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第5幕 大砂海 序章
第267話 えっ!? 竜!? あれが!?
しおりを挟む震動と同時に、外へ飛び出すチビ四翼竜を捕まえようと手を伸ばすが、スカッと尻尾を掴み損ねちまう。
アルの姿を目で追って、音の発信源であろう方向に自然と目を向けた時――。
「なんだありゃあ……」
黒い小山のようなものが砂を押し分け、砂埃を立てながら現れた異様な存在に、俺たちは目を奪われていた――。
距離も随分ある。
たちまち戦闘って事にならねえとは思うが、用心するに越したことはねえな。
そう思ってみてると、黒い小山が姿を現す。
「く、鯨も居るのかよ……」
自然と呻くように声が漏れてた。
俺の声に合わせてじゃねえだろうが、背中の噴気孔から砂が勢いよく吹き出され、砂煙が風に流れて行く。
砂鮫が居るなら、ありゃあ差し詰め砂鯨って事か?
尻尾の先は見えねえが、ざっとの目測で30パッススはあるぞ!?
鯨の形状は、何となくだがナガスクジラに似てる。俺も鯨の種類に詳しい訳じゃねえ。マッコウクジラとナガスクジラくらいの見分けがつくくらいのレベルだ。
砂鯨も、砂漠に棲む鮫や魚と同じように蛇腹だ。ナガスクジラの顎の下は、白くて縦に線が入ってるのをテレビで見たことがあるが、明らかに横に見える。この距離だから薄っすらとだがな。
「うわ~~何あれ~~?」
「大きいです! 山みたいです!」
プルシャンとプラムは精神年齢が近いのもあって燥いでる。
「うむ。話には聞いていたが、間近で見ると迫力と言うか、圧迫感が違うな」
「炎帝と同じように御伽噺の存在かと思っておりました」
「待てまて待て。ヒルダとマギーの口調だと知ってる口振りじゃねえか? お前らあれが何なのか知ってるのか? 砂鯨じゃねえの?」
「すなくじら? ふふふ。主君は面白い名前を付けるものだな」
Oh……。どうやら違うらしい。面白いって言われちまったぞ?
「すなくじらかどうか、わたしには判りかねますが。御伽噺の中では砂竜とも、砂皇とも呼ばれております」
「さりゅう。さおう……。えっ!? 竜!? あれが!?」
耳にした言葉を口に出しながら、気付いちまったのさ。
「はい。炎帝アドヴェルーザと並ぶ、災厄級の存在。砂皇シルティムーザがあの黒山の名のはずです」
「マヂかよ……。鯨の姿をしてて竜とはこれ如何に?」
「よもや、くじらとは主君が居た世界の生き物の名前か?」
勘の良いヒルダが気付いてくれたが、そこで話を膨らませるほどのネタじゃねえ。
「ああ、そうだ。あれと似たような姿をした魚が海に居るんだが、俺が居た世界じゃそれを鯨と呼んでたのさ。まあ、居ねえんじゃ話も通じんわな」
「然様でしたか。気付かず、申し訳ありません」
「良いって事よ。お互いに勉強になったって事で良いんじゃねえか? それよりも、アルの奴、その竜の頭の上をグルグル飛んで喰われたりしねえだろうな?」
小さくお辞儀するマギーの頭に手を当てて軽く髪をワシャワシャッと撫でる。遣り過ぎると怒られるんだが、これくらいならセーフだ。
右手はマギーの頭だが、視線は違う。俺の目は、ナガスクジラを思わせる姿形の竜の上を旋回する赤い点を追ってた。
どうも、深淵の森の骨の谷であった事を思い出して落ち着かねえんだよな。
『ふふふ。あの時の事を思い出しますね?』
俺の頭の上に、青い小鳥が何処からともなくふわりと帰って来る。
「……まあな。またあれをする破目になるのは御免だぜ?」
『ううっ。それを言われると辛いです。あの時はすみませんでした。降りて来たばかりで、何が危険なのか分ってませんでしたから』
照れ隠しでよくする、嘴の甘突きが気持ち良い。
「まあ、ここに居てくれるんだから笑えるんだ。笑い話にできて良かったんじゃねえの? つうか、今はあのチビ四翼竜だ。ヒルダ、あいつ何か言ってなかったか?」
頭に右手を伸ばし、青い小鳥を撫でながらヒルダに話を振ってみた。ぬるりと【火の守り】で冷まされた生温い風が髭を揺らす。
「あっ!? ルシ姉さま、引いてます!」
「本当だ! んんっ!? 大物かもしれないよ!」
後ろで緊張感のない遣り取りが始まったが、まあ良いだろう。実際、砂竜が出ることなんざ考えず、飯の種を得るのに釣竿は出してたんだからよ。
同じ「プ」から始まるからって、最近プラムがプルシャンの事を「ルシ姉さま」と呼ぶようになったんだが、プルシャンが随分とお気に入りでな。
まあ、仲が良いのは良いんだが……。
「おい、マリアさんや」
黙ったまま横に立って砂竜を見詰めてるマリアに声を掛ける。
「何よ?」
「さっきから黙ったままだが腹でも痛えの痛えっ!? おい、毟るなっ!」
「五月蠅い! あんたが品のないこと言うからでしょうが!」
これだ。お~痛え。肘近くの毛を毟りやがった。
まあ、マリアを除いた4人は肉体関係があるなしは別にして俺の嫁だ。青い小鳥は正妻扱いだから、その4人は側室扱いなんだと。
ん? マリアとは何もねえぞ?
当然、プラムとも何もねえ。
プラムは7歳になったと喜んでたが、発育の良い女子小学生くらいだ。この世の中じゃ、その年齢でも気にせず食う奴も居るとは聞いたが、俺が無理なんだよ。
似たような理由でマリアにも手は付けてねえ。こっちは育ちの悪い女子高校生くらいのレベルだ。絶壁とまではいかんが、明らかにプラムに負けてる気がする今日この頃……。
いや、今はそこじゃねえよ。
エルフの国を出る前から、普段通り砕けた口調や態度で良いって言ったら遠慮がなくなっちまってな。年頃の娘を扱うような久し振りの感じを味わってるとこだ。
地球で彼氏と仲良くやってるだろう娘の若いころを思い出しちまったのさ。
生意気なとこが娘によく似ててな。マリアの歳を考えれば、そんな気を遣わんでも良い事くらい頭では分かるんだがな。食指が動かねえんだわ。
マギーに相談してみたらよ。「気にせずに手籠めにすれば良いのでは?」とか言うんだぜ? ……どうもな。んで、変な絡みしかしねえもんだから、今みたいに怒らしちまうのさ。
青臭えだろ?
まあ、アキラとか鬼若みたいな若えのが異世界に来て、ハッチャケて手当たり次第女に手を出すのとは違うと思いたい、俺の自己意識みたいなもんなだろう。
そんな事をボーっと考えながら、毟られた辺りを摩っていると――。
ゾクリッ!?
全身の肌が粟立ち、寒くもねえのに足の先から頭に向かって走る寒気のせいで体がぶるっと震える。
何だ!?
誰かに自分の中を覗かれた様な嫌な感覚だ。
「あ――」
そう思って視線を上げた時、砂竜と眼が合った――。
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