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63.戦いの行く末 Side.ルシアン&ジガール

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ジガールと剣を交え魔法で牽制している間にバタバタという騎士達の慌ただしい足音が近づいてくるのを感じた。
多分俺達の戦いを止めに来たんだろう。

(まあいい)

どうせなら思い切り叩きのめして地に這いつくばらせてやりたい。
そんな思いで攻撃をあしらいながら騎士達の到着を待っていると、やがてその姿が見えた。
ご苦労なことにわざわざ騎士団長であるライアン自らが止めにきた様子。

けれど魔剣に乗っ取られた状態のジガールは当然のようにそれを無視しにかかった。

「【俺達の戦いを邪魔するな!!】」

そう言いながら魔剣を振るい、炎を纏わせた剣戟を放つジガール。
けれどライアンはそれをあっさりと相殺して見せた。

「ジガール=ヴァリトゥード。王命である!直ちに戦闘をやめるように!お前にはヴァリトゥード侯爵殺害未遂の嫌疑が掛かっている!大人しく出頭せよ!」
「【誰が大人しくついてなど行くものか!止めれるものなら止めてみろ!】」

高笑いする魔剣にライアンは眉間に皺を寄せる。
きっとジガールがそんな態度に出るとは思っていなかったのだろう。

「ライアン。あれは魔剣に乗っ取られている。これ以上ないほど叩きのめしてやりたいからどこか思い切り戦える場所に移動したい。鍛錬場は空いているか?」
「はっ。それは構いませんが…」
「そうか。ではそちらに移動しよう」

あっさりそう言った俺にライアンは『ですが…』と続ける。

「あれがそんなに大人しくついてくるでしょうか?」
「なに。強制的にそちら方面に吹き飛ばしてやれば済むだけの話だ」
「は?」
「まあ見ていろ」

そう言って俺は騎士達を全員下がらせると、改めてジガールへと向き合い、魔力を練り始めた。
当然だが剣はそのまま鞘へと仕舞う。

「【なんだ?降参でもするつもりか?】」
「違うな。これから思い切りお前を叩きのめせる場所に移動するんだ」
「【移動?そんなもの必要ないだろう?さあ剣を抜け!構えろ!】」

そう言いながら都合よく剣を片手にこちらへと駆けてくるジガール。
そんなジガールを迎え撃つように半身の構えを取り、チラリと騎士団の鍛錬場方面へと目を走らせて距離を測り、そのまま奴の剣を持つ腕目掛けて鋭く死角から蹴り上げ、次いで逆の足で腹へと連撃を叩き込み奴の身体を浮かせ、風魔法を使ってそちらへと吹き飛ばした。

ドガガガガッ!!とまともに腹に蹴りが入ったが一応手加減はしてやった。
風魔法で運んでやったからきっと落ちても大怪我はしていないはず。
もしかしたら肋骨の一本や二本は折れているかもしれないが、それくらいガードしてたら防げただろうし、自己責任だろう。

「…………殿下。今ので死んだのでは?」
「大丈夫だ。騎士はあれくらいでは死なない。知っているだろう?」
「彼はただの一学生です。どうかご自重ください」

ライアンが控えめにそう言ってくるが、魔剣との契約でステータスが上がっているのだ。
死ぬわけがない。
とは言え今の一撃で剣を落として行ったし、力量の差を感じて逃げる可能性もなくはないか。

「あまり待たせて逃げられては面倒だ。俺達もさっさと行くぞ」
「御意」

そして俺達は城にある騎士団の鍛錬場へと向かった。


***


【Side.ジガール】

(何故だ、何故だ、何故だ?!)

確かに魔剣との契約でステータスは上昇しているのに、どうして今地に伏しているのが自分なのだろう?
強くなったはずだろう?

魔剣とのシンクロ率は92%。
その分魔剣との一体感が強くなりすぎて自分が自分でなくなるような感覚に襲われたりするが、それ自体になんら問題はない。
魔剣の力を引き出すためにもシンクロ率が上がれば上がるほどそうなるのだと魔剣テレンスフォースは言っていたから。

なのにどうして俺は魔剣も持たないルシアンに吹き飛ばされたのだろう?

