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10.バンを手に入れたい Side.クレール

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やってることは訓練生の時から変わらないけれど、同じ部隊に入ってからバンとの距離が前よりも近くなった気がする。
第五部隊ではたった二人の新人だ。
一緒に居ても何もおかしなことはない。

ここには訓練生時代にバンの周辺をガードしまくっていたバンと親しい友人達はいない。
狂犬バルザック、堕天使ブルノー。
影で密やかにそう呼ばれていたこの二人が主にバンの周囲を本人にバレないよう激しく牽制していた。
この二人は別にバンにベッタリくっついていたわけではない。
ただ情報網を広く持っていて、バンを自由にさせている裏でバンに色目を使った奴には警告を与えていたということを俺は知っている。
ちなみにその警告を無視した輩はバルザックに呼び出された奴は鉄拳制裁で、ブルノーに目をつけられた奴は心をへし折られてご退場だ。

ちなみに俺も呼び出されて警告されたことはあるが、その時は笑顔でとぼけてみた。
「誤解してるみたいだけど、俺はまず仲が良い友人になりたいだけだから」って。
そしたらあいつら無茶苦茶腹黒な笑顔で「ふぅん?まずは…ね。ま、お前はバンに蛇蝎の如く嫌われてるし大丈夫か。どうせいくら頑張っても無駄だし」とか言いやがったんだよな。
俺はバンにそこまでは嫌われてないしと思って当時は軽く流したけど、それはある意味的を射ていたんだなと今ならわかる。
俺のことはあくまでもライバル認定。これに尽きる。

でもそれじゃあダメなんだ。
俺はバンがどうしても欲しい。
こんなに好きになった相手はこれまで他にいやしない。
だから────最初に舌打ちされた後、無視できないように部屋へと連れて行き、気づけば押し倒していた。

いきなりこんなことをしたら嫌われるとわかってはいたけど、それでも……訓練生の頃の二の舞は避けたくて、少しでも俺を見て欲しいと思ったんだ。
そこから話し合いというか、忠告と言うか…まあ上手く悪感情を抱かせずに俺を意識させるという一応の目標を達成させたんだけど、バンが思ってもみなかった御礼なんて口にしてくるから「バンがデレた…」と感動しつつもほんの少し罪悪感に胸が痛んだ。
押し倒した側にこんなに簡単に礼を言うなよ…。
今はお前を守るあの二人は傍にいないんだぞ?
「どけ」と言ってまたジッと見てくるけど、それ、可愛いだけだからな?
愛くるしい顔で見つめられてるとしか思わないからな?
自分は大丈夫だって思い込んでるといつか騙されるぞ?

そこでふとした感情が込み上げてきて、魔が差した。
バンはコレにどう対応してくるだろうか?

「本当にわかったんだな?」
「ああ」
「じゃあこれは授業料な?」
「へ?」

バンは驚いたように目を真ん丸にしていたが、俺はまんまとバンの唇を奪うことに成功した。
慌てふためくバンが可愛い。
驚いて真っ赤になりながら怒るバンが俺を見つめている。
バンが…俺を意識してくれているのが、無視できずにこっちを向いてくれているのが無性に嬉しかった。

これできっと俺をこれまでとは違った目で見てくれるようになる。
もしもこのキスで思うことがあったなら、他の男に対しても警戒するようになると思う。
ここは男ばっかりの職場だから、バンみたいに可愛い奴は絶対に油断しない方がいいし。
ちょっとは自分で自己防衛してくれよと思ったんだ。

取り敢えず、ちょっと卑怯な手ではあったけどバンとキスできたことに俺は浮かれていた。
これで一年くらいバンを落とすのにかかっても全然OKと思えるほどには舞い上がっていた。
でも────早速翌日にバンはやらかしたんだ!

「お前の同期、早速さっき部屋に連れ込まれたみたいだぞ~」と親切な先輩が俺に教えてくれたのだ。
あれだけ気をつけろと言っておいたのに、なんで昨日の今日でそんなことになるんだ?!

俺の忠告を全く気にも留めていないのかと腹が立つと同時にバンが先輩に食われたらと思うと居ても立ってもいられなくて、思わずノックもせずに部屋へと飛び込んでしまった。
そこでは思っていたシチュエーションとは違い先輩達数名による飲み会が開催されていたわけだが、既にかなり酒が回っている先輩も多くて、ここでバンが酔ったらある意味最初に思っていたのとは違う危険性があると思われた。

(バンが輪姦される……!)

