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第2章 巣喰う者
第289話 えっ!? この可愛いのがサラマンダーッ!?
しおりを挟む「お、おい、何するつもりだ?」
尻を向けた守り蛾に何とか声を掛けることが出来た。
いや、蛾の尻を見てムラムラするとか、ねえから!
絶対に!
俺はどノーマルだってぇのっ!
《"世界樹"の若木の幹をわたくしの尻に当てて頂けますか?》
「こ、これで良いか?」
んな俺の葛藤を知ってか知らずか、若木を尻に当てろと言う守り蛾の指示に恐る恐る従って優しく当てると――。
《ありがとうございます。どうぞそのまま動かれませんように。――――んっ》
息みやがったじゃねえか。
おいおい。何するつもりだ!?
尻の先から出て来たのは、拳大の茶色い西瓜柄の卵。まあ、守り蛾自体、体がデカイからな。頭では解ってるつもりだが――。
どう見てもう〇こじゃね?
莫迦デカイ蛾の産卵シーンは、この世界の者にしてみれば当たり前な事かも知れんが、初めて見る俺は、あまりに非現実的な光景にただただ言葉を失っていた――。
◆◇◆
あれから【骸骨騎士】と【餓者髑髏】を送還したんだが、何とまあ、【餓者髑髏】の【熟練度】がLv10まで上がっちまったんだわ。
【骸骨騎士】は随分前からLv10だが、【餓者髑髏】は今回の格が上がった事や可怪しくなりかけたのも色々と作用してるんだろう。
よう分からんが、俺的には「儲けた」って話よ。
守り蛾さんも、卵を受け付けて「はい、さよなら」って感じで"世界樹"に戻って行ったな。ただ、卵は若木が一定以上に成長するまではこのまま仮死状態だと言ってたから、「要するに、不思議卵だな」とプルシャンと一緒に納得することにした。
そんな遣り取りも、ものの数分で終わっちまう。
「じゃあ、この後どうする?」って話になるだろ?
そう聞いてみたらよ。「明るくなるまでここに居るのも何だから、一旦家に戻って寝よ?」って声が上がってな。丸太長屋に戻ってしっぽり休んだわ。
んで、陽が昇った頃にもう1回"世界樹"の生えてる湖の島に渡って来て、依頼された祠を作りだしたとこだな。
エルフたちの何人かも島に渡って来て。「手伝うことがないか?」と聞いて来たが、「人手は足りてるから」とお断りを入れたとこだ。
だってよ、【骸骨騎士】も【餓者髑髏】も【骨法】の【熟練度】が上がったお蔭で、結構長い時間喚び出してても問題なくなったからな。
木材をスパンと切ってもらったり、祠を据える場所を整地して均してもらったり、正直ひ弱そうに見えるエルフよりか頼りになる。
ま、ここだけの話だがな。
と言っても、それもすぐ終わる仕事だ。次は、なるだけ綺麗な円形の丸太に2ペースほど骨粘土を塗って、土管ならぬ骨管を作っては外し、作っては外しを繰り返してる。
誰かに頼みてえんだが、如何せん【骨法】を使えるのが俺だけだからな。
仕方ねえ。
その代わりに、プラムやマリアに出来た骨管を"世界樹"から4パッスス離れたことで、地面に突き込んでもらってる。
ああ、先っちょはちゃんと杭型に尖らせたぞ? んで、そこにも小さい穴を何個か開けて、上の骨管に水が流れ込みやすくしてる。
お解りかい?
噴水とはいかねえだろうが、地下水の通り道になるように所謂、井戸掘りの真似をしてんのさ。水源占いはしてねえよ。だって周りに水があるだろが。
ぶっ刺せば、水ぐらい出んだろ?
ロケット鉛筆みたいによ、作った骨管を繋げてもらって、【餓者髑髏】に押し込んでもらってんのさ。
男の時は大雑把な動きだったが、女になったら力は変わらんが細かな作業も出来るようになったぞ? 力加減とか、傍から見てると上手いもんだぜ。
プラムとマリアと3人で和気藹々と作業してる。してるんだが……。
もう何本骨管作ったのか分からん。結構な時間が経ったと思う。
「もういい加減諦めるか」なんて思った時――。
「「きゃあ――っ!?」」
プラムとマリアの悲鳴が飛び込んで来たのさ。
「どうしたっ!?」
慌てて腰上げて振り向いたらよ。地面から突き出した骨管の先から、水が湧き出てるのが見えた――。
◆◇◆
水が湧き出て来たので、骨管作りは止めた。
ちゃちゃっと深淵の森で手に入れてた木を取り出して、【骸骨騎士】にスパンと切ってもらう。寸法はマギーに伝えてあるから問題ねえ。
2パッススの飾り柱4本に、構造柱6本。長手の土台に4パッススの柱2本。短手の土台に3パッススの柱2本。軒桁も小屋梁同じ数、用意する。
筋交いは左右の壁に1本ずつ入れて、塗り壁にする。柱を6本にしたのは、空気の流れを作るためと、周りが見えた方が良いよな、という発想だ。"世界樹"側の背面も塗り壁の予定だが、こっちは筋交いを掛けの字形にして埋めるつもりでいる。
垂木や棟木、母屋といった部分の木材も切り出す。
