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第1章 砂塵の里
第271話 えっ!? そんな技術持ってんの!?
しおりを挟む蜥蜴人族の親子を旅の仲間に加えてから10日が過ぎた。
10日の間がそりゃ大変だったってなんの。
俺はすっかり忘れてたのよ。爬虫類が砂漠の夜の寒さに弱いってことをな。
まあ、そういうこった。
陽が完全に昇って、甲羅干しが完了したら「さあ、皆様、いざ行きましょう!」だからな?
マヂで勘弁してくれ状態だったわ。
こちとら毛皮で極寒使用だ。灼熱の砂漠の上なんか歩ける訳ねえだろうが!
かと言って、蜥蜴の親子は夜は使い物にならんだろ。仕方ねえから、ヒルダに【火の守り】を常時掛けてもらいながら動くしかねえ。
――と思ったらよ。
親子が使ってた舟があったのさ。砂鮫に追われたとき、風が吹いてなかったのもあって舟を残したまま走って逃げたんだと。
おう、舟だ。大人6人乗りくらいのな。
走って逃げるって、発想が凄えよ。俺は無理だね。
暑くて死んじまう。
舟は、丸木舟の両側に浮子っていう、細めの丸木を刳り貫かず砂に当たる面だけ尖らせた舟の転倒防止装備が付いたやつだ。それを舟の両脇から1.5パッスス離れた位置に固定できるように、舟の前後から木材を横一文字に渡して止めてるのさ。
東南アジアの海で見てたのによく似てる。あっちのは浮子が片側しかついてなかったがな。帆が付いてるのは同じだ。
帆は、鮫皮を一定の長方形の木枠に貼り付け、ブラインドのように端を重ねた蛇腹のような帆だ。木枠が表裏で互い違いに重なるように組まれ、それぞれがバラバラに動かないように木枠に開けられた穴に縄紐を通して1枚になるように仕上げてある。
鮫皮は両側で美味い具合に貼られてるからどっちからの風にも対応できる造りだ。木枠も弾力のある木材を使ってるようでな。そこそこ撓りがある。その木枠の長辺に開けられた紐穴は、左右の端に1つずつと、真ん中に寄った辺りに1つずつ、均等になるように開けられてた。
それじゃあ砂嵐の時に畳めねえだろうにと思ったら、帆柱が抜ける仕組みなってたよ。帆の向きを変えるための縄紐も付いたままな。
よく考えたもんだ。
んで、砂の上に舟を浮かべて走るのかって思うだろ?
俺も思ってたな。
実際よ、乗り込めって言うから乗っては見たが、重量一杯一杯だぜ?
どうすんだ?
風が吹いても帆がはためくだけでびくともしねえ。
「そら見たことか」と言ってやろうかと思ったらよ。舟尾の木枠に嵌った卓球の球くらいの真っ黒い水晶玉に手を当てたのさ。
そしたら真っ黒い水晶玉みたいのが中心から光り始めたじゃねえの。
「ふむ。どうやらこの舟は魔導舟のようだな」
「流石、ヒルダ様。一目でお分かりになるとは」
すかさずよいしょする蜥蜴の親父は置いといて、ヒルダに確認するとだ。丸木舟の舟底に魔法の術式を刻んだ金属の板のような物を敷いて、表に見てる水晶玉と繋がるようにしてるそうだ。
ああ、電池と豆電球を繋いだやつか。
と、俺は腑に落ちたね。
電池が水晶玉で、術式を刻んだ板が豆電球。その間を取り持ってるのが電線な。
何でも【風魔法】の第2位階魔法【風溜まり】という魔法が働いてるそうだ。それも複数起動で、船体を持ち上げるらしい。
【風魔法】が使えるマギーに聞いたら、大人1人を1ペース持ち上げるだけの魔法らしい。「それなら浮遊で良いんじゃ」とは思ったが、グッと我慢したわ。
で、色々と話を聞いて情報を整理した結果、最大6人乗りの大型丸木舟を軽々と浮かせる機能を持った魔導舟を砂蜥蜴族が持ってるって訳よ。
えっ!? そんな技術持ってんの!?
思わず言っちまったわ。
勝手な思い込みで、「蜥蜴族は頭弱いんじゃねえの?」って見てたが、どうやら改めねえといけねえようだ。
んで、水晶玉に魔力を充填したらふわりと浮くだろ?
そこに風が吹きゃ、帆が風を受けて何の苦も無く丸木舟がすいーっと砂の上を走りだす訳よ。操舟技術がねえ俺たちは、帆の角度も含めて蜥蜴の親父任せだが、巧い具合に舟を真っ直ぐ走らせやがるのさ。
お蔭で、暑さをどうにかすれば砂の上を歩いて旅する必要がなくなったって話だ。
と初めは思ってたが、暑さを【火魔法】でどうにかできても日焼けは防げないというのが後になって判明してな。10日の間、「う~う~」呻ってたのさ。
――俺が。
嫁たち? 初めから日よけの頭巾付きの袖なし外套をしっかり着てたんだよ。着てなかったのは俺と、蜥蜴の親父2人だ。
砂蜥蜴の皮膚の強さを侮ってたぜ。
大砂海を魔導舟で旅しながらふと気付いたことがある。いや、初めから違和感だったんだが、これだけの木が何処に生えてたんだ?
見渡す限り砂、砂、砂の砂漠だ。
偶に岩山が現れるが、生えてるのは仙人掌だぜ?
これだけでかい丸木舟を刳り貫くにゃ、元手がねえと無理な話だ。10日の間、痛みで呻りながら舟を観察してみたんだが、……接いだ形跡がねえのよ。
要するに、1本物の舟ってこった。
周りに生えてねえって事はだ。消去法で考えれば、砂蜥蜴族の里には生えてるって事になる。普通、砂漠でこんなでかい樹が育つか!?
いや、抑々、異世界で俺の常識はあんまり通用しなかったな。
「ちょど良い所に岩場があります! 今夜はあそこで夜を明かしましょう!」
舟尾から蜥蜴の親父が声を張るのが聞こえた。
「おう、任せた!」
俺は舟首からそう返して、岩場とは逆に広がる地平線の先に目を凝らす。帆柱のてっぺんで、青い小鳥と赤いチビ四翼竜が傾き始めた日に向かって楽し気に歌ってるのを聞きながら、目の前で旋風を巻いた砂埃に俺は顔を顰めていた――。
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