えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

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第4章 杜の都

第249話 えっ!? 俺、そんなに臭うか!?

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 あれからそれ程時間も経たない内に、俺たちは立派な屋敷に到着した。

 敷地に入る門から屋敷の玄関までがなげえこと、長えこと。オマケに、玄関前は中世ヨーロッパのお城みてえに、玄関前の広場は円形地形ロータリーになってて馬車が玄関に横付けできるようになってると言うな。

 凪の公国の王城も確かそうなってたが、いや、エルフの屋敷もかなりのもんだぞ?

 あそこに比べたらこっちの方が断然緑地が多い。森の中に都があるんだし、敷地の中に雑木林ぞうきばやしが在っても妙に納得できる。都自体、其処そこら中に雑木林の様なこんもりした林の頭が見えてたからな。

 玄関先で執事らしき男エルフと、侍女たちがずらっと並んでお出迎えだ。

 執事らしき男エルフは、どっちかと言えばマリアの親父さんみたいに落ち着いた感じに年を取ってる。門衛の詰所に居た渋メンエルフとは違う渋さだな。

 こっちは洗練されてるが、向こうは荒っぽい、って言う感じか? 上手く言えねえが、まあ俺からすればそれくらいの違いだ。

 エルフの侍女というか、エルフの女は基本的に美人揃いだぜ? 今の所、目に付く限りじゃ外れはねえ。俺が人族だったらずっと目で追って不審がられただろうが、ヒルダたちのお蔭もあるのか、んなに目移りすることもねえ。

 俺も男だ。

 そりゃ、綺麗な姉ちゃんを見たらチラッとくらいは見るさ。

 俺に言わせりゃ、女に関心がねえって言う奴の方が信用できねえ。そんな奴が居るとすりゃあ、薔薇族ホモか、女性恐怖症ガイノフォビアを疑うね。まあ、そりゃあいい。

 問題は、あの戦闘狂の第八王子カレヴィ殿下がどんな粗忽そこつをして来るか、なんだわ。何もしてこないって事を考える方があり得ねえだろう?

 けどよ。

 「……くせえな」

 思わず、ぽつりと思ったことが漏れちまった。

 何というか、香をいてやがるのか、俺の鼻には堪えるんだよ。

 「ここはいつもこんな香を焚いてやがるのか?」

 「香? 何を言っている? 王族の離宮で好みが分かれる香など焚く訳があるまい? これだから毛虫は――」

 俺の問い掛けに、御者席に座っているエルフの騎士がそう返して来たんだが、後半は俺の耳にとまらずにスルッと抜けてった。



 は? 今何つった? 香を焚いてねえ?



