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第五章 レイクウッド王国編(只今愛の試練中)
115.ケルベロスの森 Side.メイビス
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ヒースの転移でケルベロスの森へとやってきたが、すでに日は暮れ森は暗く闇に閉ざされている。
この中で探すのは困難を極めるだろう。
けれどそれでも探さなければならない。
「仕方ないですね。全員に暗視の補助魔法を掛けて差し上げましょう」
意外にもここでまた活躍してくれたのがニックだった。
伊達に筆頭魔法使いではないらしい。
それよりもルマンドの父まで付いてきてしまったが大丈夫なのだろうか?
戦えるのかと心配になったが、そんなことを思ったのは一瞬だった。
『アクアランス!!』
国王は何気に強かったのだ。
どうもコーリックは武に力を入れる傾向があるようで、国王はこの年になっても剣の鍛錬も魔法の鍛錬も欠かさず行っていたらしい。
いざという時王族が民のために率先して戦わねばならないのだから、その時に戦えなければ意味がないだろうとキョトンとした表情で言われて、ああ、ルマンドの父親なんだなと妙に納得してしまった。
まさにこの親にしてこの子有りというやつだ。
そんな国王に負けじと俺もまた魔物を剣で切り裂き魔法で倒しながらルマンドを探す。
「ルマンド!居たら返事をしてくれ!」
そう声を掛けながら皆で探し回るが入り口あたりに居るわけではなさそうで、徐々に奥へ奥へと進んでいった。
そうして襲ってくる魔物を倒している時の事だった、東の方角から仲間を呼ぶウルフの遠吠えが聞こえてきたので嫌な予感がして、そちらへ行ってみようと言うことになった。
そしてそこで見つけたのは、何度もウルフに襲われているにもかかわらず無傷で横たわっているルマンドの姿だった。
暗い中ルマンドの指輪だけが仄かな光を発し、ルマンドの身を守っている。
どうやら守護魔法が発動しているようだ。
「ルマンド!!」
無事でよかった。やっと見つけたと駆け寄るもウルフの群れが邪魔過ぎて容易に近づけない。
「邪魔をするな!!」
『サークル・バーンナウト!』
ルマンドを囲むウルフの群れを呑み込むイメージで全て燃やし尽くせとばかりに魔法を発動させると、俺の意思を反映して炎が踊り狂い全てのウルフを一瞬で灰燼に帰してしまった。
ルマンドが見たらまたオーバーキルだと怒られそうだが、今はそんな叱る声でもなんでもいいから聞かせて欲しい。
「ルマンド…迎えに来たから、一緒に帰ろう?」
そっと抱き上げると身体は温かくて、ちゃんと生きているのだと安堵して涙が流れた。
そんな俺達にニックが近づいてきて、ルマンドの様子を確認してくれる。
「見事なまでに気持ちよさそうに寝てますね。睡眠香がきき過ぎたんでしょうか?」
そしてちょっと失礼と言ってディスペルの魔法を唱えてくれた。
「う…ん?」
「「「ルマンド!」」」
「ルマンド殿下!」
口々にルマンドの名を呼ぶが、ルマンドはそっと目を開けると俺にだけ笑っておはようと言ってくれた。
******
「だから…まさか父上までいるとは思わなかったんです。わざわざ助けに来てくれて本当にありがとうございます」
森を転移魔法で脱出した後、俺達は揃って街へと入り今は宿へと向かっていた。
物凄く居心地が悪そうに俺に抱かれながらルマンドは傍らを歩く父王へと弁明を述べる。
でもよく考えればすぐにわかったことだ。
森の暗闇の中、暗視の補助魔法が掛かっていないのはルマンドだけだったのだから、自分の目の前にいる俺の姿しか見えなかったことだろう。
「それにしてもヒースは兎も角、ニックまで来てくれるなんて意外だったな」
「そうですか?私はルマンド殿下を諦めていないので助けに来るのは当然ですよ?」
「だから…俺はメイビスのところで働くんだってば」
「でも補佐のお仕事はお嫌いでしょう?すぐに片付くから暇だって前に言っていたじゃありませんか」
「それはそうだけど、ほら、騎士の指導とかも皇帝から頼まれてるし…」
