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第4章 カヴァリ―ニャの迷宮
第161話 えっ!? 見せて頂けるのですか!?
しおりを挟む「だから、転移陣の罠で飛んだ先が最下階層だったって何回言わせりゃ気が済むんだ?」
「だから、証拠を出して欲しいと頭を下げてるでしょう?」
俺たちは今、北方辺境伯爵領領都にある冒険者ギルドのギルド長執務室で、向かい合ってソファーに座らせられてる。
誰とかって?
そりゃ部屋の主とだ。
あれから俺たちは、最下層の財宝をまんまと手に入れて、地上に帰って来たのさ。
財宝だがな、実は金目の物はノボルが期待してたほど無かったわ。縦5ペース、横3ペース、高さ2ペース半の宝箱に入ってたお金と、魔道具数点、武器や防具が数点入ってたくらいだな。
はっきり言って、俺たちには必要のない物ばっかりだった分、ガクッと力が抜けたね。
逆に言えば、ノボルたちにはこれでもかと言うくらい、お誂え向きな魔道具や装備品があったのさ。と言っても、宝箱に入ってるのは、過去何百年間にも渡って迷宮に挑んで力尽きた者たちのお古だ。んなに綺麗な物じゃねえぞ?
見付けたのはこんな物だ。
【隠者の指輪】
王級魔道具
台座のリングは真銀製 / 多面カットの紫水晶
他者の認識を阻害する
外見の偽装効果付与
【反射の小円盾】
英雄級小円盾
外縁部:魔鉄鉱製 / 内円部:真銀製
斬撃耐性(微上昇)
稀に魔法を反射する
【重撃の短槍】
英雄級短槍
魔鉄鉱製
刺突効果倍増:常時発動
地属性(微上昇)
【矢除けの大凧盾】
英雄級大凧盾
魔鉄鉱製 / 内側の5角に多面カットの翡翠
投擲物・射撃物が接近すると魔力壁を展開(魔力を含まない物に反応)
風耐性(微上昇)
【将軍蟻の撲剣】
王級撲剣
魔鉄鉱製
装備品破壊効果付き:常時発動。物を斬った時に対象物の破損判定が発動
【懐柔の牛追い鞭】
英雄級牛追い鞭
魔硬革製 / 魔鉄鉱粉末による補強
鞭による捕縛時に、魔獣の興奮を抑える鎮静化判定が発動
魔獣への好感度(微上昇)
で、【隠者の指輪】が都合良く2つも入ってたのさ。ノボルと鬼姫が仲良く薬指に着けてやがった。ご馳走さん。
正直、この指輪があったのは嬉しい誤算だった。
考えてもみろ。ノボルと鬼姫は討伐対象種のオークだ。鬼姫が今まで手を出されなかったのは、勇者の肩書きを持つノボルの使役獣扱いだったからと言う一点だけ。
それが2人ともそうなっちまったら……結論は聞くまでもない。
それにだ。俺はノボルと一緒に旅する気はサラサラねえ。俺の奴隷扱いと言って、胡麻化す方法は使えん。自分たちでどうにかするしかねえって訳だ。
【隠者の指輪】は俺がもらっても良かったんだが、「今更毛色を隠してもな」と思い直したのと、鬼姫が心配だったからというのもある。
ん? おう。人の女だが、手を貸すのは年寄りと女って決めてるからな。良いんだよ。
ウチの女どもには呆れられたが、餞別代わりだと言って納得してもらった。武器なんかは骨の谷で拾って【無限収納】に放置してる物の方が性能が良かったりするし、俺も趣味程度には造れるようになったからな。必要ねえんだわ。
つう訳で、俺と一緒に並んでソファーに座ってるイケメン野郎はどこからどう見ても、人族のノボルだ。肌も日本人特有の黄味かかった白だし、髪は黒い。耳も尖っちゃいねえ。
他の面々は、俺たちの後ろに立ってるという構図だな。
向かいに座ってるのは、さっきも言ったがギルド長だ。50代前後に見える線の細い男で、後ろに職員の美人さんが立ってる。ギルドの受付嬢は、この世界じゃ花形みたいだぞ?