とまあ、祠なのか御堂なのか良く分からん構造物が姿を現すと、エルフや砂蜥蜴族の連中もワイワイ集まるようになった。
これは飽くまで骨組み用の木造建築物だが、完成したら、これに骨粘土を塗りたくってなんちゃってミニパルテノン神殿風の祠と言い張る物を作るつもりだ。
組み立てを俺がするつもりでいたが、組み立て用の臍という嵌め込むための穴を開けておいたら、横で勝手に組み立ててくれたわ。
ありがたい。
骨粘土は、俺の任意で直ぐ固まらせることが出来るし、固まらせた後でも形を整えることが簡単に出来る代物だ。だから、形が出来てしまえば後は骨粘土の団子をボンボンと投げ付けて、ササ――ッと手で均せば「あら不思議!」。
祠の形が出来上がるってもんよ。
エルフや砂蜥蜴族の連中は、『ほ~~~~』とか『お~~~~』とか驚いてたがな。一々説明してる暇はねえから、無視して女神像の芯にする木を取り出して、十字の足を付ける。
俺のイメージでは、女神像は1.5パッススになる予定だ。
祠を建てる場所に骨粘土を敷いて、所謂基礎を作る。大きさは今のところ適当だ。すぐに調整できるから問題ねえ。
んで、【餓者髑髏】に仮作りの祠を持ち上げて、水が湧いている場所が祠の中心に来るように置いてもらうと、今日一番の歓声が上がった――。
◆◇◆
「朝陽が目に染みるぜ……」
結局、徹夜しちまった。
嫁たちには丸太長屋に戻れって言ったんだがな。最後まで付き合ってくれた。主にマギーが……。
エルフと砂蜥蜴族の連中が、何を思ったのか人が仕事している横で宴会をおっぱじめやがったのさ。んで、月明かりを肴に、連中が色々持ち寄って……。
まあ、エルフも砂蜥蜴族の男も結局飲めば同じ醜態を曝すって事が良く解ったぜ。
俺は今、朝陽を浴びるミニパルテノン神殿風の祠の仕上げをしようとしてる。
ああ、柱にはちゃんと縦筋入れたぞ?
祠の中央に鎮座する女神ライエル・アル・アウラの立像。その足元から流れ出る地下水。その水を祠の中で一度溜めてから、祠の飾り柱の隙間から表に流れ出させる。
その水を、祠の周りを一段下げて泉の様にして溜め、また一段下げて溢れ出させるようにした。だから、祠から半径7パッススの泉が出来たって訳よ。
基本的に祠の中には入れねえ。遠くから眺める程度だ。
近づいてベタベタ触るよりか、手の届かねえとこにある方が何となくありがたみが増す気がしたのさ。飽くまで俺の勝手な思い込みだがな。
最後は、そこそこの水量が溜まった泉の水を3方向から湖に注ぐって構造だ。
んで、俺はここまで説明した基本的な構想を無視して、女神ライエル・アル・アウラの立像の前に立ってたりする。
言ったように仕上げだ。
今朝陽が祠の中に差し込んで、いい感じに水面の反射が女神像を照らしてる。これも良いんだが、もう一押し欲しいのさ。
手にした細い棒でゆっくりと天井に穴を開ける。
真上は棟木が通ってるから、斜めに、それも女神像に光が射すように開けるって訳よ。左右に1つずつ採光穴を開けると、サッと光が射し込み俺のイメージ通りの光景が出来上がった。
「「うわ~~綺麗~~っ!」」「凄いです!」「流石は主君だな」「あぎゃ!」「これほどの仕上がりになるとは思っても見ませんでした」『ハクトさん、遣り過ぎです!』
後ろで嫁たちの声が響く。水の音がしないと思ったら、【水渡り】の魔法で水面を歩いてきたようだ。
「ま、まあな。趣味に走ったのは認めるぞ?」
ボリボリと後頭部を掻きながら、目の前を飛ぶ青い小鳥に答える。
『そうではなくて、ライエル・アル・アウラにこれだけのことをしたら、姉さまたちの要求が大変な事になりますよ!?』
Oh......。マヂでか?
青い小鳥の指摘に、寝惚けてた頭が一気に覚めた。
うわ~~。やっちまったぜ。おい。
「うわ~~! 何これ~~! ね、ハクト! この変な子何?」
なんて思ってたら、今回最大の目玉にプルシャンが早速釣れた。
ライエル・アル・アウラの背中に巻きつくような感じに見えるように配置した、歪曲ウーパールーパーだ。昭和生まれの俺にとって馴染みのある輸入生物。あいつを歪曲表現して、3本ある外鰓を炎の形にし、後頭部から砂漠に住む牛科みたいな捩じり角を出し、背中から尻尾の先まである背鰭を炎がメラメラもらえる感じにしてみたのよ。ああ、あと全体は赤粉を混ぜて赤色の濃淡をちゃんと出してあるぞ?
だから、女神像と紅白って目出度い感じだな!
あと、女神像の足元の裾に、掌サイズで薄緑色の守り蛾ちゃんもくっ付けておいた。仲間外れは寂しいだろ?
「ああ、それな。一応、火の精霊だ」
「「「「「『えっ!? この可愛いのがサラマンダーッ!?』」」」」」
思ってた通りの反応を見た俺は、水面からの照り返しの眩しさに目を細めながら、にかっと口を横に開くように笑って見せた――。
第2章 了
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