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第三部 アストラス編~竜の血脈~
21.婚約破棄の条件
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「どうしたものかしら…」
簡単にことは運ぶだろうと安直に思いアストラスへとやってきたものの、意外にもハインツは一筋縄ではいかなかった。
(誰よ。世間知らずで御し易いなんて言っていたのは!)
御し易いなどとんでもない。
ハインツは意外にも頑なだった。
『私の考えをご理解いただけないなら今すぐお帰りください』
そう言ってにっこり微笑まれた時はどうしてくれようかと思った。
自分の方が年上だし、国としては対等。
跡継ぎがすぐ欲しいアストラスからすれば、自分に対して大きくは出られないはずだし、ここで破談にでもなれば他国も旨味のないハインツの妻に手を上げようとは早々しないはずなのに─────。
「ふざけすぎですわ!」
まるで自分には魅力がないと言わんばかりのあの冷めた目が腹立たしくて仕方がない。
カルトリアの魅惑の姫とまで言われた自分の魅力が伝わらないのは、ハインツがお子様過ぎるせいだ。
「結婚して子をなしたらサッサと恋人を作ってやるわ」
そうでもしなければやっていられない。
あんな王子は願い下げだ。
どうせこのままいけばハインツがどう言おうと結婚は予定通り行われるのだ。
それならそれで現王妃のように恋人を作って夫とは最低限の付き合いで上手くやっていけばいいだけの話だ。
周囲はすでに味方につけた。
後は上手く彼らを煽って神輿を担ぐだけだ。
そう思いながら部屋を出て、今日も大臣達へと根回しを行う。
いつものように『ハインツ王子に冷たくされる可哀想な姫』をアピールすると、皆が皆同情的に見てくれる。
本当に呆気ないほど簡単に事が運んでいくから、後はどうハインツを王座に据えるかを考えるだけ…。
そうやって密かに内心でほくそ笑んでいると、突如通路の向こうが大きく騒めいた。
それを受けてそちらへと視線を向けると、ハインツ王子や王、外務大臣と共に黒髪の黒魔道士がやってくるのが見えた。
(あれは…)
一瞬クレイ王子かと思ったが、その瞳が碧眼だったことから違うと判断する。
彼は確か美しいアメジスト・アイの持ち主のはずだ。
それに、綺麗な顔立ちはしているもののその顔は王やハインツとは似ているとは思えなかった。
そして一行が目の前へとやってきたところでその黒魔道士は無礼にもハインツ王子の背を強く押し、前へと押し出した。
見るからにさっさとしろと言わんばかりの尊大な態度に驚きを隠せない。
一体この男は何様のつもりなのだろうか?
この態度からもしかしたら血の繋がらないと言う上の兄達の誰かなのかもしれないとちらりと思ったが、黒衣を着ていることから恐らくはただの黒魔道士だろうとも思えた。
現魔道士長は白魔道士と聞いているし、副魔道士長か何かだろうか?
いずれにせよ王族に対しこの行動が無礼千万にあたることは違いない。
けれどハインツはそれを無礼だと注意もせず、何事もなかったかのようにこちらへと話しかけてきた。
「ココ姫。ご機嫌麗しゅう」
(本当に軟弱でつまらない王子だこと)
部下にまで強く出れない王子などこれまで一度として見たことがない。
これで王宮魔道士達の頂点である魔道士長の座を望んでいるとは片腹痛いと言わざるを得ない。
やはりこの王子はコツさえつかめばいくらでも自分の思うように動くようになることだろう。
それまでの辛抱だ。
一先ずここは飛んで火にいる夏の虫…。
折角向こうから自分の元に来てくれたのだから、精々この状況を利用させてもらおうと気を取り直した。
「ハインツ王子。来てくださって嬉しいですわ」
そうして儚げに笑みを浮かべながらハインツの言葉の先を促す。
どうせいつものように冷たい言葉を口にしに来たであろうことは明白だ。
だがこの場にいる者達は殆どは既に自分の味方だ。
精々好きなだけ墓穴を掘ってその評価を下げてほしいものだとほくそ笑む。
そして事の成り行きを伺っていると、ハインツは何度か深呼吸をしたところで唐突にその言葉を口にして来た。
「不躾だとは重々承知の上ですが、今回の縁談はこの場にてなかったことにしていただきたい」
正直その言葉には開いた口が塞がらなかった。
まさかこんな大勢の前でそんな決定的に愚かな言葉を口にしてくるほどお子様だとは思いもよらなかったからだ。
本当に無能以外の何物でもないではないかと、思わず心の中で大笑いしてしまう。
それを言ってしまったら自分が圧倒的に不利になると考えなかったのだろうか?
今この場にいる者達は王を含めアストラスの重鎮ばかり。
当然国と国の繋がりを重視し、ハインツを諫めにかかることだろう。
いくらハインツが声高に婚約解消を訴えようと、それが叶う訳もない。
ただ暗愚な王子だと周知してしまう結果にしかならないと言うのに……。
「ハインツ王子…私のことをお気に召していただけていないのは感じておりましたが、こんな大勢の前でのその言いようには傷つきましたわ。私の何が不服なのでしょう?できる努力はなんでもさせていただきますから、どうぞお考え直し下さいませ」
どこまでも自分に有利な状況に笑いが込み上げてたまらないが、それをおくびにも出さず周囲の同情を買いにかかる。
目に涙を溜めて訴えればいいだけの簡単なこの状況を利用しない手はない。
自分の優位は揺らぐことはないと確信しながら心の中でハインツを馬鹿にしまくった。
けれどハインツはそんな状況にも関わらず、何かを決意したかのようにここでも一歩も引かなかった。
強情だ。
「この婚姻の目的は子を成すこと。申し訳ないが、私のような子供では姫の魅力がわからずそもそも抱こうという気になれない。それでは本末転倒なので、この婚約はこのまま白紙にさせて頂きたい。カルトリア王には謝罪の文をしたためさせていただき取り決められた違約金をきちんと支払わせて頂きますので」
その言葉に衝撃が走る。
これは駆け引きなどと言うこれまでのものとは違うのだと、はっきりとわかったからだ。
まさかここまで取り付く島もなくきっぱりと拒否されるとは思ってもみなかった。
なんだかんだと隙をつけばいつものように自分優位に事が運ぶと思っていた。
けれど今日のハインツは断固としてその姿勢を変えようとはしなかった。
まさに完全拒否────。
そんな態度に知らず怒りで身が震えてしまう。
望まれて婚約したと言うのにまさかこんな屈辱を味わわされるとは思ってもみなかった。
特に抱く気になれないなどと言われたのはかなり屈辱的だった。
たとえ本人が未熟なせいでと口にしようと、魅力を感じないから結婚しないと言われたのには変わりがない。
蝶よ花よと賛美を受けながら育った自分だ。
その言葉はとても許せるものではなかった。
それにしてもハインツはどうしていきなりこんな行動に出たのだろうか?