そりゃあ、城務めに勝るもんはねえだろうが、市井の中じゃって話さ。俺的には銀行の受付の姉ちゃん見たいな印象だがな。ま、目の保養にはなる。プルシャンには負けるが。
それで何を話してかというとな。
迷宮の踏破記録が俺たちの身分証明証に残ってたんだと。凄え性能だよな。身分証と言っても、冒険者認証札って言う冒険者等級と同じ素材で造った半円の板に鎖を付けた腕飾りだ。俺たちは鉄級だからな。それが鉄製ってこった。
んで等級が低い俺たちが、最下階層まで罠で飛ばされたまでは良いとして、どうやれば階層主を倒して生還してこれるのか、と言うのが聞きたいらしい。
知るか。言える事と言えねえ事が有るだろうがよ。
「証拠って言われてもな。拾ったお宝を見せても、一番したで拾ったとは信じてもらえねえだろ? んで俺は手札を詳らかにする気はねえ」
「当然です。階層主を倒して得られる宝はそれこそ運ですから、上の階層でも良い物を拾える可能性は有りますからね。冒険者が奥の手を隠すのは理解できます。こちらとしては、皆さんが70階層を戻れるだけの力が有るかどうかを見極めておきたいのですよ。力に見合った等級に居て頂きたいですし」
「……どうしたもんかね。気持ちは解らんでもないが、出来る事と出来ねえ事が有るだろ?」
「出来ない事を根掘り葉掘り探る気は有りませんよ。是非、出来る事を教えて下さい!」
「ステータス見るか?」
「えっ!? 見せて頂けるのですか!?」「主君!?」「旦那様!?」「おっさん、マジか!?」
その一言に5人が反応する。ステータスを見せると言う事が、何を意味するか良く解っているからだろうな。ギルド長に至っては身を乗り出してる喰い付き振りだ。裏を返せば、それだけ上級の冒険者はステータスを見せてねえってこった。
「まあ、任せとけ。条件が有る」
右手を挙げて周りを制しておく。ヒルダとマギーが説教モードに入りそうな勢いだったからな。危なかったぜ。
「伺いましょう!」
余っ程見たいんだな。まあ良い。まずは確認だ。
「ここ最近、一月以内に勇者が迷宮で死んだとか言う知らせを聞いた覚えは?」
「おっさん!?」
ノボルの視線が頬に刺さった。ま、そうなるわな。
「ええ。報告は聞いていますよ。律令神殿付きの魔物使いノボル様でしたか。確か金級だったはずです。その方の装備品が回収されて来たのをわたしも確認しました。こちらで死亡扱いにした記憶がありますね」
「マジかよ……」
ギルド長の答えに、がっくり項垂れノボル。その様子を不思議そうに見るギルド長が、俺に視線を戻した。
「それと今の話と何の関係が?」
「それだ」
「は?」
「その死亡扱いされたのが、目の前にいるこいつさ」
「「っ!?」」
ギルド長と、後ろの秘書的な立場にあるんだろう美人の姉ちゃんが目を瞠る。
「正直、律令神殿のゴタゴタに巻き込まれるのは御免だ。あんたたちもそうだろう?」
「え、ええ。それはそうですが……。わたしたちにそれを教えてどうしようというのですか?」
「こいつに別の名前で、こっちの姉ちゃんも合わせて冒険者認証札を作って欲しい」
餌には喰い付いたんだ、後は針がバレねえように合わせるだけだ。んな事を思いながら、右の親指でノボルノ後ろに立つ鬼姫を指差して見せた。それに合わせて小さくお辞儀する鬼姫。
「ギルドに偽証の手伝いをしろと?」
「いんや。ノボルは死んだんだろ? 死んだ奴が生きててウロウロしてる方が可怪しい。こいつはノボルの身分証を届けて、ノボル死亡を確定させたんだ。けど、身分証を紛失しちまったから、ここで再発行してもらったんだろ?」
「……ええ。ええ、そうでしたね」
言い聞かせる様にゆっくり話すと、ギルド長が顎に生えた無精髭を擦りながら、ゆっくりと同意してくれた。頭の切れる奴が居ると話がスムーズで良いな。
「ギルド長?」
「本当に良いのか?」と言いたいのを堪えて短く確認を取る秘書の姉ちゃん。良いんだよ。
「それで、そちらの後ろの方は?」
「従者契約はしてるんだが、身分証があった方がこれから都合が良いみたいでな。ついでに、と言うことらしい。ああ、再発行の日付は、ノボルノ死亡手続きを済ませてから数日後が良いな?」
