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62.襲い掛かる不安 Side.レンスニール&カイザーリード

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【Side.レンスニール】

城で執務に当たりながらその後のジガール=ヴァリトゥードの捜索状況報告を受けていると、突然大轟音と共にワイバーンが空から降ってきて、窓の外に見える尖塔へと突き刺さった。

「ひっ?!」

同じようにそれを目撃した者達の口からは悲鳴が迸る。
一体何があったのかと城中大騒ぎだ。
けれどそんな状況にもかかわらず、魔剣バルトブレイクは冷静に【これは…死んだかもな】と呟いた。

「ま、まあワイバーンは死んだだろうな」

それくらい見ればわかる。
でも頭を過るのはジガールのことだった。
そしてバルトブレイクも当然のように続けて言ってくる。

【現実逃避するな。今の一撃はルシアンが放ったものだぞ?】
「ま、魔法の気配はしなかったように思うが?」
【魔法じゃないからな。今のはただの剣風だ】
「け、剣風?!」

普通空を飛ぶワイバーンを倒せる威力で届かないだろう?
頼むから嘘だと言ってくれと思いながらバルトブレイクに視線を向けるが、否定の言葉はついぞ聞かせてはもらえない。

【大方ジガールがルシアンに接触して挑発でもしたんだろう。城に直撃しなくてよかったな】
「だ、誰か!急いで騎士団長に連絡を取れ!騎士達にも大至急伝達を!急げ!!」

下手な場所で戦われでもしたらそれこそ街が破壊されてしまう。
安全のためにも頼むからどこかの闘技場にでも結界を張って、そこで戦って欲しい。
そう思い、穏便に戦闘を中断させ説得してくれそうな騎士団長を呼び出しつつ、避難誘導要員として街を捜索中の騎士達へ連絡を入れさせた。
幸い叔父の顔は騎士達には知れ渡っている。
きっと連絡さえ入れておけば皆上手くやってくれるだろう。
間に合いさえすれば…だが。

「叔父上。頼みますから巻き添えで誰かを殺したり街を破壊したりしないでくださいね!」

折角復興できた平和をあっさり壊されてはたまったものではない。
俺は街の方へと目を向けて、これ以上ないほど真剣に願ったのだった。


***


【Side.カイザーリード】

宿屋へと飛び込むと、そこにはダニエルが血塗れで寝かされていて、ヒューヒューと力なく呼吸している姿が見えた。
その傍らにはダイアンが泣きながら寄り添っていて、その腕も切り裂かれ血がしたたり落ちていた。

「アン姉さん!ダニー兄さんは?!一体どうして…っ」
「カイ!無事だったのね?!」

俺の声にバッとこちらを見たかと思うと、泣きながら良かったと言って抱き着いてきた。
どうやらかなり心配をかけてしまったらしい。

「取り敢えず止血しよう!」

そう言って俺は取り換え済みのまだ綺麗なシーツを部屋から急いで持ってきて、次々裂いてダニエルとダイアンの止血をしていった。
戦場で見てきたから大体どこを縛ればいいかはわかるけど、力加減はわからないから見様見真似でしかない。でもきっとやらないよりかはずっとマシだろう。
これで何とか出血量を抑えられればいいのだけど…。

そうして一息ついたところでルシアンがいないことに気が付いた。
一体いつからいないんだろう?
ここに来るまでは確かに一緒に居たのに。

「ルシィ?」

不安になって名を呼ぶけど、それに応える声がない。
できれば今すぐ探しに行きたい。
でも意識のないダニエルと不安そうな顔をするダイアンを置いて探しに行くこともできなくて、ソワソワと窓の外へと目をやった。
すると────。

「え?」

気づけば城にある尖塔にワイバーンが串刺しになっていて、一瞬目の錯覚かと思い目を擦ってしまった。
でもどうやら錯覚でも何でもなく、リアルに刺さっている様子。

(何がどうしてそうなった?!)

もしかして寝惚けて飛んでたワイバーンが墜落でもしたんだろうか?
そんなまさかと思うけど、それ以外にあんな状態になる理由が全く思い浮かばなくて首を傾げることしかできない。

「メチャクチャ不吉なんだけど…」

モズの早贄っぽくて凄く怖い。

(もしかしてルシアンに何かあったんじゃ…)

ルシアンは強いから大丈夫だろうけど、あんなものを見てしまうと無性に不安が募る。
そんな俺にダイアンが声を掛けてきた。

「カイ。ごめんなさい」
「アン姉さん?」
「私達、あのクラスメイトがこんなに危ない人だって、全く知らなかったの…」

グスッと泣き出すダイアンに思わず目を瞠る。

(クラスメイト?)

そう言われて思い浮かぶのは一人しかいない。

「アン姉さん?クラスメイトって、あのルシアンの?」
「グスッ…ええ。あのジガール=ヴァリトゥード。彼が…ダニエルをこんな目に合わせたのよ」

その言葉は衝撃的だった。
まさかあの街案内まで申し出てくれた親切なジガールがと。

「で、でも彼は…っ」
「貴方だって彼に嵌められたんでしょう?」
「え?」
「破落戸に襲われたって聞いたわ」

その言葉に冷や水を浴びせられたような衝撃を受け、カタカタと身体が震えてくる。

(……知られた?)

従兄妹達にそれを知られたことがショックだった。

「あ……」

どうしよう?言葉が出ない。
ルシアンは大丈夫だって言ってくれたし、実際破落戸達に抱かれたわけじゃない。
だから偶々再会できた婚約者と一緒に居ただけだと説明しようと思っていた。
でも襲われて怖かったのも触られたのも事実で────。

これが父の耳に入ったらどうなるんだろうとか、ここに勝手に来たからだと責められたりするんだろうかとか、ルシアンは良くてもルシアンの両親が今回の話を聞いて婚約解消だと言い出すんじゃないかとか色んなことが頭を過って、気づけば涙が止まらなくなっていた。

「カ、カイ?!」
「あ…や…やだ…っ。アン姉さん。父様には言わないで…っ。おね、お願いだからっ…」
「……っ!ごめんなさい!貴方を追い詰める気はなかったのっ。私が軽率だったわ」

ダイアンはダニエルがあんなことになっていっぱいいっぱいだったんだろう。
気持ちはわかる。
だから責める気はないけど、それでも二人に知られたことがショックで、俺はアン姉さんの腕の中で泣いた。



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