えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

文字の大きさ
225 / 333
第4幕 世界樹の森 序章

第192話 えっ!? あたしっ!? 何っ!?

しおりを挟む
 
 「マヂかよ。旅の初日だって言うのに、どっから説明すりゃいいんだ」

 そうつぶやいた時、しくっと下っ腹に小さな痛みが走った――。

 「すんっ、あ、旦那様? 血が……」

 プラムがシーツの上から臭いを感じ取って教えてくれた。

 「血? すんすんっ、確かに新しい・・・・・血の臭いがするな」

 ベッドに横になったまま臭いをぐと、確かに血の臭いがする。昨日の夜、ヒルダから出た血はもう乾いて臭いもほとんど消えてるのに、だ。

 「ねえ、ご主人様。これからどう呼べばいいの? 奥様?」

 「阿呆あほ。7日もすりゃ元に戻る。気にせずに今まで通りで良いに決まってるだろ」

 ロサ・マリアの確認に答えると、「なぁんだ」とか言いながら物足らなそうにしてやがったら、すぱんっと頭を平手ではたいておいた。

 「でも、だ……奥様。声も変わっておりますし、体型も男性と偽るには無理があるかと思いますが……。何より、旅の間はわたしたち以外の目もあります。花摘はなつみや湯浴ゆあみはどうされるおつもりですか?」

 マギーも奥様に言い直しやがったな。まあ、この姿じゃ俺が我慢するしかねえか。

 「いつつ、腹が痛くなって来たな……。冷えたか? ああ、競売に潜り込んだ時に着けてた仮面着けて、袖なし外套クローク着ときゃ良いだろ? 体の線はそれで胡麻化ごまかせる。声は風邪で喉やられたってしとけば」

 「でもさ、7日も喉が治らないって、怪しんでくださいって言ってるようなもんじゃない?」

 ぐっ、痛いとこを突いて来やがる。

 ロサ・マリアの突っ込みにじろりと視線を向けるが、つんと知らん顔で流されたわ。まあ、契約する時そこまでのことを求めてねえから自由で良いんだが、自由過ぎるだろ?

 いつつ。下っ腹がいてえ。【耐痛】が最大熟練度まで上がってるが、瞬間的に痛みは感じるんだよ。痛みが持続しねえのが救いなんだが、それでもつんつんと刺さるというか、引っ張られるというか、何とも表現し辛い痛みが出て来たのさ。

 血の臭いが濃くなって来た気がしたから、上半身を起こしてシーツをめくってみる。

 「げっ!? なんじゃこりゃっ!?」

 けつの下が血の海になってやがったのさ。

 「ああっ!? だん、奥様! 直ぐにベッドから降りてくださいっ! 血が下までみてしまいます。ロサ・マリア!」

 「お、おう……。大丈夫なのか、俺?」

 マギーに急かされ慌ててベッドから降りると、マギーが「失礼します」と言いながらシーツを細長く裂き、それを半ペース15cmくらいの長さに折りたたんで、俺の股に当てるじゃねえか。

 おい、これって……。

 「えっ!? あたしっ!? 何っ!?」

 マギーの呼びかけにビクッと飛び上がるロサ・マリア。呼ばれるとは思ってなかったんだろう

 「直ぐに、神殿の人に掛け合って、赤不浄あかふじょうのための布を多めに貰って来てください。プラムも一緒に行って道案内をお願いします!」

 「わ、分かったわっ!」「は、はいっ!」

 赤不浄って、あれか? 女の月のモノか?