「なる程。ギルドは、ノボル様の身分証を律令神殿へお持ちすれば良いのですね?」
「そういうこった」
「でしたら何も問題ありません。どなたのステータスを見せて頂けるのですか?」
「そりゃ決まってるだろ。こいつだ」
鬼姫を指差したのと同じ様に、親指でノボルを指差す。
「マジで!? 俺っ!?」
「あたり前だろうが。迷宮を踏破するだけの実力があるのかどうか見てもらねえと、再発行も等級もねえ事になるぞ? ほら、どうせ見られても問題のねえ構成なんだ。知ってもらっとけ。鬼姫に良いとこ見せるチャンスだろうが」
ガバッと身を捩りながら、驚いた顔で俺を見るノボルに止めを刺す。
悪いな。俺は目立つつもりはねえのさ。お前さんに身代わりをしてもらって、のんびり異世界旅を満喫させてもらうぜ。
「うぐっ。それを言われると辛い。判ったよ。見せりゃ良いんだろ、見せりゃ。【ステータス】」
ノボルの【ステータス】を見た何人かが息を呑むのが判った。勇者の【ステータス】なんて見る機会はねえだろうから、驚くのも無理はねえだろうさ。
◆ノボル・ヤツサカ◆
【種族】ハーフオーク種(種族特性で力にレベル毎+2ずつ補正が入る)
【性別】♂
【職業】勇者
【レベル】Lv2013
【状態】呪詛 / 健康
【生命力】 21359 / 21359
【魔力】21258 / 21258
【力】25084
【体力】21248
【敏捷】20835
【器用】21301
【知性】21181
【ユニークスキル】
無限収納
聖魔法Lv2
召喚契約Lv3
【アクティブスキル】
生活魔法Lv1
火魔法Lv2
水魔法Lv2
地魔法Lv2
風魔法Lv2
剣戯Lv3
鞭戯Lv1
【パッシブスキル】
耐闇Lv2
耐呪Lv1
耐痛Lv1
耐火Lv2
耐水Lv2
耐地Lv2
耐風Lv2
【称号】
異世界人 / オークの血を受けた者 / 迷宮踏破者
【装備】
懐柔の牛追い鞭
隠者の指輪
巫女の泪(呪)
【召喚従者】
鬼姫
紅丸
黒丸
で、結局これで丸く収まったって訳さ。
ああ、ノボルな。新しく登録する名前を考えてくれって俺に言うもんだからよ、「鬼若で良いんじゃねえか? 鬼姫とお揃いだしな」て言ったら即決しやがった。若いって良いねえ~。
「後で文句言うなよ?」とは思ったが、気に入ったのか?
そりゃ良かったな。
鬼若と鬼姫は新しく冒険者認証札を造ってもらってたよ。等級は、金級だ。ギルド長たちも【ステータス】値で納得だったらしい。
本当はもう1つ上の白金級をと思ったらしいんだが、実績が足らずに不審がられるから、金級のままなんだと。そうそう、自然が一番。
で、俺たちも飛び級で鉄級から金級だ。プラムだけ仮身分証だから変化なしだが、正規の年齢になれば一気に上がるらしい。そん時どれくらいでスタートするのか楽しみではある。川辺の街で別れたクロたちは1つ下の銀級だったが、そんなに時間も掛からずに並ぶだろうな、と懐かしく思っちまったよ。
鬼若たちは、領都で蟻鎧を使った防具を造ってもらい、それから旅に出るって言ってたから冒険者ギルドで別れた。これ以上は慣れう気はねえ。
同郷の好みでしてやれる事はしてやった。後は好きにすりゃ良いのさ。
俺たちも色々と整理しておきたい事もあるしな。
「ん~~っ!」
討伐依頼の清算を済ませ冒険者ギルドの建物から出た俺たちは、ゆっくりと伸びをして空気を吸い込む。陽は大分傾いたな。
お、肉の油が焼ける匂いがする。
こりゃ、串肉だな。赤猪の肉でも手に入ったか?
香ばしい匂いに釣られて、プルシャンとプラムが匂いを漂わせる屋台を特定すべく、顎を上げ両手をなぜか後ろにピンと伸ばしてすんすんと嗅ぐ仕草に頬が緩むのを感じた俺は、ヒルダとマギーに声を掛ける。
「神殿の婆さんたちへの土産に、串肉買って帰るぞ」
「うむ。それが良い」
「畏まりました」
「こっち! プラム行くよ!」「はいっ、プルシャン様!」
そう言って元気良く駆け出す2人を急かすように、夕刻を知らせる鐘がカラーンと、赤く染まった領都の空に鳴り響いていたーー。
第4章 了
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