えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

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第2章 巣喰う者

第288話 えっ!? 眷属!? どういうこった?

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 土下座から正座状態になった餓者髑髏シャドウに並ぶように降り立った、翡翠うすみどり色のまもゆるやかにはねを動かす。

 "鬼夜蛾おにやが"とかいうのは何とも思わなかったが、この守り蛾って言うのは何つうか、気品がある。

 俺が気品とか、どうかと思うが……。

 ほら、場違いな舞踏会に偶々たまたま付いて行ったら美人の姫さんに目が奪われちまってよ。つい一挙手一投足をつい目で追っちまうみたいな?

 言ってる俺も良く分かってねえが、目が離せなくなる優雅さがあるのさ。

 【耐魅了】の【熟練度】が上がる訳でもねえから、素でそういう魅力があるってこった。……こういうのを造形美って言うんだろうな。

 《使徒様。また、眷属の皆様、この度はありがとうございました》

 「えっ!? 眷属!? どういうこった?」

 守り蛾から品の良い女の声が響いて来た。

 と言うか、聞き捨てならん言葉ワード出て来たぞ? 嫁ならわかるが、眷属? は?

 《わたくしの目には、使徒様と皆様との強い結びつきが見えます。女神様の御力みちからかと推察致します》



 Oh……。ザニア姐さん、何やってんすか?



 いや、今の関係に不足はねえよ? ねえんだが、……明らかにバレたら厄介事になるだろ、これ?

 『ハクトさん、あきらめが肝心です』

 パタパタと俺の頭の上に飛んで来た青い小鳥スピカの言葉に、ガクッと項垂うなだれちまう。

 「諦めって……。はあ、まあいいや。ここでこの話をゴネても誰にもどうにもできんからな。いや、すまん。話を腰を折ってしまった」

 胡坐あぐらを組んだままだが、潔く頭を下げておく。

 《い、いえ。御気になされませぬように。いずれにしても、皆様の御尽力で"世界樹"に巣喰すくっていた"鬼夜蛾"の幼虫と"けがれ"が取り除けたのです。これに勝る喜びはありません。弱った"世界樹"に代り、改めて御礼申し上げます》

 「まあ、そこは素直に礼を受け入れとくが……。守り蛾さんよ、姿を見せたって事は他にも頼みがあるってことだろ?」

 守り蛾の触覚が揺れるのを目で追いながら、呼び水を向ける。

 《……御慧眼ごけいがんおそれ入ります》

 マリアとプルシャンとプラムが、ほぼほぼ同時に「えっ!? どういうこと!?」って俺の方に顔を向けるのが見えた。

 大きく鼻から息を吐いて顔は守り蛾に向けたまま、3人に説明する。

 「今の時点でお前さんが【人化】していないのは、"世界樹"と同じで力が弱ってるのか、そもそもそのすべがないのか俺にはわからんが、"鬼夜蛾"を退ける力が無かったのは確かだ。裏を返せば、普段から身をさらしていても守る術が少ないと言ってるようなもんさ。可怪おかしな話だと思わねえか? 守り蛾なのにな? で、その守り蛾さんが態々わざわざ人目に付くように出て来たって事は、そうせざるを得ない事情があるって考えるのが妥当なとこだろうよ」

 「流石です、旦那様」『ハクトさん凄いですね!』

 マギーとスピカのヨイショが聞こえた。ヒルダと赤いチビ四翼竜アルそろって、うんうんとすなずいてる。

 ま、悪い気はしねえな。

 3人に目を向けると「お~~」と口が開いてて、吹き出しそうになっちまったぜ。真面目まじめな話をしてる時に笑かすな、お前ら。

 《そこまでわたくしの微衷びちゅうをおみ取り頂けるとは、流石、使徒様でございます》

 どうもこの守り蛾、古めかしい言葉遣いが好きみたいだな。古めかしいというか、あれか? ヒルダやマギーが何とも思ってないとこ見ると、宮中で耳にするような言葉ってことか?



 か~~。だとしたら、なおさら貴族は俺向きじゃねえな。



 「お世辞せじはそれくらいにして、そろそろ本題を話してくれねえか?」

 《世辞では決してありませぬ!》

 ずいっと顔を持ち上げる守り蛾さん。う~ん……。その顔でずいっと近づかれると背中がゾワッとするから止めて欲しい。

 「ああ、そこは解ってるから、時間が惜しい。聞いても直ぐにできねえ内容かもしれんだろ? そうなりゃ準備の時間が要る」

 右手首を内から外に回すように手を動かしながら、先を促す。

 《申し訳ございません。使徒様の貴重な時を。願いと申しますのは、ここに女神様のほこらを建てて頂きたいのです》

 ほこら? 神さんを祀る、ちっちぇえ家みたいなあれか?