そんなとんでもないシチュエーションになったら目も当てられない。
ここはさっさと撤収を図らなければと思うのに考えすぎて思うように言葉が出てこない。
結局出てきたのはただの八つ当たりの言葉だった。

「……昨日の今日で早速やらかす気か?バン」

こんなことを言ったら「放っておけよ!」と噛みつかれるか、「お前は何様だ?!」と言われるのはこれまでの経験上わかり切っていた。
でも、そもそもバンがおとなしくしていたらこんなことにはならなかったのだ。
そう思うと苛立つ気持ちも自然と湧いてくる。
けれどバンは思いがけずホッとしたような顔でこれまでとは違う反応を見せた。

「いや、先輩が歓迎会だって言ってここに連れてきてくれただけだから!飛び込んできたってことは何か急ぎの用だったんだろ?すぐ行くから!」

そして先輩達に愛想よく謝罪して俺の方へと来てくれた。

(え?え?なんでだ?)

一体バンに何があったんだろう?
まさか俺の方に来てくれるとは思ってもみなかったから嬉しすぎてたまらないんだが?
え?何?この可愛い動物捕まえてもいい?
今すぐ抱きしめたいんだけど……!
そう思った時には既に身体が動いていた。

「なっ…!」

突然抱き込まれたらそりゃあびっくりするよな?
でもちょっと黙ってくれると嬉しいな。
ちょっとは幸せに浸らせてくれ。
ついでに牽制もしておこうかな?
ここにいる先輩方とバンを取り合いたくなんてないしな。
職場環境を乱す前に先手必勝だ。

「先輩。こいつ俺のなんで、覚えておいてくださいね?頼みますよ?」

酔ってる先輩ばかりだけど、これでもしっかり牽制には繋がるだろう。
全員が全員記憶が飛ぶ酔い方をするとは思えないし。




その後バンを部屋まで送り、喜びを隠しつつしっかりと叱っておいたんだが、バンが見当違いのことばかりを口にしたのでさすがに呆れてしまった。
人が多いから大丈夫?そんなわけあるか!
酔って動けなくなったらそのまま襲われても文句は言えないぞ?

絶対可愛いだろうし、なんだったらエロそうだし…。
俺なら食う。据え膳は美味しく頂く!

でもバンはその辺がピンとこないのか、吐かれたらと思ったら萎えるだろうし、そういうのはあり得ないだろうとか言っていた。
やっぱりこの危機感のなさは大問題だ。

「……はぁ。まあいい。さっき咄嗟に牽制しておいてよかったな、これは」

本当に咄嗟に牽制できた俺、天才!と自分を褒め称えたい気分だった。
しかもこれに対してまたバンがお礼を言った。

「取り敢えず助かった。メルシィ」
「…………」

ああ、もう!どうしてくれようか?
この『メルシィ』は実はかなりの曲者なんだ。
バンはメルシィと言うと、少し小首を傾げてふわっと笑うから可愛すぎるんだ!
誰にでもこんな顔見せてるんじゃないだろうな?!
俺はさっきからの喜びの積み重ねと今のメルシィで理性が崩れていくのを感じた。

「ん──!んんん───!」

バンが腕の中で暴れてる。
でもバンの唇は甘くて甘くてどうにも止められない。
もっともっと俺を見て欲しい。
俺を見てその微笑みを向けて欲しい。
可愛い顔を隠さずに見せて欲しいんだ。

「ふ…ぅん……」

長いキスに抵抗するのも疲れたのか、バンの目が潤んでて凄く可愛かった。

「バン…気持ちいい?」

バンとのキスが嬉しくて、ただ俺だけを見つめてくれるのが嬉しくて、ついつい甘い声で問いかける。

「ん……」

そんな顔で見られたらまた勘違いしてしまいそうだ。
誰にも渡したくない。
俺だけのものにしたい。
どうしたら傍にいてくれる?
どうしたら…好きになってもらえるんだろう?
そんな切ない気持ちが溢れ出て、狡いかもしれないけど今なら頷いてもらえるかもとその言葉を紡いだ。

「取り敢えず、悪いことは言わないから俺とは恋人同士ってことにしておけ。な?」

頼むから頷いてほしい。
損得勘定で構わないから、ただ傍にいるための口実を与えて欲しかった。
それに対してバンは少し考えてから曖昧ではあったがあっさりと頷いてくれる。

(やった!)

これなら好きなだけ人前でも口説くことが出来るし、恋人っぽいスキンシップだってやり放題だ。
そんな喜びの感情が顔に出てしまったせいだろうか?
バンは思いがけず呼吸を整えてからツレない言葉を足してきた。

「まあメリットがあるうちは対外的にそういうことでもいいけど、俺はお前と恋人同士になることはないからな?」

それはグサッと俺の心を抉る言葉。でも……。

「大体俺が好きなタイプは一途で真面目な奴なんだ。遊びたいだけの奴はお断り」

その言葉は俺には逆効果だ。
遊びなんかじゃない。
俺はバンに対しては誰よりも一途なんだから────。


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