ここ数日で見る限り、強情ではあるがこうして強気に婚約解消を口にするような性格ではなかったように見えたのだが……。
はっきり言ってここまで強硬な姿勢に出たのはハインツの後ろにいる黒魔道士が何かを吹き込んだせいではないだろうなと疑いたくなった程だ。
この男は一体何者なのだろうか?
そもそもおかしいではないか。
これまですべてが上手くいっていた。
足元をしっかりと固め周囲も動くに動けない状況へと持ち込みハインツはある意味孤立無援状態だった。
だからこそ本来ならここでハインツを諫め宥める者がいてもおかしくはないはずだ。
けれど現状周囲の目は思ったほどには自分を助けてくれそうにはない。
何か言いたげにはすれども、王と黒魔道士をちらちらと見遣り様子を窺っているだけだ。
これは一体何故なのか……?
「……もうどうあってもお考えは変わりませんの?」
ダメ元でそう尋ねるが、ハインツの決意は固いらしく力強く頷いてきた。
周囲から反対意見なども出そうにはない。
その状況に背に冷たい汗が滑り落ちる。
それ即ち、婚約解消は決定的────ということ。
自分が有利だったはずの形勢は一気に逆転してしまった。
これは非常にまずい。
こうなれば父王に合わせる顔がない。
たとえ違約金を払ってもらえたとしても自分が婚約を破棄されてしまった事実はどこまでも付き纏う。
これでは自分の幸せな未来はほぼ潰えたと言っても過言ではないだろうし、父から結婚を断られる無能と言われてもおかしくはない。
それは流石にプライドが許さなかった。
「……突然そんな風に強硬な手段に出られたのは、もしやそこにいる黒魔道士のせいなのですか?」
何者かは知らないが恐らくそうだろうと思いながら低く尋ねると、ハインツは小さく頷きながらも自分の意思だと言った。
「彼は切っ掛けをくれたに過ぎない。私は自分の将来の相手は自分で決めたいと思う。こちらの勝手は重々承知なので、姫には謝罪を込めて精一杯の侘びの品を贈らせて頂きたいと思いますし、他のお相手をお望みであればできる限り条件の合うお相手を探せるよう手を尽くさせていただきますので」
結婚相手含め望むものはできるだけ用意すると言われたが、正直言ってそんな言葉をいくら貰っても父王からの叱責は免れないし、傷つけられた自分のプライドがハインツを許すなと叫んでいる。
それならばここで思い切り自分の溜飲を下げようと思った。
絶対にできない条件を突きつけ、困り果てたところで嘲笑いながら決して断れない厳しい条件をこれでもかと突き付けてやるのだ。
今回の事はそれくらいしてやってもいいくらいの出来事だろう。
(アストラスの国益を最大限むしり取ってやりますわ…!)
アストラスで採掘されるルビーやサファイアなどの鉱石はじめ、水晶の谷の利権など考えられる限りの利を奪いつくしてやると考えを纏め、絶対に無理な条件を無知で愚かな男へと笑顔で言い放ってやった。
「わかりましたわ。では…ハインツ様とそこの黒魔道士の方にひと月ほど、魔の森で生活して頂きたく」
その言葉にざわりと周囲がどよめくのを感じるが、それも当然のことだ。
カルトリアに於ける魔の森と言えば周辺諸国に知れ渡るほど有名なのだ。
強大な力を持つ魔物が多く住むそんな場所に世間知らずの王子を放り込めばたちまち困窮し、とても生きて帰れはしない。
それ故に、今の言葉は死にに行けと言ったも同然の言葉だった。
これでこちらの怒りの程は伝わることだろう。
そこに戦える黒魔道士を含めても『生活しろ』という条件をつけているため、多少長く生きながらえるようになるくらいのもので、それは誤差範囲にしかならない。
ハインツやこの黒魔道士が森で食料が調達できるとは到底思えないし、魔物を狩れても食べられるとは限らない。
食べられなければ後は揃って衰弱し死んでいくしかない。
黒魔道士は兎も角として、温室育ちの王子にその恐怖はとても耐えられるものではない。
そんなことは少し考えれば誰にでもわかることだ。
さて、この条件を突きつけられてこの馬鹿な王子は何と答えてくるだろうか?
誠意を見せるというのなら見せてみろとこの二人に言ってやりたかった。
どうせそんなことなどできはしないのだから……。
みっともなく『条件を変えてくれ』とこの場で自分へと縋ってくればいい。
臣下にみっともない姿を晒し、自分と同じくらいそのプライドがズタズタになればいい。
そこでこちらに有利な条件をこれでもかと突きつけて絶望に突き落としてやろう。そう思った。
自分の愚かな行動が国を潰すのだとせせら笑ってやりたかった。
けれどそこで後ろの黒魔道士が唐突に口を開いた。
「なんだ。それくらいならなんてことはないな。良かったな、ハインツ」
「クレイ…」
その言葉に思わず大きく目を見開く。
ハインツの口から飛び出した名はそれほどあり得ないものだったのだ。
驚きに思わず固まっていると、ハインツが黒魔道士の方をホッとしたように見つめた。
「この間の茶器が早速役に立ちそうだな。ジークに話せばひと月くらい置いてもらえるだろうし、仕事も眷属経由であちらに届けさせれば困らないだろう?」
「それはそうだけど、ロックウェル様が嫉妬しない?」
「もうこれ以上ないくらい仲が良いから問題ないぞ?どうせ夜は来てもらうし、なんの問題もない」
「そう?それなら良いけど…」
「じゃあ早速ジークに連絡を取ってやるから待ってろ」
そんな言葉に心臓がバクバクと激しく鳴り始める。
彼は誰と話すと言っているのだろう?
嫌な予感がするのは気のせいだろうか?
