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65.再会と嫉妬
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「……バルトブレイク」
そう。やってきた人物が手にしていたのはルシアンが前世で使っていた魔剣、バルトブレイクだった。
国宝なだけありその存在感は異彩を放っていて、魔剣としての力の大きさを嫌というほど感じさせられる。
「レンスニール。どうした?わざわざこんなところまで」
「叔父上。どうしたも何もありませんよ。勝負がついたようなので様子を見に来たところです」
その言葉に騎士団長の指示で連れて行かれそうになっていたジガールが目を大きく見開くのが見えた。
「お…じ……」
それを聞き、騎士団長が溜息と共に言葉を吐き出す。
「ルシアン=ジェレアクトは戦死されたルーシャン殿下が生まれ変わられた姿だ」
「……っ!そんなこと、あってたまるものか!!」
声を大にしてそう口にするジガールに、レンスニールと呼ばれた現王が答えを返す。
「その方も国宝バルトブレイクの願いを叶える力の話はおとぎ話ででも聞いたことはあろう?」
「願い…を叶える力……」
「そうだ。叔父上はその力でこうして新たに生まれ変わりここへ戻ってきた。それは嘘偽りのない事実だ」
「う…そだ…。嘘だ嘘だ嘘だ!!」
ジガールが血を吐くように叫ぶが、事実なのだからしょうがない。
「嘘だ────!!」
絶望に彩られた表情でそう叫びながらジガールは一礼した騎士達によってその場から連れて行かれる。
どうしてあんな風に絶望しているのかがわからなくて首を傾げてしまう。
でももしかしたら前世のルシアンに何かしらの憧れでも持っていたのかもしれない。
答えはわからないものの、なんとなくそうなのかもと感じられた。
「それで叔父上。采配は?」
「先程ライアンには言ったが、一年拷問の後ミスリル鉱山で三年働かせ、生き残ったら運命の天秤刑に処すというのでどうだ?」
「少々酷なのでは?報復するなら陵辱して奴隷落ちで如何でしょう?」
「……確かにそれはそれでアリではあるが、お前の方はいいのか?余罪もあるだろう?」
「そうですね。貴方の婚約者に対してやらかした件、父親であるヴァリトゥード侯爵への殺害未遂の件、あとは……他国の貴族を魔剣で襲い重傷を負わせた件も報告が上がっています。それら諸々を考えると…叔父上が提案された拷問部分を陵辱奴隷落ちに変えるくらいが丁度いいかもしれませんね」
「なかなか良い提案だ」
『ではそれで処理しておきます』という王の言葉を聞き、ルシアンが満足そうに笑った。
どうやらお気に召したようだ。
でもいくら何でも国王に対して不遜過ぎないだろうか?
これではどちらが国王かわかったものではない。
「ルシアン」
そんな態度で大丈夫なのか聞こうと思いそっと袖を引くと、何故か笑顔で俺を国王に紹介し始めた。
「レンスニール。紹介しよう。これが俺の可愛い魔剣、カイザーリードだ」
「カ、カイザーリード=ユグレシアです。よろしくお願いします」
「バルトロメオ国王レンスニール=バルトロメオだ。今世ではよろしく頼む」
意外にも俺にも好意的に笑顔で接してくれる。
気さくな王様だ。
前世では敵将の魔剣だったと知っているからこそきっとこんな風に言ってくれたんだろう。
優しい人だ。
そして今度は前世からよく知る魔剣、バルトブレイクの方が俺へと話しかけてきた。
【カイザーリード。久しいな】
「あ…」
【そう緊張するな。あの戦場で俺の攻撃を幾度となく防ぎ、主人を守り切ったのは称賛に値する。誇るといい】
その言葉に胸が震える。
国宝級の魔剣に褒められるなんて早々あることではない。
「あ、ありがとう…ございます」
悔しいけどカッコいい。
前世では敵だったけど、戦場でのバルトブレイクはそれはもう凄かったのだ。