「ルマンド殿下の剣の腕はこの間薄皮一枚ピュンピュン切り刻まれたのでよくよく知っていますがね、でもやっぱり勿体ないと思うんですよ。あれだけの多彩な補助魔法を使いこなせる方はそうそういないんですよ?最近の学生は上級魔法を使える方がカッコいいし偉いみたいな短絡的な者も多くてですね、本当に嫌になります。その点ルマンド殿下は勤勉だし興味のある事には積極的に飛び込んでものにしていく実行力まである!これは絶対魔法使いとして大成します!私が保障するのでもう一度よく考えて頂けませんか?これでもかなり真剣なお願いなんですよ?」
「はいはい」
「またそうやってすぐ流す…。だからいつまでもケインの真剣な気持ちに気づかなかったのでは?」
「グッ…お前どこまで知ってんの?」
「私の情報網を甘く見ないでください!…と言いたいところですが、ケインの場合はバレバレでしたから」
「そう言えば今回ケインは?」
珍しく来てないなとルマンドが首を傾げるが、ケインには例の王族達を見張っておくようヒースが指示を出し王も頷いたので今回は仕方がなかったのだ。
「今頃やきもきしながらお前の帰りを待ってるんじゃねぇか?」
ヒースがすまなさそうにそう口にする。
リモーネ妃からの頼みで断れなかったとはいえルマンドが攫われた責任の一端はヒースにあるから凄く気落ちしていた。
「後で謝らないとな。ヒースもゴメンな?こんなことに巻き込んで」
「いや。元はと言えば俺がお前を王宮から攫ったのが悪い」
「それなんだけど、母上だろ」
「え?」
「どうせレイクウッドのしきたりが~とか言って依頼したんじゃないのか?あの人本当にそう言うの大好きだから」
「う…悪ぃ……」
「いいって。気絶させられたのにはびっくりしたけど、母上から頼まれたらどうしようもないもんな」
そう。ルマンドは一切怒ることなくそう言ってヒースを許し、責めるどころか労わっていた。器が大きい。
「それより母上が絡んでるとなると、後でレイクウッドの王宮にも詳細の報告を入れないといけないだろうし、そっちが面倒だな…」
「それは私の方でやっておこう。王と王でやり取りをした方が片はすぐにつく。お前はこの件が片付いたらすぐにフォルクナーに帰って静養しておくといい」
「え?もう元気ですけど…?」
「ダメだダメだ。私は今回の件で本当に息が止まるかと思ったんだ。以前の時も寿命が縮んだし…もう私の寿命が尽きそうだ。頼むからお前は何も気にせず結婚の事だけ考えて安全な場所に居てくれ」
「え?でも……」
戸惑うルマンドに今度は俺が声を掛ける。
「いや、陛下の言うようにルマンドには安全なところに居て欲しい。今回の件は俺の婚約者になったせいで起こった可能性が高いから…」
王がルマンドにこう言ったのは例の宿での一件があるからだ。
あの姫は明らかに自分狙いだった。
ルマンドの話をした時の目が…あからさまな嫉妬を滲ませていたのだから。
それも含めてルマンドの父と今後の対応を考えていかないといけない。
フォルクナーの皇帝である父からも場合によっては警告を行ってもらう必要が出てくる。
事は重大だ。
「ん~…でも俺、今回の犯人には物凄く怒ってるから、おとなしくしてるつもりは全くないんだけど?」
「え?」
その言葉は物凄く意外なもので、その場にいた全員がルマンドの方へと思わず目を遣った。
「薬を盛って戦えない状況にして魔物の餌にされそうになってさ…俺、冒険者としての矜持を物凄く傷つけられたから、許す気はこれっぽっちもないから」
どうやらルマンドはかつてないほど立腹しているようで、殺気すら放っているように見えた。
「俺に…怒っていないのか?」
「え?なんで?」
「俺のせいで攫われたかもしれないのに…」
「別にメイビスは悪くないだろ?それにほら、これ」
そう言ってルマンドが笑って指輪を俺へと見せてくる。
「これのお陰で俺は冒険者として最悪の死を回避することができたんだ。だから…メイビスには感謝しかしてないよ。ありがとう」
「ルマンド……」
それは本当に心から俺を愛してると言ってくれているだけだと気づいていないのだろうか?