「あ、ジーク?俺だ」
そうして幻影魔法の向こうに映し出されたのは、自国で魔王と恐れられる煉獄の魔王 ジーク=バロン=ファイア そのものだった─────。
自分は実際に会ったことはないが、噂通りのがっしりした体躯に精悍な顔。少し褐色がかった髪に灼熱の炎を宿したような赤い瞳を持つ男は紛れもなくその存在感からしてまず魔王本人に間違いはなさそうに見えた。
そんな彼がハインツがクレイと呼び掛けた黒魔道士へと気さくに声を掛ける。
「クレイ!どうした?またロックウェルと喧嘩したのか?」
「するわけないだろう?お前とレノヴァ以上に仲良しだぞ?」
「なんだ残念。それじゃあ、いつ遊びに行くかの相談か?」
「いや。カルトリアの姫がハインツとの婚約白紙条件に、ひと月くらい魔の森で暮らせと言ってきたんだ。俺は魔物達と戯れ放題で嬉しいんだが、ハインツは仕事もあるだろう?だからこの間の部屋に泊まらせてもらえないかと思って」
「もちろんいいぞ!クレイは恩人だからな。好きなだけ滞在していってくれ。魔物達も喜ぶ」
「助かる。じゃあまた詳細が決まったら連絡を入れるから」
「わかった。クレイが好きな料理を用意して待ってる」
気安く話すこの二人は一体なんなのだろう?
今話に出たレノヴァと言うのは数多の優秀な冒険者達を屠ったと言われている、あの皆殺しのレノヴァ=ヴィンセントではないだろうか?
人をなんとも思わぬ冷酷非道の悪魔と恐れられるその魔物が、何故クレイを屠っていないのか?
恩人とは一体?
それよりも、自分はもしやとんでもないことを条件にしてしまったのではないだろうか?
クレイが魔王と親しいと言うのなら────今回の事で自国にとって不利になることもあるのではないか?
ここで頭を過ぎったのはサティクルド国のこと…。
クレイは敵対する国を潰せる男ではなかっただろうか?
魔王の側にクレイがついているということはそれ即ち……。
そうして蒼白になっているところで、唐突に話しかけられた。
「話はついた。俺とハインツがひと月、魔の森で暮らせばいいんだったよな?」
その言葉にびくりと肩が跳ねてしまう。
先程まで自分の味方だったはずの大臣達は、この条件を出した時点で味方ではなくなってしまっていた。
最早この場で自分にできることは何一つない。
精々国に帰ってから悲劇のヒロイン宜しく、アストラスでひどい目にあったと言いふらすのが関の山だろう。
場合によっては父王からの叱責は先程以上のものとなり、最悪王宮内に自分の居場所すらなくなってしまうかもしれない。
それを考えると悔しくて、気づけばクレイを思い切り睨みつけている自分がいた。
(何故こんなことになったの?!この男さえいなければ全て上手く事が運べたはずなのに……!)
自分は一体何を間違ったのだろう?
いや、そもそもクレイは王宮のことになど関心がなかったのではないのか?
カルトリアに来たのはもしや裏から手を回しこうすることを狙っていたとでも言うのだろうか?
優秀な黒魔道士だとは聞いてはいたが、自分からすれば悪魔のような男だと思った。
こんな男にいいように踊らされるなんて悔しくて仕方がない。
だからその気持ちそのままに、つい悪し様に罵っている自分がいた。
「悔しい!お前を永久的に国外追放にするよう願えば良かった!」
けれど言われた当の本人は、実にあっけらかんと言い放った。
「別に俺はそれでも構わないぞ?黒魔道士は基本的に自由だからな。国に縛られることもない。今はソレーユの仕事の方が楽しいし、この国を出ろと言うならそっちに住めばいいだけの話だ」
けれどその答えに焦ったのは周囲の者達だった。
「クレイ様!お戯れを!」
「そうです!どうしてみすみすソレーユにクレイ様を渡す必要が?!」
「え?いや。ちょうどミシェル王子が面白い話を持って来てくれてるし、黒魔道士の仕事と合わせてもっと開発の仕事を手伝いたいなって…」
「開発?!それなら至急こちらにも研究室を作らせますので…!」
「いや、わざわざ作る必要はないだろう?あっちの方が楽しそうだから無理に作らなくても俺が向こうに住めば何も問題は…」
「いいえ!そうだ、別荘なら国内に作れば良いではありませんか!トルテッティとの国境寄りに水晶を多く産出する山と谷がありまして、その近くに湖もあるのですよ!そこに別荘を作られては?静かな場所ですし、きっと気に入るはずです!」
「水晶か。…いいな。じゃあ後で詳しい場所を教えてくれ。即金で土地を買って、別荘自体は眷属に頼んで作らせるから」
そうやって乗り気になったクレイにホッと胸をなで下ろす面々が腹立たしい。
きっとこの男はいつだってこんな風に周囲を振り回しマイペースに過ごしているのだろう。
何の苦労も知らず、その能力の高さに胡坐をかき、地位を利用していつだって周囲を見下しているのだ。
これならきっとどんな条件を突きつけたとしても無駄だったことだろう。
それならそれで全力で戦うまでだ。
「……そうしてチヤホヤされるのも今のうちよ。こんなに侮辱されたのは初めてだわ!覚えてなさい!」
こうなったら戦争だと言ってやると、周囲の者達が一斉に口を噤み、こちらへと胡乱な眼差しを向けてくる。
けれどそんな状況にもかかわらずクレイはこともなげに言い切った。
「悪いがアストラスの国境には今特殊な結界を張っている。攻める気ならやめておけとしか言えないぞ?」
「何を馬鹿なことを」
自分は普通にこの国に入れたし、魔道士だってそれは同じだ。
商人だって行き来している。
そんなハッタリを聞くはずがないではないか。
クレイは甘く見ているようだが、カルトリアの冒険者達の強さは相当のものだ。
国が抱える魔道士達にも声を掛けて万全の態勢で攻め込んでみせる。
「帰ります」
そうして憎悪に身を焦がしながら毅然と踵を返した。
***
カルトリアの姫が去った場に沈黙が落ちる。
「クレイ、結界とは?聞いていないのだが?」
そんな中、王が遠慮しながらも尋ねてきたので『言ってないからな』と答えてやった。
「サティクルドみたいに不穏な輩が何かしてきたら父様やロックウェルが困ると思って、あからさまに敵意を感じさせる輩が入ってきたら魔法が発動するよう結界を張っておいたんだ」
国の為と言うよりは身内のために勝手にやったことなので元々言う気はなかったのだ。
大体からしてこちらは王宮魔道士でもなんでもない一介の黒魔道士だ。
報告の義務はない。
「そ、そうか。ちなみにこれまでにぎせ…いや、不幸に見舞われた輩は…?」
「…アキオス側の街道で、山賊がこちら側まで商人を追いかけてきた時にちょっと死にかけたくらいじゃないか?まあ商人は無事だったようだし、問題はない」
魔法が発動すると同時に情報は自分に来るようになっているので、今のところ特に問題が起こっていないのは確かだ。
それにしてもどうして王はこれほど気にしているのだろう?
