えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

文字の大きさ
161 / 333
第3章 領都

第134話 えっ!? 気配もなかったぞ!?

しおりを挟む
 
 「ぐえっ!?」

 景色が戻って来た時、俺は三男坊男の喚び出した馬男の持つ刺叉さすまたに喉を突かれ、吹き飛ばされそうになってたーー。

 刺叉の内側に棘がなかったのが幸いして、喉を突き破られることはなかったんだが、まずい状況であることには変わりねえ。

 オマケに、刺叉は槍と同じでリーチが長えから馬男まで手も足も届かねえと来たもんだ。

 「だったらっ! 【骨や】」「オジサンッ!! たあああーーーーっ!!」



 「たあああーーーーっ」て、あきらお前、何処の主人公だ!?



 なんて思ってるうちに、喉に掛かってた圧力が消えて、刺叉の先がガランと音を立てて礼拝堂の石畳に転がった。

 結果的に【骨法スキル】使わなくて済んだというのはラッキーだったな。

 彰はというと、馬男の刺叉を斬った返しでそのまま馬男を逆袈裟に切り上げ、今まさに大鬼へ斬りかかろうとしてるのが見えた。おいおい、随分動きが早えじゃねえかよ。

 これもあれか? 【兎月とげつ】の効果か?

 「凄えもんだな。さてと、こいつらどうするか……は?」

 馬男の死体を【無限収納】に放り込んで、後でこっそりさばいてやろうと思ったら光の粒子になってサラサラと空中に消え始めてるじゃねえかよ。



 ーーどうなってやがる!?



 誰か判る奴がないか、彰の取り巻きの可愛子ちゃんたちに視線を向けるが、揃って首を横に振るだけで欲しい答えは返って来なかった。

 ちっ。使えねえのに顔だけ可愛いと、小言も言えねえ。

 彰に八つ当たりで決まりだな。

 見ると、悶絶してたはずの牛男の姿も消えてる。同じ仕組みということか。確か【召喚】って言ってたな。

 F○の3作目で似たような職があったな。ありゃ何年だ? まだスーパーが付かねえ、ロムカセットをガチャって差し込んでた時期だったから、1990年代か? 何にせよ喚び出せるっていうのが斬新だったな。

 こっちの世界にも召喚士っていう職があるとは聞いたし、俺の設定も拾って育ててくれた爺様が、世捨て人の召喚士だったってことにしてるんだが……。

 その実、全く解ってないと言うな。

 「クソッ。聞いて無えぞ。何であんな斬鉄剣みたいな剣持ってやがるんだ!? 仕方ねえっ! 【牛蛙王ぎゅうわおう召喚】!」

 その気持ちも分らんでもねえが、律令の勇者と慣れ合うつもりはねえ。どんな顔してんのか拝ませてもらおうか。と一歩踏み出そうとした瞬間だった。

 見覚えのある、頭から牛に似た角を生え出させた巨大な蛙が姿を表したんだ。同じように首から鎖を垂れさせてな。

 『深淵種しんえんしゅ!?』

 誰ともなく、複数の声が綺麗にハモってた。

 ああ、そうだ。焼いて食うと鳥の腿肉ももにくのようなジューシーな旨味を味わわせてくれる、森蛙もりがえるだ。思わず、味を思い出してよだれが垂れそうになっちまったぜ。

 ジュルっと口の端に顔を出した涎を慌てて吸い込み、口元を拭う。

 グワッ!?

 その仕草に気付いたのか、森蛙がビクッとしてた。

 というか、深淵の森で生きてる魔獣と、そうじゃない魔獣の見分けがよく付くもんだな?

 「主君っ!」「ハクトッ! あれ食べていいやつだよね!?」

 「おう。だが、普通に殺してもさっきのみたいに光の粒になってしまうぞ。どうするよ?」

 ヒルダとプルシャンが森蛙に気付いて、俺に駆け寄って来た。食い気を裏切らねえ2人だ。

 「焼く」「凍らせる」

 「いや、プルシャンは凍らせねえだろうが」

 「むう、残念」

 「うおおおおおーーーーっ!!」「根性見せて時間を稼げっ! 莫迦鬼ばかおにっ! 【鳥姫ちょうき召喚】っ!」

 そう突っ込んだと思ったら、彰と三男坊男の声が重なったのよ。思わず、森蛙から視線を切っちまった。そりゃあよ、喚び出したのが鳥なら視線を切らさなかっただろうが、あれだ。頭と上半身は人間で、腕と下半身は鳥の体って言う魔獣。何つった?

 は……は……はいぴー……ハーピーな!

