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幕間

閑話 アキラ・クジュウブの決断

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 「なああきら。悪い事は言わん。あの子たちのことを思うんだったら、あの子たちと別れて単独で動け、そう」「オジサン! オジサンでも言いって言い事と悪い事があるよっ!?」

 オジサンのその言葉に僕はカッとなった。

 確かに、後で押し付けられたという部分もあるけど今じゃ皆を大切に思ってるんだ。

 それなのにーーと思った瞬間、ガツンッと拳骨げんこつが横から飛んで来た。

 「阿呆あほっ! 人の話を最後まで聞け!」「痛っ!」

 いったーっ! 昔から手が早くて口も悪いオジサンだったけど、全然変わってないじゃんか! くっそーっ。これでも僕の方が先に異世界こっちへ来てんだからな!

 「言われなくても解ってるだろうが、お前だけ突出して強くても、オマケが多けりゃそれがお前の命取りになる。いざとなったら、あの子らを捨てられんのか?」

 「ぐっ」

 そんな事言われなくたって解ってるよ! 皆のレベルを聞いたら新米冒険者ノービスから2次職の侍祭アコライトになったばかりの子たちだ。

 僕とは100以上のレベル差がある。

 僕のジョブ・勇者ブレイブは10次職相当だ。ジョブチェンジ出来ないけど、レベル上限が半端ない。上げれば上げれるだけ強くなる職と言っても良い。

 この差を埋めなきゃいけないのは初めから解ってたことだ。そして、彼女たちが実戦経験が乏しいことも。

 そりゃそうだ。経験を積んで迷宮に潜って生活することよりも、神殿を選んでる時点でその気がないってことだもんね。

 けど、他の勇者に付いてる付き人は強そうだったな……。

 「お前が赤の他人なら、ここまで言うつもりもねえ。こっちは俺にとってもお前にとってもやり直しだ。オマケにリセットは出来ねえ。だろ? この先、あの子らと一緒に居てえのなら、ここでお前が出来たことくらいは出来るようにならねえと、他の勇者には敵わねえぞ?」

 「なっ!? そんなことは!?」

 この剣のお蔭で僕はもっと強くなれた。それくらいのレベルをこの子たちに求めるの!?

 僕が強くなればその分カバーできるところも広がるしーー。

 「ねえと、どうして言い切れる? お前はこの矢が何時撃たれたのか知ってるのか?」

 「っ!?」

 そう言ってオジサンは足元に刺さった太い矢を指差した。見覚えがある。小柄な身体と同じくらい大きないしゆみを涼しい顔して引く無口な子が使ってるものだ。確か名前はマイ……って言ったっけ。

 逃げたノボルは第9席。マイは第5席。僕は最下位の第10席だ。こんなに差があるのか?

 「音も気配もねえ矢に狙われたら待ってるのは死だけだ。それもこの矢を撃ったのは年端もいかねえおかっぱ頭のじょうちゃんだったぜ? あの鉄ヘルメット男は良いとして、あのお嬢ちゃんくらいの力がねえと無理だな」

 やっぱりマイだ。くそっ。

 「ーーじゃあ、どうしろっていうのさ」

 「お? ねてたのが、やる気になったか?」

 「五月蝿いっ!」

 すぐ子ども扱いするし。

 「わははははっ! そこら辺は変わって無えよな。負けず嫌いも良いが、もちっと冷静になれ。で、あの子らと離れたくねえなら、一緒に深淵しんえんの森で修行してこい」

 完全に前の人の姿から変わってるのに、やってることは変わらない。本当にオジサンなんだなって改めて思うけど、腹が立つことには変わりないんだよ。

 ガシガシと髪の中に指を突っ込んで乱暴に撫でながら笑うオジサンの言葉に、怒りも忘れて耳を疑った。

 今何てった? 深淵の森!?

 「えっ!? オジサン、正気!? 本気で言ってんの!?」

 「正気も正気。クソ真面目だぞ?」

 「でも、あの深淵の森だよ!?」

 「そうか? 俺はあそこで1ヶ月ちょっと過ごしたが、なかなか良いとこだぞ? 飯は美味いしな。森の主と湿地に入らねえようにちょこっと気を付けとけば、後は何とかなる。洞窟に小屋も作って置いて来たし、自由に使っていいぞ?」

 『ええっ!?』

 オジサンの奥さんだって紹介された、仮面の女性ひとと紺色のめっちゃ美人さん以外が口を揃えて驚いた。何やってんの、オジサン!?

 レベル3桁じゃなくて、4桁が居るって森だよ!?