不利益がなければ大丈夫だろうと思っていたのだが、何かマズかったのだろうか?
国のことについては全くわからないので、何かマズいのかロックウェルに一度確認した方がいいかもしれない。
「そ、そうか。因みにカルトリアが本気で攻めてきたらどうするつもりだ?」
「…?サティクルドの時みたいにしてもいいし、さっきのジークに頼んでおけば予め殲滅しておいてくれると思うぞ?店とかは食べ物を食べたいから勝手に攻撃しないでくれと言っておいたが、冒険者はどうでもいいからな。頼めばすぐに倒してくれるんじゃないか?」
こうは言ったがジークに手伝ってもらう気は更々ない。
そもそも攻めてこられたら迎え撃てばいいだけの話なのに何を言っているのか。
それこそ自分一人で事足りることだし、全員捕らえてしまえば特に問題もないのだから大げさに騒ぐ必要などないだろうに。
不用意に殺す気もないから、心配することがあるとするなら牢の空き状況くらいのものではないだろうか?
「クレイ…ちなみにジークと言うのは?」
「カルトリアの魔王で、俺の友人だ」
「そうか。こ、心強い友人だな」
そんな言葉に思わず笑みがこぼれ落ちる。
友人を褒めてもらえるのは素直に嬉しかった。
「そうだろう?俺と一緒で魔物達を家族同然って感じで可愛がってて、すごく優しい奴なんだ。さっきも急な滞在依頼だったのに嫌な顔ひとつしなかっただろう?本当にいい奴で……」
「そうか。お前の交友関係には口出しする気はないが、何かしでかす前にちゃんとロックウェルかドルトに相談するんだぞ?」
そうやって一応の配慮を見せてくれるようになった王に満足げに頷いてこれで用は済んだなと帰ろうとしたのだが、そこで王が首を傾げながら尋ねてきた。
「そう言えばラピスの姿が見えないようだが、迷子になっておらんだろうな?」
「え…」
そう言えばと眷属に尋ねると、ちゃんと自分達と一緒にいると言ってくれた。
それに対してホッとしていると王が徐に声を上げた。
「クレイ。ハインツの子もそうだが、お前の子も抱いてみたい。構わないか?」
「え?」
「初孫だ。少しくらい良いではないか」
そう言うものなのだろうか?
正直よくわからないが、可愛がってくれるのならまあいいかと思い、ラピスを呼んでやった。
「ラピス。王がお前を抱っこしたいと言っているんだが、構わないか?」
【うん!】
その言葉と同時にラピスが王の前に立ち、にっこりと笑った。
【王様。どうぞ!】
(可愛い!)
「クレイそっくりな癖に愛くるしく笑うのぉ!性格は社交的なロックウェルに似たのか?」
良かった良かったと言ってラピスを抱き上げた国王に『性格が悪くて悪かったな』と思いながらも、ロックウェルとラピスを褒められたのは嬉しくて何も言えなくなった。
最近この王もだいぶ自分の扱いがわかってきたらしく、たまにこうして何も言えない状態にさせられる。
成長したものだ。
そうしてなんとも言えない空気で見守っていると、大臣達がにこやかに話しかけてきた。
「見たところ魔物の子ですか?クレイ様そっくりのようですが」
「いや、しかしこの少し銀が混じったような色合いの髪を見るに、ロックウェル様にも似ておられるのでは?」
「クレイ様なら魔法で子をなしてもおかしくありませんからな。いや、これでレイン家も跡継ぎができてドルト殿も安心されたでしょう」
そんな好意的な言葉の数々に嬉しい気持ちになる。
そしてそう言われればラピスはレイン家の跡継ぎにはなれるなと思い至った。
これは正直盲点だった。
現状レイン家の養子であるルッツが王宮に引き取られればレイン家の後を継ぐ者はいなくなる。
けれどラピスが代わりに後を継いでくれると言うのなら────もしそうなってくれたらどれほど嬉しいだろう?
レイン家が潰れずに済むのならこれほど喜ばしいことはない。
これは一度ドルトやロックウェルと話してみてもいいかもしれないなと非常に明るい気持ちになった。
「そう言ってもらえたら嬉しい。そうだ。久し振りに王宮に来たことだし、何か手を貸せることがあればついでに済ませようか?何もなければ別にいいが…」
「…………!嬉しゅうございます!ささ、どうぞこちらへ!すぐに取りまとめて参りますので、お茶でも飲んでお寛ぎ下さい!」
浮かれた気持ちで気まぐれにそんな提案をしたのが悪かったのか、あっという間に囲まれ途端に居心地が悪くなった。
最近王宮に来たくない理由の一つとして、こう言うところが苦手というのが一番大きな理由だった。
王の子と言う立場は本当に面倒臭いと思う。
黒魔道士に内心嫌悪感を持っている者や王の庶子に良い感情を持たない者も王宮の中にいるにはいるが、現状それを表立って口にする者はいない。
王が認め、ハインツ同様に目を掛けて可愛がっている上、大貴族レイン家の養子且つ魔道士長ロックウェルの配偶者だ。
その絶対的な後ろ盾に加え、周辺諸国にその実力も認められていることから評価が上がることはあっても下がることはない。
だからこそ批判的な者よりもこうしてチヤホヤしてくる輩が増えてしまい、結果的に王宮から自分の足が遠のくということに繋がったのだが────。
「堅苦しいのは…」
「ではロックウェル様のところでお待ちいただいていても構いません。どうぞお好きな場所でお寛ぎを」
「そうか」
それならロックウェルの仕事の進捗状況でも見に行こうかなと思い、そちらへと移動することにした。
絶対にその方が気が楽だ。
こんな息苦しい場所にいつまでも居たくはない。
「ラピス、行くぞ」
【うん!】
そうして素早く戻って来たラピスを連れて影を渡ったのだった。
簡単にことは運ぶだろうと安直に思いアストラスへとやってきたものの、意外にもハインツは一筋縄ではいかなかった。
(誰よ。世間知らずで御し易いなんて言っていたのは!)
