182 / 333
第4章 カヴァリ―ニャの迷宮
第152話 えっ!? もう!? 早くないですかっ!?
しおりを挟む《【骨壁】の熟練度が5に上がりました。【骨硬化】の熟練度が2に上がりました。【魔骨化】の熟練度が2に上がりました。魔力操作を覚えました》
「ふぅ~~っ! 出来た……」
頭の中に響くアナウンスを聞きながら、その場に腰を落として大きく息を吐いた。
「主君。今更だが……どうなってる?」
「はははっ。そりゃ今更だな。ま、見ての通りだ。骨が山のように無えと使えねえ【骨法】だが、使いようによっちゃあ便利なものになるってこったな」
つまり、深淵の森で住んでた時のような骨の山がねえともう作れん訳さ。ここを出る時に【無限収納】に入るなら入れて出るか?
我ながら良い案だと思うんだが……。何時出れるか、なんだよな。
「うわーっ! 骨の壁だね! すっごい固いっ!」
バシバシと骨柄の壁を叩きながら、プルシャンが上を見上げていた。
「おう。高さ5パッスス、幅7パッスス、厚み2パッススだ。骨の山全部使っちまったが、これなら、蟻牛を上げつけられても、槍を投げつけられても壊れねえだろう。こう、末広がりの形になってるからな」
両手で、台形の形を空中に描いてみせる。伝わったかどうかは判らんが、横から見れば一目瞭然だ。俺の言ってる事も追々解るだろう。
「マギーさん……」
「……」
「マギーさん。わたしたちの旦那様って……」
「……」
ま、時間にして10分そこそこだが、瞬間的な盾のつもりで【骨壁】を使うと致命的なルートに足を突っ込むことになる。頑強だが、対何を想定したスキルなんだよ、これ。
プラムに袖を引かれてもぼーっとしてるマギーがそこに立ってた。
「おおい、マギー起きてるのか? 寝てるんならおっぱぶっ!?」
ぼーっとしてるマギーに手を振るが反応がねえ。目は開いてるし、胸も小さく呼吸に合わせて上下してるのが服の上からも判るから息はある。ちょっと立派な膨らみに悪戯をと思ったらーー。
誰かがすっとその間に身体を入れて来たと思ったら、顔を抱き締められた。
ーー膨らみがねえ。細い。服の上からでも判るゴツゴツした肋骨……。
「ヒルダ、何しやがる?」
「合意の上ならば何も言わぬが、それはダメだぞ、主君」
抱えてた俺の頭をゆっくり解放してくれたので、ヒルダのウエストを両手で掴み、身体を支えながら見上げて不平を口にすると、窘められた。ちっ、要らんことを。
「……ヒルダ」
「何だ主君?」
「只の冗談だ。だが、お前さんはもう少し肉喰った方が良いな。細すぎる」
立ち上がって尻の埃を叩く。
とは言うが、こいつの状態は【呪:木乃伊化】だからな。呪いが解けねえと変化は期待できんだろう。希望がない訳じゃねえ。現に初めは【呪:骸骨化】だったんだからな。
「ふむ。そうか。吾もそう思っていたのだ。ならば今日は肉で頼む」
「へいへい。そう致しますよ、奥様。さてと、冗談はこのくらいにして、ノボルの顔を拝み行ってやるか。ほら、マギーもしゃんとしろっ!」
「ひ、ひゃいっ!」
ぱすんとマギーの尻を叩くと飛び上がった。うん。尻もいい肉付きだ。
「ほら、鬼姫。お前さんが先に戻らねえと安心できねえだろうが。行った行った」
「は、はい。こちらです」
慌てて案内を始めた鬼姫の長い銀色の髪の揺らぎに誘われるように、俺たちは骨でできた壁を恐る恐る回り込んだ――。
◆◇◆
確かにテントが1張りポツンと張ってある。
そのテントの中へ躊躇わずに鬼姫が四つん這いになって上半身だけ突っ込みやがった。
おいっ! 尻、尻っ! スカートの丈、そんなに長くねだろうが!?
「ノボル様っ! 戻りました!」
「鬼姫!? お前だけか!?」
「……セリーナはダメでしたが。白い兎人のパーティーをお連れしました」
突っ込みたいのをグッと堪えた。いや、やっぱり心の中だけでも良いから言わせてくれ。
名前じゃなく、姿形だけで探しに出せたのかよ!? 鬼かっ!?
