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第4章 杜の都
第247話 えっ!? 通じてねえの!? だから、断るって!
しおりを挟む「俺は康永元年に、京の六条河原で首を斬られたのは覚えてるぞ? 首と胴が分かれる刹那を見たな」
「えっ!? 今何つった!? はぁ? 康永元年!?」
俺は耳を疑った――。
康永なんて聞いたことがねえ元号だからだ。分かるのは、戦国と思っていた奴が、もっと大昔の人間だったという事だ。おいおい。六条河原って言ったら、歴史に出て来る有名な処刑場じゃねえか。
歴史に疎い俺でも、それくらいは分かる。
それだけやばい奴だったって事だろ!?
そりゃ、真面な俺たちから見れば気狂いに見えるって!
言ってる事を言い直すと、「介錯で首を斬られた瞬間はまだ意識が在って、自分の首と胴が分かれて行く様子を見た」って言ってるんだぞ?
いや、可怪しいだろ!? それっ!?
普通、首斬り落とされたら意識なんか残る訳ないって!
「シュウに聞いたら、1342年とか言っておったな」
ん? しゅう? どっかで聞いた名前の様な気がするが……?
俺の気を余所に、動く馬車の上でスッと立つ王子。片や俺は胡坐を組んだままだ。
いやいやいや、待てまて待て。
「1342年!?」
「俺には分らんが、そうらしい」
そりゃ分からんか。西暦は分らんって首振ってたからな。しっかし、俺よりも680年以上昔の武士かよ!?
道理で、俺らとは感覚が違うはずだぜ。
「俺も年号のことは分らんが、六条河原で首を斬られたって事は相当なことを仕出かしたんだろ? 確か罪人の処刑場だったはずだぜ?」
古い年号なんて覚えれる訳がねえって!
いや、世の中には頭の造りが俺らとは違う奴が居ることは知ってる。俺はそいつらと同類じゃねえ。てな訳で、素直に聞いてみた。
「ん~……。俺も酒に酔って仕出かしたことだからな。はっきりとは覚えて無いのだが、どうやら、上皇の乗った輿を牽く牛を射たらしい。後で聞いた話だがな」
「上皇? 酔って牛を射る? 婆娑羅? ……マヂかよ」
俺の中で、散らばってた欠片が急に纏まりだした。しかも悪い形で、だ。俺の想像が間違ってなけりゃ――。
「何を急に押し黙る? 腹でも痛くなったか?」
俺への嫌味か知らねえが、自分に言われたことをそっくり口にする気狂い王子。その面影は全くねえが、あの武将で間違いねえだろう。
酔った帰り道に上皇の御幸に出会したその武将が道を譲らず、相対する一行の主人が上皇だと告げられたのに、院を犬と小莫迦にしながら、牛を射たと言うあれだ。
南北朝時代に名を轟かせた、婆娑羅大名――。
――土岐頼遠。
そりゃ余人じゃ推し量れねえよ。
選りに選って、土岐家繋がりって……。
「いや、お前さんの正体が俺の想像通りなら、とんでもねえ奴が同じ時代に転生して来たな、と思ってよ」
「ほう? 其方が、俺の正体をな? 面白い。申してみよ。違えれば、この屋根の下に居る女を串刺しにする」
――こいつ!
そう言って声を出さずに嗤う気狂い王子。矢張りと言うべきか、こいつも【空間収納】系のスキルを持っているようで、どこからともなく取り出した短槍が右手に握られていた。
クソッ抜かったぜ。
こいつの事を信用してたわけじゃねえのに、気を許しちまってたのか!?
と言うか、戦国武将の割には性根が歪み過ぎてねえか!? いや、エルフ族ってのは他種族を基本見下してるからな。精神が混じっちまったって事かもしれん。
「其方って、さっきまでは貴様とか言ってのによ」
ガラガラと音を立てて回る車輪の音がやけに五月蠅く聞こえるぜ。
「時間稼ぎか? 次、時間稼ぎだと俺が判断しても女を串刺しにする」
ちっ。やれやれだぜ。今の所挽回する手が思い浮かばねえ。悔しいが、脅しとしても駆け引きとしても、こいつの方が一枚上手だったって事だ。
「はああ。分かった。俺の負けだ」
右肩に短槍を立て掛けたまま、溜息を吐きながら俺は両手を上げて見せた。
余計な動きは、馬車の中の嫁たちを危険に晒すことになる。隙を作るつもりはねえが、こいつに何かをやらせる気もねえ。
「ふん。で?」
クルリと槍の穂先を返して馬車の天井板に当てる王子。
「美濃国守護大名、土岐頼遠。それが向こうに居た時のお前さんだろ? (ガイ、馬車の中で4人を守れ)」
出来るだけゆっくりはっきり王子の転生前の正体を告げる。同時に【骸骨騎士】を馬車の中に召喚し、4人を守らせることにした。
俺の答えを聞いた王子の口が三日月のように吊り上がる。いや、笑顔だとは思うが、目が笑ってねえから妙に気色悪い不気味な笑みなのさ。
「くくくっ。どうやら、其方も、シュウらと同じ日本ということかよ。名は?」
「因幡白兎」
俺の名乗りに、形の良い切れ長な王子の右眉がピクリと動くのが見えた。
「いなば? 何と書く?」
「因幡の白兎、そのまんまさ」
「フハハハハッ!! 笑わせてくれる。声を出して笑ったのはいつ振りだ? 褒美をやらねばなあっ!」「ガイッ!!」
気狂い王子の腕が霞むのと同時に、俺はガイを喚ぶ。間髪入れずに、固い何かとぶつかるような音が足元から返ってきた。穂先と盾がぶつかった音だろう。
「何やら小癪な事をしておると思えば。中々楽しませてくれるではないか」
「まあな。付き合いは短えが、お前さんが槍を取り出した以上使わずに済むことはないと思ってたんでね。手は打たせてもらったよ。後な、ウチの家名は隠し名だ。本当は、稲穂に木の葉と書く」
「――ほう。屈か? 当家が使っておった屈の中にその名があったな」
その言葉を聞いて、俺は内心舌打ちした。
口伝で伝え聞いてた稲葉家の秘密に、当家の興りが屈の一族から枝分かれしたもので、侍に素手で勝つために編み出された武術というか、暗殺術だったと聞いてる。
尤も、俺に息子がいればそんな話をしたかもしれんが、生憎、授かったのは娘1人だ。だから、この話は俺だけで止まってる。
そして、こいつが言うように、稲葉家は土岐家に仕えていた忍者って事だ。
「……俺が聞いてた話が間違ってなけりゃ、200年は土岐家と繋がってたと言う話だな。それも、俺よか何代も昔の話だぜ?」
「くははっ! 何という僥倖。こちらでこのような縁に出逢えるとは! ハクトよ、貴様の女共ども俺が使ってやろう! 俺に仕えろっ!」
「断る」
機嫌よく大声で俺に空いた左手を差し出してくるその手を、ぱちんと叩き落としてやった。何やら盛大な勘違いをしてるらしい。
「は!?」
ポカンと口を開ける気狂い王子。
まさか、断られるとは思ってなかったのか!?
俺が喜んで手を取るとでも!?
それなら解る様に言ってやろうじゃねえの。俺はゆっくり口を開き、幾分大袈裟に見えるような素振りで言ってやった――。
「えっ!? 通じてねえの!? だから、断るって!」
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