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第5章 公都
第176話 えっ!? 本当に、宜しいのですか!?
しおりを挟むあれから他愛もない世間話をしながら、公都にある農耕神殿へ向かってる。
俺のぽふぽふが気持ち良いのを色々と調べてみたってとこで馬車に乗り込んだから、話が途中になってたろ?
飽くまで俺の仮説だがな。
俺の【職業】骨仙人が関係してるんだろう。と言うのも、特に使わない“死にスキル”があるのさ。その名も【骨魅了】。常時機能してるスキルだ。
詳しく言うと、こんなスキルさ。
【骨魅了】
パッシブスキル
骨に好意を持たれる
熟練度1
色々突っ込みたい気持ちは解る。俺もそうだ。
「短っ!」って声に出そうになったからな。ああ、今のところ情報はこれだけさ。
だから推測でしか話せん訳よ。
考えてみろ。骨が好意を持つか? 『骨まで愛して』って歌があったのは知ってるが、骨だけ愛するなんてことは、真っ当に生きてる奴は当て嵌まらねえだろ?
そのまんま該当するとしたら、骸骨だ。
何となくそんな気もするんだが、それで納得してちゃぽふぽふが解明出来ねえ。
でだ、魅了ってことは対象に作用する何らかの影響がある、と考えてみたのさ。俺が深淵の森で森河馬に掛けられてたのも魅了だ。
ま、俺は男だから魅了されて変な方向に吹っ切れてたんだが、「魅了って何だ?」ってとこに立ち止まってみた。意味があってるかどうかは知らんが、『人の心をすっかりひきつけて、うっとりさせてしまうこと』が魅了だとすると、当て嵌まる部分がある気がする訳よ。
俺のぽふぽふは『癖になる。気持ち良くてボーッとなる』らしい。
ん~まぁ、見てるとそんな感じだな。
声が出るのは気持ち良さの部分で、気付いたら出てるんだと。まあ、それは良い。『癖になる』は魅きつけてるから、またして欲しくなるって事だ。んで、『気持ち良い』からうっとりさる事が出来てるんだろう。
つまり、俺のぽふぽふは『生きてる者の骨に、直接気持ち良さを届ける事ができるのではなかろうか』と仮説と立ててみたのさ。特に頭へのぽふぽふは感覚器官の総元締である脳が、頭蓋骨の向こう側にある。
何かで読んだ記憶があるが、自分の力や可能性を最大限活用して何かを達成したいと言う欲求が人にはあるらしい。そうすることで達成感という悦びを脳が覚えるんだと。何とかパミンって言う物質が出るって書いてあったな。
何が言いたいかって?
いや、世の中には使ったら拙い物がある。麻薬がその1つだ。俺の若い頃はシンナーも出回ってたがな。まあ、そこは良い。そういう物は、厳しい訓練や時間を大量に消費しなくても、簡単な作業で快楽を得られちまう。だから未だに止められん奴が多いんだ。
俺が若い頃連んでた友達が、シンナーで何人かラリって死んじまいやがった。あんな物に手を出しちゃいけねえ。
俺のぽふぽふも、頭蓋骨→脳って直通だ。だから、『ぽふぽふがそれだったらどうするよ!?』って心配になった訳よ。いや、女神の姉さんたちが作った代物だから、そんな拙いことにはならんだろうという希望は持ってるんだが……どうもな。
あ~何でこんな話を長々としてるかって?
そりゃあ、隣りに座ってるイドゥベルガの娘の前で、うっかりプラムの頭を撫でちまったのさ。
そしたら、ガルニカ塁砦から公都に来るときのティナみたいになってな。「撫でてみてくれ」と頼まれて、深く考えもせずにその場の勢いでぽふぽふとやっちまった訳だ。
そしたらまあ、お察しの通り。
俺は今、滅茶苦茶ヤバい状況にある。
口を両手で押さえ、涙目になって俺を睨む猊下と、「その女にして何故わたしたちを撫でないのか」と言わんばかりの目で見詰めるヒルダたち、更には御者席の覗き窓からこちらを見る、執事爺さんの冷たい視線……。
いや、だからどうしろってんだ!?