 「えっと、オジサン。それ、本当なの?」

 「お前相手に法螺ほら吹いてどうすんだ?         ココだけの話、俺が来たとこがソコだったってだけなんだがな。いきなり中が無理なら、外縁の森で力を付けて、中へ入ればいいだろ? 近くに廃墟もあるし、拠点としては申し分ねえ」

 頭痛くなった。マジか。あんなとこで生きてけるもんなのか。

 勇者がチートとか言った手前、滅茶苦茶恥ずかしいんだけど……。顔が暑くなる。

 「…………オジサンこそ、チーターだよね?」

 こそっと耳打ちして来るオジサンにそう返してやった。

 「いや、チーターじゃなく、兎だぞ?」

 ああもう、オヤジギャグじゃないんだって。そりゃオジサンが兎人だってくらい見りゃ判る。

 「はあ。もう説明するのが面倒だからそれでいいや。まあ、実力不足は僕も皆も思うとこがあるから、オジサンの案に乗っかるよ。でも、皆とも話し合って決めたいから」

 「ああ、いい。どうすることにしたとか俺に報告は要らん。自分らの事だ。忠告はしたが、どうするかはお前さんら次第だからな。責任を俺になすり付けんじゃねえ」

 言ってることとやってることが相変わらず滅茶苦茶だ。

 「……相変わらず面倒臭がり屋なんだね……」

 「そんなに褒めんな。照れるだろうが」

 「いや、褒めてないから!?」

 「そうか? ま、気楽に行けや。勇者っていうくらいだ。そこそこ荷物も運べるもんも持ってんだろ? 今日は皆、ここで泊まらせてもらって、どうするかは決めたらいい。あ~俺らも泊まっていいんだよな?」

 そんなオジサンの声を耳にしながら、僕は寝かされているレオナに歩みよる。ほっといても、後で部屋に案内して貰えそうな流れだ。

 レオナを覗き込むと、口から飛び散ったんだろう血飛沫を星のように着けた白い律令神殿の職服が呼吸に合わせて動いてるのが判った。

 良かった。息がある。

 ここに来た時の彼女の顔は、殴られて腫れ上がってたはずだ。腫れが引いてるところを見ると、誰かが【手当てヒール】の回復魔法を掛けてくれたみたいだ。

 「皆、ありがとう。詳しいことは後で話すから、今日は一緒に動いてくれないかな?」

 8人がうなずくのを見て、僕は少しホッとした。けど、決めなきゃいけないこともある。彼女たちがどうするか、僕はどうしたいのか。話し合わなきゃ……。

 そもう思いながら部屋への案内する旨を告げられた僕は、レオナを抱きかかえて皆と一緒に第二礼拝堂を後にするのだったーー。



                   ◆◇◆



 部屋に案内されてレオナを寝かせた後、真っ先に確認したのがステータスだ。

 女神の神託で何かを貰ったらしい。

 皆とこれからを話すのはそれからだ。と言っても、オジサンが言ってた事を皆聞いてたはずだから、一言二言で済んじゃうんだろうけど……。

 「【ステータス】」

 ◆アキラ・クジュウブ◆
 【種族】人種
 【性別】♂
 【職業】勇者ブレイブ
 【レベル】Lv108
 【状態】健康
 【生命力】4039 / 4039
 【魔力】3959 / 3959
 【力】3851
 【体力】3958
 【敏捷】3988
 【器用】3843
 【知性】3819

 【ユニークスキル】
  聖剣契約
  無限収納
  聖魔法Lv2
 ☆破光斬Lv1

 【アクティブスキル】
  生活魔法Lv1
  剣技Lv3

 【パッシブスキル】
  耐闇Lv2
 ☆耐呪Lv1
 ☆耐痛Lv1

 【称号】
  異世界人

 【装備】
 ☆剣鉈けんなた兎月とげつ

 レベルは変わってない。

 ノボルの魔物は倒してもカウントされてないってことか。

 新しく増えたスキルは、【破光斬】と【耐呪】、【耐痛】の3つ。下のパッシブスキルは見たまんまだろうから、確認しなくていいや。

 【破光斬】をタップ、と。

 【破光斬】
  女神より新たに賜った固有ユニークスキル
  呪詛を無効化する光の刃で呪いを斬り断つことが可能
  呪いが具現化した存在であれば、切り捨てることも可能
  それ以外にダメージを与えることは不可能
  レベルの上昇により、高度な呪詛を斬れるようになる
  消費魔力1000

 消費魔力1000……。3分の1も吹っ飛ぶのか。使い時を間違わないようにしないとな。

 【剣鉈:兎月】をタップ。

 【剣鉈:兎月】
  製作者:ハクト
  幻想マーヤ級剣鉈
  硬魔骨こうまこつ
  斬撃補正(大上昇)
  【聖剣契約】で使用者をアキラ・クジュウブに固定
  【聖剣契約】で聖属性が付与される
  ■■■■■
  熟練度1

 「幻想マーヤ級って、オジサン何て物作ってんだよ」

 思わず、驚きが声に出てしまった。慌てて口元を抑えて確認する。

 やっぱりオジサンの方がチートだわ。僕なんか可愛もんだ。生産系が全く無いし、その才能もないんだから。骨系のユニークスキル?

