝撃といったらなかった。
初心なカイザーリードを手籠めにしたと宣言されたも同然だったからだ。
しかもカイザーリードもどこか嬉しそうで、思わず自分の目を疑ってしまう。
「カ、カイ?お前はまだ子供だろう?」
動揺激しくそう尋ねると、可愛らしく小首を傾げながら言ってくる。
「何かおかしかったですか?」
「おかしいに決まっているだろう?!お前にはまだ早すぎる!」
もうこの言葉を聞くだけでルシアンに丸め込まれたのが一目瞭然だった。
純粋なカイザーリードを騙すなんてとんでもない。
即刻婚約を解消してやりたいくらいだ。
なのにそれを口走ったら嫌だとカイザーリードに泣かれてしまった。
「嫌です!父様!ルシアンは優しいし、これからもずっと一緒に居たいんですっ!」
(ああ、こんなはずではなかったのに…)
あの時────カイが婚約を解消したいと言い出した時にもっと熟慮すべきだった。
それよりも何よりも、旅行になんて行かせなければよかった。
そうすればこんなに早く貞操を奪われずに済んだだろうに。
どうして呑気に送り出してしまったんだろう?
(可哀想だが、婚約を続けるかどうかは保留だな)
この件に関して、再検討するのは決定事項だが……。
「カイ。わかったから泣くな。婚約はそのままでもいい。だから父さんとこのまま帰ろう?」
今はカイザーリードをなんとか言い包めて絶対に連れ帰らなければ。
「え?」
「ルシアン。この件はきっちりとジェレアクト卿に報告させてもらう。いいな?」
「はい。ご気分を害してしまい申し訳ありませんでした」
殊勝な態度で謝られたが、息子の貞操を奪われてそんな簡単に許せるはずがない。
そもそもその言い方だとカイザーリードの貞操を奪ったことに関しては全く反省してないだろう?!
それを一番腹立たしく思いながら俺は嫌がるカイザーリードを無理やり馬に乗せ、二度と会わせてやるものかと、そのままユグレシア侯爵家へと連れ帰ったのだった。
彼は神童と称えられるほどその才を幼い頃から発揮していて、実際会ってみてもとても利発そうな子だった。
これは期待できるかもしれない。
けれど下手に妥協して後で問題が出てきたら困る。
そう思い、厳しい目で見定めることに。
時には無理難題を突き付けどう対処してくるかも見極めたが、その全てに完璧な対処をしてきたから只者ではないと感じさせられた。
(これなら…任せるに値するかもしれないな)
そう思えども、できればギリギリまでカイザーリードを渡したくはなかった。
「婚約者ができたことだけ伝えて、結婚直前まで会わせなくても構わないよな?」
「何を仰ってるんです?!寝言は寝てから言ってください!これで学園に入ってからお相手に浮気されて捨てられたらどうするおつもりですか?!そこから新たに婚約者を探すなんて不可能ですわ!カイザーリードを一生一人寂しく過ごさせたくないのなら、二人の仲を深めるべくさっさと顔合わせの場を設けてくださいませ!」
妻から手酷く叱られて、渋々ではあったが一理あると考え顔合わせの席を設けた。
少々ハプニングはあったもののどうやらカイザーリードの中での位置づけは婚約者よりも俺の方が上のようだし、ちょっと唇が当たっただけで大騒ぎしていたことから見てもまだまだ子供だとわかって安心したからこのまま温かく見守ろうと思う。
カイザーリードが怒りながら『婚約破棄したい』と言いに来たこともあったけど、大丈夫。
ルシアンは見る限りカイザーリードに相当惚れ込んでいるし、浮気の心配はないだろう。
カイザーリードの前でだけ素の姿を見せるらしいが、きっとカイと親しくなりたいが故のことだろうし別におかしなことではない。
それにルシアンは現時点で稼ぎもしっかりしてるから将来的にも安心だ。
愛されて結婚するなら確実に幸せになれるはず。
父様の方が好き?当然だろう?
