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52.説明

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「ルシアンに会いたくて従兄妹達とこの国にやってきたのは良かったんですが、手紙を受け取ったルシアンが今は会えないと…」
「会えない?それは間違いないのか?」
「はい。手紙を託したルシアンのクラスメイトから聞いたので間違いないです」
「……その者の名は?」
「ジガール=ヴァリトゥードです」
「ヴァリトゥード侯爵家の次男か。それで?その者に拉致されたのか?」

突然そう訊かれ、俺は慌てて違うと否定する。
彼はただの親切なクラスメイトなのに、こんなことに巻き込むわけにはいかない。

「違います!彼は落ち込む俺を励まそうと街案内をかって出てくれただけなので、はぐれて路地裏に引き込まれてしまった俺が悪いんです!」
「路地裏に…」
「はい。そこで男に攫われて、連れ込み宿に…」
「…………殺されそうな話だな」
「あ、その…命があってよかったとは思うんですが、気絶させられて気づいたら馬車でさっきの奴隷商人といたので、状況がよくわかってなくて…」
「なるほど。破落戸に犯された挙句に奴隷商に売り払われたと」

はっきり言われて泣きたくなった。
なんで俺がこんな目にと。

「すみません…」
「いや。ここに連れてこられてまだよかった。他のところなら更に酷い目に合っただろうからな」
「うぅ……」

確かにたまたま事情の分かっている様子の騎士団長の元へ連れてこられたから助かったものの、他のところだったらどうなっていたことやら。
想像するだけで身震いしてしまう。

「事情は分かった。疲れただろう。今日は客室で休んでくれ。すぐに用意させる」
「ありがとうございます」
「ルーシャン殿下には手紙を書いて置くから心配はしなくていい。腹は?減っていないか?」

その言葉にそう言えば夕食を食べていなかったと思い出すものの、とてもじゃないけど喉を通りそうになくて、辞退させてもらうことに。

「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「いや。ではゆっくり休んでくれ」

そして騎士団長は俺を部屋へと案内させて部屋から出て行った。
きっとルシアンへと手紙を書いてくれるのだろう。

(ちゃんと…書いてくれるよな?)

でも会いたくないと言っていたルシアンが会ってくれるかどうかはわからない。
父への礼儀を考えて手紙だけくれるパターンだってなくはないのだ。
期待はしないでおこう。

そして俺は用意された部屋へと向かい、申し訳ないながらも湯殿を使わせてもらって、泣きながらゴシゴシと身体を洗い始めた。

(気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い……)

男達に触れられた場所を全て洗いたくてひたすら手を動かし続け、気づけば時間ばかりが過ぎ去っていたようで────。

「カイ。もうやめろ」

その声が耳に届いた瞬間、俺は泣きながらその声の主へと飛びついていた。


***


【Side.ルシアン】

城から寮へと戻りシャワーを浴びて部屋で寛いでいると寮監から急ぎだと言って手紙が届けられた。
送り主の名は騎士団長のライアンだ。
普段ならどうせ稽古をつけてくれとでも言ってきたんだろうと放置しただろうが、今日城で指導したばかりだしそれはないだろうと思った。
その上で至急となると、なんだと首を傾げてしまう。

寮監はニヤついた顔で俺の悪行が耳に入って呼び出されたんじゃないかと言っていたが、それはない。
そもそも騎士団長自らが一学生を呼び出すなど有り得ない話だ。
だからこそ気になり、俺は寮監を追い払うとすぐさま手紙へと目を走らせた。

「……っ!!」

そこに書かれていた話に震えが走る。
何故ならカイザーリードを奴隷商から買い取り、保護をしたと書かれてあったからだ。

俺はすぐさま部屋を飛び出し、ライアンの屋敷へと向かった。
馬車?そんなもの待ってられないから学園へ忍び込んで馬を引っ張り出し、そのまま駆け抜けたに決まっている。
そんなもの後でどうとでもなる。
今はカイザーリードの方が大事だ。
そう思ってライアンの屋敷へと最速で辿り着くと、話は通ってあったのかすぐに中へと通された。

「ライアン!カイは?!」
「落ち着いてください。今は丁重に客室へと案内して休んでもらっています」

その言葉にすぐさま客室へと向かおうとしたが、それをライアンに止められる。

「ルーシャン殿下。お会いする前にお話しせねばならぬことがあります」
「なんだ!早く言え!」
「…ご婚約者は、レイプ被害に遭われた後奴隷商へと売り払われたと仰っていました」
「は……?今、何と?」

俺の聞き間違いだろうか?
そう思い尋ねると、残念ですがと言いながら再度同じ言葉を口にする。

「余程ショックだったのか、話している最中、酷く怯え震えていました。なのでどうか、それを踏まえた上で…」

ダァンッ!!

怒りに任せ壁を殴るとその衝撃で思い切り穴が空いたが今はそれどころではなかった。
こんな事、許せるはずがない。

「…本人に確認を取られますか?」

俺の怒りに動揺することなく、ライアンは冷静にそう尋ねてくる。
俺はそれに頷きつつも、一先ず知り得たことを話せと促した。
カイザーリードへの事実確認はそれからの方がいいだろう。
そして話を聞くと────。

「あの男っ…」

カイザーリードは無関係だと言ったらしいが、手紙を握り潰した時点でバレバレだと憎しみが込み上げてくる。

「殺してやる!」

クラスメイトであるジガール=ヴァリトゥードの顔を思い出しながらそう口にする俺に、ライアンが淡々と告げてきた。

「とは言え裏付けは必要かと。この件は陛下にも報告をしておきますので、罪状が明らかになった時点で心置き無く制裁ください」
「……頼んだ」

幾分かライアンの言葉に冷静さを取り戻して、俺は先にカイザーリードのケアを優先させる事に。

「カイザーリードの元へ行く。案内を」

そして部屋へとやってくるとどうやらシャワーを浴びているようだったためそのままライアンを下がらせ、待つことに。
けれど待っても待ってもカイザーリードは湯殿から出てくる気配がない。
流石に不審に思ってそっと覗きに行くと、泣きながらずっと身体を洗い続けている姿が目に飛び込んできた。
何度も擦り続けた肌は真っ赤になっていて痛々しい。
なのに尚も足りないとばかりにグスグスと泣きながら洗い続ける姿にたまらなくなった。

「カイ。もうやめろ」

気づけば服が濡れるのも構わずその手をそっと握り、その行動をやめさせている自分がいた。

涙に濡れた目が驚きに見開き、次いでグシャリと顔を歪ませ俺の胸へと飛び込んでくる。

「ルシィ!!」

そこからは号泣するカイザーリードを抱き寄せて、もう大丈夫だと慰めた。


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