えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

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第4章 カヴァリ―ニャの迷宮

第152話 えっ!? もう!? 早くないですかっ!?

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 《【骨壁ほねかべ】の熟練度が5に上がりました。【骨硬化ほねこうか】の熟練度が2に上がりました。【魔骨化まこつか】の熟練度が2に上がりました。魔力操作を覚えました》

 「ふぅ~~っ! 出来た……」

 頭の中に響くアナウンスを聞きながら、その場に腰を落として大きく息を吐いた。

 「主君。今更だが……どうなってる?」

 「はははっ。そりゃ今更だな。ま、見ての通りだ。骨が山のように無えと使えねえ【骨法スキル】だが、使いようによっちゃあ便利なものになるってこったな」

 つまり、深淵の森で住んでた時のような骨の山がねえともう作れん訳さ。ここを出る時に【無限収納】に入るなら入れて出るか?

 我ながら良い案だと思うんだが……。何時出れるか、なんだよな。

 「うわーっ! 骨の壁だね! すっごい固いっ!」

 バシバシと骨柄ほねがらの壁を叩きながら、プルシャンが上を見上げていた。

 「おう。高さ5パッスス7.5m、幅7パッスス11.5m、厚み2パッスス3mだ。骨の山全部使っちまったが、これなら、蟻牛を上げつけられても、槍を投げつけられても壊れねえだろう。こう、末広がりの形になってるからな」

 両手で、台形の形を空中に描いてみせる。伝わったかどうかは判らんが、横から見れば一目瞭然だ。俺の言ってる事も追々解るだろう。

 「マギーさん……」

 「……」

 「マギーさん。わたしたちの旦那様って……」

 「……」

 ま、時間にして10分そこそこだが、瞬間的な盾のつもりで【骨壁これ】を使うと致命的なルートに足を突っ込むことになる。頑強だが、対何を想定したスキルなんだよ、これ。

 プラムに袖を引かれてもぼーっとしてるマギーがそこに立ってた。

 「おおい、マギー起きてるのか? 寝てるんならおっぱぶっ!?」

 ぼーっとしてるマギーに手を振るが反応がねえ。目は開いてるし、胸も小さく呼吸に合わせて上下してるのが服の上からも判るから息はある。ちょっと立派な膨らみに悪戯いたずらをと思ったらーー。

 誰かがすっとその間に身体を入れて来たと思ったら、顔を抱き締められた。



 ーー膨らみがねえ。細い。服の上からでも判るゴツゴツした肋骨……。



 「ヒルダ、何しやがる?」

 「合意の上ならば何も言わぬが、それはダメだぞ、主君」

 抱えてた俺の頭をゆっくり解放してくれたので、ヒルダのウエストを両手でつかみ、身体を支えながら見上げて不平を口にすると、たしなめられた。ちっ、要らんことを。

 「……ヒルダ」

 「何だ主君?」

 「ただの冗談だ。だが、お前さんはもう少し肉喰った方が良いな。細すぎる」

 立ち上がってけつほこりを叩く。

 とは言うが、こいつの状態は【呪:木乃伊ミイラ化】だからな。呪いが解けねえと変化は期待できんだろう。希望がない訳じゃねえ。現に初めは【呪:骸骨がいこつ化】だったんだからな。

 「ふむ。そうか。われもそう思っていたのだ。ならば今日は肉で頼む」

 「へいへい。そう致しますよ、奥様。さてと、冗談はこのくらいにして、ノボルの顔を拝み行ってやるか。ほら、マギーもしゃんとしろっ!」

 「ひ、ひゃいっ!」

 ぱすんとマギーの尻を叩くと飛び上がった。うん。尻もいい肉付きだ。

 「ほら、鬼姫。お前さんが先に戻らねえと安心できねえだろうが。行った行った」

 「は、はい。こちらです」

 慌てて案内を始めた鬼姫の長い銀色の髪の揺らぎに誘われるように、俺たちは骨でできた壁を恐る恐る回り込んだ――。



                 ◆◇◆



 確かにテントが1張りポツンと張ってある。

 そのテントの中へ躊躇ためらわずに鬼姫がつんばいいになって上半身だけ突っ込みやがった。

 おいっ! けつけつっ! スカートの丈、そんなに長くねだろうが!?

 「ノボル様っ! 戻りました!」

 「鬼姫!? お前だけか!?」

 「……セリーナはダメでしたが。白い兎人のパーティーをお連れしました」

 突っ込みたいのをグッとこらえた。いや、やっぱり心の中だけでも良いから言わせてくれ。

 名前じゃなく、姿形すがたかたちだけで探しに出せたのかよ!? 鬼かっ!?

