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第一章 セレン国編(只今傷心旅行中)

24.ライバル二人④ Side.メイビス

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現場にたどり着くとそこには確かに森に同化するかのような深緑色をしたドラゴンがいた。
フォレストドラゴンだ。
その瞳は真っ赤に燃えているよう赤く、周囲を威嚇するように咆哮を上げ続けていた。
周囲に転がるのは件のB級パーティだろうか。
最早虫の息で、生きているのかさえ怪しい。
状況は刻一刻を争うが、ドラゴンの発する威圧に呑まれ息をすることも儘ならなくなってしまった。
ワイバーンとは桁違いの存在だ。

「俺とこいつでドラゴンのヘイトを稼ぐから、その隙にあいつらを回収してなんとか助けろ!」

けれどそんな中、ヒースクリフ達はその威圧に呑まれることなく素早く行動を開始した。
ヒースはケインと共にドラゴンへと立ち向かいヘイトを稼いで意識を反らし始める。

「メイビス!取り敢えずポーションに効果増進の付与魔法を掛けるから、それを飲ませてからこっちまで連れてこよう!」

その隙にルマンドが怪我人に対して的確な行動へと移り、こちらへと指示を出してきた。
そんな姿を見て威圧などに怯んでいる場合ではないと我に返る。
今は自分にできることをやるべきなのだと自分を叱咤し、ドラゴンの動きを見ながら救助活動を行い安全な場所へと運んだ。
何があってこんな状況になったのかは知らないが、今は一人でも助けたい。その一心だった。
手持ちのポーションはルマンドが機転を利かせて効果を増進させたとは言え、深手を治すほどの効果はない。
けれど一先ず血止めにはなったし、命は何とか取り留められたことだろう。
冒険者としての活動はもうできないかもしれないが、ドラゴン相手に死ななかったのは幸運と言える。
そう思いながらも痛々しい目で見てしまうのは仕方がない。
そんな中、四人全員を一か所にまとめたルマンドが小さく息を整え、エリアヒールを唱えた。
自分の見ている前でゆっくりとではあるが深手が徐々に癒され、砕かれ折れた骨が元へと戻っていく。

(俺は奇跡を見ているのか……?)

普通エリアヒールというのはヒールを広範囲にかけ傷を癒す魔法だ。
傷は確かに塞いでくれるが折れただけの骨なら兎も角、砕かれた骨の部位までこんなに綺麗に元通りに治っていったりはしない。
ここまでいくと最早ヒールではなくエクストラヒールレベルだろう。それを広範囲で使えるのは奇跡的な腕前だと言えた。一体どれだけ練度をあげればこんな芸当が出来るようになるのか…。

「一先ずはこれでよし!」

ルマンドのその声にハッと顔を上げると、かなり疲れたのか辛そうに眉を顰めている姿が目に入った。
今のエリアヒールでどれほどの魔力を使ったのだろう?
それなのに気丈にもそのまま立ち上がり、俺に彼らを託すとすぐさまドラゴンへと向かいデバフの魔法を掛けた。
あれは敵の動きを鈍くするスロウの魔法だ。
あんなに疲れ切っているにもかかわらずその魔法はしっかりとドラゴンの動きを封じきる。凄い練度の高さだった。
そして剣を手にしながらケインと一緒にドラゴンのヘイトを稼ぎ、ヒースクリフの魔法の発動を手助けする。

『バーストフレア!!』

そうこうしているうちにヒースの魔法が放たれ、それに合わせるようにルマンドは魔法を唱えた。

『メガアースバリア!!』

ヒースの魔法がドラゴンに被弾したにもかかわらず、周囲に被害が出ないようそれを囲い込むように展開されるルマンドの魔法────。

土魔法の上級魔法でできたそのバリアは中で荒れ狂う炎をものともせずに抑えきり、ドラゴンを倒すための大きな助力へと繋がった。
その後はヒースの独り舞台であるかのようにドラゴンはなすすべもなく倒されたが、俺にとってのヒーローは他の誰でもなくルマンドただ一人だ。
そんなルマンドのためにせめて状況だけでも把握して伝えたいと、意識の戻った冒険者へと何があったのかを尋ねることにした。
それによると魔剣を手に入れたパーティーメンバーがその力に驕り、自分から墓穴を掘ったという話だった。
本当に自業自得としか言いようがない。
その後始末をさせられた自分達はたまったものではなかった。
これにはいつの間にかこちらへとやってきていたケインも呆れたような顔をしていたし、その後すぐにやってきて状況を聞いたルマンドも同じような顔をしていた。

暫く待ち「終わったぞ」と言いながらヒースが戻ってきたのでここでやっとホッと息を吐く。
圧倒的とはいえ流石に無傷という訳にはいかなかったようで、ヒースはところどころに傷を負っているようだったが、そんなヒースを労うようにルマンドはすぐさまヒールを掛けて治療を行っていた。
本当にルマンドは凄い男だ。そうやってただただ感心していた。

だから……ヒースがその言葉を口にするまで気づいていなかったのだ。
ルマンドがどれだけ無茶をしていたのかを────。

「それよりお前の方は大丈夫か?さっきのポイズンスネークの時からずっと魔法を使いっぱなしだろう?そいつらを助けるのにも随分魔力を使っただろうし、いくらレベル上げてて省エネで使っててもそろそろ限界なんじゃないか?」

その言葉を聞いて初めて自覚したのか、ルマンドはそう言えばと言いながら慌てたようにマジックバッグへと手を伸ばし、魔力回復のポーションを手に取った。
魔力切れ────少し考えればそれくらいわかって当然だった。
あれだけ大盤振る舞いをしていたのだからそうなっても全くおかしくはなかったのだ。
どうして自分はそこに思い至れなかったのだろう?

「あ~…マナポーションが開けられない……」

しかも取り出したはいいが蓋が開けられないほどの消耗ぶりだ。

(どうして俺はもっと早く気づかなかったんだ…!)

自分で自分に腹が立つ。
何もできないからこそもっとルマンドを気遣い、自分で気づいて一早くマナポーションを差し出すべきだったのに。
そう思うと同時にすぐさま体は動いて、ルマンドのその身体を腕の中へと引き込み、片手で支えながらポーションの蓋を開けルマンドの口へと宛がっていた。

「ほら、早く飲んで」

そう言った俺に少し驚いたようだったが、ルマンドは素直に礼を言ってマナポーションを口にした。

「は~…メイビスの腕の中ってなんだか落ち着くな~」
「そうか?」
「うん。すっごい安心する」
「そうか」

そんなに言ってもらえるほど自分はルマンドの役に立ててはいない。
それでも────その言葉に気持ちが浮き立つのはどうしようもなかった。
助けたい…。もっとルマンドに頼ってもらえるようになりたい。
視野をもっと広く持ってルマンドを支えたい。
ルマンドが他の誰の傍よりも安心する場所でありたいと思う。

(────もう二度と同じ過ちは犯さない!)

そう強く誓ったところで手の中からルマンドの身体を掻っ攫われた。

ケインの目が俺へと鋭く向けられ、ルマンドは渡さないと言わんばかりに眇められる。
ああ、やはり彼が一番のライバルなのか……。

ケインは然も当然のようにルマンドを抱え、冒険者達を俺達に運ぶように指示を出すと索敵は自分がするからと尤もらしい理由を盾に歩き出した。
悔しくはあるがここでルマンドを奪い合うのは状況的にしない方がいいだろうとおとなしく従うことにする。
けれどルマンドをこの先ケインに譲る気はなかったので、ルマンドから見えない角度で睨みを利かせるのだけは忘れなかった。



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