 この世界で初ハーピーを見たんだぜ!? しかも結構デケエッ!

 三男坊男の肩を掴んで浮き上がれるんだ。あいつより、1.5倍はあるんじゃねえか?

 けどよ、意外に可愛らしい顔した姉ちゃんがこう、結構なサイズの胸をぷるんと揺らしながら三男坊の肩を掴んで飛んでいくのを見送ってたってばちは当たらねえだろう?

 羽毛で、大事なとこは隠れてるんだし。

 「痛たたたたたっ!!? 何でつめる!?」

 「主君、だらしないぞ」「鼻の下伸びてた」

 「う、五月蝿うるせええ! 俺だっ」「何でそんなとこでっ!! 痴話喧嘩ちわげんかしてるかなあああーーっ!?」

 俺の弁明は、彰の怒声にさえぎられちまった。まあ、気持ちは解る。

 大鬼を切り伏せて、森蛙を相手にしてるあきらを余所に何処を見てるのかって話だからな。いや、本当は森蛙を俺らでどうにかしてやろうと思ってたんだぜ? 主に食材としてだが……。

 そもそも、何で森蛙を出す必要があったのか解からん。逃げを打つ時間を作るためか?

 まださほど高く上がってねえが、もう手の届く位置には居ねえ。

 「おい、お前さんらの中で、あれ・・に当てれそうな魔法を使える奴いるか?」

 弓ならまだしも、魔法も万能じゃねえだろうからな。んな事を思いながら、呼び水を差してみるが、奥のほうで固まっている奴らを含め皆首を横に振りやがった。使えねえ。

 ま、俺も魔法にうといからどんな魔法が良いという注文も付けれねえし……。お相子か。

 「んなら、投げるだけ投げて、うおっ!?」

 【骨槍ほねやり】を投げてやろうと、投擲の構えをとって後はスキル名を唱えるだけにした瞬間、足元に太い矢が石畳を貫いてビィィンと震えたのさ。



 えっ!? 気配もなかったぞ!?



 「「っ!?」」

 傍に居たヒルダとプルシャンも息を呑むのが判った。慌てて矢が飛んできただろう方向を見ると、神殿の境内の向こうに見える建物の屋根に、幼く見えるおかっぱ頭で黒髪の少女らしき姿を捉えることが出来た。

 身長ほどもある大きな弓を持ってるとこを見ると、間違いねえだろう。

 矢の気配も、風切り音なく撃たれた矢だ。当てようと思えば誰かに当てれたはずだ。それなのに、俺たちの足元を狙ったのには意味があるのか、判断に悩む。

 結果として、まんまと三男坊男には逃げられた訳だから、目的は果たせたということか。

 俺が手を下ろしたのを確認した、ちびっこい女の子が屋根を飛び降りるのが見えた。

 あの子も勇者ってことか? 彰もそうだが、黒髪黒目の組み合わせが異世界から来たもん以外今のところ見たことも会ったこともねえ。

 髪の色を染めて変えられちまったら判らんが、その可能性は高そうだな。

 「オジサン! この剣凄いよっ! 今迄で一番僕の手に馴染んでる!」

 「おう、そりゃ良かったな」

 大鬼と森蛙をあっという間に斬り伏せて、駆け寄ってくる彰の顔は嬉しそうに興奮して赤くなってた。今迄の剣は彰の力に耐えれなかったって言ってたな。

 莫迦力ばかぢからか、それとも勇者の力なのかは知らんが、【兎月モナ】も剣冥利けんみょうりに尽きるだろうよ。

 それは良いんだが。

 「オジサンはこれからどうするの? 僕と一緒に動く?」

 「お前と? 止せやい。俺がお前とイチャイチャしてると、お前の取り巻きと、ウチのカミさんが五月蝿くてかなわねえよ。それよりも気になったんだが、お前の取り巻きの可愛子ちゃんたちは戦闘が出来ねえのか?」

 「どうして? 僕ほどは動けないけど、神殿でそこそこ訓練を受けてるはずだけど?」

 なる程、パワーバランスが悪すぎて連携が取れねえのか。

 「なあ彰。悪い事は言わん。あの子たちのことを思うんだったら、あの子たちと別れて単独で動け、そう」「オジサン! オジサンでも言いって言い事と悪い事があるよっ!?」

 厳しいが、誰かが言っておかねえと後で痛い目を見るのはこいつだ。

 そう思って口を開いたのは良かったんだが、地雷というか逆鱗に触れてしまったと言うべきか、最後まで言わせてもらえずに、彰が凄い剣幕て俺に詰め寄って来るのが見えたーー。





しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...