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64.断罪
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ダイアンの腕の中で泣いていたら急に身体が光り出し、それに驚いたダイアンが前を丸くして何事かとそっと身を離す。
それと同時に俺の身体は瞬きの間に愛しいルシアンに召喚されていた。
「……え?」
ドサッという音と共に収まったのはルシアンの温かい腕の中。
一体何がとパニックになりながら思わずキョロキョロとあたりを見回してしまう。
初めて見る場所だ。
どうやら随分離れた場所に呼び出されたらしい。
「カイザーリード」
「ルシィ?」
名を呼ばれそっと顔を上げると、こちらを愛おしそうに見つめる瞳と目が合った。
そんな目で見つめられると胸がキュッと締め付けられて、さっきまでの不安があっという間に霧散してしまう。
「どうした?泣いていたのか?」
「え?」
そっと下へ降ろされ、そのまま腰を抱かれて涙をぺろりと舐めとられて真っ赤になる。
「ル、ルシィ?!な、なんで舐めっ…?!」
「何か文句でもあるのか?」
心底不思議そうな顔でそんなことを言われるけど、恥ずかしいからやめてほしい。
「だ、だって…」
「だって?」
「き、騎士団長様が…見てる」
「見たい奴には見させておけばいい。気にするな」
(そうだった!ルシアンはこういう奴だった)
俺だけが恥ずかしいなんてなんだか凄く居た堪れなさすぎる。
でもそんなルシアンだからこそ不安も何もかも吹き飛ばしてくれるんだろう。
「そ、それよりどうして…」
呼び出したんだと思いながら近くに見知った者が他にもいることに気が付いた。
「ジガール…様?」
そこにいたのはあの街案内を買って出てくれたルシアンのクラスメイトだった。
そんな彼が何故か痛めつけられた状況で地面にへたり込んでいて、目を丸くしながらこちらを見ていた。
しかも近くには彼の魔剣らしいものが見事に折られた状態で転がっている。
「ま、魔剣が死んでる…」
前世の自分を彷彿とするような状況を目の当たりにし、真っ青になってしまった。
普通の剣ならまだしも魔剣はそう簡単に折れる代物ではない。
魔剣とは魂の入った特殊な剣なのだ。
余程消耗した状態でなければ早々壊れることはない代物で、戦場ならまだしもこんな平和な世で折れるなんてまずないと言っていい。
それなのに目の前に転がっている魔剣は折れていた。
ものの見事にぽっきりと。
こんなに見事に剣を折れる者などそんなにはいないと思う。
「も、もしかしてこれ…ルシアンが?」
「そうだ」
予想通り、こともなげにサラリと告げられた言葉に半泣きになった。
「この魔剣殺し!!前世の俺だけじゃなく他の魔剣まで叩き折るなんて…!」
魔剣だって生きているのにと抗議の声を上げたものの、ルシアンの言葉はどこまでも自分は悪くないと言わんばかりだ。
「前世のお前とはこうして出会うために叩き折ったんだ。一緒に生まれ変われてよかっただろう?」
「じゃ、じゃあこの魔剣もか?!違うだろ?!」
「それはお前の敵討ちのために叩き折ってやったんだ。問題ない」
(敵討ち?)
今一ルシアンの言っていることがわからない。
「それにそいつは主人の人格を乗っ取り、父親を刺して瀕死にした危険な魔剣だった。情状酌量の余地などない」
主人の人格を乗っ取る魔剣────それは確かに危険な魔剣で、処分されても仕方のないものだと納得がいく。
そんな俺を見て満足げに頭を撫で、ルシアンは次いでジガールを指差し告げてくる。
「恐らくだがお前の従兄妹達はこの男に襲われて怪我をしたんじゃないか?」
その言葉にダイアンの言葉を思い出す。
『ジガール=ヴァリトゥード。彼が…ダニエルをこんな目に合わせたのよ』
つまりジガールがあの魔剣でダニエルとダイアンを攻撃したという話は本当だったということだろう。
その言葉にゆっくりとジガールの方へと目をやると、蒼白な顔をこちらへと向けていて、必死に後退さろうとしていた。
「ダニー兄さんとアン姉さんを…襲ったの、か?」
魔剣に乗っ取られていたからと言っても、強い意思があれば人を無差別に襲うなどということにはならない。
つまりジガールは悪意を持って二人を狙ったのだ。
「な、なんだよお前!魔剣が人に生まれ変わっただと?そんな馬鹿なことがあるか!この、化け物!」
その言葉と同時にルシアンが凄い勢いで剣戟を放ち、ジガールを吹き飛ばした。
「ガハッ!!」
「口を慎め。ジガール=ヴァリトゥード。殺すぞ?」
「ひ、ひぃっ…!」
ガタガタと震え始めるジガール。
そんなジガールを俺は悲しい気持ちで見つめた。
別に『化け物』と呼ばれること自体に傷つくことはない。
俺は魔剣だから、そんな言葉は『二つ名みたいなもの』くらいの軽い認識だからだ。