それ以外に守護の魔法が発動するすべはないというのに────。
「愛神レナローゼに心からの感謝を……」
そう言ってそっと愛しいルマンドの髪へと口づけを落とした。
この中で探すのは困難を極めるだろう。
けれどそれでも探さなければならない。
「仕方ないですね。全員に暗視の補助魔法を掛けて差し上げましょう」
意外にもここでまた活躍してくれたのがニックだった。
伊達に筆頭魔法使いではないらしい。
それよりもルマンドの父まで付いてきてしまったが大丈夫なのだろうか?
戦えるのかと心配になったが、そんなことを思ったのは一瞬だった。
『アクアランス!!』
国王は何気に強かったのだ。
どうもコーリックは武に力を入れる傾向があるようで、国王はこの年になっても剣の鍛錬も魔法の鍛錬も欠かさず行っていたらしい。
いざという時王族が民のために率先して戦わねばならないのだから、その時に戦えなければ意味がないだろうとキョトンとした表情で言われて、ああ、ルマンドの父親なんだなと妙に納得してしまった。
まさにこの親にしてこの子有りというやつだ。
そんな国王に負けじと俺もまた魔物を剣で切り裂き魔法で倒しながらルマンドを探す。
「ルマンド!居たら返事をしてくれ!」
そう声を掛けながら皆で探し回るが入り口あたりに居るわけではなさそうで、徐々に奥へ奥へと進んでいった。
そうして襲ってくる魔物を倒している時の事だった、東の方角から仲間を呼ぶウルフの遠吠えが聞こえてきたので嫌な予感がして、そちらへ行ってみようと言うことになった。
そしてそこで見つけたのは、何度もウルフに襲われているにもかかわらず無傷で横たわっているルマンドの姿だった。
暗い中ルマンドの指輪だけが仄かな光を発し、ルマンドの身を守っている。
どうやら守護魔法が発動しているようだ。
「ルマンド!!」
無事でよかった。やっと見つけたと駆け寄るもウルフの群れが邪魔過ぎて容易に近づけない。
「邪魔をするな!!」
『サークル・バーンナウト!』
ルマンドを囲むウルフの群れを呑み込むイメージで全て燃やし尽くせとばかりに魔法を発動させると、俺の意思を反映して炎が踊り狂い全てのウルフを一瞬で灰燼に帰してしまった。
ルマンドが見たらまたオーバーキルだと怒られそうだが、今はそんな叱る声でもなんでもいいから聞かせて欲しい。
「ルマンド…迎えに来たから、一緒に帰ろう?」
そっと抱き上げると身体は温かくて、ちゃんと生きているのだと安堵して涙が流れた。
そんな俺達にニックが近づいてきて、ルマンドの様子を確認してくれる。
「見事なまでに気持ちよさそうに寝てますね。睡眠香がきき過ぎたんでしょうか?」
そしてちょっと失礼と言ってディスペルの魔法を唱えてくれた。
「う…ん?」
「「「ルマンド!」」」
「ルマンド殿下!」
口々にルマンドの名を呼ぶが、ルマンドはそっと目を開けると俺にだけ笑っておはようと言ってくれた。
******
「だから…まさか父上までいるとは思わなかったんです。わざわざ助けに来てくれて本当にありがとうございます」
森を転移魔法で脱出した後、俺達は揃って街へと入り今は宿へと向かっていた。
物凄く居心地が悪そうに俺に抱かれながらルマンドは傍らを歩く父王へと弁明を述べる。
でもよく考えればすぐにわかったことだ。
森の暗闇の中、暗視の補助魔法が掛かっていないのはルマンドだけだったのだから、自分の目の前にいる俺の姿しか見えなかったことだろう。
「それにしてもヒースは兎も角、ニックまで来てくれるなんて意外だったな」
「そうですか?私はルマンド殿下を諦めていないので助けに来るのは当然ですよ?」
「だから…俺はメイビスのところで働くんだってば」
「でも補佐のお仕事はお嫌いでしょう?すぐに片付くから暇だって前に言っていたじゃありませんか」
「それはそうだけど、ほら、騎士の指導とかも皇帝から頼まれてるし…」