劣勢にもかかわらず100%のシンクロ率でもないのに次々とこちらの味方を吹き飛ばし、自軍をほぼ対等というほどまで持ち直していたくらいだ。
あの時の堂々とした前世のルシアンの姿とその手にあるバルトブレイクの圧倒的な存在を目の当たりにして、こちら側の陣営で震えあがった者は数多い。
だからこそ余計に嫉妬してしまうのかもしれない。
俺はこんな風にカッコいい魔剣にはなれそうにないから。
「カイ?何故バルトブレイクの言葉に頬を染めてるんだ?」
「え?」
「お前が惚れているのは俺だろう?」
それはもちろんだ。
でもここは別に嫉妬するような場面ではないと思うのだけど…。
「どちらかと言うと、ここは俺が嫉妬する場面だと思うんだけど?」
「どういう意味だ?」
「バルトブレイクは国宝級なだけあってカッコいいし、前世での戦場でも凄かったし…ルシアンが俺よりそっちの方がやっぱりいいと言い出しそうだなって…」
ちょっとだけ本音を溢すと、何故か国王には困った顔をされ、バルトブレイクには大笑いされ、ルシアンには溜息を吐かれた。
「バルトブレイクがカッコイイ?こいつは年季の入ったただの口の悪い魔剣だ。性格は最悪だぞ?」
【お前には言われたくないが?】
「事実だろう?」
【まあ否定はしない。年を食っているだけあってお前の愛しの魔剣に比べたら純粋さの欠片もありはしないからな。ハハハッ!】
そんな仲良さげな様子にもまた嫉妬を煽られる。
「ルシィ…」
上目づかいで嫉妬を露わに見つめると、どこか嬉しそうに抱き寄せられて髪へのキスが降ってきた。
「拗ねたのか?カイ。お前は本当に可愛いな」
「…………」
「レンスニール。後は任せた。バルトブレイク。また会おう」
【ああ。気軽に来るといい。もちろん、そこの可愛いカイザーリードと一緒にな】
どうやら揃って子供扱いの様子。
酷く楽し気にあしらわれてしまった。
こういった面を見るに、きっと似た者同士なんだろう。
そして後はここから去るだけというタイミングで、思い出したように国王が声を掛けてくる。
「叔父上。そう言えばジュリエンヌ国にいる間者からユージィン=ユグレシアがこちらに向かったと連絡が来ました」
「ユージィンが?」
ルシアンは訝し気に聞き返しただけだけど、俺はその言葉を聞き思わずフルリと身を震わせてしまう。
(父様が来る……)
きっと俺がいなくなったことでダニエルが連絡を入れたんだろう。
「もし爵位が必要ならすぐに用意するので言ってください。一代限りの魔法騎士伯ならすぐにでも用意できますよ?」
「爵位か。悪くはないな」
「ええ。ちょうど国庫への多大な貢献もしてもらえた褒章をどうしようか考えていたところでしたし」
「本音は?」
「相談役として城に顔を出していただきたいだけですよ。それにこちらの爵位があれば叔父上も色々便利でしょう?損はないはずです」
国の立て直しを手伝って欲しい、人手不足だから協力してほしい、そんな話を国王はルシアンとしているけれど、俺はそれどころではなかった。
俺の頭を占めているのは父の事。
(どこまで知られているんだろう?)
それを考えると怖くて怖くてしょうがなくて、話を聞きたくてもダニエルは昏睡状態で、ダイアンは憔悴しきっているし、どうしていいのかわからなくなった。
「ルシアン…」
不安げに袖を握ると、安心させるように優しく大丈夫だと言ってもらえる。
「カイ。そう心配するな。大丈夫。俺がいる」
「そうしていると叔父上も思いやりの心を持っていたんだと思えますね」
「どういう意味だ?レンスニール。前世の俺が人でなしだったとでも言いたいのか?」
「いえ!で、では爵位の方はそれで用意しておきますので」
そうして国王は威厳をかなぐり捨ててその場からそそくさと去って行った。
どうやら余程ルシアンを恐れているらしい。
前世のルシアンはそんなに怖かったんだろうか?