だから悲しかったのは別のところだった。
(良い人だと思ったのに…)
親切な人だと思った。
それなのに……俺の大事な従兄妹達に手を出し、重傷を負わせた。
否定しなかったということはきっとそういうことなんだろう。
「俺を…破落戸に襲わせたのも、もしかして…?」
そうなのかと尋ねると、それに対しては慌てたように首をブンブンと横に振られたからきっとそっちは違ったんだろう。
俺の運が悪かっただけか────そう結論付けようとしたところでルシアンの一撃が再度ジガールに襲い掛かった。
「ル、ルシィ?!」
「気にするな。こいつの腐った性根を叩き直してやりたくてな」
「いや、やってないって言っただけだろう?流石にこれ以上はやり過ぎなんじゃ…」
「大丈夫だ。前世の俺は腐るほど兵を鍛えてやったからな。加減はわかっている」
「そ、そっか。それならいいんだけど」
よくわからないけど、前世で将軍だったルシアンが言うのならきっとそうなんだろうと思いながらなんとか納得した。
「ライアン。こいつを牢に連れていけ。それとレンスニールに伝えろ。一年拷問した後ミスリル鉱山で三年働かせ、生き残ったら運命の天秤刑に処せ、とな」
「謝罪はよろしいのですか?」
「どうせ強制されて言わされた口先だけの謝罪に意味などない。連れていけ」
「御意」
運命の天秤刑ってなんだろう?
よくわからないけどルシアンはダニエルとダイアンの敵討ちをしてくれたらしい。
俺の敵討ちとはきっとそう言う意味だったんだろう。
ちょっとやりすぎな気もしないでもないけど、やっぱり優しいなと思う。
「ルシィ。ありがとう」
感謝を込めて心からそう言うと、俺が大好きな笑顔で微笑み返してくれた。
「さあ行こうか」
そうして歩き出そうとしたところでなんだか見知った魔剣の気配を感じてハッとそちらへと目を向ける。
「あれは……」
やってきたのは見知らぬ人だ。
でもその手にあるのは前世で見たことのある魔剣だった。
それと同時に俺の身体は瞬きの間に愛しいルシアンに召喚されていた。
「……え?」
ドサッという音と共に収まったのはルシアンの温かい腕の中。
一体何がとパニックになりながら思わずキョロキョロとあたりを見回してしまう。
初めて見る場所だ。
どうやら随分離れた場所に呼び出されたらしい。
「カイザーリード」
「ルシィ?」
名を呼ばれそっと顔を上げると、こちらを愛おしそうに見つめる瞳と目が合った。
そんな目で見つめられると胸がキュッと締め付けられて、さっきまでの不安があっという間に霧散してしまう。
「どうした?泣いていたのか?」
「え?」
そっと下へ降ろされ、そのまま腰を抱かれて涙をぺろりと舐めとられて真っ赤になる。
「ル、ルシィ?!な、なんで舐めっ…?!」
「何か文句でもあるのか?」
心底不思議そうな顔でそんなことを言われるけど、恥ずかしいからやめてほしい。
「だ、だって…」
「だって?」
「き、騎士団長様が…見てる」
「見たい奴には見させておけばいい。気にするな」
(そうだった!ルシアンはこういう奴だった)
俺だけが恥ずかしいなんてなんだか凄く居た堪れなさすぎる。
でもそんなルシアンだからこそ不安も何もかも吹き飛ばしてくれるんだろう。
「そ、それよりどうして…」
呼び出したんだと思いながら近くに見知った者が他にもいることに気が付いた。
「ジガール…様?」
そこにいたのはあの街案内を買って出てくれたルシアンのクラスメイトだった。
そんな彼が何故か痛めつけられた状況で地面にへたり込んでいて、目を丸くしながらこちらを見ていた。
しかも近くには彼の魔剣らしいものが見事に折られた状態で転がっている。
「ま、魔剣が死んでる…」
前世の自分を彷彿とするような状況を目の当たりにし、真っ青になってしまった。
普通の剣ならまだしも魔剣はそう簡単に折れる代物ではない。
魔剣とは魂の入った特殊な剣なのだ。
余程消耗した状態でなければ早々壊れることはない代物で、戦場ならまだしもこんな平和な世で折れるなんてまずないと言っていい。
それなのに目の前に転がっている魔剣は折れていた。
ものの見事にぽっきりと。
こんなに見事に剣を折れる者などそんなにはいないと思う。
「も、もしかしてこれ…ルシアンが?」
「そうだ」
予想通り、こともなげにサラリと告げられた言葉に半泣きになった。
「この魔剣殺し!!前世の俺だけじゃなく他の魔剣まで叩き折るなんて…!」
魔剣だって生きているのにと抗議の声を上げたものの、ルシアンの言葉はどこまでも自分は悪くないと言わんばかりだ。
「前世のお前とはこうして出会うために叩き折ったんだ。一緒に生まれ変われてよかっただろう?」
「じゃ、じゃあこの魔剣もか?!違うだろ?!」
「それはお前の敵討ちのために叩き折ってやったんだ。問題ない」
(敵討ち?)