「ぐっ…ぅ!」

肋骨や内臓は無事だと思うが、蹴り上げられた腹が物凄く痛い。
地に叩きつけられる前に魔法で身体を浮かせることができたからそれ以上のダメージは受けていないが、軽々とあしらわれたこと自体が屈辱的だった。
魔剣も落としてしまうし、散々だ。

「まあいい」

魔剣は呼べば手元に戻ってくる。
だから俺は気を取り直して魔剣を手元へと呼び寄せることにした。

「来い!テレンスフォース!」

その呼び掛けに応じ、テレンスフォースが手元へと戻ってくる。
そのことにホッと安堵し、自分はまだまだ戦えるのだと思うことができた。

そんな自分の元へ憎いルシアンがやってくる。

「元気そうだな?」
「当たり前だ!俺はお前とは違う!魔剣使いだぞ?!」

魔剣も持たないお前の攻撃など効かないとやや強がりながら口にする。
なのに奴は余裕の表情を崩さぬまま、言い放つのだ。

「誰が魔剣持ちでないと言った?」
「なんだと?」

ハッタリだと思う。
何故なら奴はさっき戦っていた際も普通の剣しか使っていなかったのだから。
魔剣持ちなら普通の剣よりも当然契約している魔剣を使う方が強いし、使いやすいに決まっている。
使わない道理がない。

「言うに事欠いてそんなハッタリが通用するとでも?馬鹿にするのも大概にしろ!」

魔剣で強くなった自分。
なのにまるでそれが一切通用しないかのように軽くあしらわれたこと自体に腹が立った。

「俺は強くなった!お前よりもずっと!」
「そうか」
「その証拠に俺の方が優勢だろう?!」

なのに余裕の表情を崩さないルシアンに苛立ちが募る。

キンキンキンッ!
激しく打ち合い近距離で魔法を放つが全部防がれて益々ムキになった。

「お前が…っ、魔剣持ちだと言うなら呼んでみろ!その魔剣とやらを!」

どうせ呼べはしないだろう。
そう挑発するように口にする。
こんな普通の剣にあしらわれたくない気持ちもあったのかもしれない。

そんな俺にルシアンがニィッと笑う。

「お前になんて勿体なさすぎて見せてやる気になれんな」
「このっ!クソ野郎────!!」

ガガガガガッ!!

全力の剣戟で縦横無尽に魔剣を振るう。
なのにその剣筋は全て読み切られ、【バースト】という短い言葉と共に俺は吹き飛ばされた。

「もう終わりか?」

カチャリと向けられる剣先。
上から見下ろすように俺を見つめその剣を翳しているのはルシアンで、負傷し地に背をつけみっともなく荒い息を吐いているのは俺だった。

何が悪かった?
どこを間違えた?
俺は確かに強くなったはずなのに…。

どうして俺はこの男に勝てないのだろう?
悔しい。
そんな気持ちがあふれ出て、涙が目から零れ落ちた。

そんな俺達の元へ騎士団長がやってくる。
恐らく勝負がついたと判断したのだろう。

「殿下。身柄をお預かりしても?」

(殿下?)

「ああ。構わん」

(殿下とは一体?)

騎士団長の言葉が理解できず固まってしまう。
そこへまた新たにやってくる者がいた。

「ルーシャン殿下!ヴァリトゥード侯爵が一命を取り留めたそうです!」
「そうか」

その言葉に更に俺は思考が停止する。

父の命が助かったというのは素直に良かったと今は思える。
でも……ルーシャン殿下、とは一体どういうことだ?

「そうだ。ジガール。取り敢えずそこの魔剣は叩き折っていいな?」
「……は?」

そこの魔剣とはどこの魔剣だろう?
思考が止まっていたせいで何を言われているのか理解するのが遅れた。

「ライアン。持っていろ」
「……はっ」

騎士団長が手にしたのは俺の魔剣テレンスフォース。
ここにきてやっと奴が口にした魔剣が俺の魔剣だということに気が付いた。

「【や、やめろぉおおっ!!】」

動けなくなっていた俺の代わりとばかりに魔剣テレンスフォースが俺の意識を乗っ取り、ルシアンを止めようとする。

「これが…俺とお前の力量の差だ!!」

ガキッン…!!

「うわぁああああっ!!」

目の前で魔剣が中ほどで綺麗に一刀両断される。
それと同時に先程まで確かにあった万能感が消え失せ、魔剣との繋がりがプツリと切れるのを感じた。

「あ…あぁ…あああああっ!!」

嘆き悲しむ俺へ奴が地を踏みしめながら近づいてくる音が聞こえてくる。

「よくもっ!よくも俺のテレンスフォースを……!」
「先に俺の愛しい魔剣に手を出したのはお前だ。どうだ?手も足も出せぬまま大事なものを奪われる気分は。殺してやりたいほど俺が憎いだろう?憎くて憎くてたまらないはずだ」
「な…にを……」

愛しい魔剣に手を出した?
なんのことだ?
言われている意味が分からない。
俺が手を出したのは魔剣じゃない。
手を出したのはこいつの婚約者で────。

「どうやら実際に目にしないと理解しないようだな」

ルシアンが冷たい目で俺を見ながらあり得ない言葉を口にする。

「来い。カイザーリード」

カイザーリード────それはルシアンの婚約者の……。


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