戦々恐々とする俺など気にすることなく、馬車を牽く馬たちの暢気な鼻息が、何故か嘲笑ってるかのように俺には聞こえていたーー。
◆◇◆
「ーーなのですよ! お母様、笑い事ではありません!」
俺たちは今、親子喧嘩になりそうな様子を遠めに見てる。
ああ、農耕神殿にはちゃんと着いたぞ? イドゥベルガの婆さんもちゃっかり居やがった。
まあ、俺たちが迷宮でちんたら足止めを喰らってたときに、さっさと公都に来てやがるんだからな。居ないと言われた方が驚くわ。
一応執務室らしき豪華な部屋だ。対外的にはこういう部屋の1つや2つは持っとかねえと、貴族たちに足下を見られちまうんだろうな。ま、俺には関係のねえ話だが……。
「あんたらいつまでそれを続けるつもりだ? 用がねえんなら帰るぞ?」
「ああ、申し訳ありません! ほら、お母様も謝って!」
「何に対して謝れと言ってるのかしら? 子どもの躾が上手くできてないことかしらね?」
「何をっ!」
「まあまあ。それはもう良いから、要件を話せって」
「分かりました」
イドゥベルガの婆さんが微笑みながら机の上に置いてある呼び鈴を持ち上げ振る。小さいが、中に打ち金が垂れてるのが見えたがーー。
あん? 何も聞こえん。音が出てない!?
確かに、鈴を振ったはずなのに、音が聞こえなかったんだ。
「ふふふ。不思議かしら? これは【遮音の鈴】と言う魔道具です。これで、この部屋の話が外に漏れ聞こえることはないでしょう。何処にでも鼠は入り込みますからね。困ったものです」
おっと。さっきまでの喧嘩は振りかよ。
貴族程じゃないにしろ、神殿もそれなりに探られてるって事か。宗教は都合の良いように利用されるからな。目の上のたん瘤扱いされることもあれば、胡麻を摺られる時もある。
そこを切り盛りするんだ、強かじゃねえとやってられんてことか。
「改めてご挨拶申し上げます。農耕神殿において教皇の座に就いております、クラリッサ・ティルピッツと申します。母より何もお聞きになっていないと思いますので、簡単に説明させてください」
よくお分かりで。
この婆さん、人を驚かせて楽しんでる節があるからな。
頭に載せた白いショールをずらさない様に、静かにお辞儀をする教皇の姉ちゃん。
「現在、律令神殿を除く八柱神殿において、律令神殿の排斥を画策しております」
『っ!?』
その言葉に俺らは息を呑んだ。それだけ大事ってことだ。
こっちの世界に来てまだ半年少々だが、基本的な事は押さえつつある。
その一つに律令神殿がある。人族至上主義と言う、俺たちにとっては眉を顰める信条を全面に出している一方で、世界の硬貨の製造を一手に担ってるのがこの神殿だ。
お蔭で統一硬貨を価値の変動なく、何処に居ても使えると言う優れた硬貨が流通してる。
国毎に裏面の刻印が違うものの、表は律令神殿の“七つ葉の蔦”の刻印が打ち込んであると聞いた。まじまじと見てねからな。硬貨製造の総量が管理されてるからこそ、今の経済が成り立ってるといっても過言じゃねえだろう。
言ってみれば、そこを排除するって事だろ?
「おいおい。穏やかじゃねえな。硬貨もあそこで作られてるんだろ? 国が立ち行かなくなるんじゃねえのかよ?」
「確かに、その点は懸念事項ですが、今は内定を進めている状況です」
「内定?」
「律令神殿の上層部が人外かも知れぬという確証を集めているところです」
「おいおいおいっ! それこそ俺たちに話しちゃ拙い情報だろうが!?」
それが本当なら、神殿と言う組織全体が根底から覆されるぞ? んな面倒な話を俺たちに聞かせんな。
「いえいえ。そんなことはありません。ハクト様たちに旗頭になっていただくつもりはありませんが」「調査に協力しろと?」
被せ気味に後の言葉を継いだ。「ありませんが」でピンと来たわ。
「理解が早くて助かります。勿論、支援は農耕神殿だけでなく、八柱の神殿全てから支援が受けれるように致します」
「言ってること解ってんのか? 完全に宗教戦争だぞ?」
どっちも正義と言う戦争程怖えもんはねえ。
「そうならないために、ご協力を」
「ちっ」
旗頭は別に立てて担がない代わりにって、何とまあしっかり堀が埋まってるじゃねえの。彰や鬼若の事もあるし、やることは吝かじゃねえんだが、誘導されるってのは嫌えなんだよ。思わず舌打ちしちまったわ。
「それに先立って、ハクト様たちにはお母様と、南方正教会へ行っていただきたく思います」
「南方正教会?」
南があるって事は北があるよな?
