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第1章 南方正教会
第210話 えっ!? そりゃ本当かよ!?
しおりを挟む次の日、まだ陽が高い内に俺たちは南方正教会がある街に到着した。
湖の端から街へと伸びる、埋め立てられ煉瓦で舗装された道を進むと街だ。大きさは、川辺の街くらいか?
ただ、手が掛かった街だという事は良く分かる。
馬車三台は通れる幅で、街の入り口まで伸びる煉瓦舗装された道。見張りと防衛を兼ねた、太い円柱塔に挟まれた曲線型の大きな門。
街中の道も煉瓦で舗装されてる徹底振りだ。
「ほ~」っと感心したのは、その道が真っ直ぐ目的地である南方正教会の建物に伸びてたことだな。岸から街まで半ミーリア。門から教会まで1ミーリアはある。
天然の島なのか、全部を埋め立てた人口の島なのか、はたまた天然の島を埋め立てで広げたのかまでは判断出来ねえが、賑わいのある街に俺たちは歩いて街に入った。
何でも、乗り物に乗ってこの街に入るのは不敬なんだと。
あと、面子が面子だけにほぼフリーパスだ。同じように並んでた旅行者には物珍しそうに見られたがな。
聞いたところじゃ、この周辺じゃここが一番大きな町らしい。凪の公国の公都へ買出しに来るよりかは、こっちの方が物理的に近いんだと。
ついでに女神へ参って帰れるし、ということだそうだ。
九柱が祀られてる神聖な街、聖地ダール。
まあ、仲が悪いのは地上の代理人同士だからな。姉ちゃんたちが仲が悪い訳じゃねえ。寧ろ逆だ。それを知ってるからなのか……。
俺にはさっぱり有難味は伝わってこねえな。
ふと気が付いたら、斜め前をエロ熊猫爺が歩いてやがった。
いつの間に?
確か昨日、骸骨騎士にぶっ飛ばされてたんだがな。包帯1つ巻いてねえ。しかも、あれだけ飛ばされたのにケロッとしてやがる。
どんな鍛え方してんだ!?
チラッと横目で見ると、だらしなく鼻の下が伸びてやがった。
懲りねえ爺さんだぜ。
視線の先は先を歩く、小豆色の髪の女騎士と、前髪ぱっつん姉ちゃん。それに、ヴィヴィアンヌと手を繋ぐおかっぱ頭のお嬢ちゃんの揺れる尻だ。お嬢ちゃんの方は興味ねえみたいだがな。
まあ、嫁を見られてる訳じゃねえから、知らん顔だ。
この爺さんのお蔭で、結局簡易風呂がバレて、爺さん婆さんの人数分作る羽目になったんだからよ。材料がねえから直ぐには無理だって言ったんだがな。
用意するから作ってくれと、いや、「作れ」と五月蠅えんだわ。
まあ、俺たちの後に風呂を使った上での要求だからな。分からんでもねえが、あれ、結構骨粘土使うんだよ。
人でも獣でも何でも構わんが、大量の骨が要ると言ったら、「南方正教会の地下にある」と抜かしやがった。罰当たりどもめ。
墓荒らしをしてまで作る気はねえぞ?
あ? 俺? 骨の谷か? ありゃ墓場は墓場でも、戦場跡だろ。誰かが故人を偲んで埋葬してた場所じゃねえ。だから俺も気にすることなく使ったんだよ。
そんなことを考えながら暫く歩くと、南方正教会の建物が見えて来た。
あ~……湖畔から見る限りじゃそこまで思わなかったんだが、南方正教会の建物な。イスラム教の宗教施設によく似てるんだわ。
前後左右に立つ鉛筆みたいに尖った四つの塔と、目が一杯付いてる巨大なダンゴムシに喰い破られたドームみたいな建物。
「うわ~おっきいね!」
プルシャン、人前でその言葉は使わん方が良いと思うぞ?
「うむ。見事な円蓋だ」
ヒルダの言う通り、向こうの世界のモスクとかで屋根に乗ってた玉葱型のドームじゃなく、半円型だ。円蓋と言った方が判りやすい。
『姉さまたちの気配を感じます。ハクトさん用心してくださいね?』
「いや、何を用心しろって言うんだ? 何を言われるか分からんのに」
『だからこそです』
「あ~まあ、そうだな。心の準備だけでもしておくか。ん? 何かね、ロサ・マリアさんや?」
頭の上に陣取って話し掛けて来る青い小鳥に返事をしてると、微妙な表情で俺を見てる視線がある事に気付く。
ああ、ロサ・マリアには小鳥がピイピイ鳴いてるだけにしか聞こえねえか。
「本当に話せてるんですか?」
「おう。お前さんにゃまだ聞こえんだろうがな。マギーとプラムはどうだ?」
「最近、聞き取れるようになってきました」
「えっ!? そりゃ本当かよ!?」
「はい」
「いいな~、マギーさん。わたしはまだです。何でだろ? あ、でも、何んとなくは分かります!」
プラムはまだ、と。いや、何となく分かるのは、まだ良く分かってねえって事だぞ? へへ。その必死さが可愛いな。
でもまあ、考えられるのは夜のあれしかねえよなぁ~。
消去法だが、青い小鳥んと意思疎通を可能にする方法がそれしかねえんなら、プラムにゃもう少し不自由してもらわねえといかんよなぁ~。
「ま、心配すんな。プラムもそのうち聞こえてくるようになるさ」
『そうですよ、プラムちゃん』
「ん~。は、はい!」
ゴシゴシと頭を撫でると、嬉しそうに目を細めて返事をするプラム。小さな白い尻尾がフリフリ動いてて癒されるぜ。スピカとはまた違った可愛さがあるんだよな。
「お前さんもな?」
「はあ……」
ロサ・マリアへにかっと笑って見せて、視線を荘厳な雰囲気を醸し出してる建物に視線を移す。
青い小鳥が言うように、静江ばあちゃんたちの気配がするからそんな雰囲気を感じるのか、それとも巨大な建造物の迫力がそう思わせてるのか……俺には判らんがな。
建物を前にして、タイミングよく雲間から陽の光が降り注ぎ、教会を照らす。
湖面がキラキラするのと相俟って、綺麗なもんだ。
すると、何処からともなく飛んで来た鳶が教会の上を一回くるっと旋回し、見惚れる俺たちを笑うように、ピーヒョロロロロと鳴いた――。
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