俺達の絆は永遠だ。
結婚してもそれは変わらないから安心してほしい。
そんな感じで一緒に旅行という話を聞いた時も然程心配はしていなかった。
だってカイザーリードはまだまだ子供だと誰よりもわかっていたから。
ルシアンだって可愛らしい感じだから似たり寄ったりだろう。
言ってみれば友人のように仲を深めるための親善旅行。
そう思っていたのに────。
プツン…………。
旅行に行って数日後、俺とカイザーリードを繋いでいた確かな絆が切れるのを感じて思わず叫んでしまった。
「カイ?!」
その感覚がまるで魔剣が叩き折られた時に感じた喪失感と同じだったから、カイザーリードに何かあったのではないかと焦燥感に襲われて居ても立ってもいられなくなる。
俺はすぐさま身支度と旅支度を整えると馬に跨り大急ぎで屋敷を飛び出した。
(カイ!無事でいてくれ…っ)
そうして馬を駆けさせ、カイザーリードが世話になっているはずのジェレアクト侯爵家の別荘へと辿り着いたのだが────。
「父様?家で何かあったのですか?」
そこにいるのは確かにずっと可愛がってきた息子なのに、どうしてもう俺のカイザーリードでなくなっているんだろう?
それを肌で感じて泣きたくなった。
とは言え元気そうではあるし、一先ず無事な姿に安堵の息を吐く。
「カイ。無事でよかった」
「え?」
「別に家で何かがあったわけではない。ただ嫌な予感がしたからお前に何かあったんじゃないかと心配になってな。何も変わったことはなかったか?」
「変わったこと…。えっと、特にはありません」
「本当に?」
「……その、ルシィと仲良くなったくらいですよ?」
婚約者を見つめながらどこか照れ臭そうにそう告げるカイザーリード。
その空気はどこか甘くて、二人の間に濃密な時間があった事を匂わせる。
(まさか……。いや、あり得ない)
そう思いながらルシアンの方を見遣ると、一瞬満足そうにニヤリと口の端を上げ、次いでいつもの柔和な笑みで口を開いた。
「はい。この旅行中にカイザーリードと相思相愛になり、先日無事に結ばれることができました」
そう言われた時の衝撃といったらなかった。
初心なカイザーリードを手籠めにしたと宣言されたも同然だったからだ。
しかもカイザーリードもどこか嬉しそうで、思わず自分の目を疑ってしまう。
「カ、カイ?お前はまだ子供だろう?」
動揺激しくそう尋ねると、可愛らしく小首を傾げながら言ってくる。
「何かおかしかったですか?」
「おかしいに決まっているだろう?!お前にはまだ早すぎる!」
もうこの言葉を聞くだけでルシアンに丸め込まれたのが一目瞭然だった。
純粋なカイザーリードを騙すなんてとんでもない。
即刻婚約を解消してやりたいくらいだ。
なのにそれを口走ったら嫌だとカイザーリードに泣かれてしまった。
「嫌です!父様!ルシアンは優しいし、これからもずっと一緒に居たいんですっ!」
(ああ、こんなはずではなかったのに…)
あの時────カイが婚約を解消したいと言い出した時にもっと熟慮すべきだった。
それよりも何よりも、旅行になんて行かせなければよかった。
そうすればこんなに早く貞操を奪われずに済んだだろうに。
どうして呑気に送り出してしまったんだろう?
(可哀想だが、婚約を続けるかどうかは保留だな)
この件に関して、再検討するのは決定事項だが……。
「カイ。わかったから泣くな。婚約はそのままでもいい。だから父さんとこのまま帰ろう?」
今はカイザーリードをなんとか言い包めて絶対に連れ帰らなければ。
「え?」
「ルシアン。この件はきっちりとジェレアクト卿に報告させてもらう。いいな?」
「はい。ご気分を害してしまい申し訳ありませんでした」
殊勝な態度で謝られたが、息子の貞操を奪われてそんな簡単に許せるはずがない。
そもそもその言い方だとカイザーリードの貞操を奪ったことに関しては全く反省してないだろう?!
それを一番腹立たしく思いながら俺は嫌がるカイザーリードを無理やり馬に乗せ、二度と会わせてやるものかと、そのままユグレシア侯爵家へと連れ帰ったのだった。
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