 「誰も死んでないのか?」

 「はい。あの御強さなら、誰一人死なせることはなかろうかと思います」

 「そんなにか!?」

 四つん這いの姿勢で話す鬼姫の尻の動きに目が行きそうになるのをこらえてたんだが、自分に自身がなくなった俺はその後ろから声を掛ける。

 「あ~2人の世界に入るのは勝手だがな。鬼姫、パンツ見えてるぞ?」

 「ひゃっ! 何で見るんですか!?」

 慌ててテントから上半身を引き抜き、スカートを抑えながらペタンとアヒル座りをする鬼姫。ジト目で見上げてくるが、見られたくねえんだったら、んな格好するんじゃねえよ。

 「阿呆あほ。んな格好のまま俺の方にけつ向けて、犬みたいに振ってたら見えるに決まってるだろうが。おう、邪魔するぞ?」

 「あ、ああ、入ってくれ」

 ノボルの返事が帰って来るのを待って、テントの入り口幕を払うと、目の前に両足を伸ばして座るノボルと目が合う。右足の膝からが可怪しいし、腐臭がする。

 意外にひれえな。何で半分しか入らなかったんだ?

 「……酷くやられたな」

 特に詳細を言わずに、ざっくりと触れてみた。どんな反応が帰って来る?

 「命があるだけ儲けもんさ。俺のせいで、他の召喚契約してた奴らは鬼姫を残して皆死んじまった」

 「お前さんを守ろうとしてだろ?」

 意外に錯乱してねえな。もう少しパニック気味になってるかと思ったが……。

 「ああ、契約主を守ろうとするのがこの固有ユニークスキルの特徴だからな。けど、そのお蔭で命があるんだ。感謝してる」

 随分丸くなったな。憑物が取れたみたいな感じじゃねえか。

 「ま、そこを詳しく聞く気はねえよ。それよりもその足だ。傷が化膿し始めてるな? あの剣でばっさりやられたのか?」

 あの剣っていうのは将軍蟻が使ってた、アフリカにありそうな武器だ。使い手を選ぶと言った方が良いかもな。刀のように良くがれて、切れ味の良い武器じゃなく、むしろ鉈のような武器だ。力に物を言わせて叩き斬ると言った方が良い。

 ノボルの膝下でぱっくりと割れたように口を開ける切り口を見ると、そんな感じなのさ。

 「切り口にはヒールポーションぶっ掛けたんだが、血止めで精一杯だった」

 「鬼姫が回復魔法使えるって聞いたぞ?」

 「あいつも、死んじまったがハーピーのセリーヌの治療で魔力が底をついてたのさ」

 「お前を優先するんじゃねえのかよ?」

 「いや、セリーヌを優先するように命令した。あんたを探してもらおうと思ってな」

 「……名前も知らねえのにか?」

 「はははっ。そうなんだよ。飛ばされた後で、そういやあって思ってな。でも、よく見付けてくれた。俺にも希望が出てきたぜ」

 「……」

 「何だ? 今更何言われても驚かねえよ、おっさん。ハッキリ言ってくれ」

 俺が黙ってると、真剣な眼差しでいてきやがった。自分の体だ、幾らかは察してるだろう。ここで期待を持たせても仕方ねえ。東南アジアでよく見た傷だからな。

 「ノボル。お前さんのその右足はもう使い物にならん」

 「……そうか。そうじゃねえかな、とは思ったんだよ」

 「それだけ化膿してたら、後は斬るしかねえ。腐った血が体に入ればお前さん、死ぬぜ?」

 「ノボル様!」

 急に横から鬼姫が顔を出してきたせいで、ビクッとなったが知らねえ顔をしといた。ったく、驚かすんじゃねえよ。心配そうな顔を見る限り、契約で縛られてるだけとは見えねがな。ま、俺には関係無え。

 「おっさん、悪いが切ってくれるか? 鬼姫が居れば斬った後も直ぐ回復できる」

 「は、はい。お任せ下さい!」

 「分かった。俺に考えがある。鬼姫さんや、切り口に肉が盛らないよう骨の断面が見えるように止血できるか?」

 「細かな操作が必要ですが……で、出来ると思います」

 「なら頼む。用意は良いか?」

 「え、あ、はい、何時でもどうぞ」

 「もうするのか?」的な表情で俺を見てきた鬼姫だったが、俺の顔を見て表情を引き締めるのが判った。駒といったら鬼姫には悪いだろうが、随分掘り出し物の好物件を手に入れたもんだ。無理矢理従わされたんならこうならねえと思うがな。

 腰から剣鉈けんなたを引き抜く。解体用だ。人の体も一緒さ。

 んで、間髪入れず、振り落とす。

 「熱っ!?」「ほらっ、鬼姫さんや回復魔法!」

 「はわっ!? えっ!? もう!? 早くないですかっ!? ああ、もうっ! 【手当てヒール】!」

 俺の呼びかけに、慌てて反応する灰色肌の銀髪美人ちゃんの動きに、思わず右の広角を緩めながら俺は腰を上げるのだったーー。





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