御し易いなどとんでもない。
ハインツは意外にも頑なだった。
『私の考えをご理解いただけないなら今すぐお帰りください』
そう言ってにっこり微笑まれた時はどうしてくれようかと思った。
自分の方が年上だし、国としては対等。
跡継ぎがすぐ欲しいアストラスからすれば、自分に対して大きくは出られないはずだし、ここで破談にでもなれば他国も旨味のないハインツの妻に手を上げようとは早々しないはずなのに─────。
「ふざけすぎですわ!」
まるで自分には魅力がないと言わんばかりのあの冷めた目が腹立たしくて仕方がない。
カルトリアの魅惑の姫とまで言われた自分の魅力が伝わらないのは、ハインツがお子様過ぎるせいだ。
「結婚して子をなしたらサッサと恋人を作ってやるわ」
そうでもしなければやっていられない。
あんな王子は願い下げだ。
どうせこのままいけばハインツがどう言おうと結婚は予定通り行われるのだ。
それならそれで現王妃のように恋人を作って夫とは最低限の付き合いで上手くやっていけばいいだけの話だ。
周囲はすでに味方につけた。
後は上手く彼らを煽って神輿を担ぐだけだ。
そう思いながら部屋を出て、今日も大臣達へと根回しを行う。
いつものように『ハインツ王子に冷たくされる可哀想な姫』をアピールすると、皆が皆同情的に見てくれる。
本当に呆気ないほど簡単に事が運んでいくから、後はどうハインツを王座に据えるかを考えるだけ…。
そうやって密かに内心でほくそ笑んでいると、突如通路の向こうが大きく騒めいた。
それを受けてそちらへと視線を向けると、ハインツ王子や王、外務大臣と共に黒髪の黒魔道士がやってくるのが見えた。
(あれは…)
一瞬クレイ王子かと思ったが、その瞳が碧眼だったことから違うと判断する。
彼は確か美しいアメジスト・アイの持ち主のはずだ。
それに、綺麗な顔立ちはしているもののその顔は王やハインツとは似ているとは思えなかった。
そして一行が目の前へとやってきたところでその黒魔道士は無礼にもハインツ王子の背を強く押し、前へと押し出した。
見るからにさっさとしろと言わんばかりの尊大な態度に驚きを隠せない。
一体この男は何様のつもりなのだろうか?
この態度からもしかしたら血の繋がらないと言う上の兄達の誰かなのかもしれないとちらりと思ったが、黒衣を着ていることから恐らくはただの黒魔道士だろうとも思えた。
現魔道士長は白魔道士と聞いているし、副魔道士長か何かだろうか?
いずれにせよ王族に対しこの行動が無礼千万にあたることは違いない。
けれどハインツはそれを無礼だと注意もせず、何事もなかったかのようにこちらへと話しかけてきた。
「ココ姫。ご機嫌麗しゅう」
(本当に軟弱でつまらない王子だこと)
部下にまで強く出れない王子などこれまで一度として見たことがない。
これで王宮魔道士達の頂点である魔道士長の座を望んでいるとは片腹痛いと言わざるを得ない。
やはりこの王子はコツさえつかめばいくらでも自分の思うように動くようになることだろう。
それまでの辛抱だ。
一先ずここは飛んで火にいる夏の虫…。
折角向こうから自分の元に来てくれたのだから、精々この状況を利用させてもらおうと気を取り直した。
「ハインツ王子。来てくださって嬉しいですわ」
そうして儚げに笑みを浮かべながらハインツの言葉の先を促す。
どうせいつものように冷たい言葉を口にしに来たであろうことは明白だ。
だがこの場にいる者達は殆どは既に自分の味方だ。
精々好きなだけ墓穴を掘ってその評価を下げてほしいものだとほくそ笑む。
そして事の成り行きを伺っていると、ハインツは何度か深呼吸をしたところで唐突にその言葉を口にして来た。
「不躾だとは重々承知の上ですが、今回の縁談はこの場にてなかったことにしていただきたい」
正直その言葉には開いた口が塞がらなかった。
まさかこんな大勢の前でそんな決定的に愚かな言葉を口にしてくるほどお子様だとは思いもよらなかったからだ。
本当に無能以外の何物でもないではないかと、思わず心の中で大笑いしてしまう。
それを言ってしまったら自分が圧倒的に不利になると考えなかったのだろうか?
今この場にいる者達は王を含めアストラスの重鎮ばかり。
当然国と国の繋がりを重視し、ハインツを諫めにかかることだろう。
いくらハインツが声高に婚約解消を訴えようと、それが叶う訳もない。
ただ暗愚な王子だと周知してしまう結果にしかならないと言うのに……。
「ハインツ王子…私のことをお気に召していただけていないのは感じておりましたが、こんな大勢の前でのその言いようには傷つきましたわ。私の何が不服なのでしょう?できる努力はなんでもさせていただきますから、どうぞお考え直し下さいませ」
どこまでも自分に有利な状況に笑いが込み上げてたまらないが、それをおくびにも出さず周囲の同情を買いにかかる。
目に涙を溜めて訴えればいいだけの簡単なこの状況を利用しない手はない。
自分の優位は揺らぐことはないと確信しながら心の中でハインツを馬鹿にしまくった。
けれどハインツはそんな状況にも関わらず、何かを決意したかのようにここでも一歩も引かなかった。
強情だ。
「この婚姻の目的は子を成すこと。申し訳ないが、私のような子供では姫の魅力がわからずそもそも抱こうという気になれない。それでは本末転倒なので、この婚約はこのまま白紙にさせて頂きたい。カルトリア王には謝罪の文をしたためさせていただき取り決められた違約金をきちんと支払わせて頂きますので」
その言葉に衝撃が走る。
これは駆け引きなどと言うこれまでのものとは違うのだと、はっきりとわかったからだ。
まさかここまで取り付く島もなくきっぱりと拒否されるとは思ってもみなかった。
なんだかんだと隙をつけばいつものように自分優位に事が運ぶと思っていた。
けれど今日のハインツは断固としてその姿勢を変えようとはしなかった。
まさに完全拒否────。
そんな態度に知らず怒りで身が震えてしまう。
望まれて婚約したと言うのにまさかこんな屈辱を味わわされるとは思ってもみなかった。
特に抱く気になれないなどと言われたのはかなり屈辱的だった。
たとえ本人が未熟なせいでと口にしようと、魅力を感じないから結婚しないと言われたのには変わりがない。
蝶よ花よと賛美を受けながら育った自分だ。
その言葉はとても許せるものではなかった。
それにしてもハインツはどうしていきなりこんな行動に出たのだろうか?
ここ数日で見る限り、強情ではあるがこうして強気に婚約解消を口にするような性格ではなかったように見えたのだが……。
はっきり言ってここまで強硬な姿勢に出たのはハインツの後ろにいる黒魔道士が何かを吹き込んだせいではないだろうなと疑いたくなった程だ。
この男は一体何者なのだろうか?
そもそもおかしいではないか。
これまですべてが上手くいっていた。
足元をしっかりと固め周囲も動くに動けない状況へと持ち込みハインツはある意味孤立無援状態だった。
だからこそ本来ならここでハインツを諫め宥める者がいてもおかしくはないはずだ。
けれど現状周囲の目は思ったほどには自分を助けてくれそうにはない。
何か言いたげにはすれども、王と黒魔道士をちらちらと見遣り様子を窺っているだけだ。
これは一体何故なのか……?
「……もうどうあってもお考えは変わりませんの?」
ダメ元でそう尋ねるが、ハインツの決意は固いらしく力強く頷いてきた。
周囲から反対意見なども出そうにはない。
その状況に背に冷たい汗が滑り落ちる。
それ即ち、婚約解消は決定的────ということ。
自分が有利だったはずの形勢は一気に逆転してしまった。
これは非常にまずい。
こうなれば父王に合わせる顔がない。
たとえ違約金を払ってもらえたとしても自分が婚約を破棄されてしまった事実はどこまでも付き纏う。
これでは自分の幸せな未来はほぼ潰えたと言っても過言ではないだろうし、父から結婚を断られる無能と言われてもおかしくはない。
それは流石にプライドが許さなかった。
「……突然そんな風に強硬な手段に出られたのは、もしやそこにいる黒魔道士のせいなのですか?」
何者かは知らないが恐らくそうだろうと思いながら低く尋ねると、ハインツは小さく頷きながらも自分の意思だと言った。
「彼は切っ掛けをくれたに過ぎない。私は自分の将来の相手は自分で決めたいと思う。こちらの勝手は重々承知なので、姫には謝罪を込めて精一杯の侘びの品を贈らせて頂きたいと思いますし、他のお相手をお望みであればできる限り条件の合うお相手を探せるよう手を尽くさせていただきますので」
結婚相手含め望むものはできるだけ用意すると言われたが、正直言ってそんな言葉をいくら貰っても父王からの叱責は免れないし、傷つけられた自分のプライドがハインツを許すなと叫んでいる。
それならばここで思い切り自分の溜飲を下げようと思った。
絶対にできない条件を突きつけ、困り果てたところで嘲笑いながら決して断れない厳しい条件をこれでもかと突き付けてやるのだ。
今回の事はそれくらいしてやってもいいくらいの出来事だろう。
(アストラスの国益を最大限むしり取ってやりますわ…!)
アストラスで採掘されるルビーやサファイアなどの鉱石はじめ、水晶の谷の利権など考えられる限りの利を奪いつくしてやると考えを纏め、絶対に無理な条件を無知で愚かな男へと笑顔で言い放ってやった。
「わかりましたわ。では…ハインツ様とそこの黒魔道士の方にひと月ほど、魔の森で生活して頂きたく」
その言葉にざわりと周囲がどよめくのを感じるが、それも当然のことだ。
カルトリアに於ける魔の森と言えば周辺諸国に知れ渡るほど有名なのだ。
強大な力を持つ魔物が多く住むそんな場所に世間知らずの王子を放り込めばたちまち困窮し、とても生きて帰れはしない。
それ故に、今の言葉は死にに行けと言ったも同然の言葉だった。
これでこちらの怒りの程は伝わることだろう。
そこに戦える黒魔道士を含めても『生活しろ』という条件をつけているため、多少長く生きながらえるようになるくらいのもので、それは誤差範囲にしかならない。
ハインツやこの黒魔道士が森で食料が調達できるとは到底思えないし、魔物を狩れても食べられるとは限らない。
食べられなければ後は揃って衰弱し死んでいくしかない。
黒魔道士は兎も角として、温室育ちの王子にその恐怖はとても耐えられるものではない。
そんなことは少し考えれば誰にでもわかることだ。
さて、この条件を突きつけられてこの馬鹿な王子は何と答えてくるだろうか?
誠意を見せるというのなら見せてみろとこの二人に言ってやりたかった。
どうせそんなことなどできはしないのだから……。
みっともなく『条件を変えてくれ』とこの場で自分へと縋ってくればいい。
臣下にみっともない姿を晒し、自分と同じくらいそのプライドがズタズタになればいい。
そこでこちらに有利な条件をこれでもかと突きつけて絶望に突き落としてやろう。そう思った。
自分の愚かな行動が国を潰すのだとせせら笑ってやりたかった。
けれどそこで後ろの黒魔道士が唐突に口を開いた。
「なんだ。それくらいならなんてことはないな。良かったな、ハインツ」
「クレイ…」
その言葉に思わず大きく目を見開く。
ハインツの口から飛び出した名はそれほどあり得ないものだったのだ。
驚きに思わず固まっていると、ハインツが黒魔道士の方をホッとしたように見つめた。
「この間の茶器が早速役に立ちそうだな。ジークに話せばひと月くらい置いてもらえるだろうし、仕事も眷属経由であちらに届けさせれば困らないだろう?」
「それはそうだけど、ロックウェル様が嫉妬しない?」
「もうこれ以上ないくらい仲が良いから問題ないぞ?どうせ夜は来てもらうし、なんの問題もない」
「そう?それなら良いけど…」
「じゃあ早速ジークに連絡を取ってやるから待ってろ」
そんな言葉に心臓がバクバクと激しく鳴り始める。
彼は誰と話すと言っているのだろう?
嫌な予感がするのは気のせいだろうか?
「あ、ジーク?俺だ」
そうして幻影魔法の向こうに映し出されたのは、自国で魔王と恐れられる煉獄の魔王 ジーク=バロン=ファイア そのものだった─────。
自分は実際に会ったことはないが、噂通りのがっしりした体躯に精悍な顔。少し褐色がかった髪に灼熱の炎を宿したような赤い瞳を持つ男は紛れもなくその存在感からしてまず魔王本人に間違いはなさそうに見えた。
そんな彼がハインツがクレイと呼び掛けた黒魔道士へと気さくに声を掛ける。
「クレイ!どうした?またロックウェルと喧嘩したのか?」
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「なんだ残念。それじゃあ、いつ遊びに行くかの相談か?」
「いや。カルトリアの姫がハインツとの婚約白紙条件に、ひと月くらい魔の森で暮らせと言ってきたんだ。俺は魔物達と戯れ放題で嬉しいんだが、ハインツは仕事もあるだろう?だからこの間の部屋に泊まらせてもらえないかと思って」
「もちろんいいぞ!クレイは恩人だからな。好きなだけ滞在していってくれ。魔物達も喜ぶ」
「助かる。じゃあまた詳細が決まったら連絡を入れるから」
「わかった。クレイが好きな料理を用意して待ってる」
気安く話すこの二人は一体なんなのだろう?
今話に出たレノヴァと言うのは数多の優秀な冒険者達を屠ったと言われている、あの皆殺しのレノヴァ=ヴィンセントではないだろうか?
人をなんとも思わぬ冷酷非道の悪魔と恐れられるその魔物が、何故クレイを屠っていないのか?
恩人とは一体?
それよりも、自分はもしやとんでもないことを条件にしてしまったのではないだろうか?
クレイが魔王と親しいと言うのなら────今回の事で自国にとって不利になることもあるのではないか?
ここで頭を過ぎったのはサティクルド国のこと…。
クレイは敵対する国を潰せる男ではなかっただろうか?
魔王の側にクレイがついているということはそれ即ち……。
そうして蒼白になっているところで、唐突に話しかけられた。
「話はついた。俺とハインツがひと月、魔の森で暮らせばいいんだったよな?」
その言葉にびくりと肩が跳ねてしまう。
先程まで自分の味方だったはずの大臣達は、この条件を出した時点で味方ではなくなってしまっていた。
最早この場で自分にできることは何一つない。
精々国に帰ってから悲劇のヒロイン宜しく、アストラスでひどい目にあったと言いふらすのが関の山だろう。
場合によっては父王からの叱責は先程以上のものとなり、最悪王宮内に自分の居場所すらなくなってしまうかもしれない。
それを考えると悔しくて、気づけばクレイを思い切り睨みつけている自分がいた。
(何故こんなことになったの?!この男さえいなければ全て上手く事が運べたはずなのに……!)
自分は一体何を間違ったのだろう?
いや、そもそもクレイは王宮のことになど関心がなかったのではないのか?
カルトリアに来たのはもしや裏から手を回しこうすることを狙っていたとでも言うのだろうか?
優秀な黒魔道士だとは聞いてはいたが、自分からすれば悪魔のような男だと思った。
こんな男にいいように踊らされるなんて悔しくて仕方がない。
だからその気持ちそのままに、つい悪し様に罵っている自分がいた。
「悔しい!お前を永久的に国外追放にするよう願えば良かった!」
けれど言われた当の本人は、実にあっけらかんと言い放った。
「別に俺はそれでも構わないぞ?黒魔道士は基本的に自由だからな。国に縛られることもない。今はソレーユの仕事の方が楽しいし、この国を出ろと言うならそっちに住めばいいだけの話だ」
けれどその答えに焦ったのは周囲の者達だった。
「クレイ様!お戯れを!」
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「え?いや。ちょうどミシェル王子が面白い話を持って来てくれてるし、黒魔道士の仕事と合わせてもっと開発の仕事を手伝いたいなって…」
「開発?!それなら至急こちらにも研究室を作らせますので…!」
「いや、わざわざ作る必要はないだろう?あっちの方が楽しそうだから無理に作らなくても俺が向こうに住めば何も問題は…」
「いいえ!そうだ、別荘なら国内に作れば良いではありませんか!トルテッティとの国境寄りに水晶を多く産出する山と谷がありまして、その近くに湖もあるのですよ!そこに別荘を作られては?静かな場所ですし、きっと気に入るはずです!」
「水晶か。…いいな。じゃあ後で詳しい場所を教えてくれ。即金で土地を買って、別荘自体は眷属に頼んで作らせるから」
そうやって乗り気になったクレイにホッと胸をなで下ろす面々が腹立たしい。
きっとこの男はいつだってこんな風に周囲を振り回しマイペースに過ごしているのだろう。
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これならきっとどんな条件を突きつけたとしても無駄だったことだろう。
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「……そうしてチヤホヤされるのも今のうちよ。こんなに侮辱されたのは初めてだわ!覚えてなさい!」
こうなったら戦争だと言ってやると、周囲の者達が一斉に口を噤み、こちらへと胡乱な眼差しを向けてくる。
けれどそんな状況にもかかわらずクレイはこともなげに言い切った。
「悪いがアストラスの国境には今特殊な結界を張っている。攻める気ならやめておけとしか言えないぞ?」
「何を馬鹿なことを」
自分は普通にこの国に入れたし、魔道士だってそれは同じだ。
商人だって行き来している。
そんなハッタリを聞くはずがないではないか。
クレイは甘く見ているようだが、カルトリアの冒険者達の強さは相当のものだ。
国が抱える魔道士達にも声を掛けて万全の態勢で攻め込んでみせる。
「帰ります」
そうして憎悪に身を焦がしながら毅然と踵を返した。
***
カルトリアの姫が去った場に沈黙が落ちる。
「クレイ、結界とは?聞いていないのだが?」
そんな中、王が遠慮しながらも尋ねてきたので『言ってないからな』と答えてやった。
「サティクルドみたいに不穏な輩が何かしてきたら父様やロックウェルが困ると思って、あからさまに敵意を感じさせる輩が入ってきたら魔法が発動するよう結界を張っておいたんだ」
国の為と言うよりは身内のために勝手にやったことなので元々言う気はなかったのだ。
大体からしてこちらは王宮魔道士でもなんでもない一介の黒魔道士だ。
報告の義務はない。
「そ、そうか。ちなみにこれまでにぎせ…いや、不幸に見舞われた輩は…?」
「…アキオス側の街道で、山賊がこちら側まで商人を追いかけてきた時にちょっと死にかけたくらいじゃないか?まあ商人は無事だったようだし、問題はない」
魔法が発動すると同時に情報は自分に来るようになっているので、今のところ特に問題が起こっていないのは確かだ。
それにしてもどうして王はこれほど気にしているのだろう?