俺は首を傾げながら差し出された手をとり、従兄妹達がいる宿へとルシアンと共に向かったのだった。
そう。やってきた人物が手にしていたのはルシアンが前世で使っていた魔剣、バルトブレイクだった。
国宝なだけありその存在感は異彩を放っていて、魔剣としての力の大きさを嫌というほど感じさせられる。
「レンスニール。どうした?わざわざこんなところまで」
「叔父上。どうしたも何もありませんよ。勝負がついたようなので様子を見に来たところです」
その言葉に騎士団長の指示で連れて行かれそうになっていたジガールが目を大きく見開くのが見えた。
「お…じ……」
それを聞き、騎士団長が溜息と共に言葉を吐き出す。
「ルシアン=ジェレアクトは戦死されたルーシャン殿下が生まれ変わられた姿だ」
「……っ!そんなこと、あってたまるものか!!」
声を大にしてそう口にするジガールに、レンスニールと呼ばれた現王が答えを返す。
「その方も国宝バルトブレイクの願いを叶える力の話はおとぎ話ででも聞いたことはあろう?」
「願い…を叶える力……」
「そうだ。叔父上はその力でこうして新たに生まれ変わりここへ戻ってきた。それは嘘偽りのない事実だ」
「う…そだ…。嘘だ嘘だ嘘だ!!」
ジガールが血を吐くように叫ぶが、事実なのだからしょうがない。
「嘘だ────!!」
絶望に彩られた表情でそう叫びながらジガールは一礼した騎士達によってその場から連れて行かれる。
どうしてあんな風に絶望しているのかがわからなくて首を傾げてしまう。
でももしかしたら前世のルシアンに何かしらの憧れでも持っていたのかもしれない。
答えはわからないものの、なんとなくそうなのかもと感じられた。
「それで叔父上。采配は?」
「先程ライアンには言ったが、一年拷問の後ミスリル鉱山で三年働かせ、生き残ったら運命の天秤刑に処すというのでどうだ?」
「少々酷なのでは?報復するなら陵辱して奴隷落ちで如何でしょう?」
「……確かにそれはそれでアリではあるが、お前の方はいいのか?余罪もあるだろう?」
「そうですね。貴方の婚約者に対してやらかした件、父親であるヴァリトゥード侯爵への殺害未遂の件、あとは……他国の貴族を魔剣で襲い重傷を負わせた件も報告が上がっています。それら諸々を考えると…叔父上が提案された拷問部分を陵辱奴隷落ちに変えるくらいが丁度いいかもしれませんね」
「なかなか良い提案だ」
『ではそれで処理しておきます』という王の言葉を聞き、ルシアンが満足そうに笑った。
どうやらお気に召したようだ。
でもいくら何でも国王に対して不遜過ぎないだろうか?
これではどちらが国王かわかったものではない。
「ルシアン」
そんな態度で大丈夫なのか聞こうと思いそっと袖を引くと、何故か笑顔で俺を国王に紹介し始めた。
「レンスニール。紹介しよう。これが俺の可愛い魔剣、カイザーリードだ」
「カ、カイザーリード=ユグレシアです。よろしくお願いします」
「バルトロメオ国王レンスニール=バルトロメオだ。今世ではよろしく頼む」
意外にも俺にも好意的に笑顔で接してくれる。
気さくな王様だ。
前世では敵将の魔剣だったと知っているからこそきっとこんな風に言ってくれたんだろう。
優しい人だ。
そして今度は前世からよく知る魔剣、バルトブレイクの方が俺へと話しかけてきた。
【カイザーリード。久しいな】
「あ…」
【そう緊張するな。あの戦場で俺の攻撃を幾度となく防ぎ、主人を守り切ったのは称賛に値する。誇るといい】
その言葉に胸が震える。
国宝級の魔剣に褒められるなんて早々あることではない。
「あ、ありがとう…ございます」
悔しいけどカッコいい。
前世では敵だったけど、戦場でのバルトブレイクはそれはもう凄かったのだ。
劣勢にもかかわらず100%のシンクロ率でもないのに次々とこちらの味方を吹き飛ばし、自軍をほぼ対等というほどまで持ち直していたくらいだ。