「はい。律令神殿は単独で北方正教会を名乗り、北の神聖帝国と深い繋がりを作っています。わたくしたち八柱の神殿からなる組織がそれに対抗するわけではありませんが、彼の神殿と袂を分かち南方正教会を立ち上げたのでございます」
Oh……やっぱりあるのか宗教大国が。オマケに仲が悪いのは昔からときた。
「そこを狙われるって事もあるんじゃねえの?」
「……」
目を逸らさなかったが、この娘、否定しねえぞ。
「おいおい。自分の母親を囮に使うのかよ!? 正気か!?」
「母をお願いします」
「俺が断っても行くんだろ? 婆さん?」
「老いた悪友も一緒ですが、そうなりますね」
「ちっ。何人で行くつもりだ?」
かーっ。このクソ婆ども肝が据わってやがる。ガシガシと後頭部を掻きながら、確認を取った。ここまで話を聞いて、お好きにどうぞって言える程俺は割りきれねえよ。
「深淵の森に近い西狭砦からあと3人。反対の南狭砦から4人の8人です。付き人が1人は付くでしょうから、16人?」
「ぶっ。結構な小隊じゃねえかよ。襲ってくださいといってるようなもんだろうが」
「若い時はもっと無茶をしましたからね」
とコロコロと笑う婆さん。あんた凄えわ。
「と言うか、何でまた出掛けにゃならんのだ? 公都で集まっただけじゃダメなのかよ?」
婆さんにそう返すと、娘の方が答えてくれた。
「南方正教会に、八柱の神官が同時に祈って得られる神器が湧き出る場所があるのです。祈って得られない場合、計画は神々に認められていないという証にもなります」
大義名分ね。ネジの緩んだ勇者が好きそうな場面だぜ。チラッとヒルダたちを見たら、小さく頷くのが見えた。俺の好きにしろってことか……。
「阿呆くさ。死にたがりかよ? 死にてえなら勝手に死んどけ。何で俺が、こいつらを危険に曝さなきゃならん」
ヒルダたちを見ながら吐き捨ててやった。とは言ってもよ。その提案を「はい、喜んで」って鵜呑みにできる話じゃねえだろ? 姥捨山に一緒に行くんじゃねえんだぞ?
「……そう、……ですか」「……」
まあ、こう言われれば断られたと思うだろうな。明らかに落胆の色が濃く顔に出てる。
「2ヶ月だ」「「ーーっ!?」」
2ヶ月と言った瞬間に2人の顔が上がった。それも同時に。親子だな。
「2ヶ月で、出来るだけ危険を回避できる旅の計画を立てな。準備には一切手を貸さんぞ? 2ヶ月後に野暮用で出掛けにゃならんが、それが済めば一緒に行ってやる。それでも良ければ、だがな。どうする?」
「えっ!? 本当に、宜しいのですか!?」
俺の言葉に娘の方が喰い付いたわ。これも何かの縁だ。世話になってる部分もあるし、知らねえとこに行けるのも面白れえもんな。
「宜しいも何も、人助けは綺麗な姉ちゃんと年寄りって決めてんだ。今回はどっちも条件に合うだろ? ま、泥舟に乗ったつもりで任せてくれや」
「沈んでは困ります!」
「わははははは! ま、時間はある訳だし気楽にいこうや。それよりもよ、朝もばたばた引っ張り出されてまともに飯を食ってねえんだわ。何か食わしてくれよ」「ふわあぁぁぁっ」
素早く突っ込んできたクラリッサに嘯くと、俺とプラムの腹が元気よく鳴っちまった。
催促しながらプラムの頭をガシガシ撫でてやると、気持ちよさそうに声を上げるじゃねえかよ。その様子に皆の口から笑い声が零れ、いつしか部屋を満たしていたーー。
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