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第3章 迷いの樹海
第234話 えっ!? 何言ってるんですか!? ダメです!
しおりを挟む「【骨盗り】!」
――ぐにゅっ。
何度目だったか、数えるのを忘れた頃手応えが来やがった!
蟒蛇が体をくねらせる度に、肉壁が隙間を潰して窒息しそうになったが、我慢した甲斐があったってもんだ。
頭がクラクラするのは、酸欠か魔力の使い過ぎなのか判らねえ。だが、これで光明が見えたぜ!
「おっしゃっ! こいこいこいっ!」
「は、ハクトさん、もう良いんですかっ!? そろそろ限界なんですけど!?」
四つん這いになったエルフの姉ちゃんの上に、結構な時間居続けた気がする。後ろめたい気持ちがねえ訳じゃねえが――。
「すまん! もう少し堪えてくれ!」
「ええええ――っ!」
上半身を起こすくらいの空間なのに、何で俺が姉ちゃんの腰に乗って背を伸ばしてるかって言うとだ。俺の見た目以上に、足元から背骨までの高さがあったんだよ。
鶏の卵を立たせたような空間かと思ってたら、何てことはねえ、蛇の卵みてえに細長かったっただけだ。ま、上に行くほど肉壁が狭くなってたがな。
蠕動運動の度に、足元から『嫌だ――っ!』とか『ああああ!』とか「もう殺してくれ――っ!」とか「ヴェニラ様、俺と――っ!」とか阿鼻叫喚だ。どさくさに紛れてる奴も居るがな。エルフ語と共通語が混ざって、五月蠅くて敵わん。
それも終わりだ。
伸ばしていた右手にズシリと骨の重さが伝わって来た。
「【骨融合】」
透かさず骨を取り込むと、ずるっと掌に吸い込まれていく感触が分かる。良し。これでこいつの動きもちっとは抑えられるだろう。
背骨が繋がってなけりゃ、幾ら筋肉で体を動かせても十全には動かねえだろうさ。
「すまん! 助かった!」
「ふええええ――! やっと解放された――!」
ヴェニラの背中から降りると、足元に身を投げ出すのがうっすらと見えた。
悪いな。
「おい、蟒蛇の腹ん中に居る事を忘れんじゃねえよ。壁から染み出てるのは消化液だ。気を抜いてると服が溶けるぞ? 革の鎧は無事そうだが、胸が見えるぞ?」
実際は、溶けた袖口から脇しか見えてねえんだがな。
いや、ほら、ロサ・マリアもそうだが、エルフってえのは比較的胸が慎ましいって言うか……なあ?
「ひえっ!? は、破廉恥です! そ、それを早く言ってくださいよ!」
胸を抱えながら、慌てて身を起こした拍子に俺の脚とぶつかる。
「阿呆。蛇がどうやって呑み込んだ奴を消化するくらい、森で生活してりゃ幾らでも見ることあるだろうが。俺に言われんでも気付け」
それに、拝めるほどなかったしな。
「こんな時にそれって、酷いです」
『俺にも見せろ――っ!』『殺してやる――っ!』『副隊長の胸が!?』『もっと溶けろ――っ!』
こんな時だけエルフ語だけ使うんじゃねえよ。んなギラついた目でヴェニラを見てりゃ、何を言ってるのかくらい凡その見当が付く。
『――っ!』
ビクッと体を震わせて俺の陰に隠れようとすんじゃねえよ。ビシッと言ったれ!
「喧しい! それを俺に言うなら、そこで喚き散らしてるお前さんの部下共に言ってやれ。五月蠅くて敵わん」
「そんな~~……」
半分くらいは発狂してる。後は、息苦しさに耐えかねて気を失ってるってとこか。蟒蛇が体をくねらせる度に悲鳴が上がるもんだからよ。耳の奥がどうにかなっちまいそうだぜ。
まあ分らんでもない。けど、こういう時にパニックになった奴から死ぬ。
――死ぬのは御免だ。
「【骨爪】」
蟒蛇の骨を取り込んだ今なら、いけるんじゃないかという勘に付き従う。
指先の爪を猫の爪みたいに鋭く伸ばし、食道に爪を立てるとプツッと肉壁を突き破った感触があった。
「おい、ヴェニラの姉ちゃん」
「は、はい!」
「今から腹を切るが、邪魔が入らねえ様に、後ろの奴らを押さえとけ」
「えっ!? 何言ってるんですか!? ダメです!」
「――は?」
「だから、自裁なんてダメです! ロサ・マリア様とか奥様とか居るのに諦めないで下さ――あた――っ!」
意味が通じんと思ったら、碌でもない勘違いをしてやがった。気が付いたら、拳骨をヴェニラの頭に落としてたよ。
「何で俺がここで死ななきゃならん!? 莫迦か?」
ったく、ロサ・マリアみてえな反応しやがって。
「だって、腰の剣鉈を抜きながら腹を切るって言われたら、よからぬことを考えちゃうじゃないですか。こんな蛇のお腹に居て、精神が可笑しくなったのかって……」
頭を塗れた手で摩りながら言い訳を口にするヴェニラを横目に、俺は指先揃えて足元の肉壁を引っ掻くように、強めに爪を立てた。
「――!」
「何してるんですか?」
浅くだが、肉壁に口が開く。よっしゃ!