あの時の堂々とした前世のルシアンの姿とその手にあるバルトブレイクの圧倒的な存在を目の当たりにして、こちら側の陣営で震えあがった者は数多い。
だからこそ余計に嫉妬してしまうのかもしれない。
俺はこんな風にカッコいい魔剣にはなれそうにないから。
「カイ?何故バルトブレイクの言葉に頬を染めてるんだ?」
「え?」
「お前が惚れているのは俺だろう?」
それはもちろんだ。
でもここは別に嫉妬するような場面ではないと思うのだけど…。
「どちらかと言うと、ここは俺が嫉妬する場面だと思うんだけど?」
「どういう意味だ?」
「バルトブレイクは国宝級なだけあってカッコいいし、前世での戦場でも凄かったし…ルシアンが俺よりそっちの方がやっぱりいいと言い出しそうだなって…」
ちょっとだけ本音を溢すと、何故か国王には困った顔をされ、バルトブレイクには大笑いされ、ルシアンには溜息を吐かれた。
「バルトブレイクがカッコイイ?こいつは年季の入ったただの口の悪い魔剣だ。性格は最悪だぞ?」
【お前には言われたくないが?】
「事実だろう?」
【まあ否定はしない。年を食っているだけあってお前の愛しの魔剣に比べたら純粋さの欠片もありはしないからな。ハハハッ!】
そんな仲良さげな様子にもまた嫉妬を煽られる。
「ルシィ…」
上目づかいで嫉妬を露わに見つめると、どこか嬉しそうに抱き寄せられて髪へのキスが降ってきた。
「拗ねたのか?カイ。お前は本当に可愛いな」
「…………」
「レンスニール。後は任せた。バルトブレイク。また会おう」
【ああ。気軽に来るといい。もちろん、そこの可愛いカイザーリードと一緒にな】
どうやら揃って子供扱いの様子。
酷く楽し気にあしらわれてしまった。
こういった面を見るに、きっと似た者同士なんだろう。
そして後はここから去るだけというタイミングで、思い出したように国王が声を掛けてくる。
「叔父上。そう言えばジュリエンヌ国にいる間者からユージィン=ユグレシアがこちらに向かったと連絡が来ました」
「ユージィンが?」
ルシアンは訝し気に聞き返しただけだけど、俺はその言葉を聞き思わずフルリと身を震わせてしまう。
(父様が来る……)
きっと俺がいなくなったことでダニエルが連絡を入れたんだろう。
「もし爵位が必要ならすぐに用意するので言ってください。一代限りの魔法騎士伯ならすぐにでも用意できますよ?」
「爵位か。悪くはないな」
「ええ。ちょうど国庫への多大な貢献もしてもらえた褒章をどうしようか考えていたところでしたし」
「本音は?」
「相談役として城に顔を出していただきたいだけですよ。それにこちらの爵位があれば叔父上も色々便利でしょう?損はないはずです」
国の立て直しを手伝って欲しい、人手不足だから協力してほしい、そんな話を国王はルシアンとしているけれど、俺はそれどころではなかった。
俺の頭を占めているのは父の事。
(どこまで知られているんだろう?)
それを考えると怖くて怖くてしょうがなくて、話を聞きたくてもダニエルは昏睡状態で、ダイアンは憔悴しきっているし、どうしていいのかわからなくなった。
「ルシアン…」
不安げに袖を握ると、安心させるように優しく大丈夫だと言ってもらえる。
「カイ。そう心配するな。大丈夫。俺がいる」
「そうしていると叔父上も思いやりの心を持っていたんだと思えますね」
「どういう意味だ?レンスニール。前世の俺が人でなしだったとでも言いたいのか?」
「いえ!で、では爵位の方はそれで用意しておきますので」
そうして国王は威厳をかなぐり捨ててその場からそそくさと去って行った。
どうやら余程ルシアンを恐れているらしい。
前世のルシアンはそんなに怖かったんだろうか?
俺は首を傾げながら差し出された手をとり、従兄妹達がいる宿へとルシアンと共に向かったのだった。
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