「ルマンド殿下の剣の腕はこの間薄皮一枚ピュンピュン切り刻まれたのでよくよく知っていますがね、でもやっぱり勿体ないと思うんですよ。あれだけの多彩な補助魔法を使いこなせる方はそうそういないんですよ?最近の学生は上級魔法を使える方がカッコいいし偉いみたいな短絡的な者も多くてですね、本当に嫌になります。その点ルマンド殿下は勤勉だし興味のある事には積極的に飛び込んでものにしていく実行力まである!これは絶対魔法使いとして大成します!私が保障するのでもう一度よく考えて頂けませんか?これでもかなり真剣なお願いなんですよ?」
「はいはい」
「またそうやってすぐ流す…。だからいつまでもケインの真剣な気持ちに気づかなかったのでは?」
「グッ…お前どこまで知ってんの?」
「私の情報網を甘く見ないでください!…と言いたいところですが、ケインの場合はバレバレでしたから」
「そう言えば今回ケインは?」
珍しく来てないなとルマンドが首を傾げるが、ケインには例の王族達を見張っておくようヒースが指示を出し王も頷いたので今回は仕方がなかったのだ。
「今頃やきもきしながらお前の帰りを待ってるんじゃねぇか?」
ヒースがすまなさそうにそう口にする。
リモーネ妃からの頼みで断れなかったとはいえルマンドが攫われた責任の一端はヒースにあるから凄く気落ちしていた。
「後で謝らないとな。ヒースもゴメンな?こんなことに巻き込んで」
「いや。元はと言えば俺がお前を王宮から攫ったのが悪い」
「それなんだけど、母上だろ」
「え?」
「どうせレイクウッドのしきたりが~とか言って依頼したんじゃないのか?あの人本当にそう言うの大好きだから」
「う…悪ぃ……」
「いいって。気絶させられたのにはびっくりしたけど、母上から頼まれたらどうしようもないもんな」
そう。ルマンドは一切怒ることなくそう言ってヒースを許し、責めるどころか労わっていた。器が大きい。
「それより母上が絡んでるとなると、後でレイクウッドの王宮にも詳細の報告を入れないといけないだろうし、そっちが面倒だな…」
「それは私の方でやっておこう。王と王でやり取りをした方が片はすぐにつく。お前はこの件が片付いたらすぐにフォルクナーに帰って静養しておくといい」
「え?もう元気ですけど…?」
「ダメだダメだ。私は今回の件で本当に息が止まるかと思ったんだ。以前の時も寿命が縮んだし…もう私の寿命が尽きそうだ。頼むからお前は何も気にせず結婚の事だけ考えて安全な場所に居てくれ」
「え?でも……」
戸惑うルマンドに今度は俺が声を掛ける。
「いや、陛下の言うようにルマンドには安全なところに居て欲しい。今回の件は俺の婚約者になったせいで起こった可能性が高いから…」
王がルマンドにこう言ったのは例の宿での一件があるからだ。
あの姫は明らかに自分狙いだった。
ルマンドの話をした時の目が…あからさまな嫉妬を滲ませていたのだから。
それも含めてルマンドの父と今後の対応を考えていかないといけない。
フォルクナーの皇帝である父からも場合によっては警告を行ってもらう必要が出てくる。
事は重大だ。
「ん~…でも俺、今回の犯人には物凄く怒ってるから、おとなしくしてるつもりは全くないんだけど?」
「え?」
その言葉は物凄く意外なもので、その場にいた全員がルマンドの方へと思わず目を遣った。
「薬を盛って戦えない状況にして魔物の餌にされそうになってさ…俺、冒険者としての矜持を物凄く傷つけられたから、許す気はこれっぽっちもないから」
どうやらルマンドはかつてないほど立腹しているようで、殺気すら放っているように見えた。
「俺に…怒っていないのか?」
「え?なんで?」
「俺のせいで攫われたかもしれないのに…」
「別にメイビスは悪くないだろ?それにほら、これ」
そう言ってルマンドが笑って指輪を俺へと見せてくる。
「これのお陰で俺は冒険者として最悪の死を回避することができたんだ。だから…メイビスには感謝しかしてないよ。ありがとう」
「ルマンド……」
それは本当に心から俺を愛してると言ってくれているだけだと気づいていないのだろうか?
それ以外に守護の魔法が発動するすべはないというのに────。
「愛神レナローゼに心からの感謝を……」
そう言ってそっと愛しいルマンドの髪へと口づけを落とした。
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