「黙ってみてろ」
「そんなに邪険にしないでくださいよ~~! わたしだって、わたしだって一杯一杯なんですからねっ!」
「だからよ、腹を切るっていってだろうが」
「無理ですよ~~! わたしたちが呑まれて何もしなかったわけじゃないんですよ!? 何回剣を突きたてようとして弾かれたか……。うううっ。うううっ」
ストレスが掛かってるのは嫌でも分かる。剣鉈を足元に置いて、泣き出したヴェニラの背中をあやすよう叩いて落ち着かせることにした。
……蛇の腹ん中だがな。
「ああ、もう泣くな。ほら、ゆっくり息きを吸ってみろ」
「すうぅ~~」
「ほら、吐いた」
「はあぁ~~。ううっ。これで良いですか?」
「ほら、ここをよく見ろ」
「何処ですか?」
「ここだ」
幾分落ち着きて来たヴェニラに切り込みを入れた場所を指差す。まだ傷は引っ付いてねえ。
「――っ!? 嘘っ!? 本当に切れてる!?」
カバッと俺を見上げて来たヴェニラの頭を濡れた手でぐしゃぐしゃっと撫でてから、剣鉈を拾う。「ああっ!? 何でその手で撫でるんですか!?」って声はもう無視だ。
そこに剣鉈の刃を当てて、刃筋を意識して引く。
切れ目は手の幅2つ分くらいはあったはずだ。
そこに剣鉈を添わせて引くと、すうっと刃が沈む。
外面さえ切れれば、問題ねえってこった。
「ちっ! 何をされてるのか気付きやがったのか!?」
刃渡り1ペース半程度の剣鉈の刃が完全に肉に埋まったと同時に、蟒蛇が激しく体をくねらせ始めやがったのさ。
「は、ハクトさ~~~ん」『ギャ―――ッ!!』
「くそっやるしかねえ! ここでチンタラしてたら腹の肉で圧し潰されちまう!」
後ろはエルフ団子で進めねえ。
だったら、遡るしかねえだろ!
刃渡り分が切れても、人が一人通り抜けるには狭すぎる。せめて20ペースは欲しいとこだ。ただ、食道の内側からの皮までの厚みがどれくらいあるか、だな。
蟒蛇の体の動きで真っ直ぐ切れん。グネグネと波形の切り口だが、刃渡り分の深さで予定通りに腹を切り開くことが出来た。
「ちっ、まだ皮までは届かんかよ」
切ってる最中にこいつが体をくねらせると、切り口が締まって手首が逝っちまいそうになるくらい捻じれに襲われる。
今よりもっと深く切り裂こうと思ったら、腕の一本も覚悟しねえと、な。
動きに合わせ、手を切れ目に突っ込んだまま更に深く切れ目を入れるべく剣鉈を動かす。切る時は両手で、動いたら片手を残して最悪を避ける。
勿論、うつ伏せだ。
食道の壁から染み出て来る消化液なんか気にしてる暇はねえ。形振り構っちゃいられねえんだよ。後ろのエルフ団子が五月蠅くて俺まで気が変になりそうだし。
勘弁してしてくれ。
「お!?」
2度目の切り込み作業中に、スコッと剣鉈の刃が抜けた。
抜けたって言うか、刃に掛かる反発力が無くなってガクッと腕が落ち込んだのさ。
「刃が外に届いたぞ!」
「本当ですか!?」『うおおおおお―――ッ!! 助かるぞおおお―――ッ!!』
「だあああ――ッ!! 五月蠅えっ!! 黙って見てろ!」
一気に俺の後ろでテンションを上げ始めたエルフ団子に吠えた俺は、切れ目身を乗り出す。刃が抜けたのは一箇所だけだ。最初から考えてた通り、20ペースは開けねえと、蟒蛇が体をくねらせたときに挟まっちまう。
新鮮な空気が切れ目から流れ込んでくるのはありがたい。
例え少しだったとしても、この閉鎖空間に残ってる空気は知れてるからな。
後は、無事に腹を切り開いたとして、無事に外に出れるかと言う問題がある。
出た瞬間に、蟒蛇に踏まれましたじゃ洒落にならんだろ?
んな事を考えながら、俺は蟒蛇の腹を切り裂いた。
――とこまでは良かったんだよ。
『外だあああ――っ!! どけえええっ! 俺が先だあああっ!! ぎゃああああ――っ!! 踏むなああ――っ!! 溶けたくね――っ!!』
「おいっ、莫迦! 押すんじゃねえよっ! おわああっ!?」
だが、一度火が付いた集団パニックの勢いに敵う訳もなく、気が付くと俺は、パカッと開いた腹の穴へ逃げ出そうとするエルフ団子どもの流れに呑まれてた――。
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