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第2章 森の関所
第221話 えっ!? じゃあ、何だってんだ!?
しおりを挟む俺たちは縄で手足を縛られ、半日森の中を歩かされた。
途中、プラムが動けなくなったから俺が背負うことで、殺されるっていう最悪の事態は避けれたな。
『動けないなら、ここで射殺す』って言いやがるんだぜ?
言葉が解らなくてもよ、矢を番えた弓を向けられたら嫌でも分かるってもんだ。あと、俺のすぐ後ろを歩いてたって言うのも良い順番だったな。
直ぐに、俺とロサ・マリアがプラムの前に出たが、ったく、共通語が解るのに妖精語しか喋らねえってどんだけは高えんだ。
鼻に付くとはこのことだな。
矢を向けやがったのは、隊長のエルフじゃなくて別の男エルフだが、どいつもこいつもいけ好かねえイケメンエルフだよ。
「お前が負ぶってくれるんなら、何も文句ねえが、射殺すって言うなら俺が背負うって、言ってくれ」
って態々ロサ・マリア経由で話して貰ったよ。
だがな。毎度毎度通訳して貰わねえといけねえのは面倒なことこの上ないが、実際問題、国境警備隊の森エルフの何人が共通語が解るのかって問題があるだろ?
俺の言う事がさっぱり分からん奴も居て、俺に侮辱されたと思って矢を撃たれる可能性がない訳じゃねえって事さ。
もどかしいぜ。
そう言えば、骨の谷に居た時の赤竜が喋ってた言葉も解らんかったな。
【無限収納】に、食べたら何でも話せるし理解できるようになる板蒟蒻みたいなもん入ってねえかよ。
……ねえよな。
油灯みたいに光を放つ魔道具に照らされる、陽が暮れた関所の取調室の椅子に座らされた俺は、そんな事を考えながら天井を仰いだ。
俺の言う事が解らねえんなら通訳付けろ、暈け。
森エルフの野郎に睨まれてるのは判るが、妖精語なんて話せねえんだから仕方ねえだろうが。
バンッと木製の机が叩かれ、向かいに座ってるイケメンエルフの取り調べ役が再開する。
『もう一度、聞くぞ。名前は?』
「知らん」
『種族は?』
「知らん」
『歳は?』
「分からん」
『生まれは?』
「知らん」
『職業は?』
「知るか」
『ここに来た目的は?』
「分からん」
『何故、パトリック様がお前たちと居る?』
「知るか」
『スルバラン家の娘はお前の奴隷か?』
「だから、分からねえって言ってるだろうが。暈け」
『お前の目的は?』
「知らん」
『何故エルフの王国に来た』
「分からん」
『オーガを密入国させるつもりだったのか?』
「知らんね」
『どのルートでそうするつもりだった?』
「あのな。エルフの色男さんよ。お前さんは俺の言う事が解るかもしれんが、俺はお前さんが何を言ってるのかさっぱり解らん。どうせ、壁の向こうで聞き耳を立ててる奴が居るんだろうが、生憎だったな。雪毛に妖精語みたいな高尚な言葉を求めるんじゃねえよ。話が聞きたけりゃ、ロサ・マリアでも、リサでも連れて来い。通訳を付けろってんだ」
くそっ、苛々するぜ。
さっきから何回これを繰り返せば気が済むってんだ? 苛々してボロが出るのを待ってるって事か? それこそ無駄骨だぜ。
大方、俺らがここに来た理由や、ロサ・マリアと俺の関係や、ここにしょっ引かれた理由の真偽を確かめてるんだろうが、どの質問がどれかまで判る訳ねえ。
そもそもオーガを密入国させようとしたなんてのは、完全な濡れ衣だ。
あいつらとの関係をしっかり説明できねえと、このまま檻の中って事にもなり兼ねん。かと言って、妖精語は喋れんし……。
いや、その前にあいつらは大丈夫なのか?
「なあ。俺の連れはどうなった? この関所に居るのか?」
『話す気になったか?』
「だから、お前さんの言ってる言葉が理解できんて、何回言わせりゃ気が済むんだ? あ? お前らの頭は飾りか? 男なのか女なのか判らねえ綺麗な顔しやがって。良いなあ、この野郎。足も長え、肌も白い、指も長えと来たもんだ。それで弓引いて指の皮剥けないってどんだけ指の皮が厚いんだ? お前ら欠点ねえだろ? だから、俺らの事が解らねんだよ、この野郎」
ありゃ? 初めはこう、罵ってやろうかと思ってんだが、こりゃ完全に僻みだな。言ってる俺も、途中から何が言いたいのか良く分からなくなったわ。
『ぶっ』
んな事を思ってると、部屋の隅で誰かが吹き出しやがった。声からするに女か?
気配も匂いもねえ。オーガか、魔道具の効果か判らねえが、俺の中で警戒レベルが一つ上がったよ。
「誰か居るのか? と言うか、出て来い。吹き出した段階でバレてんだよ」
「も~何で笑わせるかな~。折角隠れてたのに台無しじゃない」
俺の言葉に反応して、俺の斜め前、部屋の右隅に女エルフの輪郭が浮かび上がり、透き通っていた体が実体化したのさ。
俺が理解できる言葉ってことは共通語だ。
やれやれ、やっとまともに話ができるぜ。
それに指から何か抜いているようにも見えた。恐らく指輪型の魔道具だろう。
現れた女エルフはマギーのように肩の辺りで金髪を切り揃えてるが、この女には良く似合ってるなって思っちまった。いや、浮気じゃねえぞ?