「誰も死んでないのか?」
「はい。あの御強さなら、誰一人死なせることはなかろうかと思います」
「そんなにか!?」
四つん這いの姿勢で話す鬼姫の尻の動きに目が行きそうになるのを堪えてたんだが、自分に自身がなくなった俺はその後ろから声を掛ける。
「あ~2人の世界に入るのは勝手だがな。鬼姫、パンツ見えてるぞ?」
「ひゃっ! 何で見るんですか!?」
慌ててテントから上半身を引き抜き、スカートを抑えながらペタンとアヒル座りをする鬼姫。ジト目で見上げてくるが、見られたくねえんだったら、んな格好するんじゃねえよ。
「阿呆。んな格好のまま俺の方に尻向けて、犬みたいに振ってたら見えるに決まってるだろうが。おう、邪魔するぞ?」
「あ、ああ、入ってくれ」
ノボルの返事が帰って来るのを待って、テントの入り口幕を払うと、目の前に両足を伸ばして座るノボルと目が合う。右足の膝からが可怪しいし、腐臭がする。
意外に広えな。何で半分しか入らなかったんだ?
「……酷くやられたな」
特に詳細を言わずに、ざっくりと触れてみた。どんな反応が帰って来る?
「命があるだけ儲けもんさ。俺のせいで、他の召喚契約してた奴らは鬼姫を残して皆死んじまった」
「お前さんを守ろうとしてだろ?」
意外に錯乱してねえな。もう少しパニック気味になってるかと思ったが……。
「ああ、契約主を守ろうとするのがこの固有スキルの特徴だからな。けど、そのお蔭で命があるんだ。感謝してる」
随分丸くなったな。憑物が取れたみたいな感じじゃねえか。
「ま、そこを詳しく聞く気はねえよ。それよりもその足だ。傷が化膿し始めてるな? あの剣でばっさりやられたのか?」
あの剣っていうのは将軍蟻が使ってた、アフリカにありそうな武器だ。使い手を選ぶと言った方が良いかもな。刀のように良く砥がれて、切れ味の良い武器じゃなく、寧ろ鉈のような武器だ。力に物を言わせて叩き斬ると言った方が良い。
ノボルの膝下でぱっくりと割れたように口を開ける切り口を見ると、そんな感じなのさ。
「切り口にはヒールポーションぶっ掛けたんだが、血止めで精一杯だった」
「鬼姫が回復魔法使えるって聞いたぞ?」
「あいつも、死んじまったがハーピーのセリーヌの治療で魔力が底をついてたのさ」
「お前を優先するんじゃねえのかよ?」
「いや、セリーヌを優先するように命令した。あんたを探してもらおうと思ってな」
「……名前も知らねえのにか?」
「はははっ。そうなんだよ。飛ばされた後で、そういやあって思ってな。でも、よく見付けてくれた。俺にも希望が出てきたぜ」
「……」
「何だ? 今更何言われても驚かねえよ、おっさん。ハッキリ言ってくれ」
俺が黙ってると、真剣な眼差しで訊いてきやがった。自分の体だ、幾らかは察してるだろう。ここで期待を持たせても仕方ねえ。東南アジアでよく見た傷だからな。
「ノボル。お前さんのその右足はもう使い物にならん」
「……そうか。そうじゃねえかな、とは思ったんだよ」
「それだけ化膿してたら、後は斬るしかねえ。腐った血が体に入ればお前さん、死ぬぜ?」
「ノボル様!」
急に横から鬼姫が顔を出してきたせいで、ビクッとなったが知らねえ顔をしといた。ったく、驚かすんじゃねえよ。心配そうな顔を見る限り、契約で縛られてるだけとは見えねがな。ま、俺には関係無え。
「おっさん、悪いが切ってくれるか? 鬼姫が居れば斬った後も直ぐ回復できる」
「は、はい。お任せ下さい!」
「分かった。俺に考えがある。鬼姫さんや、切り口に肉が盛らないよう骨の断面が見えるように止血できるか?」
「細かな操作が必要ですが……で、出来ると思います」
「なら頼む。用意は良いか?」
「え、あ、はい、何時でもどうぞ」
「もうするのか?」的な表情で俺を見てきた鬼姫だったが、俺の顔を見て表情を引き締めるのが判った。駒といったら鬼姫には悪いだろうが、随分掘り出し物の好物件を手に入れたもんだ。無理矢理従わされたんならこうならねえと思うがな。
腰から剣鉈を引き抜く。解体用だ。人の体も一緒さ。
んで、間髪入れず、振り落とす。
「熱っ!?」「ほらっ、鬼姫さんや回復魔法!」
「はわっ!? えっ!? もう!? 早くないですかっ!? ああ、もうっ! 【手当て】!」
俺の呼びかけに、慌てて反応する灰色肌の銀髪美人ちゃんの動きに、思わず右の広角を緩めながら俺は腰を上げるのだったーー。
1
あなたにおすすめの小説
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる