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第3章 領都
第134話 えっ!? 気配もなかったぞ!?
しおりを挟む「ぐえっ!?」
景色が戻って来た時、俺は三男坊男の喚び出した馬男の持つ刺叉に喉を突かれ、吹き飛ばされそうになってたーー。
刺叉の内側に棘がなかったのが幸いして、喉を突き破られることはなかったんだが、拙い状況であることには変わりねえ。
オマケに、刺叉は槍と同じでリーチが長えから馬男まで手も足も届かねえと来たもんだ。
「だったらっ! 【骨や】」「オジサンッ!! たあああーーーーっ!!」
「たあああーーーーっ」て、彰お前、何処の主人公だ!?
なんて思ってるうちに、喉に掛かってた圧力が消えて、刺叉の先がガランと音を立てて礼拝堂の石畳に転がった。
結果的に【骨法】使わなくて済んだというのはラッキーだったな。
彰はというと、馬男の刺叉を斬った返しでそのまま馬男を逆袈裟に切り上げ、今まさに大鬼へ斬りかかろうとしてるのが見えた。おいおい、随分動きが早えじゃねえかよ。
これもあれか? 【兎月】の効果か?
「凄えもんだな。さてと、こいつらどうするか……は?」
馬男の死体を【無限収納】に放り込んで、後でこっそり捌いてやろうと思ったら光の粒子になってサラサラと空中に消え始めてるじゃねえかよ。
ーーどうなってやがる!?
誰か判る奴がないか、彰の取り巻きの可愛子ちゃんたちに視線を向けるが、揃って首を横に振るだけで欲しい答えは返って来なかった。
ちっ。使えねえのに顔だけ可愛いと、小言も言えねえ。
彰に八つ当たりで決まりだな。
見ると、悶絶してたはずの牛男の姿も消えてる。同じ仕組みということか。確か【召喚】って言ってたな。
F○の3作目で似たような職があったな。ありゃ何年だ? まだスーパーが付かねえ、ロムカセットをガチャって差し込んでた時期だったから、1990年代か? 何にせよ喚び出せるっていうのが斬新だったな。
こっちの世界にも召喚士っていう職があるとは聞いたし、俺の設定も拾って育ててくれた爺様が、世捨て人の召喚士だったってことにしてるんだが……。
その実、全く解ってないと言うな。
「クソッ。聞いて無えぞ。何であんな斬鉄剣みたいな剣持ってやがるんだ!? 仕方ねえっ! 【牛蛙王召喚】!」
その気持ちも分らんでもねえが、律令の勇者と慣れ合うつもりはねえ。どんな顔してんのか拝ませてもらおうか。と一歩踏み出そうとした瞬間だった。
見覚えのある、頭から牛に似た角を生え出させた巨大な蛙が姿を表したんだ。同じように首から鎖を垂れさせてな。
『深淵種!?』
誰ともなく、複数の声が綺麗にハモってた。
ああ、そうだ。焼いて食うと鳥の腿肉のようなジューシーな旨味を味わわせてくれる、森蛙だ。思わず、味を思い出して涎が垂れそうになっちまったぜ。
ジュルっと口の端に顔を出した涎を慌てて吸い込み、口元を拭う。
グワッ!?
その仕草に気付いたのか、森蛙がビクッとしてた。
というか、深淵の森で生きてる魔獣と、そうじゃない魔獣の見分けがよく付くもんだな?
「主君っ!」「ハクトッ! あれ食べていいやつだよね!?」
「おう。だが、普通に殺してもさっきのみたいに光の粒になってしまうぞ。どうするよ?」
ヒルダとプルシャンが森蛙に気付いて、俺に駆け寄って来た。食い気を裏切らねえ2人だ。
「焼く」「凍らせる」
「いや、プルシャンは凍らせねえだろうが」
「むう、残念」
「うおおおおおーーーーっ!!」「根性見せて時間を稼げっ! 莫迦鬼っ! 【鳥姫召喚】っ!」
そう突っ込んだと思ったら、彰と三男坊男の声が重なったのよ。思わず、森蛙から視線を切っちまった。そりゃあよ、喚び出したのが鳥なら視線を切らさなかっただろうが、あれだ。頭と上半身は人間で、腕と下半身は鳥の体って言う魔獣。何つった?
は……は……はいぴー……ハーピーな!
この世界で初ハーピーを見たんだぜ!? しかも結構デケエッ!
三男坊男の肩を掴んで浮き上がれるんだ。あいつより、1.5倍はあるんじゃねえか?
けどよ、意外に可愛らしい顔した姉ちゃんがこう、結構なサイズの胸をぷるんと揺らしながら三男坊の肩を掴んで飛んでいくのを見送ってたって罰は当たらねえだろう?
羽毛で、大事なとこは隠れてるんだし。
「痛たたたたたっ!!? 何で抓る!?」
「主君、だらしないぞ」「鼻の下伸びてた」
「う、五月蝿え! 俺だっ」「何でそんなとこでっ!! 痴話喧嘩してるかなあああーーっ!?」
俺の弁明は、彰の怒声に遮られちまった。まあ、気持ちは解る。
大鬼を切り伏せて、森蛙を相手にしてる彰を余所に何処を見てるのかって話だからな。いや、本当は森蛙を俺らでどうにかしてやろうと思ってたんだぜ? 主に食材としてだが……。
そもそも、何で森蛙を出す必要があったのか解からん。逃げを打つ時間を作るためか?
まださほど高く上がってねえが、もう手の届く位置には居ねえ。
「おい、お前さんらの中で、あれに当てれそうな魔法を使える奴いるか?」
弓ならまだしも、魔法も万能じゃねえだろうからな。んな事を思いながら、呼び水を差してみるが、奥のほうで固まっている奴らを含め皆首を横に振りやがった。使えねえ。
ま、俺も魔法に疎いからどんな魔法が良いという注文も付けれねえし……。お相子か。
「んなら、投げるだけ投げて、うおっ!?」
【骨槍】を投げてやろうと、投擲の構えをとって後はスキル名を唱えるだけにした瞬間、足元に太い矢が石畳を貫いてビィィンと震えたのさ。
えっ!? 気配もなかったぞ!?
「「っ!?」」
傍に居たヒルダとプルシャンも息を呑むのが判った。慌てて矢が飛んできただろう方向を見ると、神殿の境内の向こうに見える建物の屋根に、幼く見えるおかっぱ頭で黒髪の少女らしき姿を捉えることが出来た。
身長ほどもある大きな弓を持ってるとこを見ると、間違いねえだろう。
矢の気配も、風切り音なく撃たれた矢だ。当てようと思えば誰かに当てれたはずだ。それなのに、俺たちの足元を狙ったのには意味があるのか、判断に悩む。
結果として、まんまと三男坊男には逃げられた訳だから、目的は果たせたということか。
俺が手を下ろしたのを確認した、ちびっこい女の子が屋根を飛び降りるのが見えた。
あの子も勇者ってことか? 彰もそうだが、黒髪黒目の組み合わせが異世界から来た者以外今のところ見たことも会ったこともねえ。
髪の色を染めて変えられちまったら判らんが、その可能性は高そうだな。
「オジサン! この剣凄いよっ! 今迄で一番僕の手に馴染んでる!」
「おう、そりゃ良かったな」
大鬼と森蛙をあっという間に斬り伏せて、駆け寄ってくる彰の顔は嬉しそうに興奮して赤くなってた。今迄の剣は彰の力に耐えれなかったって言ってたな。
莫迦力か、それとも勇者の力なのかは知らんが、【兎月】も剣冥利に尽きるだろうよ。
それは良いんだが。
「オジサンはこれからどうするの? 僕と一緒に動く?」
「お前と? 止せやい。俺がお前とイチャイチャしてると、お前の取り巻きと、ウチの嫁が五月蝿くて敵わねえよ。それよりも気になったんだが、お前の取り巻きの可愛子ちゃんたちは戦闘が出来ねえのか?」
「どうして? 僕ほどは動けないけど、神殿でそこそこ訓練を受けてるはずだけど?」
なる程、パワーバランスが悪すぎて連携が取れねえのか。
「なあ彰。悪い事は言わん。あの子たちのことを思うんだったら、あの子たちと別れて単独で動け、そう」「オジサン! オジサンでも言いって言い事と悪い事があるよっ!?」
厳しいが、誰かが言っておかねえと後で痛い目を見るのは彰だ。
そう思って口を開いたのは良かったんだが、地雷というか逆鱗に触れてしまったと言うべきか、最後まで言わせてもらえずに、彰が凄い剣幕て俺に詰め寄って来るのが見えたーー。
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