 きっと聞いても教えてくれないだろうな。

 斬撃補正(大上昇)って鋭すぎでしょ。「斬鉄剣か!?」って突っ込みたくなるレベルだよね。

 後はまだ解除されてない能力あるみたいだし……。それに熟練度が剣にあるってどうなんだろ。それだけ扱いが神経質ピーキーって事?

 オジサン作らしいって言えばらしいけど、慣れるしかないね。

 「さてと、あの雪毛ゆきげの兎人と僕の関係はここに来る道すがら説明した通りだよ。僕が転移者で、オジサンが転生者……厳密に言えば、感覚的には僕も1回死んでるから転生者と言っても良いかもだけど、記憶も姿もそのままだから転移者ってことにしてる」

 『……』

 8人はうなずくだけで、特に意見が出ることもない。だからそのまま話すことにした。

 「オジサンからの提案は、深淵の森で鍛えるってことだ。女神様の神託に従いたいんだけど、僕自身まだまだ他の勇者には敵わないし、その勇者と闘いながら君たちを守りながら戦う自信もない。勇者の付き人たちもかなりの強さだ。だから、一緒に強くなりたいと思ってる」

 『……』

 「勿論、これは強制じゃないよ? 現時点で僕は律令神殿と縁が切れてる。レオナももう帰れないだろう。だから、律令神殿を通して遣わされることになった君たちへの拘束力はないし、誰かの顔色を覗う必要もない。その上で聞きたいんだ。さっきも言ったように強制じゃなくて、これはお願いだ。僕と一緒に深淵の森で鍛え直してもらえませんか? 一緒に来て下さい。お願いします!」

 『……』

 頭を下げたけど、リアクションはゼロだ。やっぱり痛い人だったのか、僕は。



 ちょっとショック……。いや、かなり凹む。



 「ああ、僕がこっちに向いてると出にくいよね。良いよ! 背中を向けてゆっくり100数えるから。僕と一緒に行きたくない人は、何も言わずに部屋から出て貰えると助かる。正直、顔を見てお別れを言うのは辛いから……。1、2、3……」

 クルッと皆に背中を向けた僕は目をつむったまま天井を見上げる。

 動く気配はないけど、泣きたくなる気持ちを抑えて、僕はゆっくり数を数え始めた。

 と同時に、皆の気配が扉の方に移っていくのが判る。

 ……ああ~。惨めだな、僕は。独り善がりに勇者を演じてたのか。良いピエロだ。

 「81、82、83」

 キィィと蝶番の擦れる音が耳に届いた。ああ、皆行っちゃうのか。一番付き合いが長いフェリシーくらいは居残ってくれるかなって思ったけど。



 格好悪……。



 オジサンに笑われちゃうな。アレだけあの子たちのことで怒ってたのに、見捨てられたの僕の方だったって。ははは……。

 「97、98、99、100」



 バタン



 丁度100数え終えたところで扉が閉められる音が僕の背中を叩いた。

 何か心まで響くような音だよ。

 「は~~……やっぱり僕は中身がないんだな。こうまであっさり見捨てられると、自信なくすよ。レオナに話したら、レオナも行っちゃうかな……?」

 思わず溜息が出てしまった。

 まあ、誰も聞いていないから問題ないか。

 「自信を無くしてもらったら困るんだけど?」

 「え!?」

 大きく肩を落とした僕の背中越しにフェリシーの声が抜けて来た。

 慌てて振り返る。

 「誰が見捨てたって?」

 フェリシーだけじゃない、他の7人も扉の前に立ってた。情けないけど、視界がにじんで来た。

 「皆、ありがとう。今までごめん。今度は皆にももっと頼るし、迷惑掛けるつもりだから。うぐっ。よ、よ゛ろ゛じぐっ!」

 最後は泣くのを堪えるので精一杯だった。同時にフェリシーたちが抱き着いて来る。よく見えないけど、鼻をすすってるから泣いてるみたいだ。ははっ。泣き虫パーティーの結成だ。

 さっきまで寒かった心が今は暖かくなるのを感じながら、僕は強くなることを心に誓って、皆を力一杯抱き締めたーー。

 『痛いっ!!』

 「ああっ!? ご、ごめんっ!!」





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