 ヒルダたちは馬車の中だが、天井に【骸骨騎士ガイ】の奴が開けた穴が残ってるから、そこから声を掛けてみる。

 「そこの騎士はああは言ったが、お前さんたちはどうだ? 何か臭うか?」

 「いや、われは何も感じん」

 「あたしも~」

 「同じく。何も臭いません」

 ヒルダとプルシャンの嗅覚は人並みだからな。あ~マギーも臭わねえのか。

 「マリアはどうだ?」

 「……花? ……ううん、確かにかすかににおう気がする。けど、嫌な匂いじゃないわよ? あ、ないです」

 都育ちと森育ちじゃ嗅覚のレベルが違うのかもな。

 なんにせよ、俺の勘違いじゃねえって事は分かったぜ。

 「なる程な。まあ、何か焚いてるかもしれんという事だけは覚えといてくれ。気が抜けねえ場所だからな。何がっても可怪しくねえ」

 「うむ」「うん」「畏まりました」「分かりました」

 「マギーもそう睨んでやるな。身内だけの時は大目に見てやってくれや」

 マリアの言葉使いに不満が在るのか、ジトリとマリアを見詰めるマギーに上から声を掛ける。馬車の天井に開いた穴が意外に大きくてな、中が良く見えるのさ。

 「旦那様がそう仰るなら」

 「おう。頼む」

 目を伏せながら頷くマギーに俺も頭を下げておいた。ま、見えてねえだろうがな。

 「承知しました。良かったですね、マリア?」

 「あ、ありがとう! 何だか前に閉じ込められてた商館で受けてた訓練でも、使い分け出来てたんだけど、皆と居ると気が抜けちゃうのよね~」

 マギーに許可をもらったマリアが、ズルッと馬車の中で足を投げ出すように体を伸ばすのが見えた。緊張してたんだろうが、そりゃ気の抜き過ぎだろう。

 「ま、程々にな? 羽目を外し過ぎて怒られるのはお前さんだからな?」

 「うん! ここって王族の離宮でしょ? 下手なこと言えないくらいわたしだって解ってる」

 「は? 王族の離宮? 第八王子の屋敷じゃねえの?」

 マリアの言葉に思わず聞き返す。

 「ううん。エルフ族わたしたちは人族みたいに森を自由に切り拓ける訳じゃないからね。王都としての広さを確保するまでに百年はかかったって聞いたことあるわ」

 「百年!? そりゃ気のなげえ話だな」

 まあ、魔法か何かで気長に樹を移動させるんだろうから、それぐらい時間が掛かっても可笑しくねえのか。それも一口で百年とは言うが、人にすりゃ一生より長え時間だ。そんな森に気を遣うエルフの前で木を折れば、そりゃしょっ引かれちまうのも当然だな。

 「ま、わたしたちにしてみれば、そこまででもないんだけどね。で、話を戻すけど、そういう訳だから、王城で土地をかなり割いた分、王族の屋敷は一つだけって決まったらしいわ。貴族も、基本王都に屋敷は一つ」

 「エルフの貴族ね……。王族っつうってもあれ・・だからな」

 どうせろくもんは居ねえだろう、という言葉はみ込む。というのも、馬車が円形地形ロータリーの石畳をぐるっと回って屋敷の玄関に差し掛かったからだ。

 兎人とじ族に負けず、エルフの連中も耳が良いんだよ。

 不敬罪で、ああだこうだ言われるのも面倒だからな。"触らぬ神にたたりなし"さ。

 王都ここも、なぎの公国の公都に遜色はない。あっちより緑が多い分、受ける印象はこっちの方が良いのも事実だ。

 けどな。どうもエルフって連中は、例外を除いて自分たち以外の種族を下に見る。今に始まった事じゃないから、自然とそうなってるんだろうが、俺は嫌いだね。その良い例が視線だ。ん? 俺にとっちゃ気分わりいだがな。人族や獣人族から向けられる視線よりも、ねちいっこいのさ。

 「お出迎えだ。粗相のないようにな?」

 俺の思考をぶった切って御者席のエルフ騎士が釘を刺して来た。

 分かってらあ。

 んな時、パタパタ小さな羽音がして俺の頭の上に青い小鳥スピカが戻って来た。どうやら朝の気儘きままな散策は終わったようだ。

 「おかえり。珍しいものあったか?」

 『ん~凪の公都と代り映えはありませんね。いて言えば、猛禽類もうきんるいの子たちからのちょっかいが面倒だったくらいです』

 「ん!? 猛禽類!? フクロウとかトンビとかか?」

 『はい。捕まえようとするから、思わず睨んじゃいました』

 「あ~~……そりゃ怪我がなくて良かったな」

 女神に睨まれた奴らは災難だったな。

 「どうした?」

 「いや、独り言だ」

 エルフの騎士が気にして声を掛けて来たが、俺ら以外は青い小鳥スピカの声は聞こえねえ。小鳥がピーチクパーチク楽しそうにさえずってるようにしか聞こえねえだろう。

 説明が面倒だろうが。だから独り言で良いんだよ。

 『でも……丁度良いタイミングで帰って来れたようですね』

 「ん? そりゃどういう意――」

 そこまで言い掛けた時だった、出迎えに出ていたエルフの美人メイドが一人、口元を押さえて一礼すると屋敷の中に駆け込んでいったじゃねえかよ!?

 『あらあら、早速ですね』

 「どういうことだ?」

 何か知ってる口ぶりな青い小鳥スピカに問い返す。いや、あからさま過ぎるだろうが。現に、また一人メイドが口を押えて屋敷の中に駆け込んでいきやがった。

 『においですね』

 「におい!? えっ!? 俺、そんなに臭うか!?」

 嫁さんスピカの指摘に、俺は思わず腕の臭いをいでいた――。





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