後は瞳の色だ。この限られた明るさでも判る鮮やかな翠玉色だって事は、パトリックが言ってた貴いエルフって奴だろう。
『副隊長!?』
『はい、ご苦労様。後はわたしが引き継ぎます』
椅子から腰を浮かせて驚く男エルフに、女が手を上げて笑いかける。一言二言声を掛けたようだが、それも解らん。
「おい、何話てやがる?」
「ああ、気にしない気にしない。ちょっとした引継ぎだから」
俺に肩まで上げた右手を、手首だけで振りながらはぐらかされた。第一印象だが、俺の顔を蹴りやがった隊長に比べて随分と近づきやすさを感じる。
演技かどうかはまだ判らんがな。
『宜しいのですか!? 隊長にまた責められるのでは?』
『良いの良いの。どうせ形ばかりの取り調べをさせて、地下牢にぶち込むか、王都で見世物にするかどっちかなんだろうから、わたしが取り調べても結果は一緒よ』
『そう言われるのでしたら……』
『筆記は取ってるんでしょ?』
『はい。二人で当たってるはずです』
『宜しい。なら問題ないわね。さ、行った行った。あとは任せて頂戴』
『分かりました。後は宜しくお願い致します』
『忙しかったんだから、ご飯でも食べて来なさい』
「おいっ!」
一礼して取り調べをしている部屋を出て行く男エルフを、手を振りながら見送る女に声を荒げちまった。大人なげねえ。
俺もまだまだだな。
「そんなにカリカリしないで。交代するのに申し送りと、確認を二三してただけじゃない」
「そりゃ悪かったな。解らん言葉を延々と聞かされて苛々しちまってたんだよ。すまん」
いけ好かない女は居るが目の前の女エルフはそうじゃねえ。悪いと思ったから、俺は素直に頭を下げておいた。
「へえ」
下げた頭に、驚きと感心が混ざったような声が当たる。
「何だ?」
顔を上げた俺が見たのは、右頬を人差し指で掻きながら苦笑いする女エルフだったよ。反射的に、俺は自分が眉間に皺を寄せるのが判った。
「あれだけ一方的だと、わたしにも好い顔しないのかと思ってたわ」
「いくら雪毛でも目も耳も付いてるぜ? 好い奴かどうかくらいは見分けが付くさ。それとも何か? 鬱憤をぶちまけてほしかったのか?」
「まさか! 冷静に話が出来そうで、こっちとしてもありがたいくらいよ」
「俺としては漸くまともな奴が来てくれただけでも、ストレスが減るってもんだ」
「すとれす?」
ああ、これ、通じない言葉か。
「いや、苛々が溜まらなくて済むって話だ。んで? 態々さっきの野郎と交代したのには訳があるんだろ?」
「あ、ええ、そうなのよ。話が早くて助かるわ。あなた、名前は?」
「ハクトだ」
「わたしはヴェニラよ。家の名前を言っても分からないだろうから省くわね。一応、国境警備隊の副隊長をしてるわ」
「ひゅう~。意外に大物だったな」
女エルフの肩書を聞いて、胸を逸らせながら思わず口笛を吹いちまった。
「フフフ。驚いてもらえて良かったわ。で、話と言うのはハクトの従者の事。と言っても、関係するのはスルバラン家のロサ・マリア嬢ね」
「ロサ・マリアを含めてみんな無事か?」
「ええ。今のところ危害を加えてないわ」
「含みを持たせるじゃねえか」
「知りたいことに答えてくれれば、待遇は良くなるわよ?」
「何が聞きたい?」
そう言った途端に、身を乗り出して来たヴェニラ。残念ながら服の上からは膨らみが判らん。エルフは皆、絶壁なのか?
「ハクト。あなたロサ・マリア嬢に何をしたの?」
低いトーンで問い質して来た声が届き、我に返る。
「何って? 何もしてねえよ。したことを思い出せって言うなら、人族の非合法競売でオーガに買われそうになったのを、俺が買ったって事くらいだな」
「それよ!!」
「うぉっ!? 急に大きな声出すんじゃねえよ」
「競売で買って隷従契約した、で間違いないわね?」
「ああ。首のレースの首飾りがその証拠だ。調べてみたんだろ?」
「ええ。調べてみたわ。強制的に契約解除できないかも試してみた」
おいおい。何勝手にしやがってるんだ!? いや、落ち着け。
「……それを俺に言うって事は、解除できなかったって事かよ」
「ご明察。あなた、ロサ・マリア嬢に何したか解ってるの? あの方の素性を知った上で首輪をしてるとしたら、この国では狂人扱いよ!?」
貴いエルフの中でも格があるって事か?
「酷い言われようだな。何もしてねえって言ってるだろうが。競売所で、所有者変更しねえとこの場で殺すか、再競売にかけるって言うから、俺の血を首輪に付けたらレースの首飾りになったんだよ。ロサ・マリアもそう言ってたんだろう?」
「そうなのよね。でも、どんな魔道具を使おうが、【解呪】の魔法を掛けようが弾かれるのよ。可怪しいと思って【鑑定】してみたら【隷属の首輪】じゃなかったわ」
口早に話すヴェニラの言葉を聞き咎め、思わず突っ込んじまったわ。
「【隷属の首輪】じゃない!? えっ!? じゃあ、何だってんだ!?」
「【主従の首飾り】よ。それも神級のね。あなた一体何者なの?」
それを聞いて俺は思わず天井を仰いじまっていた――。
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