 「できるかできねえかという話であれば、作れるぞ?」

 《では!?》

 「いや、その前に、んなもん作って何か意味があんのか? それに女神と一口に言うがよ。9に、いや9柱の内、誰をまつりたいかも言ってねえだろうが?」

 9人と言い掛けて、ジトリとマギーの視線が刺さって来たから慌てて言い直したぜ。ふぅ~危ねえ、危ねえ。

 《こ、これは、わたくしとした事が、使徒様を前にして喜びのあまり大事な事が抜け落ちておりました》

 上手い切り返しだな。

 「で?」

 無駄な事を省いて、話を続けさせる。

 《はい。このくぼみは"世界樹"があるお蔭で"聖域"として機能して来ましたが、元より"世界樹"をあがめる者らが居なければ、自然と力が弱まるのは自明じめい。砂蜥蜴族やハグレエルフを受け入れたものの、焼け石に水程度でした。そこを"鬼夜蛾"に付け入られ、更に力を弱めるに至ったというのが事の次第です。聞けば、砂蜥蜴族は火の精霊を、エルフはライエル・アル・アウラ様を信じているというではありませんか。それら2つをまつったほこらが"世界樹"の根本にあれば、"世界樹"にも恩恵があるのでは、と思ったのです》

 なるほどね。

 "聖域"が何処かにあるんじゃねえかと思ってたが、くぼみ全体がそうだったとはな。それなら、里が砂に埋もれてねえのもわかる。雨風と熱が入るようにはしてるってことなんだろう。

 けど、結界を潜り抜けたって言う感覚はなかったぞ?

 それだけこの"世界樹"が弱ってるって事か。まあ、"世界樹"を助けるのがそもそもの依頼だからな。断る選択肢はねえよ。

 「解った。その話請けようと思う」

 《おお! まことですかっ!? ありがとうございます!!》

 「ただし」

 安請け合いはするつもりはねえ。エルフの国の"世界樹"に頼まれたとはいえ、仕事するのは俺らだ。仕事の報酬はあっても良いよな?

 《っ!?》

 無表情な蛾なのに喜びが伝わって来る守り蛾さんにくぎをさす。いや、物理的にじゃねえからな?

 「この話を請ける条件が2つある」

 《な、何でございましょう。この身にできることであれば、夜伽よとぎでも何でも、如何様いかようにお使い――》

 「あ、そこは間に合ってるから」

 即座にお断りを入れる。いや、俺の体にい上る蛾の姿と爪の感触を想像したら、鳥肌が立っちまったぜ。

 《で、では何をお求めですか?》

 「1つ。ほこらの造りから意匠まで口を出さないこと。1つ。俺が預かってる"世界樹"の若木に何かためになる事をして欲しい。この2つだな」

 《それで宜しいのですか? 財宝は?》

 「要らん」

 《"世界樹"の葉は?》

 「間に合ってる」

 《夜と》

 「すんません。勘弁してください」

 言い終わる前に被せて断る。同時に頭を下げるのを忘れない!

 いや、無理だって。最初に断ったとこで脈がねえって気付よ、こらっ!

 《――》

 効果音が、「ガーン」とアメリカンコミックみたいに背後に出て来そうなくらい落ち込んだな。

 「んで、この条件を受け入れて貰えるんなら、ほこら、作るぜ?」

 《……色々と申し上げたいことがありますが、わたくしの胸の内に仕舞っておきます。ほこらの件、どうぞ宜しくお願い致します。ではまず、"世界樹"の若木をお出し頂けますか?》

 守り蛾さんの頭が上下する。多分お辞儀したんだろう。器用なもんだ。

 「ん? ああ、良いぜ? 何するんだ?」

 《守り蛾の加護を付けておきます。この度の様に、強すぎる力を持った"鬼夜蛾おにやが"のような存在には抗しえないかも知れませんが、害虫除けにはなるのですよ?》

 仕事が終わってから報酬は払うもんだがな。……とは思ったが、この守り蛾が夜行性って事も有り得るから、黙って若木を【無限収納】から取り出すことにした。

 普通は生き物は入らないんだが、この"世界樹"の若木は何の問題もなく収まったんだぜ? 良く分からんこともあるもんだな?

 「毎回毎回、あんな莫迦ばかデカイ蛾ばっかりいたら"世界樹"が何本あっても足らんだろうよ。ほい。頼むわ」

 守り蛾さんの説明に同意しながら、目の前に取り出して置くと、守り蛾が若木に近づいてはねを動かし始めたじゃねえか。キラキラした鱗粉が若木に振り掛けるのが、月光で見える。

 綺麗なもんだな。

 そう思ってたら、鱗粉を振り掛け終えた守り蛾さんが急にクルッと向きを変え、俺に向かって尻を突き出すのを見て、俺は固まってしまった――。





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