不利益がなければ大丈夫だろうと思っていたのだが、何かマズかったのだろうか?
国のことについては全くわからないので、何かマズいのかロックウェルに一度確認した方がいいかもしれない。
「そ、そうか。因みにカルトリアが本気で攻めてきたらどうするつもりだ?」
「…?サティクルドの時みたいにしてもいいし、さっきのジークに頼んでおけば予め殲滅しておいてくれると思うぞ?店とかは食べ物を食べたいから勝手に攻撃しないでくれと言っておいたが、冒険者はどうでもいいからな。頼めばすぐに倒してくれるんじゃないか?」
こうは言ったがジークに手伝ってもらう気は更々ない。
そもそも攻めてこられたら迎え撃てばいいだけの話なのに何を言っているのか。
それこそ自分一人で事足りることだし、全員捕らえてしまえば特に問題もないのだから大げさに騒ぐ必要などないだろうに。
不用意に殺す気もないから、心配することがあるとするなら牢の空き状況くらいのものではないだろうか?
「クレイ…ちなみにジークと言うのは?」
「カルトリアの魔王で、俺の友人だ」
「そうか。こ、心強い友人だな」
そんな言葉に思わず笑みがこぼれ落ちる。
友人を褒めてもらえるのは素直に嬉しかった。
「そうだろう?俺と一緒で魔物達を家族同然って感じで可愛がってて、すごく優しい奴なんだ。さっきも急な滞在依頼だったのに嫌な顔ひとつしなかっただろう?本当にいい奴で……」
「そうか。お前の交友関係には口出しする気はないが、何かしでかす前にちゃんとロックウェルかドルトに相談するんだぞ?」
そうやって一応の配慮を見せてくれるようになった王に満足げに頷いてこれで用は済んだなと帰ろうとしたのだが、そこで王が首を傾げながら尋ねてきた。
「そう言えばラピスの姿が見えないようだが、迷子になっておらんだろうな?」
「え…」
そう言えばと眷属に尋ねると、ちゃんと自分達と一緒にいると言ってくれた。
それに対してホッとしていると王が徐に声を上げた。
「クレイ。ハインツの子もそうだが、お前の子も抱いてみたい。構わないか?」
「え?」
「初孫だ。少しくらい良いではないか」
そう言うものなのだろうか?
正直よくわからないが、可愛がってくれるのならまあいいかと思い、ラピスを呼んでやった。
「ラピス。王がお前を抱っこしたいと言っているんだが、構わないか?」
【うん!】
その言葉と同時にラピスが王の前に立ち、にっこりと笑った。
【王様。どうぞ!】
(可愛い!)
「クレイそっくりな癖に愛くるしく笑うのぉ!性格は社交的なロックウェルに似たのか?」
良かった良かったと言ってラピスを抱き上げた国王に『性格が悪くて悪かったな』と思いながらも、ロックウェルとラピスを褒められたのは嬉しくて何も言えなくなった。
最近この王もだいぶ自分の扱いがわかってきたらしく、たまにこうして何も言えない状態にさせられる。
成長したものだ。
そうしてなんとも言えない空気で見守っていると、大臣達がにこやかに話しかけてきた。
「見たところ魔物の子ですか?クレイ様そっくりのようですが」
「いや、しかしこの少し銀が混じったような色合いの髪を見るに、ロックウェル様にも似ておられるのでは?」
「クレイ様なら魔法で子をなしてもおかしくありませんからな。いや、これでレイン家も跡継ぎができてドルト殿も安心されたでしょう」
そんな好意的な言葉の数々に嬉しい気持ちになる。
そしてそう言われればラピスはレイン家の跡継ぎにはなれるなと思い至った。
これは正直盲点だった。
現状レイン家の養子であるルッツが王宮に引き取られればレイン家の後を継ぐ者はいなくなる。
けれどラピスが代わりに後を継いでくれると言うのなら────もしそうなってくれたらどれほど嬉しいだろう?
レイン家が潰れずに済むのならこれほど喜ばしいことはない。
これは一度ドルトやロックウェルと話してみてもいいかもしれないなと非常に明るい気持ちになった。
「そう言ってもらえたら嬉しい。そうだ。久し振りに王宮に来たことだし、何か手を貸せることがあればついでに済ませようか?何もなければ別にいいが…」
「…………!嬉しゅうございます!ささ、どうぞこちらへ!すぐに取りまとめて参りますので、お茶でも飲んでお寛ぎ下さい!」
浮かれた気持ちで気まぐれにそんな提案をしたのが悪かったのか、あっという間に囲まれ途端に居心地が悪くなった。
最近王宮に来たくない理由の一つとして、こう言うところが苦手というのが一番大きな理由だった。
王の子と言う立場は本当に面倒臭いと思う。
黒魔道士に内心嫌悪感を持っている者や王の庶子に良い感情を持たない者も王宮の中にいるにはいるが、現状それを表立って口にする者はいない。
王が認め、ハインツ同様に目を掛けて可愛がっている上、大貴族レイン家の養子且つ魔道士長ロックウェルの配偶者だ。
その絶対的な後ろ盾に加え、周辺諸国にその実力も認められていることから評価が上がることはあっても下がることはない。
だからこそ批判的な者よりもこうしてチヤホヤしてくる輩が増えてしまい、結果的に王宮から自分の足が遠のくということに繋がったのだが────。
「堅苦しいのは…」
「ではロックウェル様のところでお待ちいただいていても構いません。どうぞお好きな場所でお寛ぎを」
「そうか」
それならロックウェルの仕事の進捗状況でも見に行こうかなと思い、そちらへと移動することにした。
絶対にその方が気が楽だ。
こんな息苦しい場所にいつまでも居たくはない。
「ラピス、行くぞ」
【うん!】
そうして素早く戻って来たラピスを連れて影を渡ったのだった。
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