今一ルシアンの言っていることがわからない。
「それにそいつは主人の人格を乗っ取り、父親を刺して瀕死にした危険な魔剣だった。情状酌量の余地などない」
主人の人格を乗っ取る魔剣────それは確かに危険な魔剣で、処分されても仕方のないものだと納得がいく。
そんな俺を見て満足げに頭を撫で、ルシアンは次いでジガールを指差し告げてくる。
「恐らくだがお前の従兄妹達はこの男に襲われて怪我をしたんじゃないか?」
その言葉にダイアンの言葉を思い出す。
『ジガール=ヴァリトゥード。彼が…ダニエルをこんな目に合わせたのよ』
つまりジガールがあの魔剣でダニエルとダイアンを攻撃したという話は本当だったということだろう。
その言葉にゆっくりとジガールの方へと目をやると、蒼白な顔をこちらへと向けていて、必死に後退さろうとしていた。
「ダニー兄さんとアン姉さんを…襲ったの、か?」
魔剣に乗っ取られていたからと言っても、強い意思があれば人を無差別に襲うなどということにはならない。
つまりジガールは悪意を持って二人を狙ったのだ。
「な、なんだよお前!魔剣が人に生まれ変わっただと?そんな馬鹿なことがあるか!この、化け物!」
その言葉と同時にルシアンが凄い勢いで剣戟を放ち、ジガールを吹き飛ばした。
「ガハッ!!」
「口を慎め。ジガール=ヴァリトゥード。殺すぞ?」
「ひ、ひぃっ…!」
ガタガタと震え始めるジガール。
そんなジガールを俺は悲しい気持ちで見つめた。
別に『化け物』と呼ばれること自体に傷つくことはない。
俺は魔剣だから、そんな言葉は『二つ名みたいなもの』くらいの軽い認識だからだ。
だから悲しかったのは別のところだった。
(良い人だと思ったのに…)
親切な人だと思った。
それなのに……俺の大事な従兄妹達に手を出し、重傷を負わせた。
否定しなかったということはきっとそういうことなんだろう。
「俺を…破落戸に襲わせたのも、もしかして…?」
そうなのかと尋ねると、それに対しては慌てたように首をブンブンと横に振られたからきっとそっちは違ったんだろう。
俺の運が悪かっただけか────そう結論付けようとしたところでルシアンの一撃が再度ジガールに襲い掛かった。
「ル、ルシィ?!」
「気にするな。こいつの腐った性根を叩き直してやりたくてな」
「いや、やってないって言っただけだろう?流石にこれ以上はやり過ぎなんじゃ…」
「大丈夫だ。前世の俺は腐るほど兵を鍛えてやったからな。加減はわかっている」
「そ、そっか。それならいいんだけど」
よくわからないけど、前世で将軍だったルシアンが言うのならきっとそうなんだろうと思いながらなんとか納得した。
「ライアン。こいつを牢に連れていけ。それとレンスニールに伝えろ。一年拷問した後ミスリル鉱山で三年働かせ、生き残ったら運命の天秤刑に処せ、とな」
「謝罪はよろしいのですか?」
「どうせ強制されて言わされた口先だけの謝罪に意味などない。連れていけ」
「御意」
運命の天秤刑ってなんだろう?
よくわからないけどルシアンはダニエルとダイアンの敵討ちをしてくれたらしい。
俺の敵討ちとはきっとそう言う意味だったんだろう。
ちょっとやりすぎな気もしないでもないけど、やっぱり優しいなと思う。
「ルシィ。ありがとう」
感謝を込めて心からそう言うと、俺が大好きな笑顔で微笑み返してくれた。
「さあ行こうか」
そうして歩き出そうとしたところでなんだか見知った魔剣の気配を感じてハッとそちらへと目を向ける。
「あれは……」
やってきたのは見知らぬ人だ。
でもその手にあるのは前世で見たことのある魔剣だった。
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