 Оh……。マヂかよ。



 生理痛かよ、これ。痛たた……。

 「ヒルダ様。【きよめ】の【生活魔法】をお願いできますか?」

 「うむ。まさか主殿あるじどの女子おなごになるとは思ってもみなかったが、問題ないぞ。【清くあれ】。われらの体も清めておこう。【清くあれ】」

 風呂の文化が下々まで広まってねえこの国では、大きめの平桶ひらおけに湯を入れて体をくか、今のように【生活魔法】で体を清める事が主流だ。

 ヒルダはもともと【生活魔法】は使えてたんだが、どうもしっくりこねえのさ。

 俺をさっぱりさせておいて、ヒルダが自分やプルシャン、マギーの体を綺麗にしていくのを見ながら思い出した。

 「ああ、マギー悪い。自分で押さえとくからよ、服着とけ」

 「承知しました。それでは、一時手を放します」

 「おう」

 マギーの手と入れ替わって、前から手を伸ばしてあそこに布を当てる俺。蟹股がにまたで、少し前傾姿勢になるという、可哀想な姿だ。他の奴らには見せられん。
 
 月のモノな。

 ヒルダは今迄なかったんだが、プルシャンは周期的に起きてたのさ。マギーもそうだ。プラムは初潮しょちょう自体まだ来てねえ。6歳だからな。

 前の嫁さんの時もそうだが、生理の時はにゃんにゃんすることはねえ。後は……そうだな。出て行った血の補充という意味も込めて、肉を食べさせるようにしてたか。

 こう言っちゃなんだが、色欲で年中盛ってる訳じゃねえ。

 生理が来てるのに無理やりすることはねえんだが、何でヘゼ姉ちゃん静江ばあちゃんの機嫌が悪かったのかってことだな。

 今となっては7日をどうにかやり過ごさにゃならん。

 厄介な話だ。



 腹が痛くて憂鬱ゆううつになるぜ。



 チラッとマギーを見ると、ヒルダとプルシャンがまたもたもたと着ている中、いつの間にか服を身に着けてシーツを太字のTの字に切り出してるじゃねえか。

 何やってんだ?

 Tの字の上の横棒に当たる布がそこそこ長い……。ああ、ふんどしか。

 こっちに来て思ったのは下着、パンツがねえってこった。

 深淵しんえんの森から出て来た時に助けた、騎士団の連中や姉ちゃんたちも無かった。上は着れても、下は丸見えだな。

 じゃあどうするかって言ったら、下着を作るしかねえんだが、俺には縫製ほうせいの知識も技術もねえ。だから日本の100円ショップで売ってた、あのパンツですら作れない。

 だったら、先人せんじんの知恵を拝借はいしゃくって事で褌を作ってもらったのさ。

 だから、俺は作れねえって。

 あ~何処で作ってもらったかな~……。川辺の街ホバーロじゃなかったな。じゃあ、辺境伯爵領の領都カヴァリーニャか。

 そうそう、迷宮に入るようになった時にプラムもマギーも下着がねえって言うから、布屋で作ってもらったんだったな。

 紐と長目の布があれば褌ができる。紐パンもできるから何枚か作ってもらったんだっけ。俺は褌を作ってもらったんだが……マギーのやつ、それじゃなくて使い回せる様にシーツからとったって事か?

 メイドとして本当、よく頭が切れるぜ。

 切り出したT字の横棒部分の布をクルクルッとじって紐状にすると、俺の前に膝立ちになってさっとそれを着けてくれたのさ。腹の前で捩じった紐を縛り、そこを通して布を前に垂らせば褌の完成だ。

 「ありがとな」

 あそこから手を離しながら、当て布の位置を整える。

 日本の生理用品って良く考えてあるな。つくづくそう思うぜ。

 「いえ、間に合わせで申し訳ありません」

 「いや、それでも無いよりましだ。なんせ初体験だからな。分らねえことだらけさ。この中じゃ一番頼りになる。頼むな」

 「はい。だん、奥様」

 もうどっちでも良い。好きに呼んでくれ。動じることなく、優し気に微笑ほほえみながらうなずいてくれるマギーを目で追っていると、ロサ・マリアたちが戻って来た。

 「貰って来たよーっ! 何か話があるからって、え~っと、く、く、クラリットさんが来た!」

 こいつもノック忘れるタイプの奴なのか。姫さん付きの騎士のワンころと同じレベルだって思っとかねえとな。バンと扉を開けて元気よく入ってくるロサ・マリアに、マギーの蟀谷こめかみにぴきっと青筋が浮くのが見えた。

 今はプルシャンの着付けが終わり、ヒルダを手伝ってるとこだ。

 「クラリッサです。ロサ・マリアさん」

 「ゔ……ごめんなさい」

 後ろからそう訂正しながら部屋に入ってくる、イドゥベルガ婆さんの娘クラリッサに、ロサ・マリアは道を開けてぺこりと頭を下げる。

 「赤不浄あかふじょうの方がいらっしゃると聞いたのですが……。ヒルダ様ですか?」

 「いや、われは健康そのものだぞ」

 「えっ!? ヒルダ様……ですか?」

 「うむ。昨夜、ようやく肉体が戻ってな。主殿あるじどの寵愛ちょうあいをいただいたとこだ」

 クラリッサの問い掛けに、マギーに着付けを手伝ってもらっているヒルダが、顔だけクラリッサに向け肩に掛かる色の髪をふわりと払う。

 「……主殿あるじどの? えっと、では赤不浄の方は?」

 「俺だ」

 クラリッサの困ったような視線を呼び寄せる。

 「えっと、どちら様でしょう? 雪毛の兎人族の女性はプラムちゃんだけだったはずですが、どうして成人した兎人族の女の方がいらっしゃるのでしょうか? と言うか、ハクト様はどちらに?」

 雪毛に全身覆われているとはいっても、女の象徴である胸を出したまま褌一丁ふんどしいっちょうで突っ立ってる俺を、頭の上から足の先まで見ながらそう聞いてくるクラリッサ。

 「目の前に居るだろうが」

 認知してもらえねえ。

 「失礼ながら、女性の方がその様な言葉遣いは如何いかがなものかと思いますが」

 「知るか。目が覚めたらこんな体になってるんだからよ」

 「え……ハクト様?」

 「おう」

 「ご立派な胸がありますね?」

 「不本意だがな。触ってみるか?」

 「い、いえ。赤不浄は……?」

 「さっき始まったとこだ。結構血が出るんだなって思ったぜ」

 「え、え、え、え……!? 本当にハクト様ですか!? ヒルダ様が綺麗な人になってて、ハクト様が女の人になってて、赤不浄が来て……え、え、え、どう説明すればいいんですか!?」

 あわあわと俺とヒルダを交互に指さしながら混乱するクラリッサに、ロサ・マリアがスタスタと歩み寄ると、奴隷らしからぬ振る舞いをし始めやがったよ。

 ポンと、クラリッサの左肩に手を置いたロサ・マリアが口を開く。

 「諦めなさい。ご主人様と居るとこんな事ばっかりよ。クラリット。ぴゃっ!?」

 ウチに来て2日目のお前がそれを言うのかよ!? と思ったら、マギーが背後に回って、ロサ・マリアの耳をまむのが見えた。はええな。

 「ですから、わたしの名前はクラリッサです。ロサ・マリアさん」

 おまけに物覚えも悪いと来たもんだ。

 「ロサ・マリア。出発前に色々とおさらいした方が良いようですね」

 「ま、マギーさん、ど、どうしてあたしの右耳をつかんでるのかしら?」

 「左耳から言ったことが抜けないようにしてれば、おのずと察することができると思いますが、どうやらそれも無理なのようですね。皆様、出発前の慌ただしい時ではございますが、少しだけお時間を頂戴ちょうだいいたします」

 ロサ・マリアの右耳を左手でギュッとまんだままお辞儀して、開けっ放しになってる扉へ歩き出す。ロサ・マリアはそのまんま引っ張られる耳を救出しようと両手で抵抗するが、徒労に終わってる。

 諦めろ。

 「おう、行って来い」

 「ちょっ、ご主人様!?」

 「安心しろ。骨は拾ってやる」

 「嘘でしょっ!? 痛い痛い痛いっ! マギーさん耳! 耳が千切れるよっ!? エルフって兎人族の次に耳を大事にしてるんだよ!? 耳、耳っ!? 引っ張らないでっ!! きゃああああああ―――――っ!!?」

 廊下にロサ・マリアの悲鳴が響き渡る。

 こうして、慌ただしく出発の